塞いでいた手はすでに離され私を見つめるように笑みを浮かべるアスラン・・・
アスラン・・・
ん!?アスラン!?

「お前なんで・・・っっふぐっっ!!」
それに気付いたカガリは思わず大きな声を上げたがアスランは再びカガリの口を手で塞いだ。
カガリはもごもごとアスランの手の中、逃げるように体を動かした。
だがアスランは動くことなくカガリの口を押さえつけていた。



〜Episode 9〜




「・・・・・・ぷあっっ」
そして手が離されたのは2,3分経ってからだった。
「はぁ・・はぁ・・な・・何する・・んだ・・・」
肩を大きく揺らしながらカガリはアスランを睨み付けるがアスランはカガリではない何かを見ている。
「・・・・?」
カガリは眉間に皺を寄せたままアスランが見ている方へ向く。
それは先ほどまで自分がいた窓。
「・・・・・・・・・」
行ったか・・・
アスランは何かを確認するかのように窓を睨んでいたがカガリの視線に気付きはっと目を合わせる。

カガリはアスランを睨むように、不思議そうに見ていた。

「・・お前なんで・・ここにいるんだ?」

「じゃあ君は何でここにいるんだ?」
間髪いれずの返事にカガリは言葉を返せず「うっ・・」と黙り込む。

「・・・・吸血鬼・・・か・・・」

アスランの呟きにカガリはアスランを見上げた。
月の光に照らされたアスランを・・・なぜだか綺麗だと思いながら・・
「そうだ!お前こんなところにいたら駄目だ!みんなに見つかったら変な噂を立てられる」
変な噂?
とアスランは首を少しかしげる。

「君は俺をなんだと言った?」
「なんだ・・って・・・・」
「俺を吸血鬼だといっただろ?」
「・・・あ・・ああ・・・・」
「なら噂も何も事実じゃないか・・」
「でも・・おまえはっっ」
悪い奴じゃない・・・そう言おうとして・・言えなかった。

今のアスランはなんだか・・いつもと違う気がして・・・
なんだろう・・?
いつもの寄せ付けないオーラがない・・・

「いいことを教えてやるよ・・この学校には俺の仲間が2人いる」
2人・・・多分・・イザークと金の髪をもったあの人だ。
「そいつらも今、この学校内にいる」
「じゃあ・・さっきの影は・・・」
でも何のために・・・?
「ディアッカが聞いたんだよ、夜の探索をしようって言ってるのを・・だから俺たちも来たんだ」
「・・・来てどうするんだよ・・・」
「さぁ?」
「さあって・・お前もここに来たんだろ!」
「・・・・・・気になったからな・・・」
「・・何が・・?」

「イザークたちに先を取られるのは嫌だし・・・」
記憶を消されるのも・・・・嫌だった・・・。
のだと思う・・俺は・・・。

俺はあの時こいつの血を吸うのをためらった・・・血を吸うことではなく、記憶を消すことをためらったのだ。
それはなぜか・・・分からない、分からないが・・・

「それに俺が来なかったら今頃お前はやられてる」
アスランは妙な笑みを浮かべるとふっと肩で笑った。
「やられる・・・?」
「言ったろ、他の2人もいるって・・さっきそこにもいた」
アスランは言いながらあの窓辺を指差す。
「え・・じゃあお前・・・」
私を隠すためにあんなことを・・・?

カガリは驚いたようにアスランを見た。
アスランは変わらず笑みを浮かべているようだが・・どことなく・・
そのとき、カガリにある考えが浮かんだ。

「まさか・・・ミリィたちを・・・って・・・ことじゃないよな・・?」

カガリの表情を見ようとアスランは顔を上げるが逆光でよく見えない。

「ミリィたちに・・あんなことするんじゃ・・・ないよな・・?」
浮かんだのはあのときのイザークの姿・・そして倒れた少女。
その姿がミリィやラクス、フレイたちと重なる。


「・・俺はしない。あいつらは知らない・・・」
アスランは窓から見える月を見上げる。
「今日は満月だ・・・俺たちが1番活動的になる時・・」
「それって・・・・」
血を・・・

