騒々しい・・・・気がする・・・

アスランはカーテンの締め切った部屋の中で髪をかき上げる。
その足元には女性徒のスカートが少し見えていた。

「イザークは何事でもうるさすぎる・・・」
何で同じところに転校してきたんだ。

アスランはウンザリ顔で倒れている少女を見た。


ぺろりと唇を舐めるとその顔を微妙に歪める。

美味しくない・・・・

あれ以来、どれを試しても美味しいとは感じなくなっていた。

「まさかこの学校の生徒だとはな・・」

『気』だけであれだけ美味いんだ、本物はもっと美味いはずだ・・。
そんなことを考えると顔が緩んでしまった。

そんな自分に気づき、アスランは表情を引き締めると辺りに散らばったものを蹴りながら部屋を後にした。

倒れている少女を残して。



〜Episode 5〜




薄暗い・・・いや、すでに暗闇に包まれている廊下をアスランは歩く。

当然のことながらそこには人の気配がない。

と、アスランの足がある部屋の前で止まった。
「・・・・・・」
この匂い・・・
アスランは顔をあからさまに歪めると迷いもなく扉を開けた。

中は暗闇で何も見えない。
だが、そこにいる人物は見なくても分るものだった。

「イザーク」

「お・・アスラン」
その声は正面ではなく横から聞こえてきた。
ディアッカもいるのか・・・
アスランは瞳をそちらに移す。

そこには金色の髪をもった青年がいた。

「おいおい、俺じゃないぜ」
アスランの睨みを避けるようにして青年は言った。
目が慣れてくると人の姿が形として見えてくる。

「もう少し綺麗にできないのか?」
アスランは視線を正面に戻すと、下に溜まった血を見る。

「これが俺のやり方だ。貴様に文句を言われる筋合いはないぞ」
イザークは腕を流れる鮮血をぺろりと舐め取る。
瞳は赤い光を映し、光っていた。
「あまり取り過ぎると貧血ではすまなくなるぞ。そうなったら困るのは自分だろ」
「ふん」
イザークは溜まった血に移る自分を見ると満足そうに微笑んだ。
「俺は限界ギリギリまでいただく主義だ」

「・・・・」
納得できないものの、アスランは言い合うのも面倒だと部屋を出ようとする。
が、目の端に金色の光が見えた。

ディアッカとは違う、輝くような金。
アスランは自然とそちらに目をやると、思わず驚いたように体を強張らせた。

「あれ?知ってんの?」
ディアッカはそんなアスランの態度に気付き問う。

「・・・何かしたのか?」

アスランは床に倒れるようにしている少女を見ていた。
それは見覚えのある・・いや、よく知っている少女だ。

カガリ・ユラ

アスランは感情のこもっていない瞳でカガリを見下ろす。

「あー・・ちょっと見られちゃってさ」
「バカか」
「俺じゃない、ヘマしたのはイザークだろ」
ディアッカはそう言ってイザークを見るが、イザークはそ知らぬ顔で外を見ていた。
うわ・・感じ悪ぃ・・・
ディアッカは視線をアスランに戻すことも出来ずそっぽを向いた。



「お前の知り合いか?」
イザークは少しの間を置き言う。

「・・・別に」
アスランにも少しの間が開く。
イザークはそれを感じると軽く笑う。

「人と係わるのが嫌いなお前が珍しいな」
「関わりなどないと言っているだろ」
イザークはそう言うアスランをしばらく見ると、机から腰を上げる。
「なら・・」
触れたのは床に倒れていた少女、カガリだ。
抱き上げるようにして体を起こすと、首筋に唇を近付ける。

それを見ていたアスランは表情は変わらぬまま、だが、一瞬体がピクリと反応した。
イザークはそれを見逃さない。
そんなアスランを見ながらゆっくりとカガリの首筋に唇を近付けていく。
ふっと、それが首筋に触れる。

