はぁはぁ・・

アスラン・・アスラン!!

呼ぶことをやめられない。
カガリは走りながら願う。

捜さないで・・・
お願いだから捜さないで・・!!

彼が捜しに来たわけではないかもしれない。
だけど、そんな気がした。
なぜかは分からない。
ふと見た横顔があの時と変わっていなかった。

自惚れならそれでいい。
どうか私を捜さないで!
アスランが幸せでいてくれたら私はそれでいい・・・

カガリはシンと繋がった手を見る。
私は違う支えを見つけたんだ。
この手を・・・この手についていくんだ。
だからアスラン・・・

どうか幸せに・・・







記憶の欠片〜決意〜








「っカガリ!!!」
アスランは森に入ると大声で叫ぶ。

どこだ!?
どっちに行った!?
アスランはとにかく屋敷から遠ざかる方向へと走り始めた。

はぁ・・はぁ・・・
あと少し・・・もう少しだったのにっっ

カガリはここにいた。
前に俺が訪ねて行った時もここにいたんだ!!
なのに俺は・・・っっ

「カガリ!!!!!」
アスランの声は森に木霊した。
泣き叫ぶような声。
しかしその声がカガリに届くことはなかった。




「もっ・・・大丈夫だ・・・っっ・・方向も・・・メチャクチャに走ったし・・・」
ゼイゼイとシンは何とか声を出す。
「はっはっはっ」
カガリは声も出せない。
あれからどのぐらい走り続けただろう・・・
おなかは痛いし、呼吸は苦しい。
しかし、だからといって止まることはできなかった。

「すわっ・・・・・て・・」
シンはカガリのガクガクした足を見て肩に手を置き、その場に座らせた。
一応、茂みの中、2人が何とか入れる空間へと逃げ込んでいた。

はぁ・・はぁ・・・
2人の荒い息が交じり合う。

「どう・・する・・かな・・?」
シンはそう言いながら手に持った袋を開ける。
「・・?」
そんなもの・・持っていただろうか・・・
カガリの不思議そうな顔に気付くとシンは
「隠してたんだ。昨日、こっそり隠してた」
といって笑う。

袋を開けると中からは洋服が出てきた。
「さすがにこの格好のままじゃヤバイだろ?シャニのやろうが捨てたのを隠してたんだ」
アイツのなんか着たくもないが、この格好ではすぐに奴隷だとばれてしまう。
シンはそういうとシャツと短パンをカガリに渡した。

「サイズ・・あれかもしれないけど、今のよりましだから・・・」
「・・・ありがと・・」
カガリはそれを受け取る。

陽が出るとこの格好では外を歩けない。
とにかくこれに着替え、夜の間にもう少し進んで・・・・

「カガリ、オーブへ行こう!」




「アスラン!?」
夜明けの迫る頃、アスランはキラの屋敷を訪ねていた。
アスランは暗い表情で疲れきっているようだった。

「どうしたの・・・?」
キラはそんなアスランをとりあえず座れる場所へ案内しようとしたが、
アスランはガッとキラの腕を掴んだ。
そしてそのままキラの胸にこつんと頭をつけた。

初めて見るアスランのこんな姿・・・
「・・・くそ!!!」
搾り出すようなアスランの声。
「カ・・カガリに何かあったの!」
キラは慌てるようにしてアスランを覗き込む。

「いたんだ・・・カガリ・・・でも・・いなかった・・・・」
いた・・がいない?
「俺が行く少し前に・・姿を消したらしい・・・」
もう少し・・もう少し早く行けば・・・

あの後何時間も森の中を走った・・
だがそこにカガリの姿は見つけられなかった。

「っっっ」
アスランは床へと体を落とした。
「アスラン!!」

悔しい!悔しい!
カガリに逢えたかもしれないのに・・・
逢えない間君への思いは募っていくばかり。
あの笑顔、泣き顔、声・・体・・・
全て知っているのに君はこんなにも遠い。

「アスラン・・とりあえず休んで・・・」
キラはそんなことしか言えなかった。
アスランがここまでカガリを想っているとは知らなかったからだ。
「いや・・・もう1度捜しに・・・」
もしかしたら今もあの森のどこかに・・・
しかし森といっても広大な広さだ。
アスランは立ち上がるが、足に限界が来てるのかすぐ地に膝をつく。

