「ほらあれがザフト城だ」
アスランが指差した先にはそびえ立つ大きなお城。

カガリとシンは口をあんぐりあけてそれを見ていた。

「あ、おい、口空けて上を見るのは田舎者じゃなかったのかよ」
カガリはシンに突っ込む。
「あ・・・あは」
シンはカガリの言葉を笑ってごまかした。

「とりあえず城下町で休憩しよう。王に会うにはそれなりに手続きがいるからな」

それよりも会ってくれるのだろうか・・・
シンの心に不安がよぎった。

どう見てもオレはただのガキだ。
こんな子供にザフトの王は会ってくれるのだろうか?

「大丈夫だ。心配するな」

アスランはそんなシンに気づいたのかぽんっと頭を叩いた。




デスティニークエスト〜ザフト城〜





「ここでなんか食べててくれ」
アスランはそういうと1人でどこかへ消えて行った。
いったいどういう人なんだろう・・・
カガリはずっと疑問に思っていた。

悪い人ではなさそうだし、なにか裏のある人間にも見えない。
まぁ、自分がそこまで人を見る目があるとは思ってないが、とにかく悪い人には見えない。
だが、どうして私達と一緒に旅をしているんだろう。

彼もあの女性を助けたいのだろうか?
どうして・・・?

そりゃ助けてっていわれれば助けてあげなくちゃいけないと思うだろうけど・・・
彼には秘密にしていることがある。
それだけは妙に確信めいたものがあった。

「カガリ何食べる?」
「え・・あっと・・・・肉!」




「貴様・・どこへ行ったのかと思ったらこんなとこにいたのか」
銀髪を肩上まで伸ばした男がウンザリ顔で話している。
「・・・まぁ・・いろいろあって・・・」
相手はアスランだ。

「いいのか?こんなところにいて、いや、だからここにいるのか?」
アスランは男の言葉に眉をひそめる。

「ラクス皇女が魔王にさらわれたらしいな。1部の人間にしか伝わっていないみたいだが、俺も昨日聞いた」
「そうか・・・」
「ラクス皇女を助ける為にここにいるのか?」
助ける為・・・それもあるのかもしれない・・・
だが、俺はそのことよりも・・・

「イザークお前に頼みがある」

「なんだ?」
イザークはあからさまに嫌そうな顔をする。

「会って欲しい人物がいる。シン・アスカという少年だ。知っているか?」
その言葉を聞くとイザークは顔を輝かせた。
「来たのか!あいつが」
「・・・・?」
イザークの反応にアスランは腑に落ちない顔をした。

「父上がどこかの村に預けた少年だ。彼は天から授けられた希望の光らしい」

慈しみと愛をもってこの子を育てよ、
さすれば未来は開かれる。
それが天のお告げだった。

「意味は分からなかったが今、このときに現れたということはラクス皇女をこの世界を救う勇者だったということか!」

「勇者・・・」
アスランはそっと外を覗く。
そこからは城下町が一望できた。

「何かが変わるのか・・・何かを変えるのか・・・」

「・・・なんだ?」
イザークはアスランを見る。
「いや、とにかく頼んだぞ」
「ああ」

アスランは扉を開ける。
「おい!」
そんなアスランにイザークは声をかける。
「勇者が現れたのならお前はここにいる必要は無いだろ・・・いるべき場所に戻れ」
背中越しにその言葉を聞いたアスランは少し立ち止まった後、何もいわずその場を後にした。




「あ、アフラン」
戻ってくると、カガリは口に肉をめいいっぱいほう張り、声をかけた。
「カガリ・・・口に物入れてるときは話さなくていいから」
「ほうか?」
アスランはそんなカガリに軽く笑うと席へとつく。

「ついてる」
アスランは自分の頬を指差す。
「・・・つてないぞ?」
カガリは首をかしげアスランの指した場所を見た。
「じゃなくて、カガリについてる」

「ん・・」
ペロンと唇を舐める。
「違う。もっと下」
「ん」
「・・・違う・・・」
アスランはカガリの顔に近づくと、ペロッとカガリの顎をなめた。
「取れた」
「ありがと」
カガリは食事を再開する。

なんだこりゃぁぁぁぁぁぁ!?

シンは2人の横で真っ青な顔をしていた。
何でカガリは普通なんだ!?
おかしいだろ!男に舐められて平気って!?

