更正したユウナを連れ沙漠前の村までたどり着いた勇者一向。
そこで新たに待ち受けるものは!?

「もぉ〜〜〜〜」

「・・・・牛だ・・・」
「牛だな」
「牛だな」
「牛だね〜」

勇者一行が目にしたのはなんとものどかな風景。
家はワラでできているし、まばらに見える人は・・・


「オーブに似てないか!?」
シンがうれしそうにみんなに振り返る。
「やっぱり!?私もそう思ったんだ!」
カガリも飛びつくように言葉を返した。
「・・・オーブ村はこんな感じなのか?」
「ああ、そっくりだ。牛や馬が家で飼われてて・・・」
シンは懐かしむようにその風景を見た。
アスランも視線をその風景に移す。

どうしてるかな・・・
その気持ちはいつも胸の中にあった。
だけど振り返ることはできない・・前に進むと決めたのだから。
成し遂げるまでは・・・
でないとオーブは本当に無くなってしまう。
そんな気がした。

「いいところだな・・・」
「ん・・ああ・・・」
「アスランの住んでいるとこはどこなんだ?あ・・」
シンは思わず口に出していた。
アスランが自身のことを故意に話していないのはオレもカガリも気付いていた。
無理に聞こうとは思わなかったからいままでその話は伏せていたのだが・・・
「見かけは立派なところだよ。でも、俺はこっちの方が好きだな・・・」
アスランはそう言うと口を閉ざした。




デスティニークエスト〜開口〜





「あれ?旅の方ですか?」
声をかけたきたのは・・ちょっと頼りなさそうな男性。
細身のせいか牛や馬に振り回されるのではないかと思ってしまう。

「はい。砂漠を越えようと思うので必要なものをそろえようかと・・・」
「ああ、しかしこの村だからねぇ・・」
男は苦笑いをする。
「だけど最低限のものならありますよ」
男は先導するように歩き出す。
「私はアーサーといいます。この村では1番若いんですよ」
「・・・・え?」
「驚くでしょうね」
アーサーはアスランを見て笑う。
「田舎離れが進んでまして・・・みんなプラント城の城下町に憧れてしまうんです」
「どうして?」
「そりゃあ何もないところよりあるところのほうが便利だし、田舎じゃかっこ悪いと思うんだろ」
ユウナは周りを見回しながら言った。
「まぁ・・それなりにいいところもあると思うけどね」
「だよな!オレはこの村好きだ」
「ありがとうございます」

キィッとドアを開けるとそこにはお店・・・っぽいカウンターがあった。
「さて、なんにしましょう?」
「あ・・はい・・」
アスランは向かい合うようにして置いてあるものを見る。

万能薬、毒消し、砂漠の地図、方位磁針・・・・

確かに必要最低限のものはあるな・・・

「アーサーここにいるの?」
「グラディスさん」
勢いよく開いたドアからはとっても美人のお姉さんが出てきた。
うわっっ・・初めて会ったタイプ・・・
シンはマジマジとグラディスを見る。

「あら珍しいお客さん?」
「はい。砂漠を越えるそうです」
「ええ!?砂漠を!?」
グラディスの驚き方に全員で「?」マークを浮かべる。

「やめときなさい。あそこは今や無法地帯、砂漠のトラがでるわよ」
グラディスは持っていた大きな荷物をドンと棚の上に置く。
「砂漠にトラが出るんですか・・?」
シンは聞き返す。
それを呆れたような顔をして聞いたグラディスはため息をついた。
「何も知らないのね」
「あ・・すみません・・・」
シンは思わず小さくなる。

「砂漠のトラって言ったら有名な盗賊集団よ。まぁ・・・弱いものには手を出さないみたいだけど、
有り金取られたって言う人がたくさんいるわ」
「悪い奴なのか?」
カガリが聞いた。
「・・・まぁお金取るんだから悪い人でしょうね。そうなったら引き返すしかないでしょ?1文無しで砂漠を越えるのは無理よ」

