「ミリィ?さっき武器屋のほうで見かけたぞ」

「ミリィだったらさっき出て行ったところだよ」

「ミリィは、酒場に行くって」

「ミリィはじっとしていられないのか!!」
シンは両手をきつく握り振り下げる。

先ほどからアークエンジェルの街をぐるぐる回っている気がする。
酒場といえば一番最初に寄ったところだ。

「情報屋なんだろ、情報集めに走り回ってるんじゃないのかい?」
ユウナはのん気に言った。
それもそのはず、
「僕は待ってるよ」
といって、酒場のカウンターで1人休憩していたのだから。

「とにかく、ここでミリィがいなかったら動かない方がいいかもしれないな・・・」
アスランはそう言うと辺りを見回した。

「しつこいわね!」
酒場に若い女の子の威勢のいい声が響く。
「だから情報やるから酒ぐらいついでくれてもいいだろ〜」
どうやら絡まれているらしい。
カガリのときといい、飲むやつにろくなのはいないな・・・
アスランはため息をつく。

「嫌がってるだろ!」
その時、なぜかカガリの威勢のいい声が響いた。
「カガリ!?」
先に声を発したのはシン。
その方向に目線をやると、絡まれていたであろう少女をカガリが庇うようにして立っている。

「あのバカ・・・」
軽く舌打ちすると、アスランはカガリの方へ向かう。




デスティニークエスト〜情報屋〜






「お、あんたでもいいぞ。ほら注いでくれよ」
男はカガリに顔を近付けると、グラスを差し出した。

うっ酒臭いっっ
カガリは思わず息を止める。
「ほら」
男はかまわずグラスを差し出す。
「嫌だって言ってんだろ!飲んだくれてんじゃないぞ!」
なんだか前にもあったような光景だ。

「ああ?可愛くねぇ女だなぁっっ男かお前?」
屈辱的な言葉、カガリは顔がカッとなるのを感じた。
が、その瞬間、カガリの目の前から男が姿を消した。

え・・・?
カガリは目をパチパチさせる。


そこには倒れた男と割れたグラス。


「消えろ」
アスランは男を見下ろすと冷たく言った。
「なっっ」
男は状況が分かっていないのか、言葉にならない声を出す。

「マスター、すみません。グラスや壊れたものは弁償します」
アスランはマスターに向くとペコリと頭を下げる。
その態度を見たマスターは
「おやっさん、今日は帰ってくれ。すまないな」
と、男に言う。
しぶしぶながら男は酒場を後にした。


酒場にいた人々はボーゼンとしている。
そんな中、アスランは割れたコップの破片を拾い始める。
「あっ私も・・・っ」
カガリは慌てたようにしゃがみこむが、
「怪我すると危ないから」
と、アスランがそれを断る。

「いいよ。俺たちがやるから」
シンは前に出ると、アスランに破片を入れる入れ物を差し出す。
レイもそれに続いた。

ユウナは・・というと、横目でこちらを見ているだけだった。

「ごめんなさいね。私を助けようとしてくれたせいで・・」
驚いたように一部始終を見ていた少女が言う。
「いやいいんだ。私が勝手にしたことなんだし」
「ね、お礼に何かおごるわ、私ミリィっていうの」

「「「ミリィ!?」」」
今助けた少女が自分達が捜し求めていた人だと知り、驚きの声を上げる。




栗色の髪にクリクリとした瞳。
歳は・・・カガリと同じくらいだろうか・・・
腕のいい情報屋というからこんなに若い子だとは思っていなかったかガリはじーっと少女を見つめる。
「なぁに?」
にこりと返すミリィ。
「いや・・驚いて・・・」
「そうよね。こんなに若い・・ううん、子供だとは思わなかったでしょ」
「あー・・いや・・・」
シンは失礼な気がして否定する。

注文した飲み物が運ばれてくる。
ミリィはそれに手をつけると話し始めた。

「情報屋っていっても半分趣味みたいなものなの。この世界について知りたかったから・・・・」
何が知りたいんだろう・・・
シンはミリィをマジマジと見る。

「プラント城にいるラクス皇女」
ミリィのその言葉にアスラン、カガリ、シンの体が反応する。
「なんていうのかな・・・それがどうって訳じゃないんだけど、気にならない?」
「・・何がだ?」
カガリは聞き返す。

「この国はラクス皇女の歌で平穏が保たれてるでしょ。でもそれって・・・おかしくない?」

何がおかしいのか・・・
アスランはミリィの言葉に聞き入る。

「だって、歌わなくなるとこの国がなくなるなんて・・考えられる?」

この国に住むもの、すべての人間が幼い頃から聞かせられる言葉がある。

この世界はプラント城にいる姫様の歌で守られている。
もしその歌が歌えなくなると、この世界は崩壊へと向かうだろう。
その先には暗闇しかない。
人々は生きていけない。

