「まあ、そんな状態が続いてますの?」
「うん。あれから3週間、見事に代表と兵士だね」
カガリとアスラン、よく話す姿は見かけるが、やはりアスランの表情は硬い。

「このままでいいわけありませんわよね」
「僕もそう思うんだけど、アスランって頑固だからね」

「それにしても記憶は戻らないのですね」
日常生活には全く持って支障がない。
しかし、なぜアスランのことだけ忘れてしまったのだろう・・・

「定期的に検診は受けて、異常はないんだけどね
ただ・・思うことがあるんだ」
「なんですの?」
内緒だよっとキラは人差し指を口元に当てる。

「カガリ、アスランのこと気にしてるみたい。誰だろうとかじゃなくて、男性としてね」



時の砂〜3




「今日は私がついていきます」
今日はあの事件があってから始めての視察の日。

沿岸部の復興状況を見に行くのだ。
それにアスランが同行するらしい。

「よし」
カガリは数枚あった書類に判を押すと行くぞっと立ち上がった。



車を走らせること数十分。
景色は真っ青な海に変わった。

「気持ちいい!」
カガリは窓を開け叫んでいた。
「あんまり乗りだすな・・出さないで下さい。危ないですから」
隣に座っていたアスランが声をかける。

カガリはアスランを見るとむっとした顔になる。

「何でお前・・敬語と普通の言葉が混ざるんだ?」

突っ込みたかった。
アスランは話し方というか、友達のように話しているときもあれば、敬語で話すときもある。
しかも今のように、間違えたとばかりに訂正することもしばしば。

「・・・・・」
アスランは困ったように眉を下げる。
「それなら敬語やめて普通に話せよ。そのほうがスッキリするだろ」
「いえ、そういうわけには・・・」

「いいからそうしろって!命令だ!」
顔を真っ赤にして怒るカガリ。
そんなカガリが可愛くて俺は思わず・・・

そっと、カガリの頬に手を添えてしまったんだ。

カガリは驚いたように俺を見た。
でも、俺は可愛くて、愛しくてカガリを見つめていた。
「なっなんだよ・・お前・・変なやつだなっっ」
恥ずかしかったのか、カガリは顔を背けた。

それからは沈黙の時間が続いた。
こんなに近くにいるのに、あんなに想いは重なっていたのに・・・
アスランを苦しい想いがのしかかる。

このままでいようと決めたのは自分。
でも、それが本当に正しかったのか疑問を感じ始めた。



目的地に着くと、まずアスランが車を降りる。
カガリの元へ行き、車のドアを開けた。

海風で散らばる蜜色の髪。
本当ならあの髪にキスすることも触れることも簡単にできるのに・・・
アスランの心をそんな考えが通り過ぎる。


「今度こそ!!!」

その時、男の声が響きわたる。
アスランはその声に何かを考える間もなく、今、車から降りたばかりのカガリを抱きしめた。

銃声が響く。
カガリはいきなり覆いかぶさった黒い影に目を瞬かせた。
と、体が浮いたように感じると、見えたのはグリーンの瞳。

アスラン・・・

更に銃声は響き渡る。

「アスラ・・・ダメだ・・っっお前が撃たれる!早くっっ」
カガリは慌てて言葉を発する。
この状態はアスランが自分を庇っているということだ。
アスランが私の盾になっている。

アスランは銃撃とは逆方向に走り、車の陰に隠れた。
そこから見えた運転手は胸を打たれ、息絶えていた。

「くそっっ」
「アスラン!!」
カガリは抱きしめられていた腕の力が緩んだ為、胸から顔を起こしアスランを見た。

「・・大丈夫だ・・」

そんなカガリに気づき微笑むアスラン。

安心させるような微笑。
なんだろう・・・・どこかで・・・・私・・・

アスランは胸に隠してあったホルダーから銃を抜き取った。
「ここにいろ、絶対でてくるなよ・・・」
敵を見据えカガリに言う。

「い・・いやだ・・・だって、アスランが・・」
「俺は大丈夫だ。ここにいろ」
「でも・・・」
アスランは強いから大丈夫だとキラに言われていた、でも・・・
カガリはアスランの腰をぎゅっと掴んだ。
「カガリ・・・」
アスランはそんなカガリに驚く。
しかし、また銃声が響く。