「・・でも俺たちは行かなければならないんです」
アスランはグラディスを見つめた。
「アーサーさん、必要なものを・・」
「え・・あ・・はい・・」

買い物を進めているアスランをグラディスはふぅっと息を吐いて見た。

「仕方ないわね!いいものあげるわ」
グラディスはそう言うと大きな袋の中から小さな袋を出すとアスランに手渡した。

「・・・・・」
「もし砂漠のトラに襲われたらこれを開けなさい」
「?」
「私達が使っている秘密の通路の地図」
「秘密の通路?」
「だけど砂漠のトラに襲われたらの話し。それ以外には使っちゃダメ」
「あのグラディスさん・・・」
「有難うございます」
シンの言葉を遮るようにアスランは言った。

「どうする今晩は泊まって行くかい?」
アーサーは頬杖をつきながら言った。
「あ・・・お願いできますか?」
「はい」
「じゃあ、僕はカガリと同じ部屋でいいよ」
ユウナがそう言うとゴインという音が響いた。




アーサーに頼んで部屋を2つにしてもらおうと思ったのだが一緒じゃないなら野宿すると言い張る
カガリに仕方なく1つの部屋を取った。
もちろん、シンもアスランもユウナも同じ部屋だ。

「それって・・・どういうことなんだ?」
カガリはアスランが持っている・・グラディスに渡された包みを見る。
「多分・・彼女達は砂漠のトラに出くわさない為の秘密の通路を作ったんだ」
「なんで?」
「なんで・・・って・・・彼女は商人みたいだからいちいち砂漠のトラに出会ってたら仕事ができないだろ?」
「うん」
「まぁ、砂漠を越えた先にも町や村はあるし、当然仕事をしたい。ならどうするか?」

「あ、それで秘密の通路!」
カガリとシンはぽんっと手を叩く。

「でも本当に信じていいのかい?そんな重要なこと初めて会った僕達に教えるなんておかしい」
ユウナは1番眺めのいいベットに座っている。
「そうも思ったが・・・彼女は信じられる気がした・・」
悪意も感じなかったし、目もそらさなかった。
「オレもいい人だと思うよ。なんか・・・母さんみたいだった」
にへっとシンは笑う。
「疑うより信じた方が気分いいしな」
「カガリもそう思う?」
「ああ!」
3人はユウナを見る。

「了解、まぁ、砂漠のトラに会わなければ問題ないしね」
ユウナは片手を挙げ言った。
やれやれ・・・こいつらはほんと・・お人よしだね〜。
そう思いながらユウナの口元は上がっていた。

「カガリどこがいい?」
シンはベッドを指差す。
「私はどこでもいいぞ」
空いた3つのベッドを見る。
ベッドは2つずつ並んでいる。
片方の窓側にはユウナが陣取っていた。

「じゃあカガリはこっちの窓側にしろよ」
シンはそう言ってカガリをベッドまで押すと、自分は隣のベッドに座ろうとする。
だが、
「隣、アスランでもいいか?」
と、カガリに言われた。
「え?なんで?」
シンはすっとんきょーな声を上げる。
「いや・・・ちょっと・・・」

「何かあるのか?」
アスランはカガリを覗き込む。
「う〜ん・・あるっていうか・・・」
「シン」
「・・・分かったよ」
シンはそう言ってユウナのとなりに行った。

ああ・・なんかヤダ・・
と思いながら。




4人はそれぞれベッドに入り眠る。
アスランはカガリが何か話があるのだろうと寝付けないでいた。
だが、カガリは何も言わず、時が過ぎていく。
シンは何を話すんだろうと耳を澄ませながら待っていたが、睡魔に負け眠りに落ちていった。
部屋の中にはシンとユウナの寝息が聞こえてきた。

