綺麗な空。
田舎だからなんだろうか?

父さんから聞いたことがある。
大きい町に行くと空気が悪いって・・・空の色もこんなに綺麗じゃないんだって・・・


人は自然と共存してるんだ。

1人では生きられない。
この世全てのものがお互いを支えあって・・・糧にして生きているんだ。
無駄なものなどない・・・
お互いがそれを分かっていれば争いだって憎しみだって分かり合えるはずなのに・・・


シンの瞳に飛び込んできたのは薄暗い褐色を帯びた空。

ああ・・・これが『今』なんだ・・・。
一瞬寂しさが心をよぎるが瞬きを1つし、それを振り払うと、ぎっと歯をかみ締めた。

「でるぞ!」
「はい!」

空気が変わる。
それは『血』の匂いだった・・・・・



ギャァァァッァァァァァァ!

後ろに殺気を感じシンは剣を後ろへと振りかざす。

ザシュッッ
剣を血が伝う。
どろどろとそれは光る剣を覆っていく。

「人の多いところに行くぞ!助ける!」
「はい!」

バルトフェルドは道を空けるように大きなヤリを振り回す。
魔物はヤリの衝撃に地面に次々と叩きつけられていった。
それを超えてくる魔物をシンは切っ先で突く。
辺りに人気はない。
ここはまだ城から遠いのだろうか・・

シンが空を見上げ敵の様子を見る。
どうやら一ヶ所に向かっているらしい。
やはり・・・狙いはプラント城か・・・。

「隊長、二手に分かれますか?」
「そうしよう!」
バルトフェルドがそう言うと彼以外の人は別方向に向かっていく。

「あ・・あの・・」
「正面から向かうのは俺と君だけでいいだろう。強いんだろう?」
シンは剣を見る。
これを与えられた。それは運命。
だが決めたのは自分。
そして俺はそれをやり通す!!!

「強いに決まってるだろ!守りたいと想う気持ちは誰より!!」
「よし!」
バルトフェルドはよく言ったとばかりにシンの背中を叩いた。
走り抜けながら分かれた人たちを想う。 どうか無事で・・・同じ想いをもつ人たち!!



デスティニークエスト〜掴めぬ自身〜





目の前に開けた世界。

そこには魔物に巣食われた城だった。


「いやぁぁぁ!」
シンは叫び声を聞くと体を反転させ大きく剣を振りかざした。
血が飛び散る。
その向こうには怯えた人。
魔物は胴を切られごろんと転がった。
「早く!」
「は・・はい・・っ」
数秒で次の魔物がやってくる。

数をこなすことじゃない。
とにかく人をここから遠ざけないと・・・
シンは目に映る人の場所まで駆け抜ける。

走りながら赤い血が飛び散る。
魔物の血、そして自分の血。

「右だ!」

ザシュッッ
バルトフェルドの声にシンはすぐさま剣を振った。

「うっっ」
左手に感じた衝撃。
魔物が食らいついていたのだ。
「この!」
剣の柄で魔物の目をつらぬく。

『ぎゃあぁぁぁ!!!』
叫びながらも腕に食らいついたまま放れようとしない。

痛みだって同じなのに・・・。

「くそおおおおおお!!!」
シンは目に刺したままの剣を抜き、心臓へと突き刺した。
鮮血はシンの顔を体を侵食していく。


「お母さん!いやぁぁ!!」
少女の声が飛び込んでくる。

「どこだ!?」
隠れていたのだろう。
小さな建物の影に魔物に囚われた少女が見える。

「くそっ」
走るには遠い、誰かいないかと辺りを見るがそんなことをしてる時間があれば走った方が早かった。

「がっっ」
魔物が顔面に飛び込んでくる。
牙をとぎらせ、どこでもいいと食らいついてきた。
ぐしゃっっ
シンは肘で顔面にいる魔物を叩き落す。

「つっっっ」
次の痛みは足。
見ると数匹きの魔物が毒液を出しているのが見えた。

グシャ!!
シンは剣で魔物を刺すとそのまま遠くへと投げる。
それを何度繰り返しただろう・・。
痛みなど感じなくなってきた。
「はぁ・・はぁ・・・」
毒のせいか・・?麻痺・・・してる気がする・・・。

少女の姿を探し目をぎらつかせる。

飛び込んできたのは今にも魔物に食われそうになっている少女の姿。

食う・・・そんな・・・・
一瞬目を疑った。
魔物とはいえ・・・人を食べるなんて・・・
しかしそれは現実で目の前で起こっている出来事。


「や・・・・やめろおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!」


頭が真っ白になった。

「少年!?」
その声にバルトフェルドはシンを探す。

人は食べ物じゃない!!

