〜あすらん先生とカガリちゃん〜

俺は保父さんという仕事をしている。 保育園でたくさんの園児に囲まれながら半ば強制的に攻撃を受けていた。 「わーい。あすらんもっと高く〜」 金色の髪を輝かせながら少女はアスランの肩の上で両手を離す。 「こらっっカガリ・・あぶないっ!」 アスランはカガリの両足をしっかり持つとぐらぐらと揺れるカガリの動きに合わせてあたふたとしていた。 と、その下ではゲシゲシと俺の足に攻撃を仕掛けるガキが・・・ 「おりゃっ」 「シン〜〜〜」 アスランはぐらぐらと揺れながらシンを睨みつける。 「べーだ!」 手を離せないのをいいことにシンは思いっきり足にけりを入れた。 「いて!!」 そしてそのままどこかへ走り去る。 「まったく・・毎日毎日・・・」 シン・アスカ。 アスランの受け持ちではないさくら組の子なのだが、なぜかアスランを目の敵にしていた。 毎日毎日攻撃は続き、そして過激化している気がする。 アスランは軽くため息をつくと、いまだうれしそうに空に手を伸ばしているカガリを見る。 「そろそろいいか?」 「ああ。楽しかったぞ。ありがとなあすらん」 あすらん。 こんな小さな子に呼びつけにされるのもいかがなものだろう・・・ そんなことを思いながらも子供だからか・・と納得し、カガリをゆっくりと下ろす。 そんな感じで俺の毎日は過ぎていた。 そしてある日・・・ 「カガリどうしたんだ!?」 あすらんの目の先には瞳にたんまりと涙をためたカガリ。 服もよれよれだし、擦り傷まである。 アスランはカガリに駆け寄ると体の傷を確かめる。 「どこかから落ちたのか?それとも誰かに何かされたのか?」 しかしカガリは黙ったまま何も答えない。 「言わないと分からないだろ?」 いつもは聞かなくても話すのにこういうときは黙り込んでしまう。 アスランはカガリのこれからの成長を思い心配に感じる。 「カガリ・・・」 なるべく優しく語り掛ける。 言葉に秘められた思いを察したのか、カガリがゆっくりと顔を上げる。 「だ・・・だって・・・」 口から言葉を出したと同時に瞳から涙が零れ落ちた。 アスランはそれをやさしく指でぬぐう。 「うん」 「シ・・・シンが・・・」 シン? シンってあのくそガキか? 「シンにいじめられたのか!?」 思わず声を荒げる。 が、すぐにしまったと口をとじ、小さく「ごめん」と呟いた。 「だって・・・悪いこと・・言うんだ・・」 「悪いこと・・?」 「う・・・う・・うわぁぁぁぁぁぁん」 そこまで言うとカガリは大声で泣き始めた。 アスランはどうしていいのか分からずあたふたと手を動かす。 「えっと・・・誰が悪いこと言ったんだ?あ・・シンか・・それで・・なにを・・」 こんな状態のカガリに聞いても答えてくれそうにないものの、それ以外に自分にできることが思いつかず アスランは詰まりながら言葉を繋いだ。 「うあぁぁぁぁぁぁぁん」 しかし返ってくるのはカガリの泣き声だけ。 上を向いてぼろぼろと涙を零す。 「とりあえず・・手当てしよう?な?」 カガリの頬には痛々しい擦り傷がある。 それが目に入ったアスランは理由よりもこちらが先だと気づいた。 アスランはカガリの手を握ると歩き出そうとするが、カガリの足は動く気配がない。 「・・・・・・」 アスランはそんなカガリを見てしゃがみこむと目線をカガリに合わせた。 「カガリ、まずは傷の手当をしよう。ばい菌が入ったらよけい痛くなっちゃうぞ」 「・・・ばい菌?」 アスランの言葉にカガリはぴたりと泣き止む。 「そう、ばい菌さんが入ってきて悪さするぞ」 「痛いの・・いやだ・・」 「そうだろ。だから一緒に痛いの痛いのとんでけーってやろうな」 アスランが手を差し出すとカガリはその手をぎゅっと握った。 「いたいのいたいのとんでけー」 カガリは小さな声で・・・ 「痛いの痛いの飛んでけ」 アスランはそれより大きい声で。 「いたいのいたいのとんでけー」 カガリはさらに大きな声で・・ 「いたいのいたいのとんでけーー!!」 2人は大きな声でそう言いながら歩いて行った。 「・・アスランどうかなさいました?」 お昼寝の時間、アスランはさくら組を訪れていた。 