「レイ、ご苦労だったな」
デュランダルは椅子に座り、膝を立て膝まつくレイを見て言った。
その横ではミーアがレイを見下ろしていた。

「はい。仰せの通り接触してきました」
「で・・どうだった?」
レイは顔を上げる。
「勇者の一行を前に彼らを占ってみたのですが、誰1人のことも見えませんでした」

デュランダルは椅子に肘を立て頬杖をつく。
「そうか・・・あの水晶はラクス皇女の力を得ているから大丈夫だと思ったのだが・・・」
「申し訳ありません」
「いや、気にしないでくれ。それほどまでに彼の力がすごいということなのだろう」

「伝説の勇者ね・・」
ミーアが呟く。

「しかし一緒にいたものすべて占えないというのも気になるな・・・」
勇者だけならいざ知らず・・・
デュランダルは考え込む。
「青年が2人に少女が1人でした。あと、ユウナが奴らについたようですが・・・」
「ああ、そうか・・まあいいだろう」
デュランダルは軽く笑った。

レイはデュランダルを強い瞳で見る。

「・・・・なぜ私に始末を言いつけにならなかったのですか?」
自分だったら奴らを殺すことができる。
勇者が誰か分からないのならあそこにいた全てを俺が殺せばよかったのだ。
なのにどうも信用できない奴らばかりを送り込む。
レイにはデュランダルの考えが理解できなかった。

「レイ、私は思うのだよ・・」
デュランダルは相変わらずの表情で語る。

「人は何をすべきかそれを知らないといけない・・・とね」
レイはじっとデュランダルを見る。

「勇者の彼もここへ向かうことが定められた運命だろう・・・だが、現状は常に変化している
私はラクス皇女を拘束した、だが世界はそれでも回っているだろうそれはなぜだね?」

「・・・彼女が生きているからですか?」

「あの子が死んだらこの世界はなくなるの?」
「さてね・・それは誰も試したことがない」

「・・・殺しちゃえばいいのよ・・・・」
ミーアは掴んだ椅子をきつく掴む。
「ミーア・・」
それはできない・・といったデュランダルの声色。

「だって!私でもいいじゃない!私も同じだもの!!」

声を荒げるミーアにデュランダルは落ち着かせるよう微笑みかける。
それを見たミーアはぐっと怒りを堪えた。

「勇者が彼女を助けたとしてそれからどうなる?」
デュランダルはレイに向き直ると話を続ける。

「前と同じ世界が繰り返されるだけだ。
前と同じようにこの世界は回り、彼女の歌が世界を支える。では、役目を終えた勇者はどうなる?」

「・・・以前と同じように暮らすのではないのですか?」
彼はそう言った。
オーブに戻り前と同じように暮らすと・・・
そうではないのだろうか・・・

「レイ、1度違う生き方を見つけるとそうそう元には戻れないのだよ」
見透かしたようなデュランダルの瞳がレイを指す。

「彼はそれを知らずにここへ向かっている。可哀相だとは思わないか?」

「可哀相ですか?」

「・・・ラクスなんかに使われてるんだもの可哀相に決まってるじゃない」
ミーアは先ほどの怒りが収まっていないようでつんっとそっぽを向いている。

「ここいいる者たちはみんな行き場をなくし、彷徨ったものばかりだ。
だがここでは役目を与えられそれを糧に生きている」

「全ての人にそうして生きてもらいたいのだよ」

「決して変わることのない、その人の行くべき道を私が指し示し、与える」
デュランダルは右手を差し出す。
誰かを救うかのように・・・
ミーアはそれをうれしそうに見ていた。

それが・・・・彼の創ろうとしている世界・・・・
全ての人が必要とされ、失うことのない存在を与えられる。

自分がそれによってどれだけ救われたか。
死ぬことも考えられず、生きる意味も分からない俺をギルは助けてくれた。
育ててくれた。
差し伸べられた手は俺にとって唯一のすがれるものだった。
「私は彼を助けたいのだよ。ここへ訪れても彼は行き場を失うだけだ。
ならば私が新しい居場所を造ってあげたいのだよ・・・」


彼の目指す未来は誰もが必要とされる世界だ。




デスティニークエスト〜光の中〜





「じゃあ何かあったらまた呼んでね!」
「呼んでっていっても・・」
シンは苦笑いをする。
占ってくれるレイはもういないし、進むべき道は決まった、戻らなければならないのなら
会うことは出来ないだろう。

