「焦らなくていいから・・・」
そっと頬に差し伸べられたアスランの手。
部屋を出るとアスランは優しく私を包んだ。
キラの言ったこと・・理解しなくては・・・
嘘なんか言わない。
受け止めないと・・逃げずに・・・
「あ・・シンは・・?」
混乱した頭の中、ここまで連れて来てくれたシンのことが浮かぶ。
「部屋にいるはずだけど・・・会いたい?」
「シンもどうしていいか分からないかも・・・」
2人で暮らすつもりでここに逃げてきたのだから。
「会いたいなら俺も一緒に行くよ」
「ありがとう・・」
記憶の欠片〜流れる涙〜
オレはどうなるんだろう・・・
悪いようにはならないと思う・・・
彼もそういってたし・・・
シンはベッドの上に寝転がって考えていた。
こんなことになるなんて思わなかった。
カガリとここへ来て・・・2人で新しく生きていく、そう思っていたけど・・
ここにはアスランがいた。
プラントの王子、アスラン・・・
カガリはどうするんだろう・・?
だってアイツは・・・カガリと結ばれることなんてできないんじゃないか?
「シン・・・」
ノックと共にカガリの声がした。
「カガリ!?」
シンは慌てて体を起こすと扉に走った。
扉を開けるとそこにはカガリ・・とアスランの姿。
「あの・・シン話したいと思って・・・」
「・・うん・・・」
シンは2人を通すように体を動かす。
「ちょっと・・私にもよく・・分からないんだが・・その・・お前には早く話さないといけない・・と思って・・・」
シンは途切れ途切れに話すカガリを優しく見つめるとアスランを見る。
アスランもそれに答えるかのようにシンを見つめ返した。
「オレ聞きたいことがあるんです。アンタに」
「・・俺もだ・・」
「アンタプラントの王子なんだろ?カガリをどうする気なんだ?」
カガリの体がビクリと震える。
先ほどキラが言ったこと・・・それは提案であって、アスランの口からきちんと聞いていない。
それに本当にそれが現実になるかも・・私には分からない。
しかしアスランはしっかりとした面持ちで
「カガリと一緒になる。それだけは変わらない」
と言い切った。
「だけどっっ」
そんな簡単でないことではない・・いや、無謀なことだということはシンにも分かる。
「俺は国を捨ててカガリを捜しに来たんだ」
その言葉にカガリは息を呑む。
そんな・・
そんな・・!?
そんなこと私は望んでいない!
アスランと一緒にいたい・・それは紛れもない私の気持ちだけど、アスランの負担になりたくない、
迷惑になりたくないというのも私の本音だ。
なのにっっ
「カガリのいない俺は俺じゃない気がしたんだ。
1度はカガリの代わりに・・ミーアと他の奴隷達を救う方を取った・・・だが・・俺にはそれすらできない・・・
そんな人間がプラントを守れるわけないんだ・・・そう思って父と話をしてきた」
何も持たない人間。
そう、俺たちと同じ立場にアスランはなろうとしている。
「だからキラは・・プラントの王子としてって・・・言ったんだ・・・」
知っていたからあの提案をした。
キラは私もアスランも助けようと思ったんだ。
「信じていいのか・・?・・・どんなときでもカガリを守れるって!!」
苦しい・・・
オレにとってもカガリは支えだった。
奴隷として生きることになったオレにやっと差し込んだ光。
それが今、別の場所で輝こうとしている。
シンは苦しそうな顔でアスランを睨みつける。
「俺は守る為にここにいる」
そっとカガリに触れるアスランの手。
それは自分が差し伸べた手に似ていた。
カガリに差し出したあの手・・・
カガリの本当に取りたかった手はこの人だったんだ・・・
だけどオレもカガリに救われた。
こんなに・・オレの胸は温かい。
カガリがオレから離れて行こうとしている。
でも、こんなに胸は温かいんだ。
「オレッッ・・・」
「・・・シン・・・・」
カガリは目を見開きシンを見た。
シンの瞳からは大粒の涙が零れていた。
「カガリが大好きだよ・・・すごく・・・っだから・・・幸せになって欲しい・・・カガリには笑顔でいて欲しい!」
家族を失ったオレが初めて流した涙だった。
泣いてはいけないと思った。
オレは辛いなんて思わない。
これがオレの生きていく道なんだからと、奴隷になることも拒まなかった。
だけど、カガリが危ない目に合うって知って・・・これは違うと思ったんだ。
カガリはオレにオレを思い出させてくれた大事な人だ。
「シン・・・わ・・私・・お前に頼って・・・」
カガリの瞳からも涙が溢れる。
シンと生きていくって決めたのに・・・
「お願いだ・・・・・」
シンはぐっと涙をふき取る。
「幸せになって、カガリ。カガリが幸せになれる道を選んでくれたらオレはそれが1番うれしい」
「シン・・・」
「オレはカガリが幸せになれるように屋敷を出たんだ。だから幸せになれよ」
「ありがとう・・・」
そう言ったのはアスランだった。
「聞きたかったんだ・・君に・・カガリを助けたのは君だった・・・だから君の許しがないと俺達は一緒になれないと思って・・・」
「そんなの・・・アンタ王子様なんだろ!もっと・・自信持てよ・・・」
「カガリはアンタがアスランが好きなんだから」
にっと笑うシン。
アスランもその笑みに答える。
2人は腕を出し合うとそれを絡める。
ガシッと繋がった腕は2人の決意を表していた。
「その・・・本当にいいのか・・?」
カガリはキラが用意してくれた部屋にアスランといた。
シンの気持ちを知り、アスランと一緒になる。
それを決めたカガリだったが・・それは心の中であってアスランには言っていない。
「もちろん。カガリが望んでくれたら俺はすぐにでも父に話しに行く。
ああ・・でもまずはカガリがオーブの姫として就任する方が先かな?」
オーブの姫・・・
カガリは顔を曇らせる。
「不安・・だよな・・」
「うん・・・アスランとのことじゃないんだ。オーブの姫になるってことは国を背負うことなんだろ?
私は・・そんな生き方を知らない・・できるかな・・・」
「そんなこと?」
アスランの軽い答えにカガリはむっとする。
「そんなことってなんだよ!私にとって・・・・」
「俺がいるだろ・・・キラもいる。君のお父さんもいる・・うん。シンもいる」
アスランは納得するように言う。
「・・・・へ?」
「カガリはもう1人じゃない・・そうだろ?」
いる・・・そうだ・・・私には家族がいる・・・できたんだ。
「アスラン・・・・その・・・えっと・・・」
「ん?」
「〜〜〜〜〜す・・・好きなんだ・・・・」
アスランはその言葉に顔を真っ赤にする。
「ありがとう。私を人に戻してくれたのはアスランだ」
カガリはそっと目と閉じる。
「心配かけてすまない。でも私はアスランと生きたい。生きてもいいかな・・?」
上目ずかいで自分を見るカガリはとても可愛くて・・・
会えなかった・・苦しかった時間もすべて君がここにいることで埋められていく。
どんなことがあっても君を離しはしない。
君は俺の全てなんだ。
アスランはきつくカガリを抱きしめた。
カガリもアスランにそっと手を回す。
初めて抱き合えた気がした。
解放された気持ちで・・・
あとがき