「ミーア様にはご連絡をいたしました」
「そうかありがとう」
アスランは少女を抱え部屋へ向かっていた。
あのあと、少女を受け取ったが、先ほどまでの威勢はどこへやら
目を瞑り静まりかえっていた。
この子を連れて食事会へなどいけない・・・
アスランは屋敷に戻ることにしたのだ。

「あの・・・アスラン様?」
「なんだ?」
「まさか・・・自室へ連れて行かれるおつもりで・・・」
「なにか不都合でも?」
「・・っいえ・・・ただ・・・お部屋が穢れてしまいます・・・」
アスランの威圧ある視線に耐えながらおずおずと言った。
はぁ・・・
人間を何だと思っているのだろう・・・
アスランは更に鋭い目つきで
「連れて行く。マーナを呼んでくれ」
と言った。
「・・・はい・・・」




記憶の欠片〜知らぬ事実〜





トントンという音とともに、
「アスラン様」
という、マーナの声がした。
「入ってくれ」
マーナは扉を開けると「まぁ!!」と叫んだ。

「どうなさったのですか?このお嬢様は・・・」
頬を真っ赤にし、ぼろぼろの服を着た少女がアスランのベットに寝かされていた。
「奴隷・・・らしいんだが・・・」

「・・・そうでございますか・・・」
アスランは何かを聞きたそうにマーナを見た。
「ここではあまりいませんものね」
それを悟ったかのようにマーナは話はじめる。

「奴隷というものは人として扱われません。道具として利用されるのです。
それは過酷な労働だったり、ストレスのはけ口だったり、時には・・・」
マーナは口を濁す。
「俺は奴隷・・といっては失礼だが、奴隷の人とは関ったことがないんだ。たくさんいるのか?」
「はい。何千、何万と・・・」

何千・・・?
「まさか・・・ここにも・・」
不吉な気持ちが押し寄せる・・・
「まさか!!」
「私がそんなことは許しません!人を道具として扱うなどっっ」
マーナは怒ったように否定する。
アスランはそんなマーナの態度を見てほっとした。

何千人、何万人の人たちがこの少女と同じ目にあっているというのか・・?
アスランは少女の方を見た。
痛々しく頬が腫れている。
アスランは思わず顔を歪めた。
「とにかくお顔を冷やしましょうね」
マーナはそう言うと部屋から出て行った。



奴隷はどの国にもいるらしい。
とくに隣国ではそれが顕著だという。
隣国・・・ミーアのいる、ミネルバだ。
彼女もまた・・・こんなことをしているのだろうか・・・・
まさかそれはないだろう・・・
アスランはその考えを吹っ切った。
「お起きになられませんね・・・・どういたしましょう?」
他の部屋に運びましょうか?ということだろう・・・
だが少女は気持ち良さそうに寝息を立てている。
「いや・・いいよ。このままにしてやってくれ」
アスランの言葉にマーナは「分かりました」と微笑み部屋を後にした。

アスランはそれを見送ったあと、少女に目を移す。
冷やしたおかげか頬の腫れは少し引いたみたいだ。

「ん・・・・」
ころんっと・・・少女が寝返りを打つ。
と、ポケットから何かが転がり落ちた。
「なんだ・・・?」
アスランはそれを手に取った。
「赤い・・石・・・?」
なんだろう・・・
それは5センチ程度の赤い石だった。

「綺麗な石だな・・・」

「返せ!!!!!」
その時、鋭い痛みがアスランに走る。

「いっっ」
思わず持っていた石を握り慌ててその場から離れる。
「かっ返せっそれだけはダメなんだ!!!」

アスランは目の前にいる少女が先ほどまで寝息を立てて寝ていた子だと気づく。
「・・・ああ・・・起きたのか・・」
「返せ!!」
少女はかなり怒っているらしく、鋭い眼光でアスランを睨んでいた。

「すまない。ほら」
アスランはそっと石を少女の前に差し出した。
すると少女は驚いたようにその石とアスランを交互に見る。
「どうした?」
「・・・・・・・」
少女はバッとアスランの手から石を取った。

