「なぁ、奴隷ゲームって何だ!?」
シンはいそいで前からここで働いていた少女に話しかける。

「どれっ・・・ゲーム!?」

少女は普段なら反応すらしないはずなのになぜか体を震わせ、顔は蒼白になっていた。

「そんなにやばいものなのか・・・?」
それを聞き終える間もなく少女は壁の隅まで逃げるようにして走りより小さくなって震えている。

『クスリ盛っとけって』
そんなにやばいゲームでカガリはどうなるんだ?
ミーアに嫌われてる・・
プラントの王子アスラン。
シンは先ほどの話しが頭の中を駆け巡る。

そして達した結論は

カガリがやばい!!
というものだった。
シンはそのままカガリの元へと向かった。







記憶の欠片〜すれ違い〜








「カガリ!!!」
カガリは外で水仕事をしていた。
慌てるようにして現れたシンを驚いたように見ている。

シンはとりあえず息を落ち着かせるようにすると深呼吸をした。
そして誰もいないことを確認するように辺りを見回す。
幸い、人の気配はない。

「どうしたんだ?」
「カガリ・・・お前、アスランって知ってるか?」
その瞬間、カガリの体がびくっと震える。
両手をカガリの肩に乗せていたシンにはその動きが響くように伝わる。

本当だったんだ・・・

「よく聞け。カガリはミーアによく思われてないらしい」
それは・・・知っている。
カガリの表情は無表情だった。
誰だって夫となる人の側に女の人がいたら・・気分が悪いだろう・・
それに私はアスランと・・・


「明日奴隷ゲームが行われるらしい。オレはそれがどんなものか分からないけど、シャニたちが話してるのを聞いたんだ」
シンは一呼吸置く。

「・・・ミーアの命令でカガリに何かクスリを盛るって・・・」
カガリの表情は一変した。
それはどういうことなのだろう?
奴隷ゲーム?
クスリ・・・
ミーアによく思われてない自分。
どう考えても悪い方向だ。

「だ・・だけど・・私は・・・」
私にはどうすることもできない。
ここにくることを選んだのは自分自身だし、アスランの温もりを消したくないという思いは今だってある。
他の場所へ行けば・・・私は・・・

「だから逃げよう!」
シンは小さな声で、しかしはっきりした口調で言った。

「・・・・・・・え・・・?」

「逃げるんだ。このままだとカガリはどうなるか分からない!今回は何とかなったとしても
その次は分からない・・・」

「だけど・・・」
逃げたりなんかしたらそれこそどうなるか分からない。
捕まれば恐ろしい目に合うに決まってる・・それもシンまで。
それに逃げてどうする?
どこへ行けばいい?
奴隷として育った自分にとってそれ以外の生き方を考えることはできなかった。
アスランのところではそれを指し示してくれる人がいた。
だけど・・・今は・・・・

「オレが何とかするから!とにかくここにいたら危ないっ」

シンは真っ直ぐな瞳をカガリに向ける。

アスランとは違うけど、とても暖かい眼差し。
カガリは胸に暖かいものが流れるのを感じた。

「オレ達は人間なんだ。人なんだよ、人に虐げられる理由なんてない」

そうだ。
私達は奴隷だけど、人間なんだ。
でも私は取引するしかなかった。
どちらも選びたくなかった・・だけど、アスランの側にいるわけにはいかない。

「一緒に逃げよう、カガリ」
シンは手を差し出す。

同じ奴隷として生きている人に救われた・・・
心を閉ざす人の中、シンは輝く光のようだった。
私に道を作ってくれる・・・
アスランとは違う光。

カガリはゆっくりと手を差し出す。
シンはしっかりその手を握り締めた。





ーオーブ国ー

「少し気になる情報が入ったんだ」

キラは送られてきた資料をめくる。
「それはなんだ?」
「最近になって奴隷を増やした屋敷のリスト」
キラはペラペラとそれをめくる。

「細かいところまではさすがに分からないけど、ある程度の屋敷の情報は手に入ったよ」
「奴隷が入る入らないなんて分かるのか?」
「そのために人を集めたんだよ。奴隷保護をしていたおかげでその手の情報は入りやすい」
なるほど・・。
アスランは思った。
「で?」

