「なんだ・・お前もあそこに通うのか?」
暗闇の中、男の声が風とともに流れる。

「ああ・・前のところはもうダメだ」
漆黒の髪を揺らし男は言った。

「まぁ・・学校ではあまり話さないほうがいいな・・・」

「ああ・・・そうだな・・・」
光を遮っていた雲が風で流されていく。
月明かりが2人を包んだ。
先ほど漆黒に感じていた髪は深い濃紺へと変わっていた。

月の光を弾くのは翡翠に輝く瞳。

男は別々の方向へと姿を消した。




〜Episode 1〜




空は快晴。
気持ち良いぐらい晴れていた。

キラと私は春休み最後の日だからと一緒に街へと出かけた。
辺りは思ったより人が多くてよそ見しているとキラとはぐれてしまいそうだ。

「わぷっ」
「カガリ大丈夫!?」
人に埋もれたカガリをキラが助け出す。
「何でこんなに人が多いんだ?」
カガリはふーっと息を吐きながらキラの横に立つ。
「だよね。春休み最後の日だから意外に人がいないと思ったのに・・」

辺りを見回すとスーツ姿のおじさん、学生、おばあさん・・いろんな人が歩いていた。

「どうしよっか・・ごはんも食べたし帰る?」
さすがにこの人ごみではゆっくりできないと踏んだキラは言った。

「ハンバーガー山ほど食ったしな!」
にっと笑うカガリに
「それにしてもカガリよくあれだけ食べれたね〜」
と、キラが笑う。

「私の胃袋は宇宙なんだ!キラだってハンバーガー3個も食べたじゃないか」
「あはは」
キラは更に笑う。

さすが日曜日。辺りは人でごった返している。
キラは人を避けるようにカガリを連れて歩いていた。
カガリとキラは双子のきょうだい。
2人で街に遊びに行くこともよくあった。
今日も春休み最後の日をカガリと過ごしていたのだ。

「明日から2年生か・・・」
カガリは呟いた。
「春休みって短いよね〜もっとあってもいいのに」
「ほんとだよな。でも宿題ないからいいや!」
カガリはうれしそうに話す。

その時トンッとカガリの肩に人が当たる。
「あ・・すみませ・・・」


見えたのは翡翠のような瞳。

それがやけに目に焼きついて・・・・

「カガリ!?」
私は倒れた。





「まぁ、そんなことがありましたの?」
「ほんとびっくりしたんだよ!いきなり倒れるんだもん!!」
キラはカガリを睨みつける。
「私のせいじゃないだろ・・」
「それはそうだけどね・・・」
しかしキラはすっきりしない顔をしている。

あの時、カガリが倒れたとき・・・

『カガリ!?』
キラは視界から消えたカガリを探し当てるとすぐにカガリに呼びかける。
しかしカガリはぐったりしたまま動かない。
『だ、誰か救急車呼んでー!!!』
キラの声が当たり一面に木霊した。



『軽い貧血ですね。大丈夫です』
医者にそう言われ、僕も母も安堵したように息をついた。
『貧血だなんて・・・あの子いままで1度もそんなことなかったのに・・・』
『僕心臓が止まるかと思ったよ』
キラは近くにあった椅子に深く座った。
はぁ・・・とため息をつきながら。



「ほんとに心配したんだからね!」
「いいじゃないか・・・こうして今日も学校来れたんだから・・・」
それにしても何で貧血なんて起こしたんだろう?
昔から体力だけが自慢だったんだけどなぁ・・・

「カガリさん、同じクラスになれて良かったですわね!」
話題をそらすかのようにラクスが声をかける。
「そうだな!1年のときはラクスともキラともクラス違ったし・・・」

そう、今日は高校2年生最初の日だ。
キラとラクスは付き合っている。
よくキラのクラスを覗いていた私はいつもキラといるラクスと自然に仲良くなれた。

同じクラスになれたらいいなーっと思っていたのでクラス分けを見たときは3人で飛び跳ねて喜んだ。

「・・・あら・・・?」
ラクスはカガリを通り過ぎて何かを見ていた。

「どうしたの?」
キラはラクスの視線を追うように顔を動かした。
そこには・・・
「あれ?見たことないね・・・」
「ですわよね・・・気付かなかっただけでしょうか・・?」
不思議そうな2人にカガリも2人の視線の先を見る。

そこには見たことのない・・男子生徒がいた・・・
藍色の深い色をした髪は彼の顔を隠すように流れていた。

「ねぇ・・ミリィさん」
ラクスはちょうど通りかかったミリィを呼び止める。
「何?」
ミリィは足を止めラクスを見る。
「あの方・・・前からいらっしゃいました?」

「ああ!あの人はね転校生」
「「「転校生?」」」
「らしいわよ。えっと・・・確か・・アスラン・ザラって言ってたかな?」
「さすが新聞部!情報が早いね!」
「ふふん。当然よ〜」
ミリィは自慢げにするとその場を後にした。
キラが前に向き直るとカガリが・・・いない。
「あれ?」
そう言ったとき、
「私はカガリだ!よろしくな!」
と、元気な声が聞こえてきた。
まさか・・と思い、先ほどまで見ていた男子生徒のほうを見る。

