それから1週間、キラは忙しそうに毎日を過ごしていた。
私もできることがあるなら何かしたい。
そう思ってキラに声をかけるものの、
「これから忙しくなるんだから今は休んでて!」
とつき返される。
でも、じっとしてると・・落ち着かないし、ちょっと・・寂しかったり・・・


「カガリ!」
扉から覗いたのはシン。
「シン!!」
カガリは待ってましたとばかりにシンに飛びつく。
「あー・・ごめん。仕事あるんだ・・」
「・・なんだ・・・」
カガリは拗ねたように口を尖らせた。

シンはキラの計らいでここで働くことになった。
ここは奴隷が保護される場所。
シンは奴隷を保護する活動の任につくことになった。
「シンなら心を開く子がたくさんいるよ」
と、キラご推薦だ。
なぜ私が今だここにいるかというと・・・

「ごめんな、様子見に来ただけだったんだ・・・」
シンはすまなそうに声をかける。
ほんとに急いでるようだ。
カガリは気にするなと笑う。
その時間を割いてまで私のところに来てくれたんだ。
素直にうれしい。







記憶の欠片〜前進〜








あれからアスランはここには来ていない。
父に話をするからと・・・私に口づけをしてプラントに戻った。

キラに聞いてもまだ分からないというばかり・・・
アスランは大丈夫なのだろうか?
その想いをあの・・口付けを信じている私はここから離れることができなかった。
キラは他の部屋にって言ったけど、アスランと離れたのはここだから・・・
ここにアスランは帰ってくるんだと・・・
自分に言い聞かせているのかもしれない。

不安が全くないわけではない。
アスランは・・・説得できるのだろうか・・・?
私が一緒に行くって言ったら・・絶対ダメだって・・・言ってたし・・・
まぁ・・火に油を注ぐようなものかもしれないよな・・・
私・・・こんなだし・・・
カガリは自分を見下ろす・・・。

「考えても仕方ない!アスランは戻ってくるんだ!」
と気合を入れると、窓を近くにあったタオルで拭き始めた。





「父上!聞いてください!」
「全く・・・何を考えているのかわしには全く分からんわ!」
パトリックはアスランの瞳を見ない。

「結婚したい人がいるのです!その人と一緒になりこの国を守りたいのです!」
アスランは決してカガリがオーブの姫だとは言わなかった。
俺はカガリを好きになった。
できればカガリとして俺と一緒になって欲しい。
難しいと思いながらもアスランはずっと父を説得していたのだ。

「それより、ミーア嬢は怒っていたぞ!全くなんてことをしてくれたんだ」
「しかしあの国と手を組むことがプラントの為になるとは思えません。あの国では奴隷・・」
「まだそんなことを言っているのか!」
バン!
パトリックは側にあった壁を叩きつける。
「奴隷など放っておけばよいではないか!それより国のことを考えればよいのだ!」
「奴隷もこの国の人間です!それを無視しておいて他がよければ良いのですか!?」

「そうだ!それが国というものだ!汚いものには目を瞑り利益を優先する!それが人だ!!」
アスランは声も出なかった。
この人は本当に自分の父なのだろうか・・?
俺はこの人の血を受け継いでいるのだろうか・・・?
アスランの背筋を冷たいものが流れる。

「あらまぁ・・相変わらずなのね・・」
2人の言い争いに誰もが遠ざかっている中、落ち着いた女性の声がする。


「は・・母上!?」
その人物はアスランの母だった。
母はパトリックとは離れ、違う屋敷に住んでいた。
なぜかは聞いていないが・・

「アスラン、久しぶりね。たまには顔を見せてちょうだいって言ってたのに来てくれないんですもの」
「あ・・すみません・・・」
「いろいろあったのね・・・今のを聞いたら分かったわ・・」
「・・・・」
父とは違い、理解ある母。
今、アスランは少しだけ母の存在にすがりたくなった。

父と息子。
夫と妻。
その関係では何かしらの違いがあるからだ。


「何の用だ。お前が」
「あら、自分の屋敷に戻ってはいけませんの?」
「なにが屋敷だ!自分から出て行ったのだろう!」
「ええ。あなたに我慢ならなくてね」
母は父の前に立つ。
決して目をそらさない。芯の強い母。


そういえば小さい頃は母に憧れていた。
父は母には弱く、結局は母のいうことを聞いてしまうのだ。
しかし、母の言っていることは幼いアスランからしても正しいことだったと思う。


「アスラン・・あなた好きな子ができたのね」
父から目をそらすとその瞳はアスランに向けられた。

「・・はい。俺はその人と結婚してこの国を守りたいと思っています」

「・・・立派になったわね・・・」
微かに母の瞳が潤む。

「あなたはこんなアスランを見てもなんとも思わないのですか?」
「なんだと?」
「アスランはあなたの意見を、考えを蹴ってまでの決意をしているのです!
それを気に入らないと理由だけで、自分の利益のためには邪魔だからというだけで聞きもしない、理解しようともしない!
あなたがそれではこの国は本当に終わってしまいます!」

