「ん・・・・」
眩しい光・・・
そうだ・・昨日は・・・・
アスランは昨日の出来事を思い出す。

カガリを抱いたんだ。
なんて幸せな時間だったのだろう・・・
こんな関係でも彼女は俺のそばにいてくれるのだろうか・・・

「カガリ・・・」
そうだ、彼女は・・

アスランは隣を見る。

いない・・・

そうだよな・・・朝までここにいるわけにはいかないだろう・・・
アスランは体を起こすと服を羽織る。

時間を見ると9時をさしていた。
いつもカガリが起こしに来る時間だ。
と、その横に光るものを見つける。

「石・・・」
それはカガリが大事にしていた赤い石。
「忘れていったのか?」

アスランはそれをじっと見つめる。
やはりキラのものと似ている・・・
形と大きさ・・・そっくりだ。

「今日キラが来るし・・・それとなく聞いてみるか・・・」


「アスラン様!!!」
過ぎ勢いで扉が開かれる。

「どうしたんだ?マーナ」
滅多に見ない光景にアスランは目を瞬かせる。

「カガリがいなくなりました!!!」







記憶の欠片〜身を裂く想い〜





「・・・マーナ何をいってるんだ?カガリがいないって・・・」
だって、夜・・俺と一緒にいて・・・

石だってここに・・・・
アスランは手にしていた石を見る。

「これが置いてあったんです!」
マーナが差し出したのは1枚の紙。
そこには短く文章が書いてあった。

『みなさま

大変お世話になりました。

ここで知り合った方からお誘いを受け、違う場所で働くこととなりました。

ご挨拶もせずにでていくことはとても心残りですが、

会うと別れが辛くなると思い、こうして手紙を残しました。

アスラン様、私を助けてくださったこと、本当に感謝しています。

マーナ様、優しくしてくださって本当にありがとうございます。

では、皆様の幸せを心からお祈りしています。
                        カガリ』


アスランの手紙を持つ手が震える。

彼女はなぜ出て行かなければならなかったのか・・・
ここで知り合った人に誘いを受けたというのはどう考えても真実ではない。
大事にしていた石はここにあるというのに・・・

「どうしましょう・・・知り合いなんて・・・あの子はこの屋敷の人以外お話してないはずです・・」

会ったといえば俺と出かけたときか・・・キラか・・・

キラ・・・がカガリに何かいったのだろうか?
いや、だったら今日来るなんて言わないはずだ。

「アスラン様、キラ様がおみえになりました」
ドアの外から声が聞こえる。
アスランは走るように玄関へと向かった。

「あれ?どうしたのアスラン・・・慌てちゃって・・」
キラののん気な顔が目に入る。
この様子ではキラは関係ないみたいだ・・・
と、アスランは息を荒くしながらキラの前で立ち止まる。

アスランのいつもと違う態度にキラは表情を硬くする。

「カガリに何かあったの?」

キラの問いかけは見事に当たっていた。


「・・・・・」
アスランはどんっと壁にもたれかかる。

キラはアスランの手に光るものが目に入る。
それは・・・赤い石・・・

「アスラン・・・・それ・・・」
キラの瞳はその石をじっと見ていた。

「・・・・・・・・カガリのなんだ・・・・」
何でカガリはこれを置いていったのだろう・・
あんなに大事そうにしていたのに・・・
アスランはその石に彫られたカガリという文字を見つめる。


「ちょっと貸して!」
キラはアスランから奪い取るように石を手にした。
すると、すぐに顔色が変わる。

「・・・キラ・・?」
アスランは思わず声をかける。
その表情はあまりに蒼白だったからだ。

「・・う・・そ・・・」
キラは石を見つめたまま呟く。
その声は震えていた。

アスランは覗き込むようにして見ているしかできない。

「だって・・・・カガリは・・・・」
キラはしばらく立ち尽くしていた。
だが、ぎゅっと石を握るとアスランを殴る勢いでつかんだ。

「カガリはどこにいったの!?」
キラは本気でアスランに向かっていた。

「キラ・・・?」
キラの変貌ぶりにアスランはたじろぐ。

「アスラン!」

初めて見る・・・キラのこんな気迫・・・
アスランはキラの瞳を困ったように見つめる。

「・・・・・・キラ・・・・・カガリの居場所は俺も知りたいんだ・・・」
その言葉にキラはアスランを掴んでいた腕を離す。

「カガリとお前は何か関係があるのか?」
キラの握っているカガリの石はやはり・・この間見たキラの石と関係があるのだろうか・・・

「今は言えない」
「・・え?」
「僕はカガリを探すよ。どうしていなくなったのか教えて」
先ほどとは違い淡々と話すキラ。

「どうしてって・・・・」
キラはアスランを見つめる。
この様子ではカガリが出て行った理由がはっきりしてないみたいだ。
「いいよ。マーナさんに聞くから」
キラはくるりと向きを変える。

「まっまて!」

「・・・今は君に説明するよりカガリを探すことのほうが大事なんだ」
アスランの言葉を背にキラは奥へと進んだ。



何があった・・・?

キラはマーナに話を聞くとすぐに屋敷から出て行った。

そんなキラを窓越しに見送るとアスランは考え込む。
アスランは昨日の出来事を振り返っていた。

昨日はミーアの屋敷に行って、カガリの具合が悪くなって・・・

具合・・・?

