「でさ、その時ヒナのお母さんが帰ってきてさ」
「戻ってきたのか!良かった!」
「とりえず巣に戻してあげたんだけど鳴かなくてさ・・・お母さんが帰ってきたらごはんちょうだいって鳴くでしょ?」
「うん、うん」
「打ち所悪かったのかなって思ったんだけど、巣にお母さんが足を乗せるといきなり鳴きだしたんだ」
「それが帰ってきたって合図なのか?」
「なんだろうね。ごはんごはん!!って鳴いてたもん」
「でも良かったな〜怪我がなくて」
「うん、本当に」

・・こいつらはどこかのお喋り姉妹か?
アスランの部屋にはキラとカガリとアスラン。
キラが遊びに来たのでカガリにお茶を持ってくるように言った。
だが、お茶を持ってきたカガリにキラが話しかけ、それにノッたカガリがどんどん話を弾ませていた。
今は、今朝巣から落ちていた鳥のヒナの話をしているらしい。


今日でカガリがうちに来て1ヶ月がたった。

あれからも少し怯えた表情を見せるカガリだったが、それも日に日に少なくなり、
今では輝くばかりの笑顔を振りまいていた。
誰にでも・・・

「私も見たいな〜ヒナ・・」
「え?本当!?じゃあ・・」
「カガリ!」
2人の言葉をアスランが遮る。
「お仕事は?」
にっこりと笑うアスランにカガリはそうだそうだとお辞儀をし、部屋を後にした。

「もう・・アスラン・・・」
キラはふてたようにアスランを見た。

面白くない・・・・
なんでカガリはキラとあんなに楽しそうに話をするんだ?
俺だって側にいるのに・・・
キラとばかり話さないで俺と話せばいいのに。

ほんとに面白くない!




記憶の欠片〜守る〜





「カガリ、だいぶ元気になったね」
「ああ・・・そうだな」
「ねぇ、何か怒ってる?」
「別に・・」
怒ってるよ・・絶対。
キラはアスランが背を向けたままでしかも声が冷たい事に機嫌の悪さを察知する。

「でもあそこまで変わると思わなかったよね。初めて会ったときなんて、汚れだらけで、髪なんて不思議な色してたもん
それが今はあんなに・・・」
キラがそういったことろでアスランは驚いたように振り向く。
「・・・何?」
「お前まさか・・・カガリのこと・・・」

アスランの質問にキラは「ぶっっっ」と笑う。
「違うよ・・・何?それで怒ってたの?」
「そんなわけないだろ!」
アスランは思いっきり顔を背ける。

「ねえ、ヤキモチやいてるんでしょ」
「誰が・・・?」
アスランのきょとんとした顔にキラは苦笑する。

自覚ないんだ・・・アスラン・・・

「僕、カガリと話ができないんなら帰ろうかなー」
キラはガタンと席を立つ。
「なんだよ、俺に会いに来たんじゃないのか?」
「やめてよ。その言い方気持ち悪い」
キラは軽く舌を出す。

「ほんとにカガリに会いに来たのか?」
アスランの顔が歪む。

キラははぁっとため息をつくと、アスランを見据えた。

「ちゃんと見とかないと。アスランがカガリを大事にしてるのは分かるよ。
でも、奴隷だったことがばれたら・・今のままでいれるとは限らないでしょ。
そうなったら僕はオーブでカガリを保護するから」

アスランはその場で動けなくなった。
キラの気迫に驚いたのだ。
話をするキラは自分の親友ではなく、オーブという国の責任者だった。

「お・・俺は・・奴隷だったからといって・・そんな・・・」

「アスランはね。でも、偏見だって、見下しだって、どこの国にもあるんだ。君の国だって 今、奴隷がいないわけじゃないだろ」

「っっっ」
アスランは顔を引きつらせた。
確かに自分の屋敷にいないだけで、この国にはたくさんの奴隷がいるだろう。
カガリだってその中の1人だったんだ。

「だが・・・っっ」
アスランが焦ったようにキラに食いついたとき、ガタンッとテーブルが揺れる。
「わっっ」
キラのカップが揺れ、紅茶がこぼれる。
避けきれず、キラの服には紅茶がかかってしまった。

「あ・・・す、すまない」
「もう、アスラン〜」
キラはむっとしたように濡れた服を見た。

「アスラン様、大丈夫でございますか?」
そこへマーナが扉の外から声をかけた。
「マーナ、飲み物をこぼしてしまったんだ。キラに着替えを用意してくれないか」
「まぁ、かしこまりました!」
そういうと、マーナは他の部屋に着替えを取りに行った。