「ミーア・キャンベル」
アスランはその名前に眉をひそめる。
なぜその名がでてくるのか分からないからだ。

「アスランはカガリがいなくなってすぐにミーアの屋敷に行ったんだよね?」
「ああ・・・でも彼女は知らないと・・・」
「だけどね、この情報だと、どうやらその日に奴隷が1人入ったみたいなんだ」
「!?」
アスランは体を反応させる。
「それがカガリだとは限らないけど・・気になるよね?」
「・・・ああ・・・」

確かに黙ってくれといわれたらいるとは言わないだろう・・・
しかし、なぜミーアのところに・・・?
やはりあの時なにかそんな話をしたのだろうか・・・
カガリがミーアのところで働きたいのだと・・・
俺から離れる為に・・?

「行ってくる・・」
「うん。お願いしてもいいかな?僕は・・行く理由が無いから・・・」
キラは悲しそうに言う。

オーブとミネルバ、国の王子という肩書きでミーアの元を訪れるわけにはいかない。
それにミーアは俺との結婚を控えている。
アスランはキラに微笑む。
心配するな・・と。
それは自分に言い聞かせた言葉なのかもしれない。

心配するな・・・落ち着け・・・大丈夫だ・・・カガリは・・・きっと見つかる。
アスランは外に出ると空を見上げた。
今から行くと・・・だいぶ遅くはなるが・・・
そうも言ってられないとアスランは馬車へと乗り込んだ。




日は沈み辺りは暗闇に満ちてくる。
カガリは部屋でじっと俯いていた。
「ご飯の時間がすんだら・・行こう・・・」
「でも食べるなよ・・・食べるふりだけでいい。きっと・・何か入ってるから・・・」
シンはそう言って仕事に戻った。

手の震えが止まらない・・・
このままここにいたら・・どんな目に合うか分からない。
だが、逃げ出そうと決意しても・・やはり恐怖が内から溢れてくる。

「カガリ・・・」
扉の外からシンの声がする。
外は真っ暗・・・いつも食事の時間は23時頃。
奴隷のものは奴隷が作る。
適当な材料を与えられるのでそれで作るのだ。
週ごとに作る人は決められていた。

ここをでれば引き返すことはできない。
食事が済めば私達は・・・・決行するのだ。
カガリはその場から動けないでいた。
シンはゆっくりと扉を開ける。

「カガリ・・・」
決意に満ちた赤い瞳。
シンは扉を閉め、カガリに近づく。
カガリはシンの足元をじっと見ていた。

「行こう・・・」
「・・・・・っだけど・・・」
まだ迷っている自分がいる。
本当に大丈夫だろうか・・?
「オレがいるから・・・」
カガリはそれでも迷う。

「カガリオレに笑ってくれただろ・・本当にうれしかったんだ。
前はそれが普通だと思ってた。苦しくても人間らしく生きていたんだ。だけど・・・それが崩れて・・・」
シンはそっとカガリを包み込む。

「オレだってカガリがいなかったら・・あのまま他の奴隷たちのようになっていたかもしれない。
心を閉ざして・・ただ生きる・・・
カガリが来る前まで・・・ほんとはちょっと諦めてた部分があるんだ。
オレが笑っても無駄なのかなって・・・・
だけど、カガリを見て思ったんだ。
オレは人間だって。こんな扱いを受けていようが、どんなに見下されようがオレはオレ達は人間なんだ!!」

「シン・・・」
「オレは生きたい。もし別の道があるなら険しくても自分の生きたいように」
カガリを抱くシンの腕に力がこもる。
「うん・・・」
カガリは一筋の涙をこぼす。
「行こう・・・・」
「ああ・・・一緒に・・・」



食事をする部屋・・・とはとてもじゃないけどいえない部屋・・小屋に2人は入る。
すると、今日調理を担当したであろう少女がびくっと肩を震わせた。

きっと・・・命令されたんだろうな・・・。
シンはその少女を切なそうな瞳で見る。
オレはカガリと2人だけで逃げる。
ここにいる奴隷達全てで逃げることは不可能だ。
まず、その意思がない。
それどころか恐れから密告すらしかねない。

