「カガリ・・・気持ち悪くないの?」
ミリィはパクパクとお弁当を食べるカガリを呆れたように見た。
「だって、朝食べれなかったんだぞ」
そう、寝坊のせいで朝ごはんが食べられず2時間目からすでにお腹がペコペコだった。
「ふふ・・カガリさんらしいですわね」
ラクスは笑いながらお弁当を広げる。

「でも・・カガリが寝坊だなんて珍しいわよね」
「でしょ。カガリって朝早いほうだから僕が起こされる方が多いんだけどなぁ・・・」
キラは弁当箱を持ってカガリの隣に座る。

「なんか・・・変な夢見たからかも・・・」
カガリは箸を咥えたまま、記憶を呼び起こす。

夢だったのか、現実だったのか今でははっきりしない。

でも、あの黒い影・・・風の匂い・・
それだけははっきり記憶の中に残っていた。
結局・・なんだったのだろう・・・



〜Episode 3〜





「・・・ガリ・・・カガリ!」
「ほへ?」
カガリは自分が呼ばれていることに気付く。
「大丈夫?もしかして具合悪いんじゃないの?」
キラはボーっとしていたカガリのおでこに手を当てていた。
「至って健康だ!それだけが自慢だからな!」
カガリはそういうとお弁当に再び手をつけた。
キラは少し心配そうにカガリを見ている。

この間だって倒れたばかりだし・・・
だが、先ほど以外は本人の言うとおり至って健康そうであったため、キラは自分の弁当を広げた。

「それで何かわかった?」
キラはミリィに問いかける。
ミリィは新聞部。
それなりの情報を集めているだろう。
その証拠に午前中の休み時間は全く言っていいほど教室にいなかった。

「だからごはん食べれないのよね〜」
ミリィはお弁当を前に大きなため息をつく。

「・・そんなに血が出てたの?」

「そういうわけじゃないの。ただ、その子の姿っていうか、倒れてる姿を見た子がいてね、いろいろ話を聞いたのよ。
まぁ、どうしてそうなったかは分からないらしいんだけど、首筋にこう・・・赤い傷があったらしいの」
ミリィは自分の首筋に指を当てる。
トントンっと2回当てるように。

「それがどうかしたのか?」
カガリは相変わらずお弁当を食べ続けている。
「どうかって・・・首に傷、女の子は貧血、それで連想するものってない?」
ミリィは真剣な表情で言う。

「まさか・・・吸血鬼なんていうんじゃないよね」
キラは唐揚げを箸でつまむ。
「吸血鬼ですか・・・非現実的ですわね」
「ミリィってそんなの信じる方だっけ?」
カガリは首をかしげる。

自分の知っているミリィは現実的でしっかりしているイメージがある。
そんなありもしないことに胸をやきもきさせるタイプでなかった。

「私だってそんなもの信じてないわよ。ただ変な噂を聞いたの」

「「変な噂?」」

カガリとキラの声がハモル。
「昨日の夜遅くに学校の側を通った子がいたんだけど、変なものを見たって言うのよ」
ミリィは他の人に聞かれないためか、キラとカガリに顔を近付ける。

「宙に舞う変な影」

ミリィの真剣な表情にキラも表情を硬くしていたが、その言葉を聞きクシャッと顔を歪ませる。

「ミリィ!やっぱり夢見がちな女の子だったんだ!」
キラは見間違いでしょとでも言うかのようにお茶で喉を潤す。

「キラ、信じてないでしょう!」
「だって、信じるも何もカラスでも飛んでたんじゃないの?」
「その子は絶対見間違いじゃないって・・普通じゃなかったって言ったもの。それに1人じゃなくて2人で見たって言うし」
ミリィは負けじとキラに突っかかる。
キラは笑いながらなんとかミリィをなだめようとしていた。
「まぁまぁ、ミリィさん」
ラクスもそれに手をかす。

『宙に舞う変な影』

カガリが思い出したのは昨日の出来事。
あれは・・・やっぱり夢じゃなかったんだろうか・・・?
手に持った箸が止まる。



ガラッ

教室に響く戸の音にカガリは自分がまた物思いにふけっていたことに気付く。
思わず見たその扉には・・アスランが立っていた。


そういえばアイツ・・・どこでごはん食べてるんだろう・・・
2年になってからそれなりに日は過ぎている。
しかし、アスランがお昼を食べているのを見たことがなかった。

アスランはカガリたちの横を素通りして自分の席に向かう。

「あ・・お前・・」
カガリは声を掛けていた。
アスランは無表情でカガリを見る。

「あの・・お前どこでごはん食べてるんだ?もし1人で食べてるんなら一緒に食べないか?」
カガリは自分達のいる場所を指差す。

「いい・・」
アスランはそっけなく返すと席へとついた。
「でも・・みんなで食べた方が美味しいだろ?」
カガリは食べかけの弁当を残し、アスランの席へと近づく。
「カガリ・・・」
やめときなさいよ・・というミリィの呼びかけ。
しかしカガリはそれを気にせずアスランの前まで行った。

「でも・・お前いつもお昼いないだろ?それにすぐ帰ってくるし・・・ちゃんと食べてるのか?」
今までも少し気になっていた。
アスランはお昼になるとどこかへ出て行く。
そして、私達がまだ食べ終わっていないのに戻ってくる。
そのあと、ここで何かを食べるわけでもない。
お弁当を持ち出してる様子もないし・・・。