「別にいいよ。そんなに濡れてないし」
上着を脱げばいいだけだと、キラはばさっと上着を脱ぎ始めた。
その時、キラの胸元に赤く光る物体がアスランの瞳に映る。

「・・・・・・それ・・・」
「え?」
アスランの不思議そうな声にキラはアスランの顔を見る。
アスランが見ているのは自分の胸元らしい。
キラも目線をそこに移した。

「ああ、これ?」
キラは革につながれた赤い石を掴むと、アスランに見せるように持ち上げた。
「オーブでは守り石って呼ばれてるんだ。ハウメアって石だよ」

この石・・・・
アスランはカガリが持っていた石を思い出す。
似てるというか・・・同じものか?
「ハウメアって言うのか・・・オーブにしか?」
「オーブでもあんまりないよ。僕の屋敷でも僕しか持ってないんだ。こう言ったらあれなんだけど、よほど
上流の人じゃないと手にできないものなんだ」
「どうして?」
「まず数がない。それに・・高いしね」

キラはそんなものを買う趣味があったのだろうか・・・
アスランの知る限り、キラはアクセサリーなどには興味がない。

「父からもらったんだ。言うなれば家宝?」
あははっとキラは笑った。
アスランの思っていたことが顔からして分かったのだ。

「・・・・・・・・・」
高価で、オーブでもなかなか手に入らない。
カガリはオーブに住んでいたのか?
しかも・・・・よほど権力のある屋敷、か・・家柄。
働いていた?その家にあったものをカガリが・・・
アスランは考えを振り切る。
カガリはそんなことしない。

では?

「どうしたのアスラン?」
黙り込んだまま何かを考えているアスランにキラが声をかける。
「あ・・・いや・・・」
キラにこれ以上聞くのも気が引ける、というより、聞きたくない気がした。
キラの胸元で揺らめく赤い石が俺に焼きついていた。




「明日はカガリとどこかお出かけになられてはいかがですか?」
その夜、マーナが言った。
「カガリがいらしてからのアスラン様は毎日楽しそうになさってますもの。
兄妹がいらっしゃらないから妹のように思ってらっしゃるのですね」
そう言って笑うマーナ。

確かにカガリが来てからなんだか楽しい日々が続いていた。
そうか、俺はカガリを妹のように思っているんだ。
いちいち動きがおかしくて、危なっかしくて目が離せない。
妹を持つ兄も大変だな・・なんて思いつつ、
「そうだな、どこかに出かけてみよう・・・」
と、言った。





「ダメだ!」
「どうして?」
「どうしてって・・アスランは偉いやつなんだろ。何かあったら困るじゃないか!」
「大丈夫だよ。そんなに遠くないし、俺・・強いよ?」
「そういうことじゃないだろ!」
「他のやつがいると落ち着けないじゃないか」
「そりゃ・・そうかもしれないけど・・・」

アスランとカガリは先ほどからこんなやり取りを10分ほど続けていた。
アスランがカガリと2人だけで出かけようといったのだが、カガリは2人だけの部分に反論したのだ。
偉い(らしい)人間が護衛もつけずに出かけるのはよくない。
カガリはそう思ったのだ。

「う〜〜ん・・」
カガリは腕を組み唸っていたが、何かを決心したように顔を上げた。
「よし!じゃあ、何かあったら私が守ってやる!絶対私から離れるなよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・ぶっっっ」

うけた。そんなカガリの言葉に俺はかなりうけてしまった。
「なっなんだ??」
カガリは自分の言った言葉がいかにおかしいのか全く分かっていない。
それがまたおかしいのだ。
「いや・・カガリ・・・違うだろ・・くくっっ」
カガリは苦しそうに笑うアスランに首をかしげる。
「普通、俺が君を守るんだろ?俺が君に守られてどうするんだよ・・」