「・・・アスラン・・・」
やっと聞こえてきたカガリの声にアスランはそちらを向く。
横にはアスランの方に体を向け、布団に包まったカガリ。

「どうしたんだ・・?」

「ん・・・・言おうか・・迷ったんだけど・・・なんか・・黙っとくのもあれだし・・・」
カガリは言いにくそう言葉を詰まらせる。

「いいよ、言って」

「ユウナが持ってた石に触れたとき、私倒れただろ・・・そのとき・・・見たんだ・・」

「ラクス皇女様を」

「なっっ」
アスランは体を起こし叫びそうになる。
が、すぐにもとの位置に戻った。

「会ったって・・?」
「・・うん・・。私にもよく分からないんだけど・・・夢じゃなかったと思う。何もない空間であの人・・・祈ってたんだ」
祈る・・・
祈ることはできる状況なのか?
アスランは考え込む。

「そんなに話したわけじゃないんだ。すぐにアスランたちの声が聞こえて・・・起きたんだけど・・・」

魔王は何をするつもりだ?
ますます分からない。
この世界を壊したいならラクスを殺せばいい。
しかし、この世界を壊したくはないようだ。
ラクスも生きてるし、ルナたちを救った。
ラクスをさらって何ができる?
ラクスを思うままに操る・・・といってもラクスにできるのはこの世界を安定させることだけ。
他にできることなど・・・
「そ・・れで・・・ずっとアスランに聞きたいことがあったんだ・・」
「え?」

「お前は誰なんだ?」
「・・・・カガリ・・・」
「誰って言ったら悪いか・・あっと・・・ラクス皇女様のなんなんだ?」
聞くべきか迷った。
だけど・・・知りたい、アスランのこと。
こんなに危険なことまでしてラクス皇女を救おうとしている。なぜなんだろう?
だって、ラクス皇女様に会える人なんて・・そんなにいないよな・・?
すごい人だし・・だからアスランもすごく・・・

「知りたい?」
アスランは意地悪な笑みを浮かべる。
しかし、その瞳は揺れていた。
「言いたくないのならいい。でも・・・私は知りたい・・・」


「だよな・・・」
言うべきか・・・
命を共にする相手に何も言わないのは・・・隠しておくのはやはりまずいか・・?
しかし、それを話したら・・どう思うだろう・・?
アスランは黙ったまま悩んでいた。
カガリは何も言わずアスランが決める答えを待っていた。
聞くべきか迷った。
だけど、アスランも苦しそうだったから・・・
隠し事をする、秘密にする。それは心に大きな溝を作る。
実際、心配させたくないとラクス皇女様のことを黙っていただけで・・なんだか・・・いけない気がしてきていたのだ。
シンにも話したほうがいいと思った。
だけど・・アスランに先に言った方がいいと思ったんだ。
なぜかは分からないけど・・・

アスランとラクス皇女様には・・何かある。


「・・みんなに話すよ。明日・・・そうだな・・そろそろ言った方がいいのかもしれない・・・」

「アスラン・・・」

「早く寝ろ。明日辛いぞ」

「・・ああ・・・」

カガリはそっと布団を被った。

どこまで話すか・・・だな・・・

アスランは目を瞑り、考えていた。




翌日目を覚ますと隣にアスランはいなかった。
カガリは焦って部屋を出る。
「んー・・カガリ?」
シンは目をこすりながら体を起こす。

・・どうしよ・・・私が昨日聞いたせいでっっ
カガリは駆け下りるように階段を下りた。
するとそこにはアーサーとお茶を飲んでいるアスラン。

「はれ?」
思わず間の抜けた声が出る。
「どうしたんだカガリ?寝ぼけた?」
そう言ったアスランはいつもと変わらなかった。
あ・・勘違い・・・
「こちらへどうぞ。お茶を入れますね」
アーサーはそう言って席を立つ。

