「のせられてしまった・・・」
カガリは机にうつ伏せ大きなため息をつく。
「何?カガリ・・」
キラはそんなカガリを見下ろす。

「・・・ミリィにのせられてフリフリが入ったの買ったんだ」
「この間のでしょ?でも可愛かったじゃない」
手に持ってるのを見たとき珍しい感じの持ってるなぁ・・とは思ったけど、似合いそうだった。
キラは昨日の出来事を思い出す。

「家に帰って着てみたんだけど・・なんか・・似合わなくて・・・」
相変わらずうつ伏せたままカガリはふう・・っと息を吐く。
「えっ着たんなら僕に見せてくれればよかったのに」
「そうよ!似合うに決まってるじゃない」
「・・・ミリィ・・」
顔を上げるとそこにはむすっとしたミリィの顔。

「私が見立てたんだから似合うに決まってるでしょ」
ミリィはカガリを指差した。
「元がいい人は何でも似合うんだから」
「私も誘ってくださればよかったのに・・」
そしてその横には寂しそうなラクスの姿。

「え?」
キラとカガリはそんなラクスを見る。
「だって、キラも一緒に行ったのでしょう?せっかくなら私も行きたかったですわ」
カガリはそう言うラクスを見てははっと笑う。
「キラは無理やりついてきたんだ。それに風の強い日だったから何かあったら困ると思ってさ」
「でしたら今度はご一緒させていただけますか?」
「もちろん」

カタン・・・
その音にカガリだけ視線を動かす。

教室をでようとしているアスランが瞳に映る。

「悪い・・・ちょっと用事・・」
「・・ついていこうか?」
「いや、いい」
カガリはキラの申し出を断ると教室を後にした。

「ねね、ラクスも今度の日曜日参加しない?」
「「日曜日?」」
キラとラクスの声が重なる。
「え?キラ、カガリから聞いてないの?」
ミリィは驚いたようにキラを見る。
「何・・聞いてないけど・・」
「もうカガリったら・・」
ミリィはむっとするが、すぐに楽しそうに目を細め、キラとラクスに耳打ちを始めた。





青空が視界一面に広がる。

「俺には似合わないな・・・」
アスランはその空を見上げ眩しそうにしながら小さく呟いた。

「お、来たかアスラン」
上から声が降って来る。
「来たかも何もお前が呼び出したんだろ」
アスランは眉をひそめ声のする方へと向いた。
上からぴょんっと飛び降りる影が見える。
逆光によってそれは黒く塗りつぶされていた。

「それでなんだ?」

「昨日面白いこと聞いてさ・・」
「そうか」
「おっっおい!?」
アスランはへらっと笑うディアッカを見るとすぐに体をひるがえした。
ディアッカは当然のことながら焦ってアスランを止める。

「どうせくだらないことだろ?何かと思って来てみれば・・・」
この間の件もあったし・・そのことかと思ったが今の感じでは全く関係なさそうだ。
ばかばかしい・・・
と、足にかかる影に気付く。

「・・ああ・・・」
そこにはイザークがいた。
「面白いことにでも参加するのか?」
アスランは珍しく嫌味な言い方をする。
「俺はそんなことに興味があってきたんじゃない。この間の女・・どうした?」
「女?」
アスランは何のことだとイザークを睨み付ける。
「女ってカガリ・ユラってやつ?」
ディアッカは2人の間に立つ。仲裁というわけではないが、こういった役割は自分の役目だ。
ぴくんとアスランの指が反応する。

「記憶・・消したのか?」
「お前には関係ないだろ?」
「関係なくない。俺が見られたんだ。何かあってからじゃ遅いからな」
イザークはふっと鼻で笑う。
「気にした様子はなかったが・・・いつまで持つか・・」
「そうだぜアスラン、血を吸ったんならともかくお前やってないんだろ」
「血を吸えば完全に記憶は消える。だが、お前はそれをしなかった」
睨み付けるイザークにアスランは負けじと睨み返した。

「・・・・・関わったのか?」
「通りすがっただけだ。ま、記憶が戻ってたら俺がすぐに頂いたろうがな」
「・・・俺が決着をつける。お前らは手を出すな」
「お・・アスランかっこいいね〜」
ディアッカは茶化すように声をかける。
もちろんアスランはそんなディアッカに威圧の瞳を向けるが、ディアッカはなんだか楽しそうに笑っていた。

