花火

「アスラン、夏の花火大会の予定を・・・あ・・これはお前に頼まない方がいいか・・」 カガリは資料を手にぶつぶつと何か言っている。 「花火大会?」 そんなカガリの口から出た聞きなれない言葉にアスランは聞き返す。 「ん・・いや、いいや」 カガリはそんなアスランを気にとめず次の資料へと目を移す。 ペラ・・・ その音が部屋に響く。 んー・・これは・・・そうだな・・承認してもいいだろう。 カガリは近くにあった印を手に取ろうとする。 が、そのとき自分にかかる影を感じる。 「へ?」 カガリが上を見上げるとそこにはむっとした顔のアスラン。 「言うだけ言って放っておかれるとすごく気になるんだが」 顔はにっこり、しかしどうも意地悪な笑みが浮かんでいる。 「ああ・・ああっえっと・・なんだっけ?」 カガリはそんなアスランにどもる。 独り言のつもりだったので自分が何を言ったのか覚えていないのだ。 「なんでしょう」 アスランはカガリの髪に自分の指を絡める。 「こら・・誰か来たら困るだろうっ」 本人は代表っぽく言っているつもりなのだろうが、顔は真っ赤、声も恥ずかしさが込められていた。 「ふっ・・・」 アスランはそんなカガリのおかしくて絡めた指を外し、目を細め笑う。 「誰か来てもノックするだろ?代表様のお部屋なんだから」 「〜〜〜〜」 カガリは更に顔を真っ赤にし口をへの字に曲げる。 アスランはそんなカガリの首後ろに手を回し、自分に引き寄せる。 「アスラン!?」 「ん・・今日の分・・」 アスランはそう言ってゆっくりとカガリに顔を近付ける。 あと数センチ・・・ アスランもカガリもゆっくりと目を閉じ・・ 「カガリ、花火大会の件だけど・・・」 そのとき、まぁ・・いつも通りというか・・なんというか・・ ノックもなしにキラが現れた。 そうだ・・・こいつ(キラ)がいた。 アスランは閉じかけた瞳を嫌悪で伏目にする。 キラはいつもいいタイミングで入ってくる。 また後で、そうカガリに微笑みかけようとしたが、視界にカガリが入る前に体が傾いた。 ああ・・これもいつも通り。 アスランは悲しさでまた瞳を閉じた。 「キ・・キラ!!なんだ!?何か・・??」 カガリの慌てた声が聞こえる。 そして俺は・・・床に撃ちつけられていた。 もちろん・・・カガリが突き飛ばしたからだ。 カガリは焦りのあまり、とりあえずアスランを遠ざけようと突き飛ばしたのだ。 もう何度目だろう・・・ 警戒していないカガリ相手だといつもそのまま体を打ち付けてしまう。 「アスラン大丈夫?」 嫌がらせか!! とでも言うようなキラの笑顔。 「ああ(怒)」 アスランは笑顔で立ち上がる。 「それで・・キラ・・花火大会がなんだって?」 前まで来たキラにカガリは少し落ち着いた顔を見せる。 「ああ、そうそう。エリカさんが今年はやりましょうねって言ってきたんだ」 「それならさっき・・」 カガリは書類を数枚めくる。 「これだろ?」 キラは差し出された紙を受け取る。 「花火大会企画書?」 アスランはそれを覗き込み書いてある文字を読む。 「そうそう・・あ・・キサカさんが提案書出してたんだ」 キラは署名欄を見て笑う。 「エリカにせがまれて書いたんじゃないのか?」 「でもキサカさんって好きそうじゃない?」 「・・それはあるかもな。昔から祭りごとの指揮取るのキサカだったし」 「そうなんだ」 確かに企画書にはこと細かい内容が書いてある。 やったことのある人物だからこそ書けるものだ。 「お父様が頼んだのかキサカが率先してやってたのかは分からないけどな」 「じゃあ、今回もキサカさんにまかせるの?」 「・・そうだなぁ・・・」 カガリはうーんと唸る。 「・・・まさか自分でやりたいとか思ってないよね?」 ビクッッ カガリの体が激しく反応する。 キラはキラーンと瞳を光らせた。 「あ!やっぱり!!」 「だって・・・楽しそうじゃないか・・?私が代表になって初めての花火大会だぞ?」 「それでなくても忙しいのにこれ以上仕事増やしてどうするの!!」 「大丈夫だって・・・やることはちゃんとやるから・・」 「そうじゃないでしょ!」 そんないい合いにもとれる楽しそうな会話をぽつんと見ている人物がいた。 アスランだ。 会話に入ろうにも『花火大会』というものが分からない。 花火が何か・・それぐらいは分かるし、その大会だということも分かるのだが・・・ 「オーブでは・・花火の祭りがあるのか?」 アスランは不思議そうに会話に入っていく。 「あ。アスランは花火大会って見たことないのか?」 「花火はしたことあるけど・・・」 カガリの視線を受け、アスランはなんだか恥ずかしそうにする。 こちらでは当たり前のことなのだろう。 それを知らないことがなんだか恥ずかしく思えた。 「へぇ・・プラントではなかったんだ」 キラはアスランに企画書を渡す。 アスランはそれを受け取ると内容に目を通す。 『打ち上げ花火』『河川敷』 「ああ・・テレビでなら見たことあるか・・」 アスランはその語句に頭の中で記憶を繋ぎ合わせる。 「ひゅ〜〜〜ドン!ってやつだよ」 カガリは大きく手を広げる。 「カガリ花火好きだもんね。