「どうしてですか?」
2人はテーブルに向かい合って座っている。
シンは怒り顔。
アスランは余裕顔。
カガリはその横で2人を交互に見ていた。

「とにかく、先に進むつもりならやめたほうがいい」
「だからなんでかって聞いてるんだよ」

「この先には魔物がたくさんいる。最近になって数が恐ろしいほど増えているんだ。
そんなところにお前みたいなのが行ったらすぐ殺されるぞ」

確かに言う通りだ。
さっきの戦いを見て思った。
オレは弱い・・・こいつが強いとか言う以前にオレはあまりにも弱すぎた。
でもそれは当然だ。
今まで剣も振るったことがないのにいきなり上手く出来るわけがない。
しかし、そうはいっても命を守るのは自分自身。
そしてカガリを守るのもオレなんだ。


「・・・・取引をしないか?」
アスランの声にシンは重くなった頭を上げた。

「旅に必要なお金を俺が援助しよう。その代わり、俺もお前たちについていく」

アスランの言葉にシンは驚く。

「おかしくないか?」
そんなシンを横目にカガリはアスランに問いかけた。
「お金を払ってまで一緒にいる必要がわからない。だって、お前強いし、助けなんて要らないだろ?」
カガリのキツイ視線にアスランはふっと笑う。
「別にいいけどな。お前たちはお金がないし、力もない。それじゃあ、すぐに死ぬだけだ」
シンは頭を鈍器で殴られた気がした。

「シン、お前が決めろ。守りたいか、死なせたいか」

カガリのことを言っているのだろう・・・
そう問われたらオレに選択権はない。

カガリは守らないと・・・

「お願いします・・・」
小さくカガリが「シン」と呼ぶのが聞こえた。




デスティニークエスト〜ホーク姉妹〜





「明朝出発しよう」
アスランはそういうとついて来いと手招きした。
たどり着いた場所は宿屋。
「部屋を2つ」
そういうと、アスランはお金を払う。

本当に・・・一緒にいる気なんだ・・・
シンは思う。

「え・・2つって・・・オレとカガリ、アスランってこと?」
「・・・オレとお前だよ」
げっっっ・・・
お金を払ってもらって言うのもなんだがあまりお勧めできない気分だ。

「私も同じ部屋がいい!」
カガリはアスランと宿屋の主人に割って入る。
「お前女だろ?」
「女だけど、1人じゃ暇じゃないか!一緒がいい!」
カガリはアスランを睨みつける。

アスランは仕方ないと主人にため息をついた。




「お前は武器を持っているのか?」
部屋に入るとアスランは椅子に腰掛ける。
「お前じゃなくてカガリだ。もってない」
「ここまで魔物には会わなかったのか?」

「村が魔物に襲われたんだ。オレ達は・・・逃げたんだ・・・」
シンは悔しそうに自分の手のひらを見る。
掴んだのはカガリの手・・両親の手は・・離したんだ。

「シン・・悪い奴をやっつけたら村に帰ろう。そしたらみんなが笑顔で迎えてくれるよ・・・」
「カガリ・・・」
「な、シンは勇者なんだろ・・できるよ」

「勇者!?」
アスランはガタンと椅子を倒し立ち上がる。

「・・・あ・・いやすまない・・・」
だがすぐに座りなおす。

「で、お前は魔法は使えるのか?」
「お前じゃなくてカガリ」
むぅっとしか顔でアスランに顔を近付ける。
「・・・はぁ・・・カガリ、で?」

「全然!」
自身もって言うなよ・・・
カガリは腰に手をあてエッヘンとでもいいたそうだ。

「自分である程度身は守れ。お前・・・カガリには魔法の方がいいだろう」
アスランは分厚い書を差し出した。
「なんだこれ?」
カガリはそれを受け取るとぺらぺらとページをめくる。

「ホイミ・・・リレミト・・・なんだこれ・・?」
「魔法の呪文だ。人間として成長すると使えるようになるはずだ」
ほらっと、アスランは小さな珠をカガリの口元に持っていく。

カガリは「ん?」とアスランを見る。
「これを飲め。それで魔法レベルが得られるようになる」
「ちょっ変なもんじゃないだろうな」
シンはすかさずアスランの手を掴んだ。

「・・・そんなことしてもなんのとくにもならない」
アスランはシンを見据え言った。
カガリは納得したのかパクリとそれを口に含む。
ついでにアスランの指まで口に含んでいた。