やはり自分とはちがう・・
アスランはそう思った。
母は俺よりも父のことを知っている。
そう・・ある意味・・理解しているのかもしれない・・・

「私はこの国の王だ!今までだって守ってきた。これからだって同じだ!」
しかし聞き入れない父。
しかし母はそこで冷静に話し始める。

「私が今までどこにいたかご存知?」
「・・別邸だろう・・」
パトリックは何を言っているのだと険しい顔をする。

「ええ。ですがそこで奴隷のだった方と暮らしていました」
「!?」
アスランは驚き母を見る。
そんな話は聞いていなかった。
母のいた屋敷に入ったことがあるが・・そんな感じの子はいなかった・・・。

「だったといったでしょう」
母はアスランを見て微笑む。

「ここを出る前、散歩をしていたときに屋敷に駆け込んできた少女がいたのです。
助けてくださいと。生きたいのだと・・・
兵士はその子を殴り追い出そうとしたのです。
それで気付きました・・・この国はいけないと・・間違っていると・・・私も・・あなたも・・・」
パトリックに差しだす手・・・

「しかしあなたは私の言葉を聞かなかった。
時間をかければできたかもしれません。ですが、その少女は今苦しんでいるのです!
時間はなく、私は家を出て、同じ境遇の方を少しでも救いたいと思ったのです・・」

「それで・・出て行ったのか・・・」
パトリックはその手を見ることなく話す。

「ええ・・・ですがこの間・・」
母はアスランを見る。
「マーナさんからお手紙を頂いたの・・・奴隷だった子なのね・・?」

「・・・はい・・・」
向けられた母の視線は理解ある瞳だった。
「血は争えないのかしら?あなたも私と同じ考えでしょう?」

「はい」
アスランはその瞳に答えるよう言った。
母の今言ったことは俺がカガリと出逢って感じ、思ったことと同じだった。


「奴隷?お前は奴隷と結婚する気なのか!?」
再び熱の上がる父をアスランは冷ややかに見た。
なぜこの人は・・そうとしか考えられないのだろう・・・
いくら話してもこの人の考えは変わらないのではないか・・・
母でも・・・
その考えが頭をよぎるが、

パン!!!!
冷ややかな瞳に映ったのは・・叩かれる父・・・
と・・叩いた・・母。

「いい加減になさい!あなたは自分の立場をお分かりですか!?
もしあなたが謀反をたくらむ人に追われたらどうします!?国を負われ1人になったとき、
誰も差し伸べてくれる手がなく、孤独になったとき・・あなたは・・・生きられますか・・?」

母はまた手を差し出す。
「今なら差し伸べられる手があります・・・私も・・アスランもいます・・・
同じ手を全ての人に捧げましょう?国の王として・・・」

しばらく茫然としていた父だったが、急に顔を赤くする。

「まったく・・・お前はいつもそうだな・・」
「あなたの妻はこのぐらいじゃないと務まらないでしょう?」

父は母の手を取ると立ち上がった。
「帰ってきてくれるんだな?」
「はい。あなたが変わられるのなら」
母はにっこりと笑う。

すごい・・・
夫婦というのはこんなにすごいものなのだろうか・・・?
お互い補い合い、お互いが必要とする。
カガリと俺も・・・同じだといい・・いや、同じだと思う。

「アスラン・・認めよう、今度連れてきなさい」

「っっ・・・はい!ありがとうございます!!」
アスランは父と母に深く礼をする。




バタバタと荒い足音がする。
カガリは何事かと扉を開けようとしたが、カガリが手を触れる前にとの扉は開いた。

「カガリ!!」
「アスラン!?」

扉が開くとアスランがカガリに抱きついてきた。

「認めてもらえたんだ!カガリ・・・良かった!!」
アスランはカガリをきつく抱きしめる。
こんなに弾けているアスランは初めてだ・・・
きっと・・・

「アスラン・・・すごく頑張ってくれたんだな・・・ありがとう・・・何もできなくてごめんな・・・」

「何言ってるんだ・・・カガリがいてくれるからできるんだろ・・・」

「・・ああ・・・」

カガリはアスランをきつく抱きしめた。
感謝を想いを込めて・・・


「こっちも大丈夫そうだよ」
「キラ!?」
カガリは恥ずかしいせいか、アスランから離れようとする。
だがアスランはそれを離さない。

「どのぐらい?」
「そうだね・・・発表は1週間後にはできる。
病気で療養してたってことになるから・・・ね」
よろしくっとカガリを見るキラ。

「あ・・ああ・・・っ」
カガリはアスランに抱きしめられたまま返事をする。

「じゃあ式はいつにしよっか?」
「え!?」
は・・早いっっ

どうやら・・すごく緊張してたのだろう・・・
それが解けたせいかアスランはいつもより・・可愛い。
カガリはくすりと笑う。

「よろしくな!旦那様」
「ん・・・よろしく奥様」

アスランはカガリの頬に軽くキスをする。

キラはやれやれと部屋を出て行った。





あとがき