祭り事が好きっていうか」 「・・・・・・・・・そうなのか?」 カガリが花火を好きだなんて初耳だった。 わざわざ言うことではないかもしれないが、俺は知らない。 「だって、ラクスと3人でしたことあるもん」 「なに!?」 アスランは驚きで声を荒げる。 おかしい! カガリとは大半を同じ場所で過ごしていた。 離れていたときはそんなことを出来る状況じゃなかった・・・はずだし・・・。 俺だけがいない・・・時なんて・・・ 「アスランがプラントに行ってるときだよ」 キラは意地悪げに笑みを漏らす。 「カガリが元気ないからラクスが励まそうって言ってさ」 「・・・あれから少しして大変なことになったけど・・・」 カガリは自分の行動を思い出し、悲しそうに眉を下げる。 だが、終わったことを悔やんでもいけないと気を引き締めるように軽く息を吐く。 「あの時は楽しかったな!また3人でっと・・4人か」 グサッッッ アスランの胸にヤリが刺さる。 「で・・っと、とりあえずこれはキサカさんにお願いしよう。久しぶりのことなんだし、慣れて人のほうがしいしね」 キラは暗いオーラを放ったまま固まっているアスランの手から企画書を取るとそう言って笑った。 カガリもしぶしぶながら「うん」と呟いた。 花火大会は7月中旬に行われる。 国がお金を出し、盛大に行う。 夜店やいろんな出し物もあり、1年で1番の祭りだ。 「平和な頃はな」 キラの出て行った部屋は静かに時を刻んでいる。 「ウズミさんがいたときのこと?」 「ああ・・・国を出ていたときは分からないが、お父様は・・きっとやっていたんだろうな・・」 今なら分かる。 国と市民それは、同じ時を共有しないければならないのだ。 国は住んでいる人で作られ、市民は国によって守られる。 だが近しいそれはなぜか遠くにも感じられて、実際のところ交わることは少ないのかもしれない。 「国のことをもっとも良く知ってもらえる機会だからな。私の手で計画をしてみたかったんだが・・」 「毎年あるんだろ?焦らなくてもいいよ」 「まぁ・・そうなんだけど・・」 再び静寂が訪れる。 「・・・・カガリ」 「・・・・え・・・?」 この部屋で名前で呼ばれたことにカガリはぱっと顔を上げる。 「花火大会。俺も見ていいかな?」 「もちろんだ!お前だってここの国民だぞ。それに・・世界中のみんなに見てもらいたいぐらいだ」 何を当たり前のことを聞いているんだとばかりにカガリは笑う。 「なら・・」 アスランはテーブルに置かれたカガリの手にそっと触れる。 「一緒に見に行こう?国側の人間じゃなくて1人の国民として・・」 「・・国民として・・?」 「たまにはいいだろ?」 アスランはカガリの手をぎゅっと握ると自分の頬に添える。 「俺のカガリとして・・・ダメか?」 アスランの頬・・・あったかい・・・ なんだ?あったかいというか・・熱いぞ? 手から伝わるその温もりが・・アスランの照れを表しているのだとカガリは気付く。 「じゃあ、アスランはなんだ?」 「俺?俺はカガリのだよ」 「「・・・・・・ふっっ」」 2人は同時に笑う。 どんなときでも幸せなときというものはある。 一緒に笑い、喜び、触れ合い、通じ合えることができればそれだけで幸せだ。 2人は同じことを考え、その後も笑い合った。 日常は忙しく過ぎていき・・ ー花火大会当日ー 「マ・・マーナ!!」 カガリは階段を転がるようにして降りる。 「どうなさいました?お嬢様」 「何で起こしてくれなかったんだよ!!!!」 カガリは柱にかかっている時計を指差す。 その針は、13時30を差していた。 そう、目覚めたらありえない時間だったのだ。 目覚まし時計はなぜか止まっていて・・・ 「私が止めたんだろうけど、それにして起こしてくれてもいいだろ!!」 今日は早く仕事を切り上げるためにいつもより早い時間にセットしていたのにっっ カガリは手で髪をとかしている。 「ああ・・昨日遅くまでしすぎたせいかな・・寝過ごすなんて・・・」 それも、今日のためだったのに・・・ ため息が出そうになった。 楽しみにしていた花火大会。 キサカが今年は盛大にやります!と張り切っていたからかなり・・楽しみだったのに。 それに・・アスラン・・・・。 っと、こんなことを考えてる場合じゃない! 早く行って今日の仕事を少しでも・・・ そのとき、目の前にいるマーナが笑っているのが目に入る。 頭に☆が浮かぶ。 おかしい・・・なんで私がこんなに焦ってるのになんでマーナは・・た・・楽しそうなんだ・・?? 「マーナ・・?」 カガリは思わず声をかける。 「実は私が目覚ましを止めましたの」 その声はマーナからではなく、マーナの後ろから聞こえて・・ 「ラ・・ラクス!?」 カガリはその人物が見えると驚きで叫ぶ。 「はい。おはようございますカガリさん」 ラクスはいつものように可愛らしく笑みを漏らす。 「おはよう・・っていうかもうこんにちはだろ・・じゃなくて・・なんでここにいるんだ!?」 「15時ぐらいから行こうかと思いまして・・・いろいろ見て歩きたいですし」 「???」 カガリはラクスの意味不明な言動に目を泳がせる。 「マーナさん、私、カガリさんとお風呂に入ってきますわ」 「はい、かしこまりました」 マーナはペコリと頭を下げる。 