「あふぃ?」

咥えたままカガリは首をかしげる。

「・・それは俺の指だ」
アスランは冷静な顔をしていたが、その頬は少し赤く染まっていた。
シンはそれが気に入らなかったが人間らしいアスランの一面に少し安心していた。

3人はきつきつに詰められたベッドにそれぞれ入った。

隣ではカガリの寝息が聞こえる。

疲れたよな・・・そりゃ・・・

あのピンクの人・・もうでてこないのかな?
あの人には聞きたいことがいっぱいあるのに。
とにかく『魔王』ってやつを倒せばいいんだろうけど、俺の腕じゃ・・不可能な気がしてきた。

シンは鈴を揺らす・・
チリン・・・それは窓から入ってくる心地よい風と共に揺れた。

「それ・・どうしたんだ・・・?」
「・・アスラン・・・」
シンはアスランに目をやるがすぐに鈴へと目線を移す。

「分からない・・・魔物から逃げたとき見つけたんだ。掴んだとき・・女の人が現れてオレを『勇者』って・・・
父さんもそんなことを言ってたんだ・・・だから・・・これはオレの使命なのかもしれない・・・」
話すシンをアスランは見つめる。

「ラクス皇女がさらわれたらしいな」

「え?ああ・・」

「彼女はこの国の柱だ。確か彼女は綺麗な桃色の髪をしていたな・・・」

「・・・・」

何かを伝えるようなアスランの言葉・・・
シンはそのまま口を閉ざすと、いつの間にか眠りについていた。




「パルプンテ」
ガバッ
カガリの声にアスランは飛び起きた。

冷や汗をかいたような顔で辺りを見回すとほっと息をつく。
多分、眠る前に魔法の本を読んでいたため寝言が出たのだろう。
しかし、パルプンテとは何が起こるか分からない魔法。
アスランはつい飛び起きてしまったのだ。

「シン朝だ」
隣にいるシンに声をかける。
「んーーあとちょっとぅ〜」
布団を抱き枕しに、くるくると回っている。

「・・・カガリ、朝だぞ・・」
今度はカガリの隣にいき声をかける。

「んや!」
その声が聞こえたかと思うとカガリは思い切りアスランに抱きつく。
「おい!?」
「ん〜眠い〜〜ふに〜」
寝ぼけているのだろうか・・・いや、だろう。
アスランの胸にすりすりと頬ずえをしている。

毎朝これなのだろうか・・・
アスランは困った顔をしたままため息をついた。




「ふあーーーー」
町を出るとシンは大きなあくびをした。
「そんなんじゃほんとに死ぬぞ・・」
アスランはシンに釘を刺す。
「なあ、アスランザフト城まではどのぐらいかかるんだ?」
「そうだな何事もなければ4時間ぐらいか」

何事もなければ・・・
それは魔物と出会わなければということだろう。

「だが・・」
何もないはずがない。
俺とシンが一緒にいたとしたら・・・

3人は森の入り口へと差し掛かる。

「んーっと・・・トラマナ!」
「・・・え?」
森へと足を踏み入れようとしたときカガリが呪文を唱える。
「あれ?違うっけ・・?ていうかまだ無理か・・」
カガリは1人で呟きながら森へと進む。
「なにカガリ?」
シンは不思議に思い聞いた。

「ん?トラマナって痛いとこ歩いても平気になる呪文らしいから」
「ちょっと待て、それは沼とか、毒の道とかだろ?」
今見る限りそんなのもはここに存在していない。
「・・・・・・・・だって・・・棘のあるツルとかあったから・・痛いと思って・・・」
「ふっ・・・っ」
アスランは軽く笑うとカガリの持っていた本を広げる。
「ほらここに書いてあるだろ。毒の沼地や溶岩の上を歩くときに使うって」
アスランは項目の『トラマナ』を指差す。
「あれ?ほんとだ・・」
「だが、なんでも試すのはいいことだ」
アスランはカガリに微笑んだ。

カガリは思わず顔を下にそむける。
なんだ・・・ちゃんと笑えるんじゃないか・・・
今までは人を小ばかにしたというか・・どうも引っかかる笑い方ばかりだったが今の微笑にはそれがなかった。




「はぁい、コンニチワ☆」

そんな空気を壊すかのように頭上から声がした。
アスランとしシンはカガリを守るように前へと出た。

見上げた先にはふわふわとした雲に乗った・・2人の女の子・・?