カガリはアスランを跳ね除けるようにして部屋から出ようとする。
「どこへ行く?」
冷静なアスランの声にカガリはカッと頭が熱くなるのを感じた。
「どこってっっミリィたちを助けるんだよ!!!あんな目に合わせられるわけないだろ!!!」
「だが俺たちはそれなしでは生きられない。それに死にはしないさ・・」
「それはっっ」
自分たちがご飯を食べるのと同じように・・それは分かった・・だけど・・でも・・・
「それとも君が犠牲になる・・・?」
「ぎせ・・い・・・?」
アスランの手が髪に触れ・・頬に触れる・・・
その手はぞくっとするほど冷たくて・・・怖かった。

「俺も・・ずいぶん吸ってないからな・・・」
なぜか吸うことが躊躇われ気を貰うだけになっていた。
だがどれも吸い込むだけで違和感を感じ、とてもじゃないが体に栄養を取り入れてるようには思えなかった。
受け入れられるのは・・・この子の気・・だけ・・・

「・・・そういえば・・・」
アスラン・・なんだか顔色が・・・
外の薄暗さのせいではない、アスランの顔色は確実に悪くなっていた。
「・・どうしたんだ・・・?お前・・・辛いのか・・?」
「辛い?」
アスランは髪をかき上げると近くの壁にもたれかかった。
「気分はいいよ・・・満月は俺たちに力をくれるからな・・・」
だが血を吸っていないせいか、体に力が入らない。
アスランはカガリの首筋に視線を移すがすぐにそれは逸らされる。
カガリはそれに気付いたのか、一瞬戸惑った顔をするがすっと自分の首筋に触れアスランに歩み寄る。

「・・・私のでいいのなら・・・吸ってくれ・・・」

・・・・自分から言う奴がどこにいる・・・
アスランは壁にもたれかかったまま苦笑する。
「1つ言っておく、俺がお前の血を吸ったらお前の記憶はなくなる。助けたいと思ってしたことかもしれないがその記憶もなくなるんだぞ」
「それでもいい!!!アスランをこのままにしておくよりよっぽどいい!!!」
カガリはそう言い切った。

アスランはそんなカガリを見て目を背ける。
「それに・・・俺は何度もお前の『気』を貰ってるんだ・・・」
なぜかは分からない後ろめたい気持ちがアスランに襲う。
「・・気・・?」
何だとカガリは眉をひそめるが決意は変わらないのだろう、その場から動くことはしなかった。

少し・・・目が揺らぐ・・・
本当に血を吸ったほうがいいのかもしれない・・・
アスランは数回瞬きすると目の前にいるカガリに手を伸ばす。
カガリは何の躊躇いもなくその手に向かった。
カガリの体がアスランに近づき、首筋はアスランに差し出すかのように姿を出した。
そしてカガリの瞳はそっと瞑られた。




満月に照らされ少し明るい廊下を2つの足音が進んでいく。
「まったく・・・どこに行ったのかしら・・・」
ミリィはご立腹な顔でぺたぺたと廊下を歩く。

「ミリィ、そいつら放っておいて俺といればいいじゃん」
「何であんたといなきゃいけないのよ」
即答されディアッカははぁ・・とため息をつく。
どっか部屋に誘い込んで頂こうかと思ったけどここでもいっかな・・・
腹減ったし・・・
ディアッカは頭の後ろで腕を組みミリィと並んで歩いていたが少しずつスピードを落としミリィより後ろに下がる。
ミリィはそれに気付くことなく辺りを見回すように進んでいた。