カガリはアスランの横に座った。

「もしかして俺がいなくなったと思った?」
アスランは頬杖をつき、くすりと笑う。

「うっっ・・・」
「大丈夫だよ。昨日言っただろ、明日話すって」
「・・・うん・・・」

「おはよう・・」
「シン、おはよう」
「おはよう」
シンは眠そうにぺたぺたと歩く。
「今日は砂漠越えか〜」
伸びをしながらシンは言う。

「その前に話したいことがあるんだ・・・いいか?」
「・・・・・昨日のこと?」
「え?」
「ごめん・・・途中で目が覚めて少し聞いたんだ」
「・・そうか・・・」
沈黙が流れる。

「俺、何知ってもアスランのこと嫌いにならないよ」
シンは真面目な顔でアスランを見つめる。
「アスランが何話すのかは分からないけど、アスランはアスランなんだ。大事な仲間だし、あ・・・あ・・」
言葉に詰まるシン。
何が言いたいのかアスランとカガリは顔を見合わせる。

「兄貴みたいに思ってるからさ!」

兄貴・・・
アスランは呆けた顔になる。
兄貴・・・・・

そして軽く頬を染めた。
「シン・・ありがとう・・・」
うれしいよ・・・

「ではお茶はお部屋に運んだ方がいいですね」
アーサーの声が掛かり、2人の顔は更に赤くなった。




上に戻るとユウナもちょうど起きたみたいだ。
目を擦りながら大あくびをしている。

「ユウナ、少し話したいことがあるんだ・・・」
ユウナはアスランとシン、カガリを順番に見る。

「いいのかい?僕がいて」
真剣な表情にユウナは軽く笑いながら答える。

「・・ああ・・・お前も仲間だろ?」
「・・・・」
ユウナは照れたのか背を向け髪を解かし始めた。

なんだかんだ言って・・・素直じゃないだけなのかもしれない・・・
シンは最近のユウナはそんなに嫌いではなかった。
相変わらず減らず口だし、腹の立つこともある。
だが・・・こんなときは少し可愛いと思ってしまう。



ユウナが準備を整え席につくとアーサーが運んで来たお茶にみんなで手をつける。
ごくん・・・
その音は自然に部屋に響いた。

アスランはじっとカップを見つめた。
中のお茶がひそかに揺れる。


そしてゆっくりと話し始める。
緊張しているのだろうか?
アスランは少し顔を強張らせていた。
カガリは・・聞くべきではなかったのかと不安になる。
誰にも言いたくないことはある。
だけど・・それを言い合える中になりたい。
そう思ったのも事実だ。

「シンとカガリに会ったのは本当に偶然だった。だけど目的が同じだったんだ・・・」

「暗黒魔城」
「・・ああ・・・」

「初めて会った時、俺は魔王について調べる為あの場にいた。
しかしいい情報が得られず少し・・・困っていたんだ・・・
そんなに城を空けられないし、だからといってこのままにしておく訳にはいかず困っていた。」

「「城?」」

シンとカガリが同じ言葉を口にする。

アスランはじっと自分の手を見つめていた。
ゆっくりと開く口から声が発せられたのはしばらく後

「俺は・・プラントの王だ」

プラントの王。
それはラクス皇女様といずれは結婚しこの世を守っていく尊い人。
そしてこの世界1番の王。
その王がこの人・・アスラン!?
シンは今までの出来事が走馬灯のように駆け巡る。

どうしてもオレたちと距離を置いているアスラン。
何かを抱えているアスラン。
それはシンがずっと気になっていたことだ。
どうしてラクス皇女と知り合いなのか。
どうしてオレ達と一緒に行くことにしたのか。

だが分からない。
オレ達が魔王を捜しているとはいえ、だからといって一緒に行動する必要はない。
面倒は増えるし、たどり着けるかも分からない。
それに・・・そんなに城を離れられないと言った。

メリットはある?