『シン・・・人は原罪といって生きるうえで必ず犯す罪があるんだ』
『オレ悪いことしてないよ?』
『そうだな・・でも何かを食べないと生きていけないだろ?』
『肉とか?』
『そうだな・・だが植物にだって命はあるんだ・・・その力をもらいながら俺たちは生きているんだぞ』
『ふーん』
『だから感謝して生きるんだぞ』
『分かった!オレはもらった命の分だけ感謝して頑張って生きないといけないんだ!』
『少し違うが・・そうだな・・・頑張って生きろよ』


父さんの顔が浮かぶ。
しかしそれは黒い霧に覆われ姿を消していく。

見えるのは魔物だけ。
殺さないと・・・こいつを殺さないと食われる!!!!

少女がこちらを見て驚愕の表情をした。
だが、それはシンの瞳に映らない・・・。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
剣はその体に炎を、まとう。
炎の熱はシンの怒りも恐怖も巻き込み大きくなって魔物に襲い掛かった。

ぐわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ


真っ赤な炎は魔物を包む。
「きゃぁぁぁっっ」
少女は体を落とした魔物から転がり落ちた。
そしてすぐに手足をばたつかせその場から離れていく。

魔物は炎に包まれたまま暴れるように体を動かしていた。

「早く・・・倒さないと・・・っっ」
シンは瞳の中で揺らぐ魔物を見た。
まるで自分がそこにいないかのような感覚・・・・
この瞳にからこいつを消さないと・・

そして剣は魔物へと向かった。



「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
シンは肩で大きく息をし、その場に立ち尽くしていた。
手足からは血が流れ落ちている。

「カリン!!」
「お母さん!!」
その声にシンは振り返る。

「ありがとうございます!!」
母親はシンに何度も頭を下げる。

「・・・無事で・・良かっ・・・」
シンは隣にいる少女を見た。

少女は魔物を見ていたのと同じ目で・・・
オレを見ていた・・・・。

「怖い・・・怖いよおっっ」
少女はシンと目があうと母にしがみついた。
「こら・・・カリン・・・お礼を言いなさい」


「だって・・・このお兄ちゃんも怖いんだもん!!」


すうっと・・・体から何かが落ちた感覚がした。
オレは・・なんだ・・・?

見下ろした自分の姿・・体は血まみれでたくさんの魔物の血がついている。
剣からは大量の血が滴り落ちている。

「ありがとうございました・・」
母親はもう1度礼をし、走るようにしその場を去って行った。


「・・・両手・・・こんなに血で・・・」
カラン・・とシンは剣を手放す。
両手は真っ赤に染まり・・自分の手ではないようだ。

『死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
自分の言った言葉が木霊する。

「オレ・・・・」

「ガアアアアアアァァッァァァッァァァッァ!!!!」

耳元で聞こえた叫び声にシンは遅れて反応する。


カガリ・・・オレ・・・っっ


シンの瞳に獣の姿が大きく写った。





「・・・・・・え・・・?」
カガリは見えてきた森林とは逆に目をやる。

「どうした?」
アスランがそれに反応した。
カガリはしばらく遠くを見ていた。
どこかは分からない遠く・・・。

「いや・・なんでもない・・・」
呼ばれた気がしたけど・・・

「この森を抜けると氷河の国、アラスカ国だよ」
「上着」
アスランが服に指を当てる。
「あ・・そうだな・・」
カガリは手に持っていた服を開く。

ひらり・・・
そのとき何かが落ちた。

「なんだ?」
アスランとユウナもカガリの拾ったそれを覗き込む。

『またな! シン』

そこにはほんの一言。
シンの言葉があった。

「いつの間に書いたんだ?」
ずっと一緒にいたような気がするけど・・・。
アスランは「ん?」と首をひねる。

「・・・・うん・・・」
カガリはうれしそうにその紙をしばらく見ていたが、大事そうにポケットにしまった。





少し遠のいた意識の中、誰かがオレを呼んでいる気がした。
オレ・・・何やってるんだろう・・・。
こんなに血まみれになって・・・
守ってるはずなのに・・・

少女の怯えた瞳が蘇る。

守るために戦ってるんじゃないのか・・・?


「少年!!!」
誰かの声がする・・バルトフェルドさんだ・・
しかし、その声は遠く心へと入ってこない。

バルトフェルドは反応を示さないシンに舌打ちをする。
目の前には魔物が次々と襲い掛かっていた。

カンッ
ヤリに爪が襲い掛かる。


「守るために戦ってるんだろう!また会うと誓ったんじゃないのか!!!」


その声にシンは現実へと戻ってくる。


カガリが・・・アスランが・・・ユウナが笑っているのが見える。
守るため・・・

「でも・・オレ・・・こんなに血まみれで・・・」
シンはぎゅっと拳を握る。

「今はそれが必要だろう!なんのためにここに来た!?」
バルトフェルドの前で、魔物は次々と倒れていく。

「守るために決まってるだろ!でもあんな顔されるなんてっっ」
シンの手が震える。

「くそっっ」
数の多さにバルドフェルドも顔を歪める。
と、ヤリを地面に突き刺した。

「マヌーサ!」
呪文を唱えると魔物たちの動きが怪しくなる。
向かってこずにふらふらとするものもでてきた。


「その手は殺すこともできる。だが、人を抱きしめることも出来るだろう!!人はそうして生きて来たんだ!!」
ベルトフェルドはヤリを手に持ち、動きの鈍くなった魔物を一気になぎ倒していった。



「・・・・抱きしめることも・・・救う事も・・殺すことも出来る・・・」

「どれを選ぶかはシン!お前の決めることだ!!」

・・・この血は・・オレの・・

背負うべきもの!!!