と、
「・・まぁ、今はこいつで満足してるからな」
そう言って微かに触れた首筋から唇を離す。
視線は下に倒れている少女に向いていた。

「確かに、それは飲みすぎだろ」
ははっとディアッカは茶化すように言った。

カガリの体はイザークの体から離れ、床へと落ちていく。
床に頭が当たる刹那、アスランは手でカガリの頭を支えそれを回避した。

「ふん・・・」
そう言うとイザークはアスランを通り越し部屋を出て行こうとする。

「俺に迷惑だけはかけるなよ」

背中越しに聞こえる声。
イザークは意味深な笑みを浮かべ
「貴様こそな」
そう言い、部屋を後にした。

「じゃ、俺も失礼」
ディアッカはそう言うとイザークの後を追うように部屋を出る。




部屋に残ったのは倒れた少女と今だアスランの手に頭を乗せたカガリ。

倒れている少女の周りには先ほどまであった血の溜りがなくなっていた。

どうするか・・・
アスランは腕の中にいる少女を見つめた。
イザークの姿を見たんだよな・・・

「はぁ・・・」
アスランは大きなため息をつく。
すでに迷惑をかけてるじゃないか・・・



「カガリ!!!」

廊下に響く声。
それが誰のものか・・アスランには記憶があった。
確か、こいつとよく一緒にいる『キラ』
こんな時間まで帰ってこないことを心配して探しに来たのだろう。
そう思い外を見るとすでに月が出ていた。

「・・・・仕方ない・・・」


「カガリ!!」
バンっと大きな音を立て、キラは扉を開く。

「いるわけ・・・・ないか・・・」
ここは普段使われていない教室。
気味悪がって来る人は少ない。いや、いないに等しいだろう。
キラはガクッと肩を落とす。

カガリの帰りがあまりに遅いため、学校までの道を辿ってきたのだ。
ところがカガリに出会うことはなかった。
暗くなった空を巻き込みながら学校を見上げると微かに感じた人の気配。
もしかしてカガリがまだ学校にいるのかと塀を乗り越え、慌てて走ってきたのだ。

「だけど・・・」
来る途中で教室にも寄った。
キラの見つめる先、手にはカガリの鞄があった。

それを見つめたまま、キラは不安に瞳を揺らしていた。





「ん・・・・・」

体・・・?首が・・痛い・・・?

カガリは意識を取り戻すと妙な違和感に眉をひそめる。

そういえばなんか・・硬い・・・ような・・・

ゆっくりと瞳を開くとそこには輝く星と深い藍色の空が見えた。

「夢・・・・?」
そう思えるほど綺麗で現実味がなかった・・・。

だが、体の痛みは現実的で、カガリは「っ・・」と、声を上げながら体を起こす。
「夢なら痛みも消してくれよな・・」
そう呟きながらなぜ自分が痛みを持っているのか分からず変な気分になる。
体を起こし終わるとそこがどこか・・


「え・・・?ベンチ・・・公園?」
学校帰りに良く通る公園。
そんなものまで夢に出てくるのか!?

驚きつつもミリィに夢占いでもしてもらおうかな・・・。
そう思ったそのとき、隣に何かの気配を感じ、体が一気に強張った。

なんだ・・ろう・・・
それにしても夢にしては妙に現実的だよな・・
そんなことを考えながらゆっくりと横を向く。

「・・・・・・・・・・」
軽く口が開いてしまった。

そこにいたのは空と同じ深い藍色の髪をもった青年。

アスラン・・・だ・・・。

アスランは寝ているのか顔を深く俯かせ、こちらに気づいている様子はない。

「・・・・おーい・・・」
カガリは遠慮がちに声をかける。
しかし反応はなかった。

「・・・・・・」
つん・・・
カガリはアスランの肩をつつく。

夢・・だよな?
何でアスランが出てくるんだ?
反応のないアスランをカガリはじっと見つめていた。

しかし、恥ずかしくなったのかその視線はだんだん下へと落ちていく。



「・・何?」
「ひゃああっっ」

聞こえた声はもちろんアスランのものでアスランがそこにいるのでおかしいことではないのだが、
緊張したままだったカガリは思わず体を震わせ飛び跳ねる。

アスランはそんなカガリを何事もないような顔で見ている。

「あ・・・その・・・なんでかお前が夢に出てきてるみたいなんだ。その・・なんか・・分かんないけど・・」
カガリは何が言いたいのか身振り手振りを交えながらアスランに説明をする。