「無理だよ!僕が代わりに行くから!」
しっかりアスランを見て言うキラ。
瞳には輝くような光が溢れていた。

「あ・・・いや・・ダメだ・・・大事にしたら・・・カガリが・・・」
そうだ。
余り騒ぎ立てたらいけない・・
脱走した。
それを広めたらカガリが困るだろう・・・
カガリはどこへ向かったのか


・・・・・・・・シン・・・・・・・・


「キラ・・分かるかどうか・・分からないんだが・・」
「うん。何でも言って」
「カガリ、シンって奴と一緒に出て行ったらしいんだ・・」
「シン・・・」
「俺もミーアから詳しく聞くつもりだけど、もし何か分かれば・・」
「調べてみるよ・・」
キラはすぐにその場を後にした。

はぁ・・・
アスランは側にあった椅子に座る。

ミーアのこと・・・ちゃんと考えないとな・・・


その後、キラに案内された部屋で俺は少し仮眠を取った。
そしてミーアの屋敷へと向かった。






「オーブ?」
なぜオーブに?
カガリはシンを見つめた。
「聞いたことがあるんだ。オーブでは奴隷に戸籍をくれるって・・・働くところも紹介してくれるらしい」
「・・そんなわけないだろ・・・」
本音だった。
そんなことをする国があるわけがない。
アスランみたいに優しい人はいるだろう・・・だが、国がそんなことを・・・
ふと、ミーアの言葉が蘇る。
『アスランはプラントの時期国王なのよ』
アスランは・・・
カガリは大きく首を振るとその考えをかき消した。

「でも・・オレ・・小さい頃オーブに住んでたんだ。それでその・・・奴隷じゃなかったから・・
そんな話はある程度入ってきてて・・・」
シンはすまなそうに言う。

ああ・・・
シンには小さい頃から奴隷として生きてきたことを話した。
だから・・気にしてるのだろう・・
自分は奴隷ではなかったと・・・私が気にすると思って・・・

そんなわけないのに・・・
「陽がでてきた・・・・」
シンは山の向こうを見る。
「ほんとだ・・・」
カガリもその光を見る。


ここから始めるんだ・・・
カガリはそっとシンを見た。
光を見つめるシンの瞳はとても頼れる光を放っていた。




「ミーア」
「存じません。私が雇ったわけではありませんもの!」
ミーアはぷいっとそっぽを向く。
「ねえ・・そんなことより式の準備は宜しいの?」
「・・・・・・・・」
「もうすぐですのよ!私楽しみで眠れないかもしれないわっ」
「・・・・・ミーア」
アスランの声が更に冷たくなる。

それに耐え切れなくなったのかミーアが口を開く。
「・・・・・・・・・・シンは・・・1年ぐらい前に入ってきた子で・・・」
ミーアは隣に控えていたシャニを見る。
「あ・・はい。黒髪に赤い瞳・・・年齢は・・・分かりかねます」
「そうか。それで?」
アスランは有無を言わせず全てを聞こうとする。

「・・カガリとは・・よく一緒にいるようでした。それ以外は何も分かりません」
アスランは圧迫するような瞳を向ける。
しかし本当に知らないようでシャニはその瞳を見返す。
「・・・はぁ・・・」
アスランは大きくため息をつくと立ち上がる。
「ア、アスラン!!」
ミーアも慌てて席を立った。

「式は中止だ」

「え・・・・・・」

「結婚の話も白紙に戻す」

「なっっ」
ミーアは蒼白な顔でアスランに近づく。
「そっそんなことあなたのお父様が許すわけないでしょ!!」

「・・・・・・・・・そんなことは関係ない」

「許そうが許されまいが、俺は俺の決めた道を歩く。はっきり言って君と結婚することが俺のためにいいとは思えないし、
国も為にも良くない。これは時期国王としての判断だ」

父に何といわれようが俺は・・・自分の気持ちを覆い隠すようなことはできない。
奴隷をおもちゃのようにして扱う国などとプラントは一緒になってはいけないのだ。
たとえプラントに同じ場所があろうとも・・・


アスランは決意をするとその場を後にした。