カガリは笑った。
ただ、笑ったんだ。
いつものように「うるさいな!いいだろ別に」って言うかと思ったんだ。
でも、カガリは少し寂しそうに笑うだけだった。

「気をつけて下さいね!」
マーナのキツイ送りの言葉を背に俺とカガリは馬に乗り湖へと向かった。
カガリは初めて馬に乗った様でがっしり俺にしがみついていた。




「カガリ、目開けていいぞ」
「・・・着いたのか?」
「ああ、降りるから」
アスランのその言葉にカガリはゆっくりと目を開ける。

「わああああああ!!!」

目を開いた先には一面に輝くような湖が広がっていた。
鳥が水面に姿を映しながら飛んでいく。
木々は風に音を鳴らしながら心地よい空気を運んでいた。
「すごい!キレイだ!はやくっっ」
カガリはあまりの感動に言葉を途切れ途切れ言いながら馬から下りようとする。

「待て!危ないから!!」
アスランの言葉にカガリの動きはぴたりと止まった。
アスランは動きを止めたカガリを見ると、まずは自分が降りる。
と、カガリに手を差し出し、
「ほら」
と、微笑んだ。
カガリは目の前で両手を広げ、自分を受け止めようとしているアスランに恥ずかしそうに眼を逸らした。
「降りるんだろ」
それでも優しく微笑むアスラン。
カガリはゆっくりと手を差し出すと、飛び込むようにアスランに向かっていった。

「わわっ!?」
勢いよく飛び込んできたカガリにアスランは驚く。
その勢いに体が傾き、地面へと体を落とした。

「いたっ・・・・・」
アスランが苦痛に顔をゆがめてカガリを見ると、カガリは倒れたアスランの上で胸に顔をうずめたまま動かない。
「・・どうした・・どこか打ったのか・・っ?」
アスランは慌ててカガリに問いかけた。
すると、カガリはぶんぶんと頭を横に振る。

「・・怖かったのか?」
ぶんぶんと頭を横に振る。

「うれしかったんだ・・・アスランが私を守るようにしてくれたことが・・・受け止めてくれたことが・・・」

「カガリ?」

「今まで守られたことなんてない、いつも盾になってたんだ。主人を守る盾に・・
でも、アスラン・・・私を守るって言ってくれた・・初めてなんだ・・」

そう言って俺にしがみつく彼女は震えていた。

でも違うんだアスラン。
私は悲しくて辛くて震えてるんじゃないんだ。
うれしくて・・本当にうれしくて震えてるんだ。




そのとき俺は、本気で彼女を守りたいと思った。

私はこの人とずっと一緒にいたいと思った。




「カガリ・・・」
俺はカガリを救えるだろうか・・・

「アスラン・・・」
アスランと・・・このままずっと一緒にいられるかな・・・

アスランは体を浮かせ、自分を見つめるカガリの頬に手を添える。

ゆっくりとカガリが瞳を閉じるのを確認すると、アスランは頭を浮かし、カガリにキスをした。





その晩、アスランは机に向かって本を開いていた。
本を読んでいるわけではない。

妹・・にキスはしないよな・・・。
さすがのアスランも自分がカガリを好きだと言うことに気づいた。

あのとき、どうしてキスをしたのか・・・
震えるカガリを守りたいと思った、だけど、それだけでなくカガリが可愛いと思ったからだ。

恥ずかしい・・・・
自分が恋をするなんて考えたこともなかった。
親に決められた相手と結婚して国を治める。
それが当たり前だと思っていたけど・・・

いや・・好きだから結婚できるというものではない。
すでにミーアとの話は進んでいるのだから・・・

アスランはそこまで考えを進めると本を閉じ、眠りについた。





キス・・・したんだよな・・・私・・・

カガリはアスランと同じように机に座っていた。

それって・・・アスランも私のことを・・・・

いや・・分からないぞ・・前にミーアって子のところに行ってたし・・・

どう見てもあの子はアスランのことが好きそうだった。

それにしても・・・

カガリは自室を見回す。
「何の仕事をしているんだ?」
雇っている人間にもこんなに広い部屋を与えられるなんて・・・
今まで、それなりにお金を持っている人間のところで働いたがこんなにすごい場所は見たことがない。
アスランに何の仕事をしてるのか聞いてもいつもはぐらかされる。

ひょっとして・・・裏社会とか・・・ッッ
「なわけないよな。そんな人なら私を助けたりしないだろうし・・」

カガリはベットに転がった。
ボフッという音が部屋に響く。

「・・・・・・・・好きとか・・・そんなのは分からないけど・・・一緒にいたいな・・・アスランと・・・」





あとがき
アスカガなんですけどね、キラもかなり重要なキャラです。
なのでトライアングルな感じでお話しが進んでいます。
やけにキラがでてくるなぁって・・自分でも思ってますが、キラは大事です!(笑)