「起きたのならマーナに・・」
そう言ってアスランが立ち上がった瞬間、カガリは大きく体を震わせ、体を小さくした。
まるで、何かから自分を守るように・・・

「・・・」
アスランはその光景を驚いたように見る。
少女はその体制のままじっと固まり、小刻みに震えていた。

もしかして・・・
いきなり立ったのに驚いたのか?
しかし、少女の震え方は尋常ではない。
「おい・・」
アスランがそう言って少女に近づくと、ビクっと体が更に震えた。

「・・・・・」
何かを理解したのかアスランの顔に悲痛な表情が走る。

殴られると思ったのか・・・
どれだけ殴られたのだろう・・・こんなに怯えるなんて・・・

「大丈夫だよ・・・殴ったりしない・・・」
アスランは優しく少女に触れた。
しかし体は固まったままである。

「でも・・・」
しばらくの沈黙の後少女が口を開く。

「お前は私を買ったんだ!!!」

それは事実だった。




「で、その子はどこにいるの?」
「とりあえず部屋を与えてそこでおとなしくしてもらってる」
アスランはため息をつく。
「まあ事実だもんね。いくら可哀相だっていっても彼女にとってはアスランに買われたことは事実なんだろうし」
「キラ、俺はっ」
「はいはい。お茶でも飲んで落ち着いてよ」
キラは笑顔でコーヒーを差し出す。
「・・・」

キラはオーブ国の王子。
俺と年が同じなことから、幼い頃、外交などのときにはいつも顔を会わせ、一緒に遊んでいた。
今もお互い多忙にはなってきたが会うことは多い。
今日は俺が相談があるとキラを呼び出したのだ。

「昨日はあのあとも大変だったんだ。お風呂に入れって言っても嫌だの一点張り、せめて着替えろっていってもさっぱりだ」
「で、部屋に押し込めちゃったんだ」
「・・・仕方ないだろ・・・あの状態じゃあ・・・」

「でもさ、どうするの?奴隷として扱うわけじゃないんでしょ?」
「当然だろ!」
「とりあえず彼女のことを知ってる奴には口止めしたし、マーナの親戚ということにしてもらったんだが・・」
なんにせよ、あの状態では紹介も何もできたもんじゃない。

「ね、僕にも会わせてよ」
「は!?」
親友の突拍子もないセリフにアスランは驚く。
「アスランって女の子の扱い方へたでしょ?」
マーナでもダメだったんだ・・・俺だとかそういうことじゃないと思うが・・・

アスランはすっと自分の頬を指差す。
そこには昨日少女に引っかかれた傷。
「知らないぞ?」
「おっけー!」
アスランの心配をよそにキラはうれしそうに言った。




「入るぞ」
少女の部屋を軽くノックする。
「来るな!」
という声と共に、どんっと扉に何かがぶつけられた音がする。
アスランはキラに苦笑いを向けた。
「僕、キラって言うんだ。入ってもいいかな?」
アスランの表情に笑顔で答えると少女に問いかけた。

「・・キラ・・・?」
「うん」
少女は何も言わない・・・
キラはゆっくりとドアを開けた。

「初めまして」
覗き込んだ先には、布団で顔を隠すようにして座っている女の子がいた。
アスランの言っていた通り、ずいぶん汚れている。
手はススだらけだ・・・
何歳ぐらいだろう?
体つきからは・・・自分と大差ないように感じられた。

「男ばっかりでごめんね。同じぐらいの女の子がいいんだろうけど、ここにはいないみたいでさ」
キラは少女の反応も気にせず話し始める。
「おじさんとかおばさんが多いでしょ。それってね、アスランのお父さんが悪い虫がつかないようにって考えてそうしたらしいよ」
「キラ・・・」
そんなこと話してどうする・・
アスランは呆れたようにキラを見た。

「僕の家にはいるけどね、若い子。今度連れてこようかなぁ?」
少女はキラの軽やかな話し方にゆっくりと顔にかけた布団を下げ始める。
「僕、17歳なんだ、君は?」
少女はいきなり振られた質問にバッと布団を被った。
「アスランも17歳なんだ、僕より大人っぽいでしょ」
あははっとキラは笑う。

