目が覚めるとそこには驚いたようなうれしそうな男の人の顔。

誰だろう・・・

ただ、その顔はすぐに凍りついた。

そして悲しそうに私を見つめる。

私はこの人に何かしただろうか?

覚えていない。

でも、この人は私を知っているみたいだった。



時の砂〜2




「アスラン大丈夫?」
じゃないよね・・・と、キラは横に座る。

カガリが目覚めると、すぐに先生が入ってきた。
自分の名前、今代表であること、家族。
すべて覚えていた。

アスランのこと以外。

「先生が言うには頭を打ったときの後遺症だろうって・・・」

「治るのか?」

「分からない。治る場合もあるし・・治らない場合も・・・」
キラは口を濁す。
アスランにとってこんなに辛いことはない。
愛した人が自分のことを覚えていないのだ。

それは自分の存在を否定するだけでなく、2人の時間もなかったことになる。
「すまない・・・カガリが意識を取り戻したことはうれしいんだ・・・でも・・喜べない」

正直な気持ちだ。

「怪我も順調に治っていますし、意識もしっかりしています。もう、大丈夫ですよ」
先生が病室から出てくるとそう言った。

大丈夫。
何が大丈夫なのだろう・・・
そう思っている俺をキラが病室に入るよう促す。
入りたくない。
カガリは笑顔で俺を迎えてはくれないのだから・・・
拒むように体に力を入れた。

「分かるけど・・・でも、カガリにとってアスランは大事な人なんだ・・このままって訳にはいかないでしょ」

記憶が戻る可能性もある。
分かっているが、先ほどのような瞳を向けられるのかと思うと足が動かないのだ。

「キラー!」
病室からカガリの声がする。
「はいはい」
キラは慌てたように病室の扉を開けた。
そこから見えたカガリは日差しを受けて、キラキラと輝いていた。

「わっなに起き上がってるの!」
「だって、そんなに体痛くないぞ?ほとんど治ってるんじゃないのか?」
「いいから!」
そんなカガリをキラはベットに倒す。
むうっとカガリはふくれた。

チラリ・・とカガリと目が合った。
俺は動けない。

「お前・・・に私、何かしたんだろうか?」

「は?」
アスランに向けていった言葉にキラは声を上げる。

「なんか辛そうな顔するから・・この怪我と関係あるのか?」

困ったように言う彼女。
その中には心配そうな声色も含まれていた。

変わらない。
俺を知らないだけで、カガリは変わっていない。
アスランは少しほっとした。


「いや、何もしてないよ。すまない、気にしちゃったな・・」
「そうか・・?」
カガリは少し納得のいかない顔をした。
「俺はアスラン・ザラ、オーブ軍で働いています」
「そうか!オーブで」
「代表とはあまり面識がなかったのですが、事故の現場に居合わせまして」
「事故・・・ああ・・・銃撃事件か・・・」
犠牲になった人のことを思うとカガリは胸が痛んだ。

「では、仕事がありますのでこれで失礼します」
ぺこりと挨拶をするとアスランは歩き出す。
「え?ア、アスラン!?」
キラは驚いたようにアスランを呼び止めるが、そのまま部屋を出て行ってしまった。

「キラはえっと、アスランのことよく知ってるのか?」
キラの顔が歪む。
何を話せばいいのだろう・・・何も分からないのに、どこまで言ったらいい?
言ったらカガリはどうなるんだろう・・・

「軍で・・・よく会ってるから・・」
「ふーん」
これが精一杯。


「で、私はいつから復帰できる?明日か?」
「え!?」
「代表が不在だと大変だろ。はやく戻らないと」

「カガリ・・・君は大怪我をしたんだよ、分かってる?」
呆れたカガリの発言にキラはため息をつく。

「キラも分かってるだろ、私がじっとしてられる性格じゃないって」

「確かに・・・」
それは事実だ。
ダメだといっても元気だったらこっそり抜け出しそうな予感さえする。
「先生に聞いてみるから、無茶はしないでよ」
「了解!」




代表の復帰はそれから1週間後だった。
怪我は完治してないが、カガリのストレスが限界だった為、許可したのだ。

あれから1週間、俺はカガリに会っていなかった。

「アスラン、今日からだよ」
「まだ早くないか?」
「まあね、でもカガリだから・・」
キラは笑う。
俺は笑えてるだろうか?

決意したのはカガリと挨拶したあの時。
俺と君の関係を教えたとしたら君は悩み苦しむだろう。
2年間、ボディーガードとして君の側につき、戦争が始まり、やっと・・やっと掴んだ俺たちの関係は
やはり厳しいものだった。
だが、それでも俺たちは同じ夢に向かって進んでいるんだ。

でも、今のカガリにはその過程がない。
ならば俺とは恋人同士だと言われても苦しむだけではないか?
代表とだたの兵士が恋をしている。

その関係にしか映らないのだから・・

「アスラン、僕は君が正しいのか分からないんだ」
キラは俯いたまま続けた。
「カガリのことを考えてるのは分かるけど、でも・・・」

「別に想いがなくなったわけじゃない。これからカガリと始めればいいんだ・・」
言っておきながらそれはとてつもなく厳しいことだと分かっている。

「先生言ってたよ・・・想い過ぎて考えすぎて記憶が抜けちゃうこともあるって・・・」
「想い過ぎて・・・・か・・」
それなら俺はカガリのことすべて忘れてそうだ。
ありえないながらもアスランはそんなことを思った。