「え!?いや・・私は仕事に・・」 そう言って手を伸ばすがマーナはすたすたとどこかへ歩いていった。 そして差し出したその手は 「さあ、参りましょう」 ラクスのよって掴まれた。 カポーン・・・・ 私は何をしてるんだ? カガリは無意味に一点を見ている。 ここは・・・どう見てもお風呂だ。 体に伝わるのは暖かいお湯の感覚。 客人用の少し大きめなお風呂・・いや、温泉になぜか自分は浸かっているのだ。 「カガリさんとお風呂に入るのは久しぶりですわね」 そして隣にはラクス。 気持ち良さそうに体にお湯をかけている。 「・・・・・・・・・・ラクス・・・・」 「はい」 カガリとは正反対にラクスは伸び伸びと言葉を出す。 「・・仕事が・・・」 「ありませんわ」 「・・・・・・・・・いや・・ラクスじゃなくて私の・・」 「ですからありませんわ。今日はお休みを頂きましたもの。キサカさんに」 カポーン・・・ それは外に備え付けられた鹿威しの音だろうか? それともカガリの頭の中で響く音であろうか・・ 「はぁ!?」 ザバァッッ カガリは勢い良く湯から立ち上がる。 水しぶきはラクスの髪を濡らす。 「カガリさん、丸見えですわよ」 ラクスはそんなことも気にせずあらあらと笑いかける。 「私には何も言ってなかったぞ!?」 「口止めしましたもの」 「なんで!?」 「言ってもカガリさんはお仕事に行かれるでしょうから」 「そ・・っっ」 れは・・そうかもしれない・・・ カガリの体から落ちた水滴が水面を揺らす。 「今日は花火大会でしょう。せっかくですから4人で・・と思いましたの」 4人で・・・ カコーン・・・ それはカガリたちの入っている温泉の反対側で鳴った。 これまた鹿威しの音かアスランの頭の中で鳴った音か・・。 「アスラン。どうしたの?」 キラは隣にいるアスランにうれしそうに話しかける。 どうしたって・・・・・ 『アスラン、もちろん4人で行くよね。花火大会!』 『お前はラクスと2人で行けよ・・俺はカガリと・・』 『行くよね!』 その笑っていて見えない瞳からはレーザー光線が出ているようだった。 それでも俺は頑張って承諾はしなかったのだが・・ 今日の朝、キラとラクスが家に押しかけてきたのだ。 『今日はオフですわよ。私達がオフにいたしました』 と、とりあえず押し付けがましいことを言った上、ここまで引っ張ってこられ、なぜかお風呂に入っている。 「なんだか懐かしいなぁ・・・こうしてラクスたちが入っているお風呂の隣にいる僕」 「は?なんだそれ・・・」 アスランは睨みをきかせるようにしてキラを見る。 「アークエンジェルにいたときのことを思い出してさ」 「・・・天使湯・・だっけ・・・」 「そうそう」 キラはアスランをそれっと指差す。 「いつも同じ時間に入ってたからさ。なんだっけ・・歌であったじゃない・・銭湯に一緒に行って 待ってたら風邪ひいたって・・・あれ?なんだっけ・・・」 「・・・・・・・その歌知ってるけど違うから。それ」 っていうか・・風邪ひいてたっけ・・? アスランはとりあえずのん気なキラに突っ込んでおいた。 「まあいいや。壁越しに話しするのって楽しいよね」 「・・・・・・話してたのか!?」 「だって、僕は1人で入ってたし暇じゃない」 「は・・は・・・」 裸のカガリと・・話!? アスランの脳内は情報だけが空回りしていた。 カタカタとアスランの肩が震える。 「なんかさ、壁越しとはいえやっぱり恥ずかしいものが・・」 ガコーーーン!!!! 「いたっっ」 「・・・・今・・すごい音がしなかったか・・?」 カガリは音の聞こえた壁を見る。 確かこっちは・・・ 「気にしてはいけませんわカガリさん。鹿威しの音でしょう」 それにしては声のようなものが聞こえたような・・・ 「さ、そろそろ出ましょうか」 「なぁ・・なんで温泉に入ったんだ?」 ザバッとラクスが立ち上がるのに続いてカガリも立つ。 水面は2人を映しながら激しく揺れる。 「それはすぐに分かりますわ」 ラクスはそう言ってにっこり微笑んだ。 「カガリッッアスランだ!!カガリ!!」 「アスラン〜〜〜」 アスランは壁に張り付くようにして声を上げる。 それを引っ張るようにしてキラが腕を掴んでいた。 頭には大きなこぶ。 そんなキラを跳ね除けるようにしてアスランは叫んだ。 「俺だって話がしたい!」 ↑アスラン錯乱中。。 しかしカガリたちはすでに上がっていた。 ラクスの後をついていくと私の部屋ではなく、座敷へとついた。 滅多に使われないこの部屋。 客人が来たときは応接間に通すことがほとんどだった。 「カガリさんは何色が好きですか?」 「え・・?なんだいきなり」 「カガリさんは何色でも似合うと思いますの。だったらカガリさんのお好きな色がいいと思いまして・・」 「好きな・・色・・・」 ボーっと思い浮かべてみる。 すぐに浮かんだのは 透き通るような・・・ 「翡翠のような色?」 浮かんだ言葉が自分ではなくラクスから出てきた。 カガリは驚いたようにラクスを見る。 「そうだと思いましてご用意いたしましたのよ。