「・・こんなかっこうしていいのか・・?」
カガリは椅子に座ると上目ずかいに聞いてきた。
「そうだな・・・落ち着いたらここで働いてもらうが、今は」
アスランの言葉に少し柔らかくなっていたカガリの表情が強張る。

「違うよ。働くっていっても今までみたいなのじゃない。普通に働くんだ」
「普通?」
カガリはキラを不思議そうに見た。
「そう。さっきマーナさんがいただろ。あの人のようにこの家のお世話をするんだ」
「・・マーナさんは優しかったぞ?」
「そうだね。君も同じようにできる?」
「・・・命令されたら・・・しないと殴られるから・・・」
アスランはカップにかけた手を離す。
「今までは殴られてたんだね」
「怒られないように頑張ったけど、気に入らなかったみたいだ」
「いつから?」
「分からない・・・気づいたらもう働いてた」
「どこの出身かも分からないの?」
「・・ああ・・」

ずいぶん深くまで聞くんだな・・・
俺だったらいきなりこんなことまで聞けない。
アスランは2人も会話に聞き入る。

「名前・・・は・・・本名?」
キラの言葉にカガリは首をかしげる。
きっと俺と同じ気持ちなのだろう・・
なぜそこまで聞くのかと・・・
「キラ・・・?」
「あ、いや・・・コーヒー冷めちゃうよ。飲んで」
キラは話題を変えるようにカガリに砂糖を近づける。

俺の中の疑問は解けないでいた。




記憶の欠片〜太陽の笑顔〜





「お前慣れているんだな・・女の子の扱い」
カガリはマーナにこの家のことを教えてもらっている。
部屋にはアスランとキラの2人だけだ。

「女の子のっていうか・・・内緒だよ」
キラは表情を強張らせアスランを見た。
「・・ああ・・」
「僕の国、オーブでは奴隷を受け入れてるんだ」
「!?」
アスランはキラの言葉に驚いたように席を立つ。

まさかキラまでもがそんな行為に参加していようとは思いもしなかったからだ。

「・・違うよ」
キラはそんなアスランを見て苦笑した。
「奴隷としてじゃなく、奴隷だった人を1人の人間として受け入れてるんだ」
どういうことだ?
と、アスランは首をかしげる。
「父は他の国で奴隷として扱われている人を保護してオーブでの戸籍を与えてるんだ」
「・・・・戸籍・・・」
「その人たちはオーブで奴隷としてでなく、1人の人間として暮らしてるよ」
アスランはゆっくりと椅子に腰掛けた。
「僕も奴隷だった子に会ってるからね。それで多少・・分かってるとこがあったから・・」
「そうか・・・」

「アスラン、カガリがお風呂に入らなかった訳わかる?」
「・・俺が・・・嫌だからだろう・・?」
俺の家が嫌で俺がカガリを買ったから・・そんな奴の世話にはなりたくないと・・・
「うん。それもあるだろうね、でもそれだけじゃない」

「可愛い子は労働ではなく、体を買われるんだ」
体を・・買う・・・?
「体って・・・」
それは・・・もしかしなくても・・・
アスランは悲痛な表情をし、頭を抱えた。
「オーブで保護しても自殺しちゃう子が多いんだ。そのほとんどが被害者」

自分は・・いつか国を治める人間だ。
そんな自分がこの現実を知らなかったとは・・・
アスランは自分が恥ずかしくなる。
キラはすべきことをし、現実を見ているというのに・・・・

「カガリ・・・も?」
「それは分からないよ・・・でも、あの様子だと大丈夫そうだけどね」
その為に汚れたままでいたのだろう。
それは正解だ。
先ほどのカガリを見た2人は思った。


「部屋見てきたぞ!」
その時勢いよく部屋のドアが開く。
カガリが先ほどとは違い、太陽のような笑顔で現れた。
「すごいなこの家!みんな優しいし、猫もいるし、キレイだし、明るいしっっ」
「カガリ、落ち着きなよ」
くすくすっと息を吸うのも忘れ話すカガリにキラは笑う。
俺もつられて笑った。