「すまない・・順を追って話したほうがいいな・・・」
固まったままのシンを見てアスランは苦笑する。




「オレはプラント城の王としてラクスと過ごしていた」

「ラクス・・」
裁断の間へと足を踏み入れたアスランはそこで歌うラクスに声をかける。
「アスラン」
ラクスはアスランを見ると歌を中断しそちらを見る。

「そろそろ休まれてはいかがですか?」
もう2時間もここに篭っている。
体は大丈夫なのだろうか?
アスランはそう思い悪いと思いながらも声をかけた。

「平気ですわ。私の・・・務めですもの・・・」
ラクスはそっと地の神・天の神の像を見上げる。
それは神々しくそこにたち、窓から見える世界を見つめていた。

だが・・
「そうですわね、休憩いたしましょうか」
アスランが苦い顔をするとラクスはにっこりと立ち上がった。


カップからはいい香りが漂っている。
ラクスはそれに口をつけるとふう・・と軽く息を吐いた。

「そろそろ・・・なのでしょうか?」
2人の間で流れる少し緊張した空気。
「そうですね・・・」
それはプラントの王となったアスラン、歌姫として生を受けたラクスに課せられたこと。
次の歌姫を作ること。

それは2人の結婚を意味していた。
代々、2人が成人し、20歳近くなると婚姻の儀式を行い、2人は結ばれる。

それはこの世界を保つ為には必要不可欠なことである。

アスランもそれは承知していたし、嫌だとか拒否など毛頭も考えていなかった。
それがあるべき姿だと思っているから・・・

しかし、そう語ったラクスの表情は冴えない。
どこか暗く、何かを考えているようだった。

「ラクス?」
アスランは声をかける。
しかしラクスが口を開くことはなく、じっと・・カップを手に持ちそれを見つめていた。

アスランも何も言わずそのまま黙り込んだ。

この光景・・関係はよくあることだった。
とくに話すことがなければ話さない。

が居心地が悪いと言うわけでもない。
あまりに日常だった為、当たり前になっていたのだ。

「私・・・・」

りん・・・
聞こえたのは鈴の音。
アスランは何だと首をかしげる。

「あなたにこれをお渡しします」
ラクスは小さな鈴をアスランの目の前に差し出す。
ラクスは苦渋の表情をしていた。

「ラクス・・これはなんですか?」
それも気になったがラクスの差し出した鈴。
それはどう見てもただの鈴で渡される意味がわからなかった。

「この先あなたに必要となるものです」
ラクスはそれをアスランの手のひらに置く。

「意味がよく・・・」
渡されたそれを見ても自分には意味が分からなかった。

そんなアスランをしばらく見つめていたラクスだったが、アスランの瞳を見据えはっきりと言う。

「私は以前から考えていました。このままで良いのかと。この世界は私を軸に回っています
そしてそれは・・いずれ私とあなたの子供へと引き継がれます」

鈴とは全く関係のない言葉にアスランは顔を歪める。
しかし、その言葉は・・・当たり前のことだった。

「だからこそ世界は安泰しているのでしょう?」
それが無くなったらこの世界も終わりだ。
それは・・体に染み付く記憶。
当たり前で変えようのないこと。

そんなアスランを見てラクスは笑った。



次の日・・・ラクスは今日も歌っているのだろうと祭壇の間へ行く。
しかしそこにあるべき姿はなかった。
部屋に行っても彼女の姿は無い。

ふと浮かんだのは昨日見せた彼女の笑顔。
決して幸せから見せたものではない。
それぐらいは俺にも分かった。



その後調べたところ、
昨日の晩、魔物を見かけたものがいることが分かった。
しかしそれは一瞬で・・なんの騒ぎも起きなかった為、気のせいだったのかと思ったらしい。

そう言えば・・最近魔物が多発しているという噂を聞く。
なにか関係があるのだろうか・・・?