カガリさんもお持ちでしょうが、せっかくなら私が選びたいと思いまして」 ラクスは唇に手を添えふふっと笑いながら部屋へと入っていった。 カガリもゆっくりとその部屋に足を入れる。 「準備は整ってますよ」 「・・マーナ?」 そこには・・・マーナがいた・・。 そしてマーナの周りには・・ 「何?どうしたんだマーナ・・?模様替えか?」 「まぁ」 「ふふ」 そんなカガリの抜けっぷりに2人は目を合わせ笑う。 「お嬢様、今日は花火大会でしょう。浴衣を・・とラクス様が仰られたんです」 「マーナさん、様は・・」 ラクスは、ねっとマーナに目で伝える。 「そうでしたね、ラクスさんが浴衣を持って来て下さったんですよ」 マーナはそう言うと綺麗なグリーンの浴衣を広げる。 「わ・・・きれい・・だな・・」 先ほど、思い浮かべたばかりの色がそこにあった。 そう。アスランの瞳のように優しくて綺麗な色・・・。 思わずその浴衣に見入ってしまうが、カガリは我に返ったように頭を振る。 「私は浴衣なんか着ないぞ!着なくても花火は見れるだろ?」 「お嬢様が嫌がるのが分かっていたから黙ってらしたのですよ」 「動きにくいじゃないか」 「そんなに動く必要などありません!」 ばっさり・・ マーナはカガリの言葉を切った。 さすがは母親代わりをなさっていた方ですわね・・ ラクスはそんな2人のやり取りをほほえましく見ていた。 「カガリさん、せっかく似合うものをと選びましたの着ていただけませんか?」 「え・・・あー・・・・」 せっかく選んでくれたんだよな・・・ カガリはじーっと浴衣を見る。 気に入らないわけじゃない。 むしろ・・すごく気に入っている。 「だけど・・似合わない・・かなって・・・」 何年も浴衣なんて着ていない。 最後に着たのは一体何歳の頃だろう・・と記憶を辿るほどだ。 「似合います!カガリ様は綺麗な顔立ちをしていらっしゃいますから!」 マーナはなんだか自信満々でそう言った。 「自慢ですものね」 「ええ。お転婆ですがカガリ様は可愛らしいところがたくさんおありで・・あら・・」 マーナは恥ずかしそうに口をつむぐ。 「ですって」 「・・・・・・」 ラクスがうれしそうに振り返るとカガリも恥ずかしそうに顔を赤くしていた。 「・・着るよ・・・」 そう言ってカガリは浴衣に手を伸ばした。 「倍返し」 キラはにっこりと笑いそう言った。 その横には頭にこぶを2つつけたアスランが立っていた。 「にしても何でこんなのも着るんだ?」 アスランは自分の着ている浴衣を軽く引っ張る。 「女の子だけより感じがでていいじゃない」 キラはそう言うとゴロンと下駄を鳴らす。 女の子・・・ 「カガリも浴衣着るのか?」 そう言うと同時に期待で胸が高鳴る。 「ラクスが頑張ってると思うよ」 アスランはドレスを着るのを嫌がるカガリの姿を思い出す。 あんなに似合ってるのに・・何が不満なんだろう・・ と思うこともあったが落ち着きのないあの動きを見ていると少し納得できる部分があった。 でも、やっぱり似合ってると思う。 浴衣も動きにくいのか・・? だよな・・ アスランは自分を見下ろすと軽く足を開く。 「初めてだよね。浴衣姿」 「・・ラクスは特にだろうな」 「うん」 キラは期待を隠さない声で言った。 もちろんアスランも同じだった。 浴衣ならず着物姿も見たことがないのだから・・・。 カラ・・・ 遠慮がちに可愛らしい音が響く。 キラとアスランは後ろへと振り返った。 「わ・・・・」 キラの声が聞こえる。 アスランも思わず口を開いていた。 そこにいたのは浴衣を着たラクスとカガリ。 ラクスは綺麗な桃色の浴衣に花柄が散りばめられている。 カガリはグリーンの浴衣に可愛らしい花模様。 「やっぱり・・アスランもいたんだ・・」 小さな声、カガリは顔を真っ赤にし、上目ずかいにアスランを見るとキラに視線を移す。 「キラも浴衣着てるんだな!男の人の着物姿って、昔お父様のを見たぐらいだ」 「うん。僕も初めて着たんだ。けっこう涼しいね」 「そうなのか?私はお腹が苦しくて・・」 カガリはぽこんとお腹の帯を叩く。 「ちょっと・・狸みたいだよカガリっっ」 キラはそんなカガリにおかしくなって笑う。 「だって、マーナがこれでもかってぐらい締めるんだもんな・・」 カガリはすごい形相で帯を締めるマーナの姿を思い出す。 『く・・苦しい!マーナ!』 そう言った私に 『着付けとはこういうものです!』 と、ばっさり切ってくれたマーナ。 だが、ラクスのときはもっと丁寧だったぞ・・? それを思い出し、カガリはなんだか切なくなった。 そして・・・ せ・・背中に視線を感じる。 カガリはキラと向かい合いながら何か・・いたたまれない気持ちになる。 アスラン・・だよな・・・ でも恥ずかしくて見れない。 さっきもアスランと目が合うと恥ずかしくなってキラに話を振ってしまったのだ。 「キラ、花火大会の場所までは歩いていけるのでしょう?」 「・・うん・・」 キラはラクスにそっと手を差し出す。 ラクスはその手に自分の手を重ねた。 カラン・・・ 一足先にキラの下駄の音がする。 「すごく似合ってるよ」 「・・・ありがとうございます」 続いてラクスの下駄の音が鳴った。 「カガリ」 後ろから聞こえる声。 