シンは注がれたスープを手に取るとカガリの元へそれを運ぶ。
少女がこっそりこちらを見ているのが分かる。

「わっっ」
シンは大きな声を出す。
「シンなにやってるんだよ!」
カガリの声はどことなしか震えていた。
「わー・・こぼしちゃった・・・・」
シンはそういいながら少女に近づく。
「悪いけど拭くものもらえる?」
「あ・・はい・・・」
少女はそう言うと棚の奥にある雑巾を取り出す。
シンは軽くカガリに目配せした。
カガリはそれを見て頷くと自分のお皿にあるスープをこっそり潜ませていた袋に移す。

「あー・・取れない・・・怒られるかな?」
シンは少女から目を逸らさない。
そのため、少女もシンから目を逸らさせなかった。


「あー美味しかった!」
カガリはそういうと席を立つ。
「え!?もう食べたのか?」
「お前がとろいからだろ?」
カガリはそういうと食器を洗い始めた。
「ちえっ今日は晩飯抜きか・・・」
シンを横目に少女はお皿を洗うカガリを見てほっとしていた。
2人はいつものようにその場を去る。
だが向かう先は・・・・

ごくん・・・
カガリは生唾を飲んだ。
心臓が高鳴る・・・
逃げるにはいつも薪を作る森を通る。
薪を作るためにはなんとも思わない道、だが今はその方向を見るだけでも心臓が締め付けられるような気がした。

「・・カガリ・・・」
シンの言葉にカガリは目を閉じ深呼吸する。
「うん」
2人はぎゅっと手を繋ぐと森へと走り出した。



「・・・やはり遅くなったな・・・」
ミーアの屋敷前にはアスランが来ていた。

アスランは馬車の中から屋敷を見つめた。
ここにいるのなら・・もうすぐ会える・・・。
不安と期待の入り混じる胸のうち。
先のことは考えていない。
だが、カガリが奴隷として生きているのならそれを助けなければ。
そして、カガリには双子の半身がいることを伝えなければ・・・
それを伝えることがカガリにとっていいことなのかはわからない。
だが・・・今の俺にできるのはそれだ。

アスランはゆっくりと馬車を降りる。






はぁはぁはぁっっ
全力で走るシンとカガリ。
この森は屋敷を囲むように上へと伸びている。
木々の隙間からは屋敷の明かりが見える。
見つかる恐怖。
あの光が自分達を見ている気がした。
怖い!!
だが、今は走るしかないっっ

木々の隙間に大きな空間が現れたとき、カガリは目にしてしまった。
小さく・・だがはっきりと見えるそれ
それには見覚えがあった。
同じように逃げていたとき・・男達に捕まって連れ戻られた場所にあった馬車。
そこから降りてくるのは・・


アスラン!!!!!



アスランだった。
何ヶ月ぶりだろう?
あれは・・アスランだ・・・!!
カガリの瞳に涙が溢れる。
それでも足は止まらず走り続けていた。
木々によって見えては消え、見えては消える彼。
カガリは目を離すことができない。

アスラン!アスラン!!

愛しい人がそこにいる。
見えるのだ。

「ひっアス・・・ッッ」

カガリは思わず嗚咽をこぼす。
「っっカガリっ!?」
シンはそんなカガリに声をかける。
「ふっっっ・・・側に行きたい・・・そこにいるのに・・・」
「どうしたんだ?」
走りながらシンは聞く。

アスラン!!!!


「え・・?」
「どうかなさいましたか?」

「あ・・・いや・・」
なんだか呼ばれたような気がしたが・・・気のせいか・・?
アスランはそのまま馬車を降りる。
と、そのまま屋敷の中に入っていった。

カガリはそれを見るとそっと瞳を閉じた。
そうだ。
アスランは・・・ミーアと・・・

「大丈夫か?」
「・・・平気だ!」
カガリは何かを振り切るように笑顔で言った。





「アスラン様・・急なお越しで」
「ミーアはどこにいる?」
「あ・・ただいまお呼びしてまいりますので・・」
「いや、俺が行く」
アスランはそう言うとミーアの部屋に向かう。
1度だけ部屋に入ったことがあったので場所は分かる。