予感は的中。
カガリはうれしそうにその男に手を差し出していた。


「あれ・・?」
男は差し出した手にも言葉にも何の反応も示さない。
顔が見えない・・・寝てるのか・・・?
カガリは覗き込む。
と・・・瞼は閉じられていた。
寝てるのか・・・
そう思った瞬間、男の瞼がピクンと動いた。

「・・・あ・・・」
ゆっくりと瞳が開く・・・

綺麗な・・・・・何色・・だろう?
カガリは思わずその瞳に見入ってしまった。
俯いたままの彼からは陰になって真っ直ぐに瞳が見れない。
カガリは・・ただ、綺麗だと思った・・・

「・・・・・・・・何・・・・?」
「あっっ」
男の声にカガリは我に返ったように姿勢を正す。
「お前転校してきたんだってな!カガリって言うんだ、これからよろしくな!」
カガリは慌てて先ほどのように手を差し出す。

男・・・アスランはそれを見るとすっと顔を上げカガリを見た。
瞬間、驚いたような顔をした・・・気がした・・・。
「・・・・・?」
「よろしく」
しかしそれは一瞬。 アスランは自らも手を出すと軽くカガリの手に触れた。

・・・気のせいか・・・?
カガリはアスランの手をぎゅっと握り返すとにっと笑った。

「僕はキラ」
キラはカガリの握った手を奪い返すように握手をする。
「私はラクスです」
ラクスはキラの後ろからひょっこりと顔を出した。

「アスランだ・・よろしく」


こうして私達の2年生は幕を開けた。



「しばらく適当に座っていいぞ〜」
ガラッと勢いよく入ってきたのはフラガ先生。

ああ・・・進路指導の先生に当たった・・・
カガリは軽くがっくりした。
別に大したことではないのだが、進路指導って言葉だけで気分が欝になる。


「座れ〜」
フラガはパンパンッと名簿を教卓に叩きつける。

「カガリ・・どうする・・?」
カガリたちは今だアスランの座っていた席の前にいた。
「あ・・じゃあ・・」
カガリはアスランの隣にちょこんと座る。
「でしたら私は・・」
ラクスはカガリの前に座った。
「んじゃ僕は・・・」
キラはアスランの前に座る。

「よろしくなアスラン!」
カガリがそういうと
「ああ」
アスランはそっけなく言う。

人見知りするのか?


なら尚更仲良くならないとな!
カガリはアスランをそんな瞳で見つめながら椅子に座った。




今日は授業はない。
始業式のため、集会と先生からの話ぐらいで、午前中で解散となる。

「ラクス!帰りどこか寄ろっか?」
「はい。そうですわね」
キラはHRが終わるとすぐさま隣にいるラクスに声をかけた。
カガリは鞄に荷物をつめながらその光景を見る。
「ね、カガリも一緒に・・・」
「あ・・いやいいよ。2人のほうがいいだろ?」
「そんなことありませんわ」
「邪魔したくないからさ」
カガリはにっと笑う。

3人で出かける。
それはキラがラクスと付き合いだしてからよくあることだった。
落ち着かないとか・・・居心地が悪いとかは思わない。
だけど・・・デートの邪魔をしているみたいでどうも・・・スッキリしない。
思っていないのかも知れないけど・・・気を使われてる気がした。

「そんなこと・・」
キラは困ったようにカガリを見た。
「だって・・・・私・・・」
じっと下を見るカガリ。
当然のことながらキラとラクスは心配そうにカガリを見る。

「こいつに校内案内しないといけないから!」
と言ってカガリが指差したのは隣で今まさに帰ろうと席を立ったアスランだった。

「・・・・・・・・・・は?」
なぜか指を差されていることに気づき、アスランは驚いたようにカガリを見る。
「お前分からないだろ!案内してやろうと思ってたんだ!」
ばんばんっとカガリはアスランの肩を叩く。
「俺は別に・・・」
「な!」
断ろうとするアスランにカガリが詰め寄る。

「いや、ほんとにいらない」
しかしアスランはそれを更に断ると、席を立ち教室を出て行った。
「あ・・ちょっと待てよ!」
カガリはそれを追いかけるようにして走り出した。

「カガリ!?」
「本当に気にしなくていいから!ラクスと楽しんで来いよ!」
カガリはそう言い残すと教室を後にした。

「・・・どうしよう・・」
取り残されたキラは呟く。
「・・・大丈夫じゃありませんか?」

「う〜ん・・」
少し考え込むキラだったが転入生だし緊張してるんだろうな・・
と、アスランのことはカガリに任せることにした。

「じゃ、いこっか」
「はい」








「おい・・おーい・・・こら・・・こりゃ・・・お」

「うるさい!」
アスランの後ろをついて歩くようにしていたカガリにアスランは思いっきり振り返った。
「・・お前が無視するからだろ・・・」
「無視も何も声をかけられる理由がないだろ」
アスランは睨みつけるようにしてカガリを見た。