振り向くだけなのになんでか緊張してできない。 着慣れないものを着て会うのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。 アスランは何ていってくれるんだろう? それとも何も言わないのだろうか? そんなことがグルグル頭の中を回っている。 そうしている間にもキラとラクスはどんどん小さくなっていく。 「カガリ・・・」 アスランの声がさっきより近くなっている。 ドクンッ 心臓が跳ねるのがわかった。 ど・・どうしよう・・・っっ カガリは頭の中で言葉を作る。 何ていえばいいんだ?いや、普通でいいんだよな! 普通・・えっと・・・普通〜〜〜・・・っっ 「俺・・なんか変じゃないか?」 いっぱいいっぱいになっていた頭にアスランの声がぽんっと入ってくる。 「へ?」 カガリは思わずアスランに振り向く。 「初めて着たんだ・・これ」 アスランはそう言って浴衣の袖を指で引っ張る。 「プラントでは浴衣とか着ないのか?」 「・・着ないだろ」 アスランはふっと笑う。 わ・・・っっ そのときになってようやくアスランの浴衣姿が目に飛び込んでくる。 「変か?」 「・・・に・・・似合ってる・・・」 これを言うのが精一杯だった。 想いがいっぱいで溢れそうだった。 緊張からか、焦りからか、アスランの・・かっこよさからか・・・。 そして、そっかと呟くアスランの表情がなんだか妙に照れくさくて・・・ また後ろを向いてしまった。 数秒・・たって・・ 肩に重みを感じた。 「カガリも似合ってるよ・・・」 「・・・・・ア・・アスラン・・っっ」 カガリが振り向こうとするとその重みがふっとなくなる。 「行こう。庶民!」 アスランはいつも間にかカガリの前に立っていた。 にっと笑って手を差し出している。 「・・・なんだよ庶民って・・・」 「今日のカガリは庶民だろ?」 「・・・ばか・・」 カガリはぼすっとアスランのお腹を叩くとアスランを追い抜く。 「・・ふー・・」 アスランはそんなカガリを見てため息をつく。 と、 「ほら、早く来いよ庶民!!」 カガリは手を差し出していた。 「・・・・・」 アスランはそんなカガリを見てクスリと笑うとカガリに向かって手を差し出す。 「男の役目じゃないのか?」 と言いながら。 「いいんだよ。2人でいられれば」 カガリはそう言ってアスランの手を握った。 「おそーい!!」 花火会場の入り口ではキラが怒ったように立っていた。 「悪い悪い」 カガリはペロッと舌を出しキラに走り寄る。 その手は変わらずアスランと握られていた。 「とりあえず何か買っていこっか」 会場にはたくさんの屋台が出ていた。 「久しぶりだなぁ・・ほんと・・・」 カガリはそれを目を輝かせて見回す。 「僕も。何もなかったときは友達と来てたけどね」 何年ぶりの花火大会だろう? それがなかった間、いろんなことがありすぎて考えることも出来ない。 頭がいっぱいになって・・・ キラはラクスを見る。 だけど、今はこうしていられるんだ。 「キラ?」 ラクスはキラが見ていることに気付き声をかける。 「楽しみ?」 「もちろんですわ。初めてですもの」 「ラクスも初めてなんだ・・」 「アスランも?」 「小さい花火はしたことあるけど」 「私もですわ。でもあれとは全く違うのでしょう?」 2人は期待が混じりつつもあまり想像できていないようで浮いたような会話をする。 「そうだぞ!規模が違う!!すんごい綺麗なんだ!」 「ね!」 そんな2人にカガリとキラは両手を広げ花火の素晴らしさを体で表す。 「よし!食い物買うぞー!」 カガリは気合を入れると出店へと歩きだ・・・ 「うわっっ」 ドンッと誰かにぶつかる。 「カガリ!!」 アスランはぶつかったままの状態のカガリに手を回し支える。 「すみませ・・・」 そして相手側に謝ろうと顔を上げると・・・ 「・・・シン・・」 「アスランさん!?」 その人物はシンだった。 「あ・・もしかして警備?」 キラはシンがオーブ服なのに気付く。 「そうですっていうか、みんな仕事じゃないんですか!?」 シンは4人の格好を見て叫ぶ。 「悪い。今日は庶民なんだ」 アスランはちゃっと手を上げカガリを抱えたままシンを通り過ぎる。 「へ?」 「・・そうだね。僕らも庶民だから」 キラもラクスの手を取り歩き出す。 「は?ちょっと・・え?」 シンはどう突っ込んでいいのかも分からずそんな4人を見送った。 「兄さん兄さん、見物はどこが1番見やすいのかのぉ?」 「え!?」 そしてすぐさま見物人に声を掛けられる。 「えっと・・・」 頑張れオレ!! シンは自分にエールを送り、仕事を続けた。 両手に花。 その言葉がぴったりだった。 ラクスとカガリはみんなの注目を集めていた。 プラントの歌姫。 オーブの代表。 それだけでなく、2人はいるだけで人の眼を引きつける何かがあった。 「ラクス、りんご飴食べたことあるか?」 「りんご味の飴ですか?はい、ありますわ」 「違うんだなー。なんと!りんごが丸ごと中に入ってるんだ!」 「りんごってあのりんごですか!?」 「ああ。りんごを飴でコーティングしてるんだ!」 「ぜひ食べたいですわ」 「アスラン!」 