「俺を信じて・・・」
アスランはカガリを優しく包むと囁いた。

「・・・・ああ・・・」

信じられる。
アスランは戻ってくる・・・・

カガリはぎゅっと瞳を閉じる。
それを確認したアスランは車の影から走り出た。




「前の奴らと一緒みたいだね」
連絡を受けたキラや兵士たちがアスランたちの元へとやってきた。

「今度こそ、そう言ったんだ」
「前の銃撃事件では犯人側4人の死体が見つかった。
みんな銃で亡くなっていたのだが、自殺というわけではなかった。
多分、首謀者、リーダーの男が口封じに殺したのだろう。
「で、こいつがリーダーか・・・」
「だろうね」
アスランとキラは下に倒れている男を見る。

男はアスランに両腕と片足を撃たれた後、銃口を自分に向け発砲したのだ。


そんなに私が憎いのだろうか・・・
カガリは車のシートに体を預け考えていた。
私を殺せなかったら死ぬほど・・・
でも、私はこの道を進まねばならない。
決めたんだ、ならやりとおす。

「カガリ・・大丈夫か?」
「え?ああ・・」
窓からアスランが覗き込む。
「お前こそ大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。キラたちがあとはしてくれる。カガリはアスハ邸に戻ろう」
「いいのか?」
「いても何もできないだろ?」
優しく微笑むアスラン。
「その通りだ」
頷くしかないカガリ。




「まあ、まぁ、お嬢様大丈夫ですか!」
マーナはカガリの姿を見ると飛び出してきた。
「ああ、心配かけたなマーナ」
「お怪我がないのならよろしいのですが・・」

「アスラン、お茶ぐらい飲んでいけよ」
「いや、いいよ」
「アスラン様お久しぶりです。お嬢様を助けてくださったのでしょう、ありがとうございました」
お久しぶりです、といわれアスランは焦る。
カガリに目をやるが気づいてないらしく、部屋へと向かっていた。

「早く!」
「では、少しだけ・・」
カガリの呼ぶ声に断りきれないアスランは中へと入っていった。

キラがカガリの記憶喪失のことは俺たちだけの秘密にしようということになった。
ほかに知っているのはエリカさんやキサカさんぐらいだ。
悲しいことに、隠していても仕事に支障は全くなかった。


「ほら、入れよ」
カガリが指差したのは・・懐かしいカガリの部屋。
っていうか・・・・

「カガリ!入れるわけないだろ!!」
俺は今、君の恋人でもなんでもないんだ。
それなのに自分の部屋に入れるっていうのは・・・
ほ・・他のやつでもそうするのだろうか・・・?

「お前だからだ!」

そう言い残し、カガリは下へと降りて言った。

どういう意味だろう・・・
俺だから入っていい・・?
アスランは疑問を感じながらもゆっくりと部屋のドアを開けた。

懐かしい空気が体にかかる。
何度この部屋に入っただろう・・・
忙しいカガリはいつも机に向かってたっけな・・・

そっと机に手をやる。
するとそこには小さな箱。
「宝石・・入れ?」
アスランはそれを手に取った。

・・・いけないとは思いつつもそっとそれを開ける。

「これ・・・・・・」
赤い石のついた指輪。
忘れるわけがない、俺がカガリにあげたものだ。

戦後、カガリはこの指輪を嵌めることはなかった。
いや、正確に言うと、代表としての時間では嵌めなかった。
だが、たまの休みには必ず付けてくれていた。
それがうれしくて、何度彼女を抱きしめただろう・・・

「それ・・・知ってるのか?」
後ろから聞こえてきた声にアスランは慌てて箱を閉じる。
カガリは紅茶をトレーにのせ持ってきていた。

「あ・・・いや・・・」
「私、宝石とか興味ないんだ。でも大事そうにそれが置いてあってさ・・マーナに渡そうかと思ったんだけど・・」
アスランの表情が曇る。
「できなかった・・・」
「・・・どうして・・?」
「分からない。でも、大事なものな気がするんだ」