「あなたが勇者なのかしら、迷惑よね。私達今日は買い物に行く予定だったのに」
ショートカットの赤毛の子が言う。
「お姉ちゃんはやく倒しちゃおうよ」
ツインテールの女の子が言った。
「そうね」

「お前ら・・何者だ・・?」
アスランはキツイ視線を2人に向ける。

「魔王様をお守りするものよ。魔王様があなたを倒せって言うからやってきたの」
「で、どっちが勇者?」
雲から身を乗り出すとアスランとシンを交互に見る。
「あ、でも女の子が勇者っていうのも有りかもね」
ちらりとカガリを見る。

アスランはカガリを2人から見えなくするように体を動かす。

「でも、全員倒せば同じじゃない」
「うん」

と、2人は雲の上からひらりと舞い降りる。
1人は薔薇のムチ、もう1人は細身の剣を構えた。


チリン・・・
アスランとシンの鈴の音が重なる。
すると、炎と激しい風が2人を包んだ。

「「きゃっっ」」
姉妹は思わず目を瞑る。
そして開いたそこには剣を手にした2人。

「へぇ・・ちゃんと武器持ってるんだ・・・」
にっと笑う少女。
「私はルナマリア」
「妹のメイリン」

「「あなた達の首を頂きます!」」
その掛け声と共に2人は天高く舞い上がる。

「りゃぁぁぁ!」
太陽を背に剣が振ってくる。
アスランはそれを剣で受け止めた。

カンッッ
すぐさま次の突きを入れるルナ、アスランは軽く体を反転しその攻撃を避ける。
ルナもすぐさま剣を反対に持ち替え、後ろにいるアスラン突く。
アスランは片足で地面を蹴り、側にある木へと飛び乗る。

「ずいぶん身軽なのね・・・」
「ああ」
「でも、私も身軽なのよ!」
ルナは地面を蹴ると回転しながらアスランへと向かっていく。

アスランはそれをみると地面へと飛び降り、ルナのほうへ向かった。

カシンッ
空中で2人の剣がぶつかり合う。



「あの人なかなかやるんだ・・・」
メイリンはそんな2人を伸びをしながら見た。

「くそ・・」
シンはメイリンに向けて剣を構えている。
「何あなた・・・震えてるの?」
メイリンはシンを見てクスリと笑った。

当然だろ・・・あんなの見せられて・・・
視界にはアスランとルナマリアが激しい戦いをしている。
こんな敵に自分は勝てるのだろうか・・・

「じゃあ、やりましょうか」
メイリンは体を伸ばし、後ろ手に薔薇のムチを振り上げる。

ドクンッッ
恐怖でシンの胸が高鳴る。
こんなところで死んでたまるかよ・・・
オレは世界を背負ってるんだ。
シンは1つ息を吸うと硬く剣を握り締めた。
昨日、教えてもらったとおりにすればいいんだ。
シンは目を瞑る。

『シン、お前は持ち方も知らないんだな・・』
『知るわけないだろ・・必要なかったんだから』
『ほらこうだ・・』
アスランはシンに手を添えると型を教える。
『とにかく敵から目を逸らすな。怖いと思う心が隙を作り、命を奪う。』
『うん・・・』
『守りたいものがあるんならそれだけは心に命じておけ』

オレには守るものがある。
シンはカッと目を開くと剣を振り上げた。

「始め!」
メイリンは楽しそうに掛け声を上げる。
メイリンのムチがシンの両側から飛んでくる。

カン
カン
それを刃で弾き返す。
「上か!?」
すぐさま上からムチが振り落ちてきた。シンは地面を蹴り後ろへと飛んだ。
しかしムチはしなるようにしてシンのあとをついてくる。
「くそ」

木の裏に回るとその木を蹴り宙へ浮いた。
追ってきたムチはいるはずの物体がなく、お互い絡まりあう。
「でやああぁぁぁ!」
そこをシンは切りつける。

ところがムチはするりとその場から姿を消す。

どこだ!?
シンは辺りを見回す。
「ここで〜す」
聞こえたのは真後ろ。
シンは振り返るが、それよりムチの動きが早かった。
「ぐっっっ」
シンの首にムチが絡まる。
ぐいぐいと締め付けるそれは棘をいくつも所有しており、シンの首に赤い血を流す。