「食べてるから」
アスランはそういうと、大きくため息をついた。
邪魔だとでも言うような態度。

カガリはむっとしながらも元来の性格のせいか、更に言葉を続ける。
「でも・・ちゃんと食べないと体・・」

「しつこい」

カガリはぐっと息を飲む。
そのときのアスランは鋭い眼光でカガリを睨みつけていた。

「・・アスラン・・・」
キラは立ち上がり、カガリの隣に行く。
「キラ・・・」
ラクスが後ろから心配そうな声をかける。

「カガリは君を心配してるんだよ。その態度はなに?」
アスランはキラと瞳を合わせることなく、俯いてまた大きくため息をついた。

「頼んでもないのに心配されても迷惑だろ」

「迷惑って・・・君がっっ」
「キ・・キラッ!」
キラが怒鳴ろうとしたとき、カガリは慌ててキラの腕を掴みそれを止める。

「い・・いいから・・・」
喧嘩させたいわけじゃない。
カガリの懇願するような瞳にキラは怒りを堪えた。

「カガリさん、キラ、時間なくなりますわよ」
そのとき、ラクスの声が聞こえてくる。
「ね」
こちらへどうぞ。微笑むラクスがいた。

「そうだな・・」
カガリはキラの腕を引っ張り、席へと戻った。
キラは戻るとき、アスランを軽く睨んだ。
しかし、アスランは全く目を合わせなかった。




「遅くなった・・・・・」
放課後、カガリは校門前で仁王立ちしていた。
それというのもフラガ先生のせいだ。
職員室の掃除当番なのだが、「あれを頼む」「これもいいか?」と声をかけてきて、雑用を押し付け、この時間だ。

真っ暗ではないが、軽く日が沈んできている。

『宙に舞う変な影』
ミリィのその言葉が浮かび、空を見上げる。
綺麗な黄金色とも取れる空。

「綺麗だな・・・」
更に高く空を見る。

「わっっっ」
そのとき、体が平衡感覚をなくし、グラつく。

ぽす・・・・・


ぽす・・・?

いい音がした。
カガリは目をパチパチさせながら辺りを見回す。

「離れろ」

聞こえたのは前でも横でもなく後ろから。
カガリは後ろが見えるよう首をひねる。

「ひゃあああああああ!!!!」
そこにいたのは不機嫌面のアスラン。

カガリは飛び跳ねるようにしてアスランから離れた。

いや・・待てよ・・・
アスランに当たったから・・私は・・・

「あ・・アスラン・・早!?」

カガリが何かを言おうとアスランを見ると、すでにアスランは歩き出していた。

「ちょっと待てよ」
カガリは走ってアスランに追いつく。
アスランは前を見たままカガリを見ない。

「ありがとな・・・アスラン受け止めてくれたんだろ?」

「・・・・・・・歩いてたら倒れてきただけだ」

「・・それでも倒れずにすんだ。ありがとう」

「・・・・・・」

アスランはどんどん早足になっていく。
歩幅の違うカガリは走るようにしてアスランについていく。


「じゃ」
「え・・・」
アスランはそう言うとさらに足を速め、カガリを残し去って行った。

「別に・・・一緒に帰ろうとか思ってないけど・・・それはないんじゃないか・・」
カガリはぷくっと頬を膨らませた。



ドンッッ
「うわっっっ」

ピシャっといういい音と共にカガリに痛みが走る。

「ああ、悪い」
上から聞こえるのは悪びれた様子もない男の声。

アスランのおかげでこけなくてすんだのに・・・
カガリは顔面から地面に落ちていた。

ヒリヒリする顔を抑えながら起き上がると、そこには・・・

赤・・・?
いや・・・銀だ・・・
夕日に照らされた肩まである髪。

「なんだ?謝っただろ」
男は綺麗な髪に見入るカガリにガンをつける。
「そりゃそうだけど・・・」
「ならいいな」

「へ!?お・・おい・・・」
カガリは顔を抑えたまま、男の背中に声をかけたが振り返ることはなかった。

「・・なんだよ・・・おい・・・」
カガリは同じ制服を着た男を訝しげに見ていた。





「アスラン」

「・・イザーク・・・」

陽が徐々に落ちていき、辺りを暗闇が侵食していく。

「・・・なんでそのかっこうしてるんだ?」
アスランに話しかけた男は自分と同じ制服を着ている。

「俺もお前と同じ学校に通うことになってな」
「・・・・・ディアッカも一緒か・・・」
「ああ」
アスランは横目でイザークを見る。


「・・・あれはお前の仕業か?」



ザァァァァァ


制服を巻き込むような風が吹く。
ブレザーの裾は大きく風になびいた。

イザークは顔に纏わりつくような銀の髪をものともせず、にっと笑った。

「・・さあな」

「・・・・・・・」

アスランはイザークに睨みを利かせる。

辺りは光をなくし暗闇に包まれた。


「お前は大人しいみたいだな」
イザークは少し嫌味を込めて口調で言う。

「それが俺のやり方だからな」
アスランはそれにさらりと返した。

「・・そうだな・・」

しばらく沈黙が続いたが、イザークはアスランに軽く笑い、歩き出す。

「まぁ、これからよろしくな」
イザークはぽんとアスランの肩に手を置く。

「関るなよ」

「こっちも同感だ」

2人は目を合わせると別々の方向へと歩いて行った。



あとがき
このお話しの担当はさくらんぼでございます〜。
1話目がどれだけ大変だったか良くわかりました。
今回はすらすら書いてますもん。
ああ・・なんか好き・・・お話しが進んでいくと書いてるって感じがして好き♪

次回はアテリズ様の担当でございます☆