気持ち悪い・・・
アスランはそんなことを思いながら屋上から去っていこうとする。
「さっきの面白い話。お前が決着をつけるのにぴったりだと思うんだけどなー」
「なんだそれは?」
話にのってきたのはイザーク。
だが、アスランも出した足を止める。
「昨日そのカガリ・ユラが友達と話してるのを聞いたんだよ『夜の学校を探索する』って」
「昨日って・・俺と出たときか?」
「ああ」
俺は見かけただけだが・・・ん?ぶつかったか・・・
イザークはそんな話をしていたのかとディアッカから離れ近くの壁にもたれかかる。

「早くしないとやばい予感がするんだよな」
ディアッカは言いながら自分の首筋を指差す。
アスランはその行動に何を察したのか表情が変わる。
「記憶戻ってるかもしれないぜ」
ディアッカの差した首筋、それが本当なら記憶が戻っているのかもしれない。

首筋へのキスで記憶を封印する。
それは俺たちが持つ力の1つだ。
だが、効果は確実とはいえない、何かのきっかけでそれが解かれることもある。
「・・・いいだろう。その話にのろう」
アスランはしばらく考えた後、そう口を開いた。

なんの話だ・・・?
カガリは扉越しに3人の会話に耳を澄ませていた。
昨日・・頭に浮かんだあれは本当に私が見た記憶・・・なんだろうか・・・。
頭に浮かんだ光景。

イザーク・・・彼の手からは何かが零れ落ち下ではねる。
目でそれを追うがそれが何か分からない。
でも目が慣れてきてそれが赤い・・・ものだと分かった。
そして人・・。人?
イザークの足元には倒れた女生徒がいた。
だけどその瞬間後ろから声がして、振り向いて・・・私の意識は無くなっていた。

「・・あれは・・現実・・」
なんで忘れていたんだろう・・夢なわけないじゃないか。
こんなにも現実的に記憶はそれを教えている。
そして意識が戻ったときアスランが側にいた。
あれも夢・・・違う。夢なんかじゃない!
アスランはいたんだ。あのとき、あの場所に。
私の隣で眠っていた。
そして今、3人で話を・・

ぞっとカガリが体を震わせると誰かの足音が近づいてくることに気づく。
カガリは慌てて柱の影へと身を隠した。
扉から出てきたのはアスラン。
どうして・・・
カガリは去っていくアスランの姿を見つめる。
続いてイザーク、そして金色の髪を持った青年が出てくる。
この3人で話してたんだ・・・。
なぜか私の名前が出てきた。

そして『その話にのろう』アスランはそう言ったのだ。

日曜日に計画した夜の学校探索。
その日に・・私はどうなるんだろう?
それよりアスランは・・・・なんだ?
あの夜のイザークがアスランに重なる。
アスランもあんなことをしてるというのか?
ミリィの言った吸血鬼、それはもしかして・・・


カーン・・・
授業開始のベルが鳴り、カガリはなんだか落ち着かない気持ちで教室へと戻った。
そこには当然アスランがいる。
カガリは目を合わせないよう席へと向かった。

「カガリどこ行ってたの?」
キラに聞かれ、カガリは
「あ・・いや・・ちょっと・・・」
おどおどしながら答える。
だめだ、こんな話方してたらばれるかもしれない。
さっきの話を聞いていたことが・・・
カガリはなんとかいつも通りに笑おうとするが顔が引きつってしまう。
そして感じるアスランの視線。
意識しているせいだろうか?胃を焼くんじゃないかというぐらいの視線を感じる。
確かめたい。アスランは見ていない、意識が過剰になっているだけだ。
カガリはそう自分に言い聞かせる。
だがそれを否定するかのように刺す視線は消えない。

「・・っい・・た・・・」
カガリはそこにうずくまってしまう。
「カガリ!?」
キラはその小さな声に気づき席を立つ。
と同時に先生が前の扉から入ってくる。

「カガリ・・どうしたの?痛い?」
ミリィも駆け寄りカガリに声をかける。
「どうした?」
国語担当のバルトフェルドはざわつきに気づき人の集まっている場所へ歩く。
そこにはうずくまった少女。
「ユラか・・どしうした?保健室行くか?」
なんとものんきな声で声をかける。
キラはそんなバルトフェルドを睨み付けたが欠片も気づいてないようだ。
どうしよう・・・立たないと・・
だが、相変わらず痛い視線は投げつけられる。

「俺が保健室に連れて行きます」

体が震えた。
今の声は・・・アスラン。

「そうか、そうだな・・・」
バルトフェルドの返事にアスランはカガリに歩み寄る。
「立てるか?」
「・・・・・・・」

顔が見れない・・・でも黙ったままでいるわけには・・・

「・・っ大丈夫だ・・1人で・・いける・・・」
カガリはよろつきながら立ち上がる。
「カガリ、僕ついていくよ」
キラがそんなカガリの腕に手をかけるがアスランがそれを止める。
キラの手はカガリにかかる寸前で宙に止まった。
「日直だから」
アスランはそう言うとカガリの腕をつかみ歩き出した。