暖かい太陽のような彼女の笑顔・・そのとき俺は無意識ながら彼女を可愛いと思った。

「キラ・・・って呼んでもいいのか・・?」
「もちろん」
「俺はアスランでいいよ」
「・・・でも、お前・・ここの偉い人なんだろ・・・そんなふうに呼んだら・・」
「そうだな・・・」
周りの眼もあるし・・・
「他の人がいるときは様をつけてくれ、それ以外はアスランでいい。できるか?」
優しく微笑むアスランにカガリは
「うん!」
と嬉しそうに微笑んだ。




たわいもない話しをした3人はキラのそろそろ帰るという声にその場を後にした。
与えられた部屋に戻るとカガリはぼふっとベットに倒れこんだ。

あのとき・・・
アスランが助けてくれなかったら私は女としてどこかに売られていた。
暴力や厳しい労働には何とか耐えられる・・・でも・・

それだけは嫌だった!!!

だから逃げ出した!!

気づいたときはどこかの屋敷で働いていた。
唯一私を知るすべはこの石・・・
どうしてか持っていた赤い・・・石・・
カガリはスカートのポケットから赤い石を取り出す。

そこにはカガリと彫られていた。
きっと私はカガリと言う名前なのだろうと、それだけは捨てずに持っていた。
それだけが私が生きている証な気がしたからだ。

逃げ出したが男たちに捕まり、馬車に戻されると、貴族らしい男がこちらを見ていた。

私がなんなのか分からないといった表情で・・
私はお前たちに道具として使われているというのに!!

怒りがこみ上げた。
そいつに怒鳴ってやったがその瞬間、激しい痛みが体を貫いた。
朦朧とした意識の中聞こえたのは
『買おう』
という男の声・・・・

また売られたんだ私は・・・今度はどうなるのだろう・・・・
不安というより絶望だった。

しかし屋敷につれてこられて目を覚ました私にアイツは優しかった。
違う・・・今までとは何かが違う・・・
見下したように私を見ない。
腫れ物に触るようだったが、優しくて暖かかった。

でもこれもこいつの手なのかもしれない。
信じたら裏切られるに決まっている!

でも・・・キラという少年が現れて・・・
なんだろう・・・話しやすくて
ひょっとして兄妹がいたらこんな感じなのだろうか・・・
そんな感情が心の中に湧き出ていた。
兄妹も・・親がいる感情も私には分からないのに・・・

「普通ってなんだろう・・・」
カガリはつぶやく。
気づいたときから奴隷として生活していた。
そう・・私にとってこれが普通なのだ。


「カガリ様、よろしいですか?」
「はっはい」
訪問者の声にカガリは慌てて姿勢を正す。
「失礼します」
そういってマーナが部屋に入ってきた。

「先ほども申しましたようにカガリ様は私の親戚ということになっております。
ここではアスラン様お付の家政婦として働いていただきます」
「・・・お付き・・というのは・・?」
まさか・・・カガリの体に緊張が走る。

「アスラン様の部屋の掃除や食事の用意などです。大丈夫、心配ありませんよ」
カガリを安心させるような微笑。
よかった・・・
カガリは安堵した。

「でも、アスラン・・様は偉い人だよな・・私なんかが・・」
「私はうれしく思っていますよ
アスラン様には近いお歳の友達がいなさすぎます。ぜひお友達になって下さいね」

『友達・・・』
その言葉にカガリは頬を染めた。
いままで友達と呼べる仲間はいなかった。
同じ年頃の子はいたが、話しなんかできる状況ではない。

「ではしばらくは体を休めて、それから働いて・・」
「明日から頑張る!!」
カガリは片手を高く上げ張り切ったようにいった。

「お世話になるんだ。私はすぐにでも働きたい!!」
奴隷としてでなく、人間としてなら私は・・・
マーナはそんなカガリに
「かしこまりました」
と微笑んだ。





あとがき
記憶の欠片は短いのが多いですね。
なんだか、話しの切り方的に短いものになってます。
これからは分からないけど。。
今回はカガリの心情が少し入っています。
私の書くお話はアスラン視点が多いのですが、このお話しはカガリの心情も
大事ですから・・っていいつつアスランの心情が多いに決まってる(笑)