「キラ!」 2人は買おうとばかりに相方の名を呼んだ。 もちろんこんな会話も引きつける理由ではあるのだが・・・。 アスランとキラは顔を見合わせるとにっと笑った。 「はいはい、庶民のお嬢様、どこへでもお供しますよ」 アスランはカガリの手を取ると歩き出す。 「りんご飴もいいけど、ベビーカステラ食べたいな・・」 キラもラクスの手を取ると歩き出す。 歩いても歩いても店があるためか、4人は目をきょろきょろと動かす。 アスランもものめずらしいのか興味顔で店を覗いていた。 「キラ、これはなんですの?」 ラクスが指差したのは水の中でぐるぐる回る物体。」 回っているのはハロだ。 「お嬢さんやってない?」 店主が気軽に話しかけてくる。 「私ですか・・」 ラクスはそんな店主に恥ずかしそうに頬を染める。 「おっさん、これスーパーボール?」 カガリはひょこっと2人の見ているものを覗き込む。 「おう!ハロのスーパーボールだ」 じっと水面を見つめるラクスを見たキラは 「ラクスせっかくだからやったら?」 と声をかける。 「え?どうしたら・・・」 「おじさん1回ね」 キラはポケットからお金を出すと店主に渡した。 そして渡されたのが・・・・ 「・・・アイスの・・コーン?」 ラクスはなんともいえない表情で首をかしげる。 「これで掬うんだよ」 「・・・・・・」 こんなしっかりしたものでしたら・・・簡単に掬える気がしますわ・・・ ラクスはどうも納得できない顔でその棒の刺さったコーンを見ていたが右手の袖をぐっと捲くった。 「あ・・やる気満々だ」 思わずアスランは呟いた。 水面はぐるぐると回っている。 ラクスはゆっくりとコーンを水の中へと・・・ 「あ・・あら・・え・・?」 入れたとたん妙な声を上げる。 「キ・・キラぐらぐらしますわっっ」 入れたコーンは水流によってどんどん力をなくしていく。 そして何も出来ないまま・・・ 「「「「ああ!!」」」」 コーンは水でふやけ水流に飲まれた。 「・・・・キ・・ラァ・・・」 ラクスは悲しそうにキラを見上げる。 「お嬢さん初めてかい?残念だったなぁ!」 商売成立!とでも言いたいのだろうか店主はガッハッハと笑う。 「まかせろラクス!私が敵を取ってやる!!」 カガリはそう言って立ち上がると両腕の袖を捲り上げた。 「おっさん1回!!」 カガリはそう言ってお金を店主に渡す。 「カガリ・・」 アスランはなんだか心配になってカガリを見る。 「任せろ!」 いや・・そうじゃないんだけど・・ アスランの心配をよそにカガリはやる気満々だ。 「おっさん、私は小さい頃スーパーボールマスターと(自称)言われてたんだぞ!」 「え・そうなの!?」 驚いたのはキラだった。 「任せろ!!」 カガリの瞳は輝いていた。 「カガリさん素敵ですわ!」 ラクスの応援、キラの応援それにカガリは見事答えた。 もちろん俺も応援したが・・・ ぽーん・・ぽーん・・・・ カガリの腕からはスーパーボールが転げ落ちていた。 「・・・取りすぎ・・か・・?」 「そうだね・・・お店の人・・干からびてたよ・・・」 ラクスは転がったボールを拾う。 「ですがこれが商売というものなのでしょう?」 「まぁ・・それはそうなんだが・・」 取れない人もいるし取れる人もいるから利益がでるって言うか・・・。 とはいいつつ・・ アスランはカガリの抱えているスーパーボールを見る。 「これどうするんだ?」 「「「さぁ」」」 そのとき、見慣れた人影が・・・ 「あ!シンだ!!」 「げっなにやってんっすか!?」 またもや出会ってしまったシンは今にも溢れそうなスーパーボールに顔を歪める。 「これ持ってられないからお願いできるかな?」 キラの笑顔。 「アスカさん、お願いできますか?」 ラクスの笑み。 「悪いけど頼めるかな?」 カガリの懇願。 「頼むな」 アスランの強制。 により、スーパーボールはシンへと渡された。 「明日にでも私の部屋に届けてくれ!」 「兄ちゃん・・トイレはどこかのぉ・・・」 そんなカガリの声が別のものにダブって聞こえたシンであった。 先ほどのスーパーボールの代わりにカガリの手にはりんご飴が収まっていた。 「シンがいてくれて助かったね」 「本当に」 キラとラクスは更なる獲物、フランクフルトを購入していた。 両手に抱えていたものはキラとアスランが代わりに持っていた。 カガリとラクスはりんご飴を食べている。 「本当にりんごですわね・・・」 「でもなかなか到達できないんだ・・」 カガリは歯は飴をすべるようにガリガリと音を立てる。 「そろそろ場所取りしたほうがいいんじゃないか?」 辺りは大分薄暗くなってきている。 「そうだね・・・カガリはいつもどこで見てたの?」 「わはひ?」 カガリはあんぐりと飴に噛み付いたまま返事をする。 「あそこ」 そしてどこかを指差す。 「・・・どこ?」 「だからあそこ」 カガリの指差した場所はどう見ても・・・・ 「あそこって・・・川の真ん中だよ?」 「ああ。打ち上げのする人にこっそりついていってたんだ」 「!!!!??????」 アスランはがしっとカガリの肩をつかむ。 「いたっなんだよ・・アスランッッ」 「危ないだろ!