「え!?」
キラはあまりのことに口が開いたままになっている。
「・・・・だから・・・ひょっとしたら・・キラの国で・・戸籍をもらうかもしれない・・・」
「ほんとに父さんにそんなこといったの!?」
「嘘言うわけないだろ・・」
それはそうだけど・・・
アスランは本気になるとほんとにすごい。
僕なんか・・・とは違った意味ですごいと思う。

「それでカガリを捜すの?」
「そのために生きてもいいかなって思ったんだ・・・1番望んでいたことだし・・道がどちらかしか選べないのなら・・・」
父を止めることなどできない。
あそこまで考えが進んでいては・・・そう簡単にはいかないだろう。
「隙でもあれば・・少しは希望が持てたんだがな」
「何に対して?」
キラがすかさず聞き返す。

「奴隷を無くすということも・・・カガリのことも・・・正直・・どちらもあった・・」
「でもミーアと結婚するつもりだったんでしょ」
「ああ・・・でも・・・恋人としてじゃなくてもカガリを救えるかもしれないって思ったんだ・・・」
そんなことをしてなんになるんだろうとも思うが・・それしかできないと思ったから・・・


「すごい場所だな・・・」

ふとキラとアスランの耳に若い少年の声が聞こえてくる。
話を聞かれては・・・と、アスランは話を中断した。
「もう大丈夫だ・・・ここならきっと普通に暮らしていけるよ」
カガリはシンの言葉に苦笑した。
そういえば前にも普通ってなんだろうって考えたことがあったな・・・
あれはアスランの屋敷だった・・・

きっと私の普通は変わっていくんだ。
今から・・・
「シン、私は・・・・・・・・・・・・」
角を曲がるとそこには人影。
カガリは言葉を止め、思わずその影をじっと見つめた。

「カガリ、大丈夫だよ。ここの人だよ・・」
カガリが怯えているのかとシンは安心させるように言ったが、そのときのカガリは怯えてるのでも怖がってるのでもなく・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なん・・・・で・・・・」


驚きで目を見開いていた。








記憶の欠片〜再会〜









「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アスランとキラも同じだった。
いままで捜し求めていた人がそこにいるのだ。
目の前に。

「カガリ!!!」
アスランは意識なくカガリの名を呼んだ。
何をいっていいのか、何をすればいいのかそんなことは頭にない。
ただ、カガリがそこにいる。
今はカガリを抱きしめなければ、いなくならないように・・・・

走りよるアスランにカガリは動けないでいた。
カガリも頭の中は真っ白で何も考えられなかった。

「なんだよお前!!!」
それを現実へと引き戻したのはシンの声。
気付くとシンはカガリを守るように前に出ていた。

「シ・・・ン・・・」

「悪い、カガリと話をさせてくれ!」
アスランは焦ったように言う。
「何でだよ!お前ミネルバの奴か!?」
「違う!!カガリ・・・」
アスランはシンの隙間からカガリを見つめる。
今にも泣き出しそうな瞳で。

「・・・ダメ・・アスラ・・・・」

アスラン!?
シンは目の前にいる人物を驚いたように見た。
アスラン・・・
こいつがプラントの王子。
そしてカガリの・・・・・

「お前には感謝している・・・カガリを助け出してくれたんだな・・」
「・・・・・」
シンはアスランを睨んでいた。
「頼む!カガリと話をさせてくれ!!」
嫌だ!
そう言おうとした瞬間、
「大事な話しがあるんだ。オーブの王子として・・シン、分かるよね?」
キラが間に入る。
アスランのように慌てた様子もなく、冷静だ。
その静かな瞳には拒否することを許さないという想いが見て取れた。

「でも・・っっ」
「大丈夫。決して悪いようにはしないよ。君もカガリも」
キラは優しく笑う。
「ね、カガリ・・・話をしよう?したいんだ・・・」
キラはそっとカガリに手を差し出す。

「オ・・・オーブ・・・の・・・」
キラがオーブの王子!?
知らない!そんなの・・・・
カガリは困惑した瞳でキラを見上げる。
「落ち着いてからでいいから・・話をしよう」
キラの笑顔はやっぱり落ち着く。
カガリは困惑しながらもそう思った。
そしてそっとキラに手を添えたのだ。




アスランはイライラしながら部屋の外にいた。
部屋の中にはシン、キラ、カガリ。


「ずっと捜してたんだ・・」
「・・・うん・・・」
「すごく心配した・・・」
「・・うん・・」
「元気そうで良かった・・・」
「・・・・・・」
「今は無理かな?話するの・・・・」
カガリは口をつむぐ。
心臓が飛び出しそうだ。
どうしていいのか分からない。
シンの手を取った。
なのにここにはアスランもキラもいる。
こんなはずじゃなかった!!