「今日からか〜!」
部屋にカガリの声が響く。
病院からアスハ邸には昨日帰ってきた。

「もっとゆっくりなされば宜しいのに」と、マーナはかなり怒っていたが、
私は代表としても人間としてもじっとしていられる性格ではない。
マーナもそれを知っているのでしぶしぶ仕事復帰を許したのだ。

カガリは小豆色の服に袖を通す。
ふと目に付く小さな宝石箱。

「・・・私って宝石とか買ったっけ?」
たまにドレスになるときに装飾品はつけるが、それを自分の部屋に置く事はしたことがない。
投げ捨てるようにして転がすこともあるぐらいだ。
なのに、机の上にあるそれは大事そうにちょこんと置かれていた。

ゆっくりとそれを手にすると蓋を開ける。
するとそこには可愛らしい赤い石のついた指輪。

「・・・・・?」
覚えがない。

マーナに渡そうか・・・でも・・・
ここに置いてたほうがいい気がする・・・
カガリは疑問に思いながらもそれをもとあった場所に戻し、部屋を出た。




「あはようございます!」
「おはよう」
「代表おはようごいます」
「おはよう」

みんながうれしそうに声をかけてくれる。
久々に見た代表をみんなうれしく思っていたのだ。
いなかった2週間は軍にとっては大きなものだった。
だが、復帰できたいま、2週間分以上の働きをすればいいのだ。

執務室に着くと、カガリは椅子に腰掛け、山になった書類を見上げる。

「カ・・代表、宜しいですか」
そのとき、ノックと共に声がかかる。
「キラか?」
「はい」
扉が開くとにっこり微笑んだキラの姿があった。
その隣には見たことのある髪色・・確か・・

「失礼します」
アスランだ。

「体は大丈夫?」
「ばっちり!私は丈夫だけが取り柄だからな」
カガリは偉そうに胸を叩く。
「そんなことないよ」
そんなカガリをキラは笑う。
「で、どうした?」

「さっそくで悪いんだけど、プラントとの国交について意見を求めたくてさ」
「分かった。で?」
キラはアスランに視線を移す、と、カガリもそちらを向いた。

「最近、オーブとプラントでは人の行き来も多くなってるんだが、移住者はなかなかいないのが現状です。
やはりお互いのわだかまりを取る為には同じものを見て暮らすことも必要だと・・・」
アスランはカガリの視線に気づく。
カガリの視線は、どうも・・話の内容についてではない気がした。

「・・どうかなさいましたか?」

「なあ、何で私はお前のこと知らないんだ?」

記憶喪失・・・ということは言ってないが、なにか話の方向が違う。

「どうして、カガリ?」
「だって、キラと一緒にいて、この部屋に入れる。だったら今まで会っててもおかしくないだろ?」
いくら自分が誰とでも話をするといっても、ある程度の権威がないとこの部屋までは入って来れない。
それ以前にこの周辺にも入れない。
なのにアスランは当たり前の顔をしてここにいる。
なぜ、自分は彼を知らなかったんだろう?

「あー・・・・」
キラは困ったように苦笑いをする。
「視察に行くことが多くてあまりここにはいなかったんです。先日戻ってきたばかりで・・」
苦笑いをするキラを横目にアスランが答えた。
「そうか・・・」

気持ち悪い。
キラはそう思った。
記憶がなくなる前は、確かに公私混同しないよう生活はしていたが、この空気はなんだろう。

アスランは無理してるのが丸分かり。
カガリはどうもすっきりしない表情ばかりをしている。
こんな関係が続くのならカガリに打ち明けた方がお互い楽なのではないかと思うぐらいだ。

「あ、悪い。この後閣議なんだ、後でもいいか?」
「あ、そうなんだ」
「悪い」
カガリは時計を見ながら席を立つ。

「代表、お願いがあります」
そんなカガリにアスランが声をかけた。
「・・なんだ?」

「今後、この建物から出る時は必ず私かキラを付けてください」
「・・・・・・」
カガリは何でそんなことしなきゃならないとばかりにアスランを睨みつけた。

「そうだよ。どんなに大事な用があってもこれからは僕かアスランがつくからね!」
キラもそれに賛成する。

「大丈夫だよ。それにお前らだって仕事」
「仕事よりあなたの身の方が大事です」
さらりと言うアスランにカガリは押し黙る。
「・・・わかったよ・・・」

良かった・・・
アスランはほっとした。
断られても付くつもりではいたが、やはり・・・拒絶されるのは辛い。


こんな気持ちのまま毎日が過ぎていくのだろうか・・・
以前の自分を思い出す。
ボディーガードとしてカガリとは距離を取った生活をしていたあの頃。
苦しかったが、それでも忘れられるよりはずいぶんとマシだった。



あとがき
私の小説はすべてアス→カガ要素が強いですよね。
嫉妬アスランとか大好きだから〜☆☆☆