声をかけてきたのはこのクラスの担当、ラクスだ。 「あ・・その・・このクラスのシンのことなんですが・・」 「?」 ラクスは首をかしげ不思議そうにアスランを見た。 「・・・・・・・・その・・・」 なんていったらいいものか・・。 カガリからシンに何かされたと聞いたわけではない。 手当てを終えるとカガリには笑顔が戻っていた。 そして時間はお昼寝の時間。 カガリは教室に戻るとみんなと一緒にお昼寝を始めて・・・話を聞きそびれた。 「うちのクラスのカガリが・・怪我をしてまして・・・」 「ああ!そのことですか!」 ラクスは何か知っているのか顔がぱっと明るくなる。 ラクスは寝ている園児たちを見ると、あちらでお話しましょうと、部屋を閉める。 「朝、カガリちゃんがさくら組の前を通ったんですがいつものようにシンちゃんがカガリちゃんに突っかかっていきまして」 2人は廊下を歩きながら話す。 「いつも?シンはいつもカガリに突っかかってるんですか?」 俺が一緒にいるときは俺に攻撃を仕掛けてばかりだが。 「ええ、姿を見つけるといつも突っかかってますわ」 「・・・嫌い・・なんですか・・ね・・?」 アスランの言葉にラクスは一瞬驚いたように目を開いたが 「ふふ・・・」 次の瞬間笑みを漏らす。 「・・なんですか・・?」 ラクスの不可解な行動にアスランはむっと顔を怒らせる。 「シンちゃんはカガリちゃんが大好きなのですわ」 「・・・でも、突っかかっていくんでしょう?」 「はい。バカにしたようなことを言ったり喧嘩を吹っかけたり」 アスランは分からないと首をかしげる。 「好きな子にはちょっかいを出したくなる。男の子とはそういうものでしょう?」 そう・・なのか? アスランは自分の中にそんな考えがないのか、いまだすっきりしない表情をしていた。 「あ・・それで今日のことなんですが・・」 「今日もいつものようにカガリちゃんに声をかけていたんですが・・・」 「カガリ、お前その髪型似合わないぞ」 歩いていたカガリは足を止め、シンをにらむ。 「いいんだ!私は気に入ってるんだから。それにあすらんだって可愛いって言ってくれたんだぞ」 「あすらんはおせじ言っただけだろ。信じてるのか、だっぜー」 シンはさくら組の窓から身を乗り出し笑う。 「あすらんは嘘つかない!」 「つくよ。大人はみんな嘘ばっか」 「あすらんは違う!!」 「な・・なんだよ・・・あすらんだってお前みたいな男女にこまってるんだよ」 「うるさい〜」 カガリはシンの髪の毛をぐいっとつかむ。 「いって」 シンはカガリのほっぺたをつねる。 「むぅぅ・・・っっ」 2人は引っ張り合ったままにらみ合う。 「「うるさい!!」」 その声と同時に2人の取っ組み合いが始まった。 「止めるのが大変でしたわ。子供の力って思ってる以上に強いですから・・」 ラクスはその時のことを思い出したのかはぁ・・とため息をつく。 「ご迷惑をおかけしてすみません」 それにしても・・結果的には俺のことで喧嘩になったのか・・。 「アスランにあうか?」と聞かれて「可愛いよ」と答えた記憶がある。 簡単に答えたつもりだったが子供にとっては重要な質問なんだな。 アスランは言ったことを後悔したのではなく、当たり障りのない答えを言った自分を少し後悔する。 「怪我をしていたみたいですから消毒をいたしましょうと言ったのですが、痛くないからとそのまま行ってしまって・・」 本当に平気そうに見えたものですから・・ 「シンちゃんの前だから我慢していたのですね」 そこまで聞くとアスランはぺこりとお辞儀をし、自分の組へと戻っていった。 中に入るは子供たちの寝息が聞こえてくる。 アスランはまっすぐ、金色の髪を捜し、歩いていく。 「すーすー」 頬には痛々しい赤い傷。 アスランはそっとその傷に触れる。 「カガリ、ありがとうな。俺のために怒ってくれて」 アスランはそう言うと、優しくカガリの髪をなでた。 「ん〜〜〜」 カガリは身じろぎしながらまた深い眠りに落ちていった。 あとがき うわ・・・なんだかすごい話ですねぇ・・。 ありえるのかこの話!? せめてみんな幼いほうがよかったのかも・・(笑)