カガリ・・・

「なぁ、私、何か大事なことを忘れてるんじゃないのか?」
「え?」

「たとえば・・・お前のこととか・・・・」
アスランは思わず体が反応してしまった。

「やっぱり・・」
アスランを見て当たっていたとカガリはふんっと鼻を鳴らした。

「座れよ」
「・・・」
どうしたものかと思ったが、とりあえずカガリに言われるまま席につく。
カガリは紅茶をアスランの前に差し出した。

「だって、お前おかしいもんな。敬語とか、気づいたら私のことカガリって呼んでるし」

・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・・・・?
そういえばカガリって呼んでたっけ・・?
ああ、銃撃があって・・・ちょっと慌ててというか、混乱してて・・・

カガリはアスランをジーと見る。
「それにマーナがお久しぶりですって言っただろ」

気づいてたのか・・・・

アスランは自分で決めておいたのに自分でばらすようなことをしていた事実が恥ずかしく、頬を染めた。

「実は・・・その・・・」
これ以上隠したところであまり意味がないと踏んだアスランはカガリに真実を話そうとした。

「私、お前のこと好きなのか!?」
が、カガリからすごい言葉が出てきた。

「・・・え?・・・あ・・・その・・・」
「だって、お前のことなんでか目で追っちゃうし、その・・・さっき庇ってもらったときの
胸の・・・温かさというか・・なんていうか・・・懐かしいって言うか・・・安心するって言うか・・・」
カガリは何が言いたいのか自分でもよく分かっていなかった。

でも、どうも自分がアスランのことを気にしてるらしい。
それだけは分かった。
そして指輪を見ていたアスラン・・・

「実は・・・カガリ・・俺のことだけ忘れてるみたいで・・・俺たちは・・恋人・・なんだ」

恋人

恋人

恋人!?

カガリは一気に顔を真っ赤にした。

自分でもそんな感じのことを言っておいていまさら恥ずかしがるのもどうかと思うが、
恋人ということはつまり・・

私とアスランが・・そういう関係であって・・・

「どっどうして隠してたんだよ!!!」
恥ずかしさからかカガリは叫ぶようにして聞いた。

「・・・・・・・・苦しめたくなかったんだ・・・・」
しかし、アスランは反対に落ち着いたように話す。

そんなアスランにカガリは落ち着きを取り戻した。

「今の君に言っても分からないかもしれないけど、俺たちの関係は少し複雑で・・・複雑って言っても
想い合ってたのは事実だ。でも、お互い幼かったんだろうな・・・現実が見えてなかったんだ・・・
だけど、違う場所で違うものを見て、それでも俺たちの想いは同じだったんだ・・・
そして今の俺たちがあった。
でも、今の君はそれを知らない。知らないのに結果だけ聞いて・・納得できないだろうし、
悩むだろうって思ったんだ・・・」

「・・・・アスラン・・・・」

「どっちにしても悩むんなら言った方がよかったな・・」
アスランは笑う。
「だけど・・・本当は・・・言って拒絶されるのが辛かったのかもしれない・・・
俺には君がいることが生きている大前提なんだ・・・カガリが俺を見てくれて俺も君を見続ける・・
そうでなければ俺は・・・生きる術を無くしてしまうんだ・・・」

アスランはそう言って笑う。笑って見せているだけなのだろう・・・
そうさせてるのは私なんだ・・・
どれほど私のことを大事に思っているのか・・・伝わってくる・・
なのに私は・・・

カガリはばんっと椅子を倒し席を立つ。

「・・カガリ・・・?」

「待ってろアスラン!私はお前を思い出す!!」

そう言うと、扉を壊す勢いで開け、出て行った。

「おい・・待って!何をする気だ!?」
カガリの異常なまでの勢いにアスランは嫌な予感を感じ走り出した。

「カガリ様〜!!!!」
そのとき、マーナの叫び声がアスハ邸に響いた。



あとがき
カガリが行動を起こしました(笑)
さてどうなるのでしょう??