「シン!!!」
その時、どんっという衝撃のあと、シンの体は宙を舞い地面へと叩きつけられた。

「げほっげほっ」
シンは首を押さえながら敵を探す。
そこにはメイリンだけでなくカガリもいた。

「カ・・カガ・・・」

「何?先に死にたいの?」
メイリンはカガリにムチを向ける。

「お前なんかに負けない!」
カガリはそう言うと近くにあった石を投げつける。
メイリンはそれを軽々とムチで払い落とした。

「やだ・・・そんなので勝てるわけないじゃない」
メイリンはクスリと笑うとムチを振り上げた。

「カガリ!!!」
シンは剣を掴むと体を起こす。
だが、先ほどの怪我のせいで体が上手く動かない。
そんなことをしている間にもカガリの頭上にはムチが迫っていた。

ザク・・・・・・・ッッ

聞こえたのは何かが切れる音。
カガリは光る切っ先に気づく。

「隠れてろ」

それはアスランだった。

ドサッと切れたムチの先が地面に落ちる。


「あなたの相手は私でしょ」
ルナはむっとした顔でアスランの前に飛び降りる。
「うるさい、どっちでもいいだろ」
「気にいらなーい。私のムチこんなにしちゃって」
メイリンはムチをピシッと木に叩きつける。

アスランは軽く後ろを見る。
カガリはシンの元へと駆け寄って声をかけていた。

トン・・と地面を蹴ると姉妹に突っ込む。
「え・・?」
先ほどとはあまりに違う速さ。
ルナは目を見開き動けなかった。
その瞬間、

カキン・・・

光が宙を舞う。
それは太陽の輝きを反射しながら地面に刺さった。

「剣・・・が・・・」
ルナは手にしている剣が折られている事に気づく。
「お姉ちゃんっ」

「・・・・・」
ルナはぎゅっと唇をかみ締める。
「今日はここまでにしてあげる。でも次は殺す!」
殺気に満ちた目でアスランを睨むと2人は雲に乗りその場を後にした。



リン・・・
風と共にアスランは剣をしまった。



「シン!!どうしよう・・・痛いよな・・ッッ」
カガリは慌てた様子でシンに話しかけている。

「こいつは平気だろ」
アスランは転がっているシンに軽くけりを入れる。
「って!」
「何するんだよ!」
カガリはアスランを睨む。

「これからを考えたらそのぐらい軽いもんだろ」
シンはその言葉を聞くとややふてた顔で体を起こす。
「大丈夫だよ・・カガリ」

「カガリは大丈夫か?」
アスランはカガリに問いかける。
「私は大丈夫だ・・アスランが助けてくれたから・・・」
「そうか・・・」

助けてくれなかったら私は死んでいただろう・・・ これじゃ、ただの足手まといだ・・・
カガリに苦しみがのしかかる。
せめて私になにかできたら・・・


「シン・・・・」
カガリはゆっくりとシンの頬に手を当てる。
「なっなに!?カガリ!?」
シンは慌てたように顔を真っ赤にした。


「・・ホイミ・・」


優しい光がシンを包む。

痛みが消えていく・・・これは・・・

「よくできたな」
目を瞑って祈るようにしていたカガリの頭をアスランは優しく撫でた。


「カガリ、すげえ!!!!」
シンは先ほどの痛みはどこへやらぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「これって回復魔法なのか!?」
「ああ、大半の人がこれをはじめて覚える」

カガリは自分の手を見つめたまま呆けていた。

「だが、とても大事で役立つ呪文だよ」
アスランはそっとカガリを覗き込んだ。


「私・・・役に立てたのかな?」
「ああ」
「力が無くて・・・見ているしかできなくて・・・でも今は違うよな?
私にもできることがあるんだよな」

「あるよ」
アスランは優しく微笑む。

「カガリ行こうぜ!俺たちの旅に!」
シンがうれしそうに遠くで手を差し出す。
「行こう」
アスランも側で手を差し出す。

「ああ!」

木々から差し込む光はカガリのすべてを輝かせていた。





あとがき
戦いましたー!きゃ、難しい♪
ホーク姉妹が出ましたね。
敵側なので性格の相違は仕方ないですね。
もっと悪くもしたかったんですが、やはり抵抗がありまして(汗)