遠のいていた意識・・心が体と一体化するのが分かった。


剣に赤い炎が渦巻く。
それはシンをも包み込み大きな渦を作った。

「オレは戦うと決めたんだ!あのときから!!」
シンは力強く剣を構える。
横目にそれをみたバルトフェルドは口元を上げる。

「行くぞ!」
「よし!」
掛け声と共にシンは魔物へと走って行った。




「あーあ・・」
木の上で足をぶらぶらさせている少年がいる。
1人・・・いや、2人。
「あれ倒せばいいんだろ?早く行こうぜ」
「ヴィーノ、急かすなよ」
「ここにいたって仕方ないだろ?」
「どうせなら可愛い女の子がよかったなぁ〜」
「勇者だぜ。女の子じゃないだろ」
「そりゃそうだけどな」
よっと・・・とつまらなそうにしていた少年は腰を上げる。


「どっちにする?」
「オレあのガキ、ヨウランがでかい方な!」
ヴィーノはにっと笑う。
「俺がでかい方かよ・・・」
「オレ、これだし」
ヴィーノは自分の腕をぽんぽんと叩く。
「・・・そうだな・・・」
ヨウランは納得したのか視線をバルトフェルドに向ける。
だが、その瞳はヴィーノとは対照的に落ち着いたものだった。

「「じゃ」」
2人はそう言うと木から駆け下りて行った。




「奴らは個々に意思を持ってるわけじゃなさそうだな」
走りながらバルトフェルドはシンに言った。
「・・どういう・・?」
「やつらの動きを見ているとただ戦ってるだけに見えないか?戦略も何も感じない。この場を荒らしているだけに見える」
シンは辺りを見回す。
確かに確たる目的があるのならこんな戦い方はしないだろう。
誰かを倒したいわけでもなく・・・

「城を壊したいだけじゃないのか?」
・・・そうとも取れるが・・・
何がしたいのか・・・
魔物たちは人々襲い暴れている。
だがここに来たのは誰かの指示あってのことだろう・・・
どんな指示を受けた・・?



「!!」
バルトフェルドは気配を感じ、ヤリを上へと突き刺す。
「え?」
シンはその動きに体をよじらせた。
ヤリはシンの体すれすれを通っていた。

「おっと・・・っ」
ヤリの光を避けるように影が舞う。
そして視界に映ったのは・・魔物ではなく人だった。

とんっと、軽やかにその人物は舞い降りる。

「遊びに来てやったぜ!」
無邪気な笑みを漏らし少年は言う。
「遊びじゃないだろ」
横からは別の少年が歩いてくる。

「・・・お前達・・・」
あの姉妹と同じ雰囲気をかもしだしている・・こいつらも・・・。
シンは2人を交互に睨みつける。

「オレはヴィーノ。お前の相手はオレね。で、ヨウランの相手はおじさん」
そう言いながらヴィーノはバルトフェルドを指差す。

「誰がおじさんだ。こう見えてもまだ若いんだぞ」
「俺たちよりはおじさんだろ」
「歳を取った方が人生に深みが出るってもんだ」
「若い方が体もなまってないよ」

何をのん気に話してるんだ。
シンはヨウランとバルトフェルドの会話を眉をひそめ聞いていた。
だが、視線はヴィーノから離さない。
いや・・離せなかった。

笑ってはいるが・・こいつ・・隙がない。
ヨウランという人物もそうだ。

早く城に向かいたいがそれをさせない気配がある。

「君達がこの魔物を操っているのか?」
「・・・・・・・」
バルトフェルドの言葉にヨウランが微かに反応する。
シンはそれを見て彼が魔物使いだと察した。
ユウナと同じく魔物を操ることができるのだろう。
しかし数が桁違いだ。


「引いてくれ・・って言ったら・・?」
「聞くわけないだろ」
期待などしていなかった。
彼らも魔王に救われたのだろうか・・・。
ふとシンはそんなことを考えた。
寂しい心を彼は甘い言葉で埋めたのだ。
戦わせる為に・・・。

シンは剣を構える。
ゆっくりしている時間はない。
早くアスランたちに追いつかなくてはいけないんだ。

「君を倒せば魔物は攻撃しなくなるということだな」
バルトフェルドも槍を構えた。
「出来るものならな」
ヨウランは両手を天に掲げる。


「やぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁ!!!」
シンの声が響き渡った。





あとがき
一応種割れ状態ということで・・・(どこが!?)