何でそんなところから見てるんだ!!」 「ん?なんか上がってる感じがしてよくないか?」 「「よくない!!!!」」 「まぁ・・バレてからはマーナが絶対一緒だったけどな」 「「当たり前だ!!」」 キラとアスランは笑うカガリに突っ込んだ。 「じゃあ、僕がいつも見てたところでいいかな?」 「どこで見てたんだ?」 「あそこに木があるでしょ」 キラが差したのは少し離れた所にある大きな木。 「あそこの上」 キラが歩くまま、3人はついていった。 辺りは草が茂っていてとてもじゃないけどゆっくりできる環境ではない。 「大丈夫なのか?」 時間も気になるアスランはキラに声をかける。 「任せて」 そんなアスランの心配をよそにキラは木の根元に着くと足を止める。 「この上」 キラはそう言って上を指差す。 「登るのか!?」 アスランは木の大きさを見ていった。 キラ、俺は登れる・・・カガリも・・登れるか・・・ だがラクス・・ それに浴衣だぞ? 「ラクス、僕が手を引くから」 キラはラクスの食べていたりんご飴を袋へと入れる。 「ええ・・でも・・」 ラクスは不安そうにキラを見る。 「ところどころに足場があるんだ。上手く引っ掛けていくとけっこう簡単に登れるんだよ」 そう言うとキラは木に手をかけた。 ひょいっと簡単に登っていく。 「ああ・・ほんとだ・・上手いところに足場があるな・・」 アスランは関心するようにそれを見ていた。 「はい、ラクス」 キラは太い枝に掴まるとラクスに手を伸ばす。 「はい」 ラクスは少し怖がってるようだったがキラの言うとおりに足を掛け上手く登っていく。 浴衣もある程度開くのだろうそこまで邪魔になっていないみたいだ。 ある程度の登ったのを確認するとアスランは視線をそらす。 見ないほうが・・いいよな・・・ 男としてのマナーである。 「さて、俺たちも行くか」 アスランは肩慣らしをするかのように手足を動かす。 「じゃあ私が先な!」 「は?」 カガリはがしっと木を掴む。 「カガリ、キラは男だから1人でいけるんだぞ。足場はあるがこの木はカガリにはキツイ」 アスランはそう言ってカガリを木から引っ剥がす。 「行けるって!」 カガリは掴まれた腕を離そうとバタバタと動かす。 「やめとけ。怪我したら困るだろ?俺がいるんだから」 「木登りは得意なんだ〜〜!!」 それでもカガリは登るんだと体をばたつかせる。 ・・なんだか・・襲ってるみたいじゃないか・・・ アスランははたから見たら恋人らしからぬ自分達の姿になんだか悲しくなる。 「いいから」 アスランはくるんと体を反転させるとカガリを離す。 「うおっ」 カガリはその反動で少しだけ体がぐら付く。 「あーーーーーーーーー!!」 そしてアスランがすでに木に登っているのに気付いた。 「ほら手、出して」 カガリはぷうっと頬を膨らませる。 「花火始るぞ?」 「・・・・・・」 ガシ! カガリは痛いぐらいの勢いでアスランの手を掴んだ。 キラ、ラクス、アスラン、カガリは左右に分かれて座った。 気だから安定が悪いのかと思ったがちょうどいい高さにある木の枝は座れるように誰かが削ってあった。 「キラ・・?」 「ん・・・ちゃんと残ってるみたいだね・・・少し心配してたんだけど・・・」 そう言ってキラは暗闇に包まれていく空を見る。 今、キラの中にはそんな思い出が浮かんでいるのだろう・・・ それに触れるものは誰もいなかった。 「もう・・始るね・・」 キラがそう言うと遠くに光が走った。 と思った瞬間、花火独特のパァァァンという音が辺り一面に響いた。 「始まった!!!」 カガリが歓喜の声を上げる。 そして次々と花火が上がっていく。 遅れて聞こえる音。 しかしそれに負けないぐらいの光の玉が次々と割れていく。 「・・・・キレイ・・・・」 自然とラクスの口からは言葉が出ていた。 感動すると人は何も考えられなくなる。 ただ、一心にそれを見つめる。 キラはそんなラクスを見つめる。 瞳には次々と打ち出される花火が輝いていた。 「アスラン、綺麗だろ!!すごいだろ!!」 カガリは跳ねるようにアスランの袖を引っ張る。 「・・びっくりした・・これが花火・・?」 映像で見ていたものとは全く違う。 なんて大きくて・・綺麗で・・・ アスランは花火から目が離せない。 「私、これを見ると安心するんだ」 「安心?」 「なんか・・・平和だって気がしないか?」 カガリはアスランの袖を掴んだまま打ち上げられる花火を見つめる。 「辛いことろか苦しいこととか・・うれしいこととか・・これ見てるとすごく小さく感じるんだ。 これを見ている間はみんな幸せそうだから・・・私も・・うれしい・・・」 「・・ああ・・」 「それが一時だとしても・・悲しみが消せるわけじゃないとしても・・・」 「・・ああ・・」 「夢みたいなことかもしれないけど・・・この幸せが続けばいいって・・・」 幸せと不幸はどちらかが欠ければ成立しない。 うれしいことがあるからこそ辛いという気持ちが分かるし、辛いからこそ喜びを感じられる。 それはなんにでも必ずあって・・・ ずっと幸せに・・そんなものがありもしないのは知ってる。 だけど・・・ 美しい花火がカガリの瞳に映っては消えていく。 