その速さにキラは一瞬あっけにとられるが付き添ってくれるなら・・・そう思った。
だがなんだか違和感を感じる。
アスランはそんなこと言うタイプだろうか?
今までだってカガリがいくら声をかけても面倒だという顔をしてたのに今回は自ら・・なんて・・・

ぽこっと頭に痛みを感じキラは上を見る。
「キラ・ヤマト授業を始めるぞ席につけ」
そこにはバルトフェルドの顔があった。
キラはすっきりしないまま席へとついた。



授業の始まった廊下は静けさに包まれていた。
カガリはアスランに引っ張られるまま廊下を歩く。

怖い・・・
別に今、何かをされたわけではないのだが恐怖心が心に住み着く。
さっきのも・・・これも夢だってことないよな・・・
ふっと気づくと向かう先が保健室ではないことに気づく。
保健室は下。だが、なぜか階段を上がっている。

「・・・・ア・・アスラン・・保健室は・・下だぞ?」
もしかして転校したてで分かってないのかもしれない・・・頭の片隅ではそう思うものの、心の大半が違うと言っている。

「さっきの話聞いてたんだろ」
鋭い痛みが胸を突き刺す。

・・・・気づかれてた・・・!?

カガリはうつむいていた顔を上げるが、すぐさま顔を伏せる。
心臓は痛いほど高鳴る。アスランに聞こえてしまうのではないかという程に。

足がすくむ・・・
だが、アスランはカガリの手を引っ張り歩き続ける。
「ど・・どこに行く気だっっ」
精一杯の抵抗。だが、アスランはそんなカガリをまったく気にせず歩き続ける。

カガリの脳裏に思い出された記憶が回る。
イザークが血まみれでいたこと。
倒れた少女。
そして・・・私の隣にいたアスラン・・・

え・・?

そこで記憶がふと止まる。
何でアスランは私の隣にいたんだ?
だって、私が見たのはイザークだけで、アスランはあの場にいなかった。
別にアスランがわざわざ私と顔を合わせる必要はないんじゃないか?
血を吸えば記憶は消える・・・そう話してた。でも、アスランは私の血を吸わなかった・・・どうして・・・?
なんだか急に疑問が湧き出てきてカガリはアスランを見上げた。
アスランは数段上の階段を上っている。
階段を登り終え、廊下を進んでいく。
カガリは相変わらずアスランに引っ張られるように進んでいるが、表情は先ほどとは違うものになっていた。


「・・・・生物室・・・」

ほとんど使われない教室。
アスランはその前で立ち止まると扉に手をかける。
だがこの教室は普段使われないため鍵がかかってるはずだった。
カガリはどうするつもりかとアスランを見ていたが扉は音を立て開いた。
と、その瞬間、体が何かによって引き込まれる。
「うわっっ・・・」
その勢いのまま中へと入っていく。
そして聞こえたのは扉の閉まる音。

「・・・ア・・アスラン・・・私・・お前に何かしたか?」
薄暗い部屋・・
カーテンが締め切ってあり、薄く太陽の光が差し込んでいる程度だ。
「したわけじゃない。見たんだろ?」
先ほどまで無表情だった顔に軽く笑みが浮かぶ。

「だけどあれはわざとじゃないし・・それに・・私にも何がなんだか分からないし・・」
小さく話しながらカガリは首筋にそっと触れる。
なんだろう・・・なんだか熱い・・・。
内から発せられる熱が体中に届く。

それと同時にアスランの視線が刺さり、カガリは先ほどと同じ刺すような視線にまた顔がこわばる。
「あの・・・私は・・」
どうなるのか?そんなことを聞いて答えてくれるのだろうか?
でもこれだけは分かる。
私は知ってはいけないことを知ってしまった。
「っっ」
右手に痛みが走る。

「もう少ししてから頂こうと思ったが・・・面倒なことになる前に頂くか・・」
アスランの呟きとも取れる声が聞こえてくる。

殺される!?
それがカガリの頭によぎる。
あの子はどうなったのだろう?あんなに血を出して大丈夫なはずがない!
カガリは体を反転させ扉に手をかけるがアスランの手によってその体は扉から離される。