「それを調べる為に町へ下りていたんだ」

3人はじっとアスランの言葉に聞き入る。

「王様が?」
ユウナはカチャンとカップに手をつける。

「・・ラクスがいなくなったことを広めるわけにはいかない。それに・・じっとなんてしていられなかったから・・・」

カガリは胸を締め付けられている気がした。
アスランはラクス皇女様と結婚する人だったのだ。
それどころかプラント城の王である。
そんなこと・・・思ってもみなかった。

ある程度・・・偉い人かな・・とは思っていたが・・・
そんなにすごい人だとは思わなかった。

そんなことを思っているとアスランと眼が合う。
ドキン・・・と跳ねる心臓を押さえる。


「黙ってて悪かったな・・・」
「わ・・るくなんてない・・・」
そう。アスランはいえなかったんだ。
秘密にしないといけないとかそんなことではなく・・多分・・・言えなかったんだ・・・。

それを知った私達がどう思うか・・それを考えるといえなかったのだろう。
だって・・・プラントの王だぞ?
そんな人に会える人間が・・どのくらいいいる?
それだけ、すごい・・人なのだ。


「それでその鈴はラクス皇女からもらったのか?」
「え?」
シンはアスランの胸元を指差す。
そこには鈴がしまわれていた。
アスランは自分の胸元を見ながらもシンを驚いたように見ていた。
今・・・俺は自分がプラントの王だと言った。
しかしシンはそんなことに触れず話し続ける。

「オレのこれもラクス皇女からもらったようなものなんだと思う。だって、あの時出てきたのはラクス皇女だったんだろ?」
「そうだと思う・・」
カガリが答える。
あの光の中であったのは紛れもなく剣を手にしたときに見た人だった。

「だったらオレとアスランにこれを託したんだ。ラクス皇女は」
りん・・
シンは鈴を揺らす。

アスランはシンのその行動をどこか・・他人のようにしてみていた。
シンはこんなにしっかりしていただろうか?
自分の中でのシンはやっぱり目が離せなくて心配な存在だ。
だが今のシンはどうだ?
俺が王だと知ってもそれを気にせず、鋭いところをついてくる。

これでは俺のほうが子供みたいだ。
王だと知ったとき、彼らはどんな顔をするだろう・・
他の人と同じように距離を保つかもしれない。
そんなこと・・・されたくはない。
だからこそ言えなかった。言わなかった。

旅を続けるうち、俺と2人の差に気付く。
やはり俺は王として生きていたため、2人とは見るものが違っていたのだ。

何度それを感じただろう・・・

「アスラン!」
ぼーっとそんなことを考えていると、急にシンの顔が目の前に現れる。

「オレはそんなこと気にしない!アスランがプラントの王でもアスランはアスランだ!
オレにとって大事な仲間だし、兄貴みたいだし・・・頼れる。だから一緒に頑張ろう」

シンは真剣な顔で言う。
机に置かれたお茶はカタンと音をさせる。

「そうだぞアスラン!一緒に助けようラクス皇女様を」
シンの横にカガリの顔が現れる。

「でも言ってくれてうれしい。抱え込むの辛いだろ?」
にっとカガリは笑う。
「辛くはない・・・」
ぽそりと返すアスラン。
さっきまで2人の顔を見ていた瞳は伏せられて見えない。
「嘘つくなよ」
シンは言っちゃえとアスランを突っつく。

「辛くなんてない!」
アスランは意地になったように声を荒げた。

「そっか、そうだな!もう辛くない!」
カガリは満面の笑みでアスランを見る。
その横ではシンも同じような顔をしていた。

アスランは頬杖をつき照れたように窓の外に目を移す。
その視界にはユウナがいた。

ま、そうだね・・
と、ユウナも軽くアスランと目を合わせると窓の外を見る。

ここからが俺達の旅の本当の始まりなのかもしれない・・・
アスランはそう思いながら青い空を見つめた。





あとがき
なが!!
切ろうと思ったのですが、それだと・・・なんか・・流れが悪くなる気がしましたので
こんなに長くなりました♪

本当にここからが旅の始まりですね。
お互いのことを知って、言い合え、先に進んでいく。
後どのぐらい続くかは書いてる私にも全くわかりませんが、これからもいろいろあると思います♪