「おやおや、勇者ご一行様は何もできないんだね〜」

「「「・・・いたのか・・・」」」
3人の声が重なる。
「いたよ!」
ユウナはそんな突っ込みに怒ったように返す。
「で、お前はなんかいい方法があるのか?」

「ふふ。もちろんだよ」
ユウナは片手を高く掲げる。
すると、太陽を背に何かが降りてくる。

「・・・何か・・・降りて・・・・・・・」
シンの眩しそうな瞳が固まった。
「落ちてくる!!!!!」
そう叫ぶと、シンは隣にいたカガリをアスランはミリィを掴むとその場を跳ぶようにして離れる。

その直後。

ズゴォォォォォンッッ
という、地鳴りのような音が辺り一面に響いた。

「っっっってめ!魔物呼ぶなら考えて呼べよ!」
「ああ、すまない。僕に危害はないからね」

自分が良ければいいのかよ!
シンはユウナを連れて行くことにしたのを後悔した。

「さてお嬢さん」
「は?」
ユウナはミリィに近づくと肩に乗っている鳥をすっと見せる。

「この子を君が連れていけば君の居場所が僕には分かるんだ。それに手紙のやり取りぐらいならできるしね」
「いや」
ミリィは即答した。
「・・・・・・・」
ユウナは思いっきり顔をぴくぴく引きつらせている。
「だって、私世話できないもの」
つんっと顔を背けるミリィ。

「・・・お願いできないかな・・・?」
そこにカガリが前に出た。
ミリィはカガリを見る。

「・・・ミリィの情報網はすごいと思うんだ。できれば協力して欲しい・・・・」
すまなそうにミリィを見るカガリ。
ミリィは大きく肩を上下し笑う。
「仕方ないわね!私だってあなた達のこと気になるし、私の求めていた答えがそこにあるのかもしれない」
「じゃあ・・・」
「ほら・・おいで・・・」
ユウナの肩から呼ぶようにして鳥を肩に乗せる。
少し大きめのその鳥・・魔物はすぐにミリィの頬に顔をすり寄せる。
「あ・・かわいい・・・」
思わず呟く。

「当たり前だろ僕の・・」
「何か知りたいことがあったら言ってちょうだいね。私にできることだったら協力するわ」
ミリィはユウナを無視して言った。


「ありがとう・・・」
「あなた達!」
ミリィはシンとアスランに勢いよく向いた。
2人は思わず姿勢を正す。
「カガリをちゃんと守ってあげなさいよ!」

「言われなくても」
シンは分かってる!と強い瞳を返す。
アスランはにこりと微笑んだ。
それを見たミリィは安心した表情になる。
「カガリ、辛いときはちゃんと言うのよ。女の子なんだから」
「・・大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない!砂漠の地域は本当に危ないんだから・・・ね」
「・・・ああ、分かった・・・ミリィ」



4人はミリィの影を見送る。
「やだ・・・なに?」
ミリィは楽しそうに魔物とじゃれながら歩いている。
「はいはい」
よくは分からないが、ミリィと魔物はとても仲良しになったみたいだ。

「ユウナ・・・あれって魔物なんだろ?」
カガリはミリィを見ながら言う。
「そうだよ。でも僕が調教したからね・・いい性格になってるだろ?」

「どこ入ってるのよ!」
ミリィの怒鳴り声が聞こえる。
どうやら服の中に入り込んだらしい。

「へぇ・・・さすがユウナが調教しただけはあるな・・・」
シンは嫌味たっぷりで言う。
「全くだ」
アスランもユウナを見た。

「・・・・・うるさーい!」





てくてくてくてく・・・
4人はひたすら歩く。
「アスラン、ちゃんと合ってるのか?」
「合ってる」
「でも目印も何もないじゃないか」
「合ってる」
「・・・・」
シンはむっと口を膨らませる。
今、アスランとシンは機嫌が悪い。
歩き出したはいいが後ろから嫌な声が聞こえてくる。

「だから僕はね、そんなことないんだって教えてあげたんだ」
「・・・・・・」
声の主はユウナ。
その隣にはカガリ。

「誰だって自分が可愛いだろう〜だから僕は」
「ユウナ・・・ちゃんと前見て歩かないと危ないぞ」
ああ・・とユウナはカガリから視線を前に移す。

「でね」
それでもおしゃべりは終わらない。

「ユウナ!少しは黙れよ・・・」
シンはウンザリ顔だった。
ユウナは街を出てからずっとカガリに話しかけている。
先は長いんだ。
そんなことしてたらカガリだって疲れる。
現にカガリもウンザリ顔だった。

悪い奴ではなさそうだけど・・・なんでこんなに元気なんだ?
カガリはシンを睨みつけているユウナを見る。
「なぁ、お前どうして魔王の仲間になったんだ?」
「それは魔王が僕