「カガリ・・・」
シンが心配そうにカガリを見る。

「時間を・・くれないか・・?ちょっと・・今・・ぐちゃぐちゃなんだ・・私・・・」
「うん。分かった・・・部屋を用意するね」
キラは立ち上がる。
「もう・・・どこにも行かないで・・・お願いだから・・・ね・・・」
キラは寂しそうに振り返り言った。
「キラ・・・」
「そんなことしたら・・僕達は一生君を探すから・・・」

「分かった・・・」
カガリはこくんと頷く。


「キラ!!」
部屋を出るとアスランは飛びつくようにして駆け寄る。
「今は無理・・落ち着くまで待とう・・」
「・・・そ・・うか・・・」
アスランはがっくりしたように離れる。




私は何も言わずに出て行った。
それはアスランを苦しめたのだろうか・・・
私を見つけたときのアスランの表情・・・
あんな顔をさせるほど私は心配させていたのだろうか・・・
いや・・あんな顔をしてくれたことを喜ぶ私もいた。

想ってくれていた。
ずっと私を想ってくれていた!!

なんてずるい人間なんだろう・・・
自分で離しておいてそれでも差し伸べられる手を待っていた。
シンの手を掴み、アスランの手を掴み・・・・
私は何がしたいんだ!!
逃げてるだけじゃないか!
何も解決しない・・・・

今だって逃げてるんだ・・・
カガリはベットに顔を埋める。
ふかふかの布団・・
アスランお屋敷にいたときのことを思い出す。

あの頃に帰りたい。
ミーアと出会う前、アスランと過ごした日々に・・・
あのままでいられたらこんな思いをすることなんてなかったのに
あのままずっと・・・時が止まっていれば・・・

コンコン
ノックの音にカガリは勢いよく体を起こす。

「・・・・・・・・・・・・・」
音だけで声がしない。
カガリは不思議に思い、そっと扉に近づく。


静寂・・・


「・・・・・・・・・カガリ・・・・・・・・・」
ズキンと高鳴る胸。
アスランだ・・・・

この扉の向こうにはアスランがいる!!
カガリは思わず扉に両手をつく。

「・・すまない・・・来ない方がいいと思ったんだが・・どうしても・・・君に会いたくて・・・」

アスラン・・・

「ずっと逢いたくて・・・やっと・・・逢えたんだ・・・」

「どれだけ捜したか・・・どれだけ心配したか・・・」

「だけど・・・君は今ここにいる・・・本当に・・・うれしいんだ・・・っっ」

私も・・・うれしい・・・
何もかも忘れてアスランのことだけを想えば・・こんな幸せなことはない・・・

「君を今でも・・愛してるんだ・・・・」

あ・・いしてる・・・・・

何でだろう・・・扉の向こうなのにアスランの表情が見える。
どんな顔をしてるのか、どんな想いでここにいるのかすごく分かる・・・

きっと・・私も同じだからだ・・・

「カガリ・・・」

愛してる
愛してる・・・

「ひっっ・・・アス・・・アスラン・・・」
振り絞るような声。
だめだ、抑えられない・・・

「私・・・も・・愛してるんだ・・・アスランを・・・・アスラ・・・」
扉にすがりつく。
止められない。
こんなにも好きなのに・・・
封じ込めることなんてできないんだ・・・

「カガリ・・」
アスランはゆっくりと扉を開ける。

「ひっっ・・うっくっっ・・・」
しゃくりあげるようなカガリの声。
見えたのは大粒の涙をこぼすカガリ。

やっとだ・・・・
やっとカガリに逢えた気がした。
長かった時間。
だがカガリはここにいる。

アスランは両手を伸ばしカガリを包み込む。
離さない。
離せるはずがない。
こんなに愛しいのに・・・

「辛い思いさせてごめん・・・」

「アスラッッ」

「いいよ・・話さなくて・・明日も明後日も・・ずっと話せるから・・・」

「んっ・・・・・話したい・・一緒にいたいんだ!」
「いるよ・・」
アスランのカガリを包む腕に力がこもる。

「ずっと一緒だ・・・愛してる・・カガリ・・・」
アスランの瞳にも涙が溢れていた。

「・・・・キスしたい・・・いい?」
カガリをしばらく抱きしめていたアスランがそっと口を開く。

「・・・でも・・・」
アスランにはミーアがいる。
その現実がカガリの頭をよぎる。

「愛してるのはカガリなんだ・・・ミーアの件は断った」
少し言いにくそうにするアスラン。
カガリはきっと気にする。
だけど、言わなければきっと前に進めない。

「だけどおまえっっ」
案の定カガリは心配そうにアスランを見つめる。

「・・・俺を信じてくれないか?」

「え・・?」

「俺は君を守りたいんだ。その為なら・・なんでもできる・いや、君がいないと他の事ができなくなった」

「いつもカガリのことが気になって・・・いなくなってそれだけ心配したか・・どれだけ君が愛しかったか・・」

「他には何もいらない・・・カガリだけで・・・」
「アスラン・・・」

アスランはそっとカガリの頬に手を当てる。
カガリは抵抗しなかった。
近づく2人の唇。

それは涙の雫と共に重なった。





あとがき