カガリはぱくぱく肉を食べていたがふと思いついたように空を見る。
すると、顔がみるみる真っ赤に染まっていく。

あ、ゆでだこになった。
アスランはそんなことを思った。
「カガリどうしたんだ?」
「だっだってだってお前がっっ変なことするから・・っ」
変なこと?
変なことしたっけ?
カガリについてたのを・・・・

そこまで考えるとアスランの顔も真っ赤に染まっていく。

シンはそんな2人を石と化した体で見ていた。




「入ってくれ」
辺り一面には見たこともないような輝かしい装飾品。
シンはゆっくりと扉を開けた。


『話はつけてきた。すぐに面会できるはずだ』
『よし!じゃあいくか』
ごはんをお腹いっぱい食べたカガリはご機嫌で言った。
シンはその横でまだ石が抜けきっていなかった。
『じゃあ、待ってるから』

『アスランは行かないのか?』
『俺が行っても仕方ないだろ』
『カガリ行こう!』
シンはいきなり目覚めたのか、カガリを掴むと城へと向かっていった。




美しい銀髪にアイスブルーの瞳をもった男性。
王様っていうからもっとむつごいおじさんを想像していた。

「お前がシン・アスカか」
「は、はい!」
シンはとりあえず頭を下げる。
こんな場所での挨拶の仕方など知らない。

「お前が勇者なんだな・・・」
「あの・・・オレ・・正直言って分からないんです。両親に詳しい話を聞く間もなく別れちゃって・・・」
シンはジェスチャーをしながら言った。

「いや。お前だろう・・・」
イザークは真っ直ぐシンを見ている。

「天から贈られた勇者は漆黒の髪に燃えるような赤い瞳だということだ」
「それに身元もおかしくないようだしな」
イザークはギッ椅子を立つ。


「この世界はラクス皇女の力で保たれていることは知っているな」
「はい」
「そのラクス皇女が暗黒の力を持つ魔王にさらわれたのだ」

「「魔王!?」」
シンとカガリは同時に叫ぶ。
「もしかしてお姫様って桃色の髪をふわふわさせて・・・」
「会ったことがあるのか?」

「いえ、剣を見つけたときに現れたんです!助けてくれって!!」

アスランの言っていたことは本当だったんだ。
このことを言いたかったのだろうか?
ラクス皇女をさらったのが魔王で、オレはそれを倒しに行くのだと・・・

「ならばその剣は世界を救う光なのかもしれないな・・・」
イザークは目を外に移す。

「この国が平和でいられるのはラクス皇女のおかげだ。だが、それが危うくなっている。
お前は勇者としてこの国を救う気持ちはあるか?」
さきほどまで外に移されていた瞳は鋭くシンを突き刺していた。

「・・そのつもりで旅をしています。どこまでできるかわかりません、でもオレもこの国が好きです!」

言い切るシンにイザークはうれしそうに微笑んだ。

「これを渡しておこう」
イザークが差し出したのは1枚の紙。
カガリも隣でそれを見る。

「それがあればある程度の関所は通れるはずだ」

「あ!ありがとうございます!!」
シンは深々と礼をする。
それに合わせてカガリも礼をした。





『あなたにこれをお渡しします』

『ラクス・・これはなんですか?』

『この先あなたに必要となるものです』

『意味がよく・・・』

『私は以前から考えていました。このままで良いのかと。この世界は私を軸に回っています
そしてそれは・・いずれ私とあなたの子供へと引き継がれます』

『だからこそ世界は安泰しているのでしょう?』

ラクスは笑った。
何も言わず微笑んだ・・・
そしてその次の日、姿を消したのだ。

アスランは鈴を手に取るとじっとそれを見つめた。
「俺に何をしろっていうんだよ・・・」




「アスラン?」
「わっっっ」
アスランは転がるようにして起き上がった。
「どうしたんだ・・ぼーとして・・・」

「あ・・話は終わったのか?」
「ああ」
「向かうは魔王の暗黒魔城!!」
シンは遠くを指差しいった。

「アスラン、オレ強くなります!守りたい人を守れるように。
だからこの世界を救うんです。世界が無くなったら守りたい人すらいなくなるから!」

「そのためには?」
「魔王を倒す!」
シンとカガリは腕を組み飛び跳ねた。

俺も行こう・・・
そこで答えが見つかるはずだ・・・

ラクス、そうですよね・・・





あとがき
徐々にアスランの真実が(笑)
今回の挿絵、イザークを真面目に描いたのはこれが初めてな気がします。