ミリィの後ろからすっと手が伸びようとしたそのとき、
「あ!ミリィ!!!」
フレイの声がそこに響いた。

「フレイ〜〜!!!」
ミリィは駆け寄るようにフレイに向かった。
「もう!なにやってるのよ。みんな走り出しちゃって・・・」
「それはこっちの・・・・あれ?フレイだけ?」
「そうよ。キラとカガリと・・・だれだっけ・・?」
「ラクス」
「そうそう、まぁ・・3人は一緒じゃないの?」
「・・ならいいけど・・・全員がばらばらじゃあ捜すの大変だしね」
「そうよね・・・って・・・・誰?」
フレイはいまさらながらに気付いたのかミリィの後ろにいるディアッカを指差した。
「え?・・ああ・・なんか忘れ物取りに来たんだってたまたま会ったから一緒に捜して貰ったの」
ミリィがディアッカを指差しながら言うとディアッカは苦笑しながら片手を挙げた。
「ミリィも怖かったんだぁ〜」
「そりゃそうよ!1人だとさすがに怖くもなるわよ」


まったく・・・いい所で来やがるよなぁ・・・
と・・そのときフレイの後ろにいる何かを感じる。

ま・・いただけるのに変わりはなさそうだし・・・
ディアッカは口元を上げ、フレイの後ろに目配せした。

「じゃあ頂きますか」
ディアッカのその声にフレイとミリィは「え・・?」と声を上げた。
向かい合っていた2人の距離が遠ざかる。

「な・・・に・・・」
小さくそう呟いたとき、フレイに見えたのは月の光によって金にも見えるような綺麗なシルバーの髪・・・
そして視線をミリィに向けるとミリィは・・・
「ミリィ・・・っっ」
ミリィも誰かによって・・・

「いやっっ」

その声は静寂を保っていた廊下に響いた。




「・・・はぁ・・・ラクス大丈夫・・?」
キラは繋いだ手をそのままにラクスに向いた。
すでに校舎から少し遠ざかった位置まで2人は来ていた。
月明かりによってそこはかなりの明るさを保っていた。

「・・・私は大丈夫ですが、皆さんとはぐれてしまいましたわ」
「え!?」
キラはラクスの言葉に慌てて周りを見回す。
そこにはカガリの姿もミリィの姿もなかった。
「あれ??」
カガリの手に触れた感覚はあったのに・・・
キラは左手を見つめるがもちろんそこにカガリの姿があるわけもなく懐中電灯が握られていた。

「戻りましょう?」
「・・・でも・・・中に入ったら入ったですれ違いそうじゃない?」
「・・そうですわねぇ・・・」
2人はどうしたものかと唸る。

と、校舎を見上げると何かが瞳に映る。
「・・人影・・・?」
小さくてよく見えないが黒い影が1つ・・・2つ・・・?
「ミリィさんたちでしょうか?」
そしてその影は姿を消す。
「・・とにかくあそこに行く?」
「そうですわね・・・気になりますし・・・」
2人は手を繋ぎ校舎に戻っていった。




月明かりによって閉じた瞳もかすかな光を感じる。
緊張してるからか?すごく時間が長く感じる。
いくならさっさといって欲しいんだけど・・・
・・・・・・・・・ほんとに・・こんなに溜がいるんだろうか?
もしかしたら痛くはないのかな?
でも血を吸うんだから痛くないわけないよな?
血が出たら・・普通痛いもんだし・・・。

シャッ・・・
その音が聞こえ、カガリは恐る恐る瞳を開いた。
そこにはいるはずの人がいない・・・
「あれ・・・?」
カガリはぱちくりと目を丸くすると顔を上げた。

「・・アスラン・・・?」
アスランは窓のカーテンを少し閉め、外の様子を見ているようだった。
カガリは自分の首筋に触れるがそこは先ほどと何の変わりもない。

「いらない・・・」
「いらないって・・・・お前具合悪いんだろ?」
カガリは慌ててアスランの横に立つ。

「・・君の記憶を消したくないんだ・・・」
俺といた時間、1秒たりとも消したくはない・・・覚えていて欲しい・・・

「・・・・え・・・?」
アスランは振り向き、なんだか悲しそうな笑みを浮かべる。
そんなアスランにカガリは思わず胸が跳ねてしまった。

「でも・・顔色が本当に・・・」
カガリはそんな自分を抑えながらアスランの頬に手を添えようと手を伸ばす。
本当に顔色が悪い・・血が通っていないみたいに・・・

その手はアスランに掴まれそのままカガリの体はアスランによって抱きしめられていた。
「ア・・アスラ・・・」
「こうしてると少しは楽だ・・・」
アスランの声が優しい・・・
カガリは跳ね除けることもせず、アスランの冷たさと暖かさをそのまま感じる。