「だが、今の平和があるのはその歌のおかげなのだろう?」
アスランはミリィに言った。
「確かに18年前、前皇女様が無くなり、子供が幼すぎたせいで歌を歌えない期間があったわ。
そのときは異常気象や争いごとが多くあった。だけど、歌のせいなのかは分からないじゃない」

18年前、ラクス皇女が生まれて間なしの頃、前皇女がなくなった。
そのときラクス皇女は生まれて3ヶ月、歌を歌えるわけが無い。
その間、今まではなかった争いごとが何度もあった。
だが、ラクス皇女が歌を歌いだすと、それは無くなり、世界は平和に溢れいったのだ。

「別に不満とかそういうことじゃないの。ただ、何がどうなってこうなってるのか・・・
それが知りたくなって各地を周って行ったらいつの間にか情報屋って呼ばれるようになってたのよ」

「俺には分からない。それがなんなんだ?今までだってそれで」
アスランは少し厳しい表情で言い返す。
「分からないで終わらせられるのならいいのよ」
ミリィはそんなアスランの表情を軽く受け流す。

「だけど、私は知りたかった。だから旅にでたの」

知りたい・・・
そうだ俺もそのために旅に出たんだ・・・
ラクス本当の心が知りたい。
何を伝えようとしていたのか・・・・

「俺分かります!!」
シンはミリィに詰め寄るようにした。
「俺も知りたかったんだ。何ができるのか、何をしないといけないのか・・そのためには動くしかない、
前に進むしかないって思ったんだ!」
シンの迫力にミリィは目をぱちくりさせるが、すぐに微笑む。

「あら見た目よりしっかりしてるのね」
「それは余計だ」
シンはむっとふくれる。

「で、私になにが聞きたいの?」
「ラクス皇女・・・」
アスランが呟く。

「ああ・・」
ミリィは何かを察したように頷く。
「攫われたらしいわね・・・」
さすがだ・・・
アスランは感心した。
一般の少女がこんな情報を持っているなんて・・・
このことはほんとに極秘にされていて1部の人間しか知らない。

「オレ達その人を救うために旅をしてるんだ。暗黒魔城っていうのを探してるんだけど・・・」
シンの横でカガリもうんうんと頷く。

ミリィはシンを見てにっと笑う。
「ちょうどいい情報を手に入れてたのよね!」
といいながら指を5本立てる。

「それでいい」
アスランは答えた。
シンとカガリは訳が分からない。
「アスラン・・・なんなんだ・・?」
シンは不思議そうに聞き返す。
「やだ。お金に決まってるじゃない、私は情報屋!これで暮らしてるんだから!」
なるほど。
それはそうだ。
シンはきょとんとしながらも納得していた。

「えっと・・・」
ミリィはポケットの中から1枚の地図を取り出すとそれをテーブルの上に開いた。

「今私達がいるのはここ、アークエンジェル」
ミリィは地図上を指差す。

「魔物がよく出没してるって聞くのが赤丸をつけてるところよ」

地図上には転々と赤い丸が付けられていた。
「それがどう関係あるんだ?」
シンはその丸をじっと見つめる。
「あ・・・」
その時カガリが声を上げる。

「ほら、これ・・・」
カガリは地図の赤丸を指で繋いでいく。
その赤丸はどこかに向かっているように見える。
一見ばらばらな位置だが、ある程度それを方向的にまとめ、線で繋ぐと1つの地点へと集まるのだ。

「ここ・・・・」
「かなり遠いですね。砂漠を超え、氷の世界を超え・・・」
レイが話す。

うわっっレイの声久しぶりに聞いた気がする。
なんてシンはバカなことを思った。

「これは・・・・・裏・・?」
「?アスラン?」
何が裏なのだろう・・・
カガリはアスランを見つめる。

この世界は平面ではなく、丸い、球状になっていると聞いたことがある。
この距離・・・
平面的な地図をアスランは丸める。

やはり・・・・
この指し示された場所はプラント城の真裏だ・・・・

だからどうということはないが・・・少し気になるな・・・・

「アスラン、何か分かったのか?」

アスランはいつも1人で考え込んでいる。
シンは思った。
頼りになるし、すごく強い。だからついつい自分達は甘えてしまっている。
だが、オレだってアスランの力になりたいし・・・助け合いたい。
いつまでも一方的な援助なんて嫌だ・・・
って・・お金援助してもらっててそんな偉そうなこと言えないよな・・・
はぁ・・とシンはため息をついた。

「わっ」
ふとシンが上を向くと、アスランがじっとこっちを見ていた。
「どうかしたのか?」
「あ・・いや・・その・・・」

「とにかく・・・あっと・・・・」
ミリィはカガリを見て言葉に詰まる。
「カガリだ」
「カガリの言ったとおり、ここに何かあると思うのが普通よね」
「アスランすごい収穫だな!」
「ああ」