「今日は庶民のはずなんだが・・」 バァァァン・・ ひときわ大きな音が響く。 カガリの声は花火の音でほとんどかき消された。 生まれたときから・・庶民じゃない私は庶民にはなりえないのだろうか・・・。 「・・・・・・・・・・でも・・・俺の前ではただの女性だろ?」 アスランは弾ける花火を見ていた。 アスランもこの花火を見ている間は幸せなのだろうか? そう考えると自分の言動がアスランの楽しみを削った気がして・・落ち込んでしまった。 本当に・・・切り替えボタンがついていたらいいのに・・・ 私はいろんなことを考えすぎる。 今は楽しむべき時間なのに、それ以外のことも考えてしまっている。 私はただの女性になれていない。 「カガリ、ありがとう」 「・・え・・?」 「俺、こんな綺麗な花火見たの初めてだ」 アスランはそう言って笑う。 「代表としてのカガリも1人の女性としてのカガリの魅力も全部分かってるから」 アスランの手がカガリの顔に伸びる。 「俺は今、カガリをただの女性として見てるから心配しなくていいよ」 「でも、ついさっきあんなこと言っちゃって・・・」 「誰だって自由にいろんなことを考えることは必要だろ?」 「?」 「カガリは庶民としてこの花火を見ながらそう思ったわけだ。ただの女性として」 「なんか・・無理やりじゃないか?」 そうは思ったがアスランは本当にそう思っているようで・・・ 「いいんだよ。俺は分かってるから・・」 ぐいっと体が引っ張られる。 「・・アスラン・・」 カガリは恥ずかしそうに俯く。 「今日の分」 アスランは花火の音と同時にカガリにキスをした。 「ん・・・・ん・・・・・ん・・っっ」 アスランの唇はなかなか離れない。 カガリは苦しくなってもごもごと体を動かす。 「ぷはっ」 やっと、アスランの唇が離れ、カガリは大きく息をする。 「ごめん・・・離したくなかったから・・・つい・・・」 アスランは眉をはの字にしカガリに謝る。 カガリとのキスに酔ってしまった・・・。 花火のせいだろうか・・? 恥ずかしくなってアスランは花火に視線を移す。 「・・ついってなんだよ・・」 パァァァァァァン 静かになった夜空に今までで1番大きな花火が光る。 「お!?」 「あ!?」 「え!?」 「は!?」 それはそれぞれの口から出た。 夜空には 『カガリ・ユラ・アスハ』 と言う文字が浮かんでいた。 「わぁ!何やってるんだよ!!キサカか!?」 そして次に 『ヨロシクネ☆』 の文字が浮かぶ。 最後は 「私の顔かーーー!!!」 カガリは怒鳴り声と共に立ち上がる。 「おい!危ない!!」 アスランは慌てて手を伸ばしたがその瞬間、カガリの体がぐら付いた。 「ひゃっっ」 「っっっ」 「カガリ!!」 「カガリさん!!」 遠くでキラとラクスの声が聞こえる。 うわ・・どうして私って・・・器用に物事ができないんだろう・・・。 時間がゆっくりと進んでいるようだった。 これが走馬燈って言うのか? でも・・見えてるのは懐かしい思い出じゃなくて・・アスランの・・・ 「カガリ!!!」 体が何かに包まれる。 ああ・・これはアスランの・・ ザザザァァァァァァァッッ 耳の横ですごい音がする。 怖くて目が開けられない・・でも・・・ ズシャッッ その音は衝撃と共に耳に入ってきた。 だが、痛みはない。 「アスラン!!」 カガリは慌てて体を起こす。 アスランは私を守ってくれたのだ。 「・・・つ・・・っっ」 もそっと影が動く。 「アスラン!アスラン!!」 カガリはその影を確かめるように握り締める。 「あ・・・」 アスランは髪をかきあげながらように体を起こす。 暗闇の中、バァァンと花火が散り、カガリとアスランの顔を明るく染める。 「せっかくの浴衣が汚れたな・・・」 「何言ってるんだよ!!怪我・・痛いところは!?」 カガリは怒ったようにそう言いながら瞳に涙をためるている。 「・・・はは・・・」 「・・・・・・・?」 なぜか急に笑い出したアスランにカガリは口をへの字にする。 「カガリ・・普通に女の子してるじゃないか・・」 「女の子?」 「好きな人を心配する女の子」 また花火が弾け、ガリの瞳にアスランの微笑と、その向こうの輝きが見える。 「・・・・う・・うるさいな!怪我はないかっていってるんだよ!!」 「俺は平気。カガリは大丈夫か?」 「・・アスランが守ってくれたから」 カガリはしょぼんとして答える。 「それはよかった。無事ナイト役ができたな」 「なんだよ・・それ・・」 くすっとカガリに笑みが漏れる。 「もう1回キス。いい?」 アスランは両手を広げカガリに言った。 「・・ああ・・キラが来る前にな」 カガリはそう言ってアスランに飛び込んだ。 あとがき 10万HIT有難うございます!キリリク小説です〜☆ 気にっていただけるでしょうか・・・不安ですが精一杯やらせていただきました!! 短編にしてはかなり長くなりましたね。 私が書いた短編の中で1番長いのでは!? 下におまけ漫画があります。 ネタはいっぱいあったのですが今回はこれで☆ キサカ花火ネタとかあったんですけどね〜キサカ描いたことないんで今回は諦めました(笑) おまけ漫画↓

花火の後