「アスラン様、お帰りなさいませ」

「ラクスが戻ったというのは本当か?」
アスランは足を速め中に入る。
「はい、今 祭壇の間にいらっしゃいます」

・・・戻ったばかりなのに・・・?
それにしてもスッキリしない。
逃げて来たにしてはなんでここはこんなに穏やかなんだ?
相手は魔王、そう、やすやすとは・・・

アスランは祭壇の間に向かう前に自室へと戻る。
祭壇の間は神聖な場所、正式な服を着てでないと入ることは許されない。

アスランは掛けてある服を手に取り着替えた。

「祭壇の間へは1人で向かう。誰も来ないでくれ」

「かしこまりました」




デスティニークエスト〜映し鏡〜





ギィ・・・
重い音と共に扉が開く。
祭壇の前では座って手をあわせているラクスがいた。

ラクス・・・
アスランはゆっくりとラクスに歩み寄る。

「ラクス・・・」
「アスラン」
ラクスはアスランを見るとにっこりと笑った。

そんなラクスの態度にアスランは少し苛立ちを覚える。

「どういうことですか?魔王に攫われたのですよね?」
「ええ。逃げ出して来ましたの」

逃げ出す?
確かにラクスは頭もいいし、魔法も使える。
だが、相手が相手だ。
今目の前にいるラクスは傷1つない。

「説明していただけませんか」

「まぁ・・せっかちですのね。せめてわたくしの祈りの歌が終わるまでお待ちくださいません?」
祈りの歌。
それはこの世界を平和へと導く、光。
ラクスのこの歌があるからこそこの世界は生きている。


アスランは黙り1歩下がる。

それを見たラクスは瞳を閉じ、歌を歌い始める。



『生まれてきた日に抱きしめてくれた
優しいあの手を探してる
祈りの歌声1つ消えて
また始まる頼りなく切なく続く
いつか緑の朝へすべての夜を越えて』

ラクスの歌が部屋の中に響く。
ラクスはこの歌を1日10回は歌っている。
そのおかげで今という世界はあったのだ。

     私は以前から考えていました。このままで良いのかと。この世界は私を軸に回っています
     そしてそれは・・いずれ私とあなたの子供へと引き継がれます

アスランの頭にいなくなる前日、ラクスが言った言葉が蘇る。
このままで良いのかと・・・
そう言ったラクスの表情は硬く、苦しんでいるようにみえた。
なのに、彼女は歌っている。
あれはなんだったんだ?

それにいつもと何かが違う・・・
空気?


『それはただ 1人づつ見つけていく場所だから
今はただこの胸であなたを暖めたい
懐かしくまだ遠い安らぎのために』

「ラクス・・・」
アスランは歌を中断させた。

「あなたは言いましたよね。このままでいいのかと・・・なのになぜ歌うのです?」

ラクスは歌を止め、祭壇を見上げる。
祭壇には天の神、地の神が崇められている。

「ええ、このままではいけません」
「・・・・・・ラクス?」

「私はこの世界を根本から変えたいのです」
ラクスは立ち上がるとアスランに向いた。

その瞳は今まで見てきたラクスの慈しみに満ちたものではなく・・・

「ラクス皇女を必要としない。デュランダル様が築く世界へと」
殺気に満ちた瞳・・・

「お前は誰だ・・?」
アスランは後ろ手に鈴を握る。
別人・・・だが、姿はどう見てもラクスだ。

「私はデュランダル様の側近・・いえ、同じ命をもつ者・・・私の命はデュランダル様のためにあるの」
「なぜここに来た・・ラクスは・・」

「お姫様なら眠ってるわ。一生」
少女はアスランを睨みつけるようにして前に立つ。

「もうここには用はないの、済んだから」
「・・・え?」

ガララガッッッ

そのとき、轟音と共に、祭壇が崩れ落ちる。
天の神、地の神が崩れ落ちた。

「おまえっっ」
アスランは剣を握りしめた。

「あらあら」
少女は花びらを飛ばす。

「何だ!?」
「目くらまし、綺麗でしょ。ふふ・・・遊んであげてもいいけど、ゆっくりもしていられないの」
そういうと、少女の体はピンクの花びらに包まれる。

「おい!まてっっっ」
アスランの声も虚しく、散り落ちた花びらだけがそこには残っていた。






「ラクスが歌えば希望に満ちて〜 私が歌えば・・・・」
王座の間で少女は歌う。

立派な椅子に腰をかけ足をぶらぶらしている。

「よくやってくれたね」
「デュランダル!」
横から聞こえてきた声に少女は目を輝かせる。

「ねぇ、あれを壊して世界は大丈夫なの?」
「ああ、あれはただの形。ラクス皇女が存在していれば十分だ」
「でもぉ〜」
「結界を張る程度の力はあるからね。ありがとう、君のおかげで助かったよ」
「ミーアって呼んで!」

「・・ミーア助かったよ・・・さすがにあそこまでは我々では入れないからね」
ミーアは満足そうに微笑んだ。

「あと、あのキラって子大丈夫なの?」
「キラ・・か・・・」
「なんかいっつも暗い顔してて見てるこっちまで嫌になっちゃう。毎日ラクスのところに入り浸りだし」

「彼は可哀相な子なんだよ。魔物に襲われ1人になってしまった。助けたいとは思わないかい?」

「私は面倒だからいや!助けてくれる人なんていないもの」
「おいおい」
「デュランダルだけは別よ!信じてるわ。私を救ってくれたんだもの!」
ミーアは椅子からぴょんと立ちあがる。