『綺麗な宝石でしょ!これをつけて式に出るの』
ミーアはそんなことばかり言っていた。
周りには高価な装飾品ばかり。
国の責任者として・・・彼女は何か考えているのだろうか・・・?
今になると彼女の気楽な考え方が鼻について思い出される。

「お待ちくださいっっ」
執事はアスランを制止しようとするが
「何か問題があるか?お前も下がってくれ」
と、冷たく言い放つ。
アスランはミーアと結婚しこの国の王ともなる存在。
執事は黙ってそこに立ち止まった。



「ミーア様」
ミーアという言葉が聞こえアスランはふと足を止める。

「あらシャニ」
部屋から出ると、シャニがミーアに話しかける。
「準備は整いましたので明日決行できます」
「そう、良かったわ」
ミーアはにっこりと笑う。
「カガリにはちゃんと?」
「はい、仰せの通りクスリを盛りましたので奴隷ゲームでは・・・」
シャニの言葉が止まる。
「あんな子ボコボコになればいいのよ。すぐに追い出してやるわ。
役立たずってどこかに売り飛ばしてやろうかしら」
ミーアはそれに気付かず話し続ける。
「とにかく明日のゲームでは」

「ミーア」

後ろから聞こえた声にミーアは一気に背筋が凍った。
「カガリはここにいるんだな」
ミーアは振り向かない。
「奴隷ゲームとは何のことだ?」

「まぁ!アスラン来てくださったのね!」
ミーアはとびっきりの笑顔で振り向くとアスランに飛びつこうとした。
が、アスランはそれを軽く押し戻す。
「お前」
アスランはシャニを見た。
「・・は・・はい」
「今の話を説明してくれ」
「・・・・あ・・いえ・・・」
シャニは困ったように顔を背ける。
「アスラン、どうしたの?シャニの弟さんにあげたおもちゃの話をしていただけなのよ」
見え見えの嘘だ。
アスランは冷めた瞳でミーアを見る。

奴隷ゲーム・・どう考えても奴隷をお遊びにしているとしか思えない。
当然・・・コマとして・・・。
そしてカガリはここにいる。

「カガリのところへ案内しろ」
「え・・」
シャニは困ったようにミーアを見る。
ミーアはシャニを睨みつける。
「知らないわカガリなんて・・・アスラン、聞き間違えてんじゃない?」
笑顔で返すミーア。
しかしアスランはそんなミーアを見てもいない。
「命令だ。連れて行け」
冷酷な光をはなつ瞳。
怒りがどれほど込められているのか見るまでもない。

シャニは優先順位をアスランにつけた。
「こちら・・です」
アスランはシャニについて歩き出す。

「まってよ!」
ミーアはそんなアスランの腕にしがみつく。

「ミーア・・・」
アスランはミーアを見つめる。
「あ、アス」
「残念ですよ。あなたがこんな考えをお持ちだったとは」
そういって微笑むアスラン。
その怖いまでの微笑には婚約破棄です・・それが込められている気がした。

ミーアはその場で動けなくなっていた。



「奴隷ゲームとはなんだ?」
「・・奴隷同士を戦わせて勝った方には部屋を与え、負けた方には・・・」
「もういい」
聞かなくても分かる。
アスランは吐き気がした。

しかし、もうすぐカガリに会える。
やっと・・・やっと逢えるのだ・・・・

「シャニ大変だ!」
「オルガ?」
「奴隷の奴逃げやがった!アイツだよ!シンとカガリ!!」

「カガリ!?」

「・・え?」
オルガは後ろにアスランがいることに気付く。

「カガリはここにいないのか!?」
責め寄るアスランにオルガは動揺する。
「えっと・・・・」
「脱走したみたいですね・・・」
シャニが代わりに言葉を繋いだ。

「食事を終えた後、姿が見えなくなったらしいんだ。クスリが効いたか確かめようとしたら
どこにもいなかったらしい・・・」

そんな・・・カガリ!!!
やっと逢えると思ったのに!!!

アスランは体をひるがえす。

外へ飛び出ると、辺りを見回す。
逃げるなら人目につかない場所。
アスランは裏にある森を見ると、走り出す。




カガリ!!!





あとがき
このすれ違いな感じがたまらなく好き♪
ちなみに最近シンカガっぽい?
ですがアスカガですよ〜☆