満月のせいなのだろうか?
俺がこんなことを言うなんて・・・
アスランはカガリの髪に鼻を埋め、その香りに酔いしれる。

「『気』・・・だけでももらっていいかな・・?」
「・・・・ああ・・もちろんだ・・・」

それが何かなどカガリには分からなかった。
ただ分かるのはアスランの胸の中に自分がいること。
アスランが私をやさしく抱きしめてくれていること。
私はそれが嫌ではない事・・・・

アスランの体が離れ、琥珀の瞳と翡翠の瞳が交じり合う。
あ・・これ・・・前にも・・・いや・・何度も感じたことがある・・・

私・・このまま意識をうしな・・・

失ったのではなく、それは感覚として現れた。
アスランの唇がカガリの唇と重なったのだ。

「あ・・・・・・」
思わずカガリの口からは声が上がるがそれはくぐもっていて口から漏れる程度だった。

口付けを交わした2人を満月が優しく包んでいた。




キラは恐る恐る階段を登る。
「ここ・・だったよね・・・?」
キラはそう言って廊下に足を踏み入れる。

「・・っミリィさん!フレイさん!!」
そのときラクスの声が廊下に響き、キラの横をラクスが走り抜けた。

「!?」
キラもミリィとフレイが廊下に倒れていることに気付き、慌てて駆け寄る。
「ミリィさん!」
「フレイ!!」
2人の呼びかけにどちらも反応がない。
「まさか・・・」
いやな予感が頭をめぐるが「大丈夫です・・」と、ラクスが2人の呼吸を確認し言った。

「・・・カガリは・・・?」
「一緒ではないようですわね・・・」
キラは辺りを見回すがそこにカガリの姿はなかった。

「・・・ん・・・っっ」
声が聞こえラクスはミリィを見ると、ミリィの瞼が動くのが見えた。
「ミリィさん!!」
「え・・・?」
そしてその瞳が開かれた。

「あれ・・・私・・・どうしたの・・?」
「それはこっちが聞きたいよ!!どうしたの!」
キラは間の抜けたことを言うミリィに怒った口調で返した。
「みんなと離れて・・・ん・・っと・・どうしたのかしら・・?」
「んー・・・?」
そしてフレイの声も廊下に響いた。
「フレイさん大丈夫ですか?」
「何が?」
フレイは自分が倒れていたことなどまったく知らない様子で気持ちよさそうに伸びをした。

「・・・・・・」
キラとラクスは不審そうに顔を見合わせながらも何もなかったのだろうと肩を下ろした。
「あとはカガリさんですわね」
「そうだね・・・」

そこにいた誰も気付かなかった。
ミリィとフレイの首筋にある小さな傷跡に・・・




「すーすー・・」
カガリは椅子に腰掛け、机にうつ伏せた状態で気持ちよさそうに寝息を立てている。

少しは・・楽になった・・・本当に・・・
アスランはそんなカガリの姿を見て微笑むとそっと自分の胸に手を当てる。

「・・・『気』だけで生きていければ・・・」
このままでいられるのに・・・

複数の足音が聞こえ、アスランは名残惜しそうにカガリを見たがその場を後にした。



「少ししか吸えなかったな・・」
イザークは悔しそうに舌打ちをする。
「どうせなら4人みんな頂いちゃえばよかった・・・おっと・・1人は男か・・」
「でもまあ・・最近はたくさんありつけてるからまぁ・・いいだろう・・」

その声がどこからか聞こえ、アスランは眉をひそめる。

俺たちが生きるため・・そのために必要なことだとしても、俺は何も考えずそれをすることができなくなった。


君に逢ってから俺は変わったんだ・・・。






あとがき
ラブラブなところを出したかったのです!
やはりアスカガ愛ですからね!
いやぁ・・・アスラン実はカガリにメロメロでございます。

次回はアテリズ様の担当でございます☆