「はなせっっ!!」
その感触にカガリは両手をばたつかせ反撃する。

・・放せといわれても放せるわけがないだろう・・

アスランは自分の手の中でばたばたと暴れるカガリを呆れた様に見ていた。
カガリは死ぬ思いで体をバタつかせているのだろうが、アスランからしたら体を揺さぶっているだけ・・に見える。
「別に殺すわけじゃない」
アスランの言葉にカガリはぴたりと動きを止める。
「でも・・あの時見た子は・・どう見ても・・・」
おそるおそると言ったほうがいいだろうか、カガリは乱れた髪をそのままにアスランをちらりと見る。

「あの時?・・ああ・・イザーク・・」
っと、アスランはしまったとばかりに口を閉ざした。
あまり話すべきではないからだ。
だが彼女の記憶は俺が奪う。ならば話してもいいような気もするが・・
「お前も・・あの時あの場所にいたのか?」
「俺は後から行ったんだ」
「アスラン・・・まさかお前もあんな・・」
「やめてくれ。俺はあんな汚いやり方はしない」
ぞっとしたように話すカガリに、アスランは顔を歪める。
いくら痕跡が消せるといってもあそこまでしたら後味が悪いだろう。
それにイザークはいつも飲みすぎだ。
今までのことを思い出したのかアスランはうんざりといった表情でため息をつく。

「でもお前・・吸血鬼なんだろ?」
「・・・・・・・・・・・」

アスランはカガリを見て固まった。
先ほどまで殺されると怯えていた少女はなぜか半興味深々な顔をしている。
「・・・お前は吸血鬼が何か知っているのか?」
「へ?・・あ・・いや・・血を吸って・・ニンニクが駄目で太陽が駄目で・・あれ?」
おかしいなアスランは太陽を浴びてるぞ?
カガリは首をかしげながらアスランを見ると辺りを見渡した。
「・・なんだ?」
「ん・・ニンニクないかと思って・・」
「・・・・・・・・・・・」
アスランはまた固まってしまった。
なんだこいつは?
初めからおかしなやつだとは思っていたが捕らえどころがない・・。
アスランはそんなカガリの行動をただ見ていた。

「・・・さっきまでの怯えはどうした・・」
そしてややあって口を開く。
「え?だって・・お前は私を殺すわけじゃないんだろ?」
「・・・まぁ・・そうだが・・」
「あの女の子も死んでないんだろ?」
「・・ああ・・」
あの少女は今日も学校に来ている。吸いすぎたせいか貧血はひどかったようだが・・・。

「だったら平気だ!アスランだからな!」
カガリはにぱっと笑うとそう言った。

答えになっていない・・・
相変わらずアスランは混乱していた。
どうしたものか・・・とりあえず記憶を消してしまえば問題ないか・・・。
そんなことを思い、アスランはカガリに近づく。
と、カガリの表情が変わる。
先ほどとは違い真剣な眼差しにアスランは思わず動きを止めてしまった。

「私の記憶を消すのか?」
あのときの会話はそういうことなのだろう。
秘密を知ってしまった私の記憶を消す。
アスランがそう望んでいるのなら・・・それは仕方ないのかもしれない。

「でも1つだけお願いがあるんだ」
カガリの瞳はまっすぐカガリを捕らえていた。




アスランは廊下の窓から外を眺めていた。

どうして・・・
どうして記憶を消さなかったのだろうか・・・
それは自分に問いかけても返ってこない言葉。
あのとき、カガリの琥珀の瞳が俺を捉えて・・伸ばそうとした手が止まってしまった。
吸えばいい。
そのつもりだったじゃないか。
それに面倒なことはごめんだ。
今やらないと後悔するのは自分だぞ?
そう何度も言い聞かせる。だが、なぜか体は動かなかった。

「・・・なんなんだ・・」
眉をひそめアスランはそう呟いた。



一方、生物室ではカガリがぼーっと突っ立っていた。
「・・・・・・・・」

『でも1つだけお願いがあるんだ』
私はそう言った。だって、せっかく同じクラスで友達になれたんだ。
どんな奴だろうと・・たとえ吸血鬼だとしても・・私はアスランはアスランだと思った。
だから言ったんだ。
『私が見たらいけないもの以外の記憶は残してくれ。せっかくアスランとの記憶があるんだから残しておきたいんだ』
そしたらアスランは驚いたような顔をして、そっと私の髪に触れたんだ。

優しく・・・・
初めてだった、あんなアスランを見たの・・・
私は驚いて・・・
しばらくするとアスランも驚いたような顔をして・・部屋を出て行った。


「・・・分からない・・・」
カガリも眉をひそめ呟いていた。






あとがき
このお話しの担当はさくらんぼでございます〜。
たぶん・・アテリズ様の想像とは違う方向に進んでしまったと思います(汗)
ですがそろそろ愛を・・愛を・・(笑)

次回はアテリズ様の担当でございます☆