「夢?」
そんなカガリの態度にアスランは思わずきょとんとする。


「そうなんだ!私にもどうしてだか分からないんだが・・っっ」
いつものアスランからは見られない表情、だがカガリはそれに気付くことなく焦ったように話す。

ああ・・夢ね・・・

アスランは何かを思いついたように笑みを漏らした。

「そうだ、夢だよ」
アスランはそっとカガリを下から覗き込むようにする。
「・・・あ・・ああ・・」

瞳が交じり合う。

あれ・・・この感じ・・・
何度も経験したような不思議な感覚・・・。
カガリはそれに囚われたようにアスランから瞳をそらせなくなる。

「夢だから、まだ寝てていいよ」
「・・・うん・・・・・」
優しい声、カガリはその声に酔うように意識をなくした。

「ごちそうさま」

風と共にその声はどこかへ飛んで行った。





「・・ガリ・・・・ッカガリ!!!!」
誰かに呼ばれて意識がぱっと戻る。

「へ?」

「へ?じゃないよ〜〜〜」
キラはへなへなと体を地に落とす。

「あれ?キラどうしたんだ?」
カガリはのん気な声でうずくまるキラに聞いた。


「どうしたはこっちが聞きたい!!」
ずいっと顔面に迫るキラの顔はまさに鬼の形相だった。

そう言われ、カガリは辺りを見回す。
そこは公園・・・
「え?まさかこれも夢?」
カガリは呆けたように自分の体をぺたぺたと触る。

「・・・何言ってるの・・・とにかくどこか痛いところこかない?」

「・・・首・・・体・・・・?」
カガリはそっと首に手を当てる。

「こんなところで寝てたら当然だよ。とにかく家に帰ろう。心配してる」
「・・・・・・・・・」
そういえば今何時なんだろ・・・暗い・・・真っ暗・・・

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
カガリは自分が一体何時間寝ていたのか、それも気になったが心配して当然だと気付き、立ち上がる。

「いっっっ」
すぐに足に激痛が走る。
「カガリ!?」
うずくまったカガリにキラは驚く。

「あー・・そうだ・・・」
イザーク・・・
アイツにぶつかった時の・・・・

「なあキラ、イザークって知ってるか?」
心配そうに覗きこむキラにカガリは聞いた。
「イザーク?・・・・なんだっけ・・・転校生じゃなかったかな?」
キラの言い方からは良く知ってはいなさそうだった。

「ん・・・ならいいや」
なんか良く分からないけどイザークに文句を言ってやろうって気も失せたな・・・。
怒りは時間と共に薄れることが多い、カガリももちろんそうだった。


カガリは足の痛みを堪えながらそんなことを考えた。




家に帰ると母にもキラにもこっぴどく叱られた。
それも最もだとカガリは素直にその怒りを受け入れたのだ。



それにしても何であんなところにいたんだろう・・・

カガリはお風呂に入り一息つくと、ベットに体を投げた。

おかしいな・・・どこから夢だったんだ?
フレイって子に会って、イザークにムカついて・・文句を言ってやろうってとこまでは覚えてるんだけど。

天井を見つめ考え込む。
しかし考えても考えても答えは見つからない。
フレイって子の話しかたがころころ変わるのが妙だと思ったけど・・・
いや、それはどうでもいいか・・

「・・・・くそ・・・」
カガリは体を起こし窓に手をかける。
開いた窓からは心地いい風。

何で夢にアスランが出てきたんだろ・・・
それ以前になぜ自分があそこにいたのかも分からない。

いつもより優しい眼差し・・・
カガリは夢で見たアスランを思い出す。


しかしその瞬間、翡翠の瞳が頭を占領する。

「わっ・・・」
カガリは思わず声を上げた。

「なんだよ・・・・」



カガリはその夜、首と体の痛みに唸りながら眠りについた。




同じ風に吹かれ、アスランはカガリの姿を見ていた。

「誰かに取られる前に頂こうと思ったが・・・」
少しよどみのある血の匂い。
せっかくのご馳走だ。どうせなら綺麗な方がいい。

成程・・・・足を怪我していたのか・・・。

カガリの部屋の明かりが消えるのを見ると、アスランはそのまま姿を消した。






あとがき
このお話しの担当はさくらんぼでございます〜。
ふふ・・すんごい先に進まないのが私の作品(笑)
アテちゃんファイトです!キッカケはいつもアテちゃんで・・
いや、悪いとは思っているのですが・・・

次回はアテリズ様の担当でございます☆