「私・・・・」
「うん」
「・・・何歳か分からない・・・」

「あっっ」
アスランは思わず声を上げた。
怒鳴り声しか聞いていなかった自分にとって少女が今来たばかりのキラに応答しているのが信じられなかった。
そんなアスランをキラは手で静止する。

「そうなんだ、でも・・・僕たちと同じぐらいかなぁ・・?」
キラは少女を覗き込む。
少女はビクッと震えた。
「ねえ、お風呂入りなよ。そしたら分かりやすいかも」

「・・・いやだ・・・」
「どうして?」
「・・・だって・・・汚くしてないと・・・・私・・・」

ああ・・・
キラは少女がどうして綺麗にしないのか分かった。
そうだよね・・・
ここに来る前は・・・奴隷だったんだ。
いや、今ここにいることも奴隷だと思っているのだろう。

「大丈夫。アスランは君を助ける為に君を買ったんだ。そうするしか君を助けられなかったから」

「安心してアスランはいい人だよ。僕が保証人だ!」
キラはどんっと胸を叩いた。

「・・・・はは・・・っ」
その姿がおかしかったのか少女は軽く笑った。
キラとアスランは驚いたようにでも、うれしそうに笑い合った。

「マーナ」
「はい」
ドアの外で待機していたのかマーナはすぐに入ってきた。
「彼女を・・・っと・・・」
アスランは少女を見た。
「名前・・・聞いてもいいかな?」
少女は恥ずかしそうにしながらも、小さな声で
「・・・カガリ・・・」
と言った。
アスランはそれを聞き微笑むと
「カガリ、マーナとお風呂に行っておいで」
と、優しく言った。

その横で、少女が「カガリ」といったときキラが微かに反応していた。
だが、それに気づくものは誰もいなかった。



コンコン・・
ノックの音が響く。
「アスラン様、カガリ様の準備が出来ましたよ」
マーナの呼びかけにアスランは席を立ち、ドアを開けた。

するとそこには金色の輝かしい髪をもち、美しい琥珀色の瞳をした・・女の子が立っていた。
「・・・・」
アスランはその女の子をただ見ていた。
誰だっけ・・・?

「わっっ可愛くできたじゃない!お姫様みたい!」
アスランの横からキラが覗き込む。

「姫って言うなよ!」
カガリは怒ったように返す。
さっきまで・・いや、今も奴隷だというのに・・・
カガリは居心地が悪そうに下を向いた。

「カガリ・・・なんだ・・・?」
アスランはやっと気づく。
この声は先ほどの少女、カガリだ。

「まあ、アスラン様ったら」
マーナはくすくすと笑う。

「こっちにおいでよ、一緒にお茶を飲もう」
キラの誘いにカガリは戸惑ったように辺りを見回した。
「遠慮しなくていいよ」
アスランは入り口からずれ、カガリを部屋の中へ招く。
マーナは失礼しますとその場を後にした。

カガリは困ったようにアスランを見たが、一歩また一歩と歩み始めた。
が、なれないロングスカートのせいか、裾を踏んでしまい思いっきりこけた。

ビタンッと大きな音がし、アスランとキラはその光景を見つめる。
「・・・・・・・・恥ずかしい・・・・・」
表情は見えないがカガリは動かず呟いた。
見事なこけっぷり、上から見ると「大」という文字に見える。
「だっ大丈夫か・・ッ?」
アスランはこぼれそうな笑いを堪えカガリに手を差し出した。

「・・・大丈夫だ!!」
カガリは勢いよく顔を上げると、叫んだ。
が、その顔は打ち付けたのか、真っ赤になっている。
しかも、瞳には涙がたまっていた。

「もう、カガリ!痛いときは痛いっていっていいんだよ〜」
キラは椅子に腰掛けトントンっと机を叩いた。
カガリはゆっくり起き上がるとテーブルへと歩く。
アスランは差し出した手を数秒見つめ、キラのほうへ向いた。





あとがき
カガリが元気になってきた〜★
飛び跳ねるカガリを早く書きたい・・・いや、飛び跳ねはしないかもだけど。。
けっこうこの設定好きだなぁ・・・。
上手く話が書けるといいな♪