「理由って・・・同じクラスになったんだ!友達だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
同じクラスになっただけで友達にされてはたまらない。
アスランはカガリを睨みつけたままだ。

「お前・・・」
少し潤んだ瞳でアスランを見つめるカガリ。
アスランは泣かれるのかと思うと気分が沈んだ。
面倒だ。
さっさとこいつから離れよう。
そう思い、体を反転させようとしたその時
「やっぱお前の瞳綺麗だよなぁ!」
その言葉とともにカガリの顔がアップになる。
「・・・・・なっ・・」
アスランは慌てて体を反らした。
「俯いてたから良く見えなかったけど・・きれいなエメラルド・・グリーン・・?」

・・・・どっかで・・・・この感じ・・・

思わず掴んでいたアスランの腕を解くようにアスランはカガリを離す。
カガリはアスランの瞳からその手へと視線を移した。

「・・・・・くっつくな」
「悪い」
カガリは拒絶されているのに笑いながらアスランを離れる。
「キラにもああ言っちゃったし、案内ぐらいさせろよ?」
「いらない」
「でも知ってたほうが便利だろ!」
「教室以外たいして行くとこ・・・・・・」

ああ・・・・人に見つからない場所を一ヶ所ぐらい知っておかないといけないな・・
その為にこの学園に来たんだ。

「そうだな・・・穴場とかあるか?」
アスランは軽く笑う。
「任せろ!隠れ家なら私の得意な分野だ!」
カガリはそう言うと先を指差しながら歩き出した。


廊下に生徒の姿はない。
そうだ・・・今日は午前までだった。
ということは当然今はお昼の時間で・・・
「アスラン」
「なんだ?」
カガリはくるりと振り返る。

「お前お腹すいたか?案内するって言って・・・よく考えたら今お昼の時間だよな・・」
カガリは腕につけた時計を見る。

「・・・・・・・・今は大丈夫だ」
「そっか・・?」

昨日食べたからな・・・
アスランはぺろりと軽く唇を舐める。
カガリはそれに気付かなかった。

「できれば人が来ないところがいいんだけど・・一ヶ所でいいから」
「?」
それでは案内にならない気がするけど・・・

くぅ〜〜〜〜
「わっ」
そのときカガリのお腹がなる。
「くっ」
アスランは真っ赤になったカガリを見て軽く笑う。
「あ・・・いや・・」
カガリは更に真っ赤になってしまう。

「お腹すいてるのか・・」
「み・・たいだ・・」
カガリはお腹を押さえる。
「一ヶ所だな!なら今は物置状態になってる理科実験室だ!」
真っ赤な顔をしたままカガリは歩き始める。
「別にいいぞ。案内しなくても」
「いや・・する!」
カガリはチラリとアスランを睨むと言った。


カガリが向かったのは理科実験室。
そこは新しく実験室ができた為物置状態になった場所だ。
鍵がかかっているのだが、
ガチャガチャガチャ
カガリはノブを3回まわす。
すると、カキン・・・と鍵の開く音が響いた。
「な、裏技なんだ!」
カガリは自慢げに言った。

アスランは中に入って行ったカガリの後についていく。
中に入ると辺りをくるりと見回した。

悪くない。
アスランは頷くように息を吐くと、
「ありがとう、もういい」
そう言ってその部屋を出て行く。

「え?もういいのか?ここけっこう面白いものあるんだぞ?」
カガリは山のように積まれた本をかき分け、ルービックキューブを取り出した。
「な?」

・・・・・・・どこが面白いのか分からない。
アスランはただカガリを見ていた。
「・・だめか?なら・・・・」
がさがさと新たに何かを探し出すカガリ。

「いい」
自分の手に優しく添えられた手、
その手はすごく冷たかった・・・
「あ・・ああ・・・」
その冷たさに少し驚きながら返す。
アスランはカガリの真横に来ていた。
手の主を見ようと振り返ったカガリの首元は髪が流れ、透き通るような肌を露にしていた。

アスランはじっとそれを見つめる。

「・・?なんだ・・?」

「いや・・・空腹ならいってたなと思って・・」
アスランはすっとカガリから離れた。
「?」

「じゃあ俺はこれで」
「あ・・・・」
ぐぅ〜
再びカガリのお腹が鳴る。
「早く帰らないと飢え死にしそうだな」
「うっっ」
恥ずかしそうにするカガリを横目にアスランはその部屋を後にした。



あとがき
このお話しの担当はさくらんぼでございます〜。
第1話目ということで緊張緊張で書かせていただきました。
本当にこんなに手直ししたのは初めてです!
しかも緊張からか誤字がすごかったっっ(汗)
ですが、初めてこういう感じのお話を書かせていただいたのでなんともいえないのですが、
お気に召していただけると幸いです。

次回はアテリズ様の担当でございます☆