そういえばミーアと話す前まではいつも通りだったよな・・・

何か・・言われたのだろうか・・?
だが、ミーアはいつも通りだった。

そういえば彼女に奴隷のことを聞こうと思っていたがカガリが心配でそれどころではなかったな・・・

彼女と結婚し、奴隷の人たちを少しでも救えたら・・・
そう思っていた。
そのときカガリは俺の側にいてくれるのかそれは分からない。
でも、一緒にいたいと思っていた。

それが苦痛だったのか?
だが彼女も俺を愛してくれた・・・昨日・・・
あれが別れだというのだろうか・・・

「ああ!もう!」
アスランは思い悩むように頭を抱える。
本人に聞くしかない。
俺が何をどう考えたって分かるわけがない・・・
とにかくカガリを探そう・・・

アスランはぎっと椅子を立つと、机にあるミーアの手紙を見る。

とりあえずは・・・ミーア・・・か・・。




「父さん」
キラは自分の屋敷に戻ると重い表情で扉を開ける。

「キラ」
父の側には仕事関係であろう・・人が座っていた。
キラの父は今その名で呼ぶなという想いを声に込めていた。

「王・・・大事な話しがあります・・・」
キラは言い直すもののその表情は優れない。

父は何かを感じ取ると、
「では、そのようにお願いします」
と、人払いをした。


「どうしたキラ?」
父は先ほどとは違い、父親としてキラに声をかける。

「母さんは・・・亡くなったんだよね・・?」
キラの妙な質問に父は顔をしかめる。

盗賊に入られ、家に火をつけられた。
確かに・・・彼女は死んだのだ。
もちろん亡骸も埋葬された。

「そうだ・・・」

「じゃぁ・・・カガリは・・?」

キラは俯いたまま小さな声を発した。

カガリの亡骸は見つからなかった。
いくら近くを探せど見つからなかったのだ。
死んだのか・・生きているのかさえ分からない・・・

「しかしなぜそんなことを聞くのだ?」

キラは答えない。

「キラ・・・」


「どうしてカガリを母さんのところに預けたの?」

キラは質問に答えなかった。

父はため息をつく。

「お前の母は体が弱かったんだ。2人を産んでさらに病状が悪化した。
環境のいいところで静養しなければならなかったんだ・・・
しかし、1人では寂しいだろうと」

「なんでっっ!!」
キラは顔を上げた。
その瞳には今にもあふれ出しそうな涙。

「僕だったら良かったのに!だったらカガリがあんな目に会うことなんてなかったんだ!!!」

父とキラの間の時が止まる。

何が言いたいのだ・・キラは・・・?
今更だ。
何度後悔したかしれない。
しかし、2人でそれを乗り越えてきたはずだった。
なのになぜ今カガリの話が出るのだろう。

「何かあったのか・・・?」
それしか考えられない。

キラは押し黙る。
ここまで言っておいて言わないわけにはいかない。

「カガリの写真見せて・・・」
幼くして別れた2人。
確か1枚だけみんなで撮った写真があったはずだ。
白黒で写りがいいものとはいえないけど・・・・

父は側にあるテーブルの引き出しに手をかける。
そっと取り出したのは写真。

キラは少し震える手でそれを受け取った。
封印するかのようにその写真を見ることを拒んでいた自分。
しかし、今は見なくてはならない。

瞳に映っている人を写す。

そこには太陽のような笑顔を持った少女が写っていた。


やっぱり・・・・


キラは唇をきつくかみ締める。


カガリは僕の半身、双子の姉だ・・・。


「父さん、カガリは生きています」
キラはその写真をぎゅっと握り締めると父に向き直る。

「・・・・・」
父はその言葉に目を見開く。

「話したんだ・・・僕・・・」

「キラ・・・それは本当なのか・・・?」
初めて見るような父の驚いた表情。

「アスランの屋敷にいたんだ・・・そう・・・昨日まで・・・」

「昨日・・?」

「父さん・・・カガリ・・・・どれ・・奴隷として生きてきたん・・・だ・・・
あれから・・・あの日からずっと・・・・」


父の顔は凍っているだろう・・・
キラは落ちる涙を堪えながら思う。

僕達はもっと探すべきだったんだ・・・カガリを・・・
そうしたらカガリはあんな思いをすることはなかったんだ・・・

キラに後悔が渦巻く。

最初、カガリという名前を聞いたときもしかしてって思った。
だけど、カガリが生まれた年は「カガリ」という名前をつける人が多かったため、
この子もそうなんだと済ませていた。

もしあのとき・・
そうしたらカガリがいなくなる前に気づけたのに・・。


「僕はカガリを探すよ・・・」

「僕は・・探さないといけないんだ・・・」

「やっと会えたのに・・気づかなかったなんて・・・」

「ぼくっっっ」

父はキラをぎゅっと抱きしめる。

「カガリにも・・こうしてやれるといいな・・・拒絶されちゃうかもしれないけど・・でそれでも・・・」

「ああ、わしとて同じ気持ちだ・・・」

「・・・うん・・・」
キラは力をもらうように父の温かみに体を預けた。








あとがき
ばればれだった事実発覚!!(笑)
はてさてカガリはどこに行ったんでしょうね〜