レイがすっとある地点を指差した。
「この辺りは本当に危ないらしい。大丈夫ですか?」
レイが指差したのは砂漠の地域。

そういえば・・・
アスランは考える。
足元がおぼつかない上に盗賊が出る。
それに魔物から隠れる場所も少ないだろう・・・
それに・・・水がない。

アスランはカガリを見る。

女の子には・・きつそうだな・・・。

「なんだよ。私は行くぞ」
カガリはすぐさま答えた。

「私だって知りたい、自分に何ができるのか・・・このままだったら世界はダメになっちゃうんだろ?
だったら自分にできることをしたい」

カガリもオレと同じ気持ちなんだ・・・
シンは想いのこもった瞳を向ける。

俺のせいでこんなことになっちゃって・・
本当だったら今だってオーブ村で幸せに暮らしていたかもしれない。
守ると決めてもそれ以前の問題だ。
だけど、カガリは俺と同じ気持ちでいるんだ・・・

したい。自分でできることを・・・
泣いてでも叫んででも苦しんでも前に進みたい。
それがオレにとっての未来。
願いなんだ。

「レイとはここでお別れだな」
アスランの言葉にシンはハッとレイを見る。

そうだ、アークエンジェルまでの約束だったんだ・・・
アスランのいない戦いの中、レイはとても頼りになった。
自分が未熟だから・・・

「はい。申し訳ありませんが・・・」
「いや、いいんだ。俺も後はずっと一緒にいるし・・・」
アスランはシンとカガリを見る。
目的ははっきりしたんだ。
あとは暗黒魔城に行くだけ。

「必要なものを買ってくる」
アスランは席を立つ、と、シンも
「俺も行きます」
と、席を立つ。
「じゃあカガリはここでおしゃべりでもしてましょう」
ミリィは言った。
「え・・うん・・」

レイは黙ったまま席を立つ。
「行くのか・・・?」
シンが寂しそうに声をかけた。

「ああ」
「ありがとな・・助かったよ」
シンは手を差し出した。
レイはそれをじっと見つめていたが自らも手を差し出す。
「いや」
アスランもカガリもレイにお辞儀をした。




「ねぇ・・あのアスランって人カガリの何?」
3人が酒場から姿を消すとミリィが興味津々の顔で聞いてきた。
「仲間だ。すごく頼りになる!」
カガリはすぐに答える。

仲間・・・だけど、あの時・・・
カガリを酔っ払いから助けたときの彼・・・
「私勘もいいのよね〜」
ミリィはにっと笑う。
「何だ?」
「ふふ。気付いてないのならいいけど」
少しこの先が楽しみだったりして・・
ミリィはそんなことを思った。

それにしてもあのアスランって人・・・どっかで見たことあるのよねぇ・・・
思い出せないけど。




一方アスランとシンは・・・

「アスランどこに行ってたんだ・・?」
街を歩きながらシンは聞く。
「・・・・・・・」
アスランは答えない。

「オレ・・アスランを信用してるよ。
いえないことがあるんだったら仕方ないと思う。だけど、オレをオレ達のことも信用してほしいんだ」

アスランは思わず歩みを止めた。

「非力で・・頼りないかもしれないけど、困ったことがあったら言って欲しい・・・」
アスランはときどき・・すごく難しそうな顔をしている。
そんなときオレはいつも声をかけられないでいた。
かけたって・・・オレが力になれるとは思えなかった・・・。

真面目な顔をして話すシンに驚いた表情をしていたアスランだが、その表情はすぐに柔らかかくなる。

「すまない・・・心配かけたな」
アスランはぐしゃっとシンの頭を撫でる。
シンは子ども扱いされたみたいで少しむっとしたが、それでもアスランの表情は自分の意見を受け入れてくれたのだと
思うとうれしい・・気がした。


「な、アスランオレ気になってることがあるんだけど」
「なんだ?」
りんっとシンは鈴を出す。

「これ・・・変わってるよな・・?」
最初はすごいという気持ちばかりで深く考えていなかったが、鈴が剣になるなんて話聞いたことがない。
いままで通ってきた街でもそんなものは売っていなかった。

なのにその剣が2つもここにある。
なにか意味があるのだろうか・・・・

「俺はそれをある人からもらった。どんな意味が込められているのか・・・これがなんなのか・・
それは俺にも分からない」

「そっか・・・」
シンはじっと鈴を見つめる。

「なぁ、アスランお願いがあるんだ」
アスランはそんなシンを見つめていた。
「オレ頑張るけど・・だけど、もしオレに何かあったらカガリを頼むな」
負ける気はない。
絶対オーブに帰るんだって気持ちはある・・だけど・・・

「安心しろ」
アスランはそれに短く返す。
そこにはカガリを守るということもシンを守るということも含まれていた。

「ありがと」
シンは小さく呟いた。





あとがき
ユウナオール無視(笑) たいした役目でないのがばればれですね〜。