「だからあなたの為なら何でもしてあげる。いくらでも歌を歌ってあげる・・・たとえ・・」
この身が無くなったとしても・・・


「そういえばユウナを送り込んだのだがどうなったかな・・・」
「やだ!あんなの送ったの!?」

「あれじゃあ殺すどころか足止めにもなりはしないわよ」
ミーアは怒ったように近くにあった飴を口に放り込む。




「なんでついてくるんだよ!」
シンは勢いよく後ろを振り返り言った。
そこには先ほどまで戦っていた相手、ユウナがいた。

「だって・・僕まで負けたって魔王のところに帰ったら・・どうなるか分からないじゃないか・・」

「そんなの知ったことかよ!」
シンは前に向き直ると再び歩き始める。

ユウナはそれでもひたひたとついてくる。

「なぁ・・・シン・・・」
カガリはシンを何か言いたそうに見た。
「・・・・・・・・」
シンはそんなカガリを見てはぁ・・っとため息をついた。




「あれだ、あそこがアークエンジェル」
レイが前を指差す。
そこには木造でできた建物がところ狭しと並んでいた。

「アークエンジェルに何があるんだい?」
「ミリィって情報屋がいるんだ」

「っていうか、何で暗黒魔城の場所を知らないんだよ。お前あいつの仲間なんだろ?」
「暗黒魔城には魔王に忠誠を誓い、尚且つ魔王に認められた奴しかいけないんだよ」
ユウナはちっちっと指を動かす。

「僕は忠誠を誓うって考えはないからね」
「だろうな、陣営変えてるもんな。こっちだっていつ裏切られるかわかんないぞ」
「やだなぁ・・裏切ったりしないよ〜」

とっても信用できない。

カガリが可哀相だから仲間にしてやらないかって目で見るからついてくることは許したけど、
どうもいけ好かない・・・っていうか、

「何カガリの肩に手を置いてんだよ!!」
「スキンシップ」
シンはユウナの手を払いのける。

「カガリ、君は僕を助けてくれたんだね・・うれしいよ・・」
カガリを見つめるユウナ。
「死んだら後味悪いだろ」
うっとおしいと、眉をゆがめるカガリ。

何でこいつはべたべたしてくるんだ?暑苦しい。



なんか・・・1人増えてる気がする・・・。

アークエンジェルの街前でなにやら揉めているように見える人影。

黒髪はシン、蜜色はカガリ、金色はレイ。
あの紫色は何だ?

アスランは小さく見える人影に胸騒ぎを覚える。
足を速め、アークエンジェルへと向かう。


『アスラン様どういたしました?』

祭壇の間での騒ぎを聞きつけ、人が集まってきた。
扉越しにでも分かる、崩壊感。

『ここには誰も立ち入るな。そしてこのことは他言無用だ』
アスランは扉を開け外へでる。
その隙間から見える、信じられない光景。

アスランはそれだけ言うとまた旅支度を始める。

ラクスは生きている・・・
やはり暗黒魔城に行かなくては何も解けはしない。

アスランはその想いを胸にアークエンジェルへと向かったのだ。


そして今。

「カガリ、僕は魔物が仲間にできるんだ。今度竜でも捕まえて一緒にどこか行こうか」
女ったらし、ユウナはその言葉がぴったりだった。
「別に興味ない」
「そんなこと言わずに〜」
ユウナはまたもやカガリの肩に手を置く。
いや、置こうとしたのだが、それが何かに阻まれる。


「何だお前?」
「アスラン!!」
カガリはユウナの後ろにアスランの姿を見つけると、うれしそうに笑った。

「早かったんだな!用事はすんだのか?」
「ああ。また一緒だ」

カガリはその言葉にふふん、と、うれしそうにした。
「お帰り!」
シンも安心したように言う。

居場所・・というのか、
アスランは初めての感情を抱いていた。
レイはまだ会って間もないのでそうでもないが、シンとカガリの元へ戻る。
それはなぜか安心する行為だった。
あちらに戻っている間もふっと2人の顔が浮かんでくるのだ。
魔物に遭っていないだろうか?
怪我はしていないだろうか・・・

なぜ気になるのか・・・。

情がわいたのか?

そう思っていると、掴んでいた誰かの手がアスランの手を跳ね除けるように外れた。

「なんなんだよ!お前!」
ユウナはアスランを睨みつける。
「俺からしたらお前の方がなんなのか分からないんだが」

「アスラン、こいつ魔王の手下らしいんだ」
シンがアスランの前に立つ。
「は?」
だよな・・・そういうに決まってる・・・
「その・・・こいつ弱くてさ・・・魔王のところに戻ったら殺されるかもしれないんだ・・・だから・・」

だから一緒にいると?
敵なのに。
アスランは顔をしかめる。
だが、ふとカガリの顔を見てしまった。
そこにはすまなそうにしながらも願いを込めたカガリの顔。

「・・・・・・・・・・・・・・・・勝手にしろ・・・」

「「ありがとう!」」
カガリとシンはうれしそうに言った。

「アスラン、アスラン」
カガリはくいっとアスランの服を引っ張る。
「なんだ?」
「私・・・攻撃魔法使えたんだ・・・いろいろ試したらバギとかメラとか・・・」
なぜか恥ずかしそうに言うカガリ。
アスランはそんなカガリにふっと笑う。
「良かったな」
「ああ!」

「そろそろ中に入りませんか?」
レイの声がかかる。
「あ、そうだな・・」
アスランはレイの言葉にアークエンジェルの街を見上げる。

「田舎物だ〜」
シンがちゃかすように言った。
アスランは少し・・・悲しそうに笑った。

その表情がカガリの心に不思議と焼きついていた・・・





あとがき
ミーアがぷち本格始動(笑)
ミーアも重要なキャラでございます。
いや・・どれも重要かなぁ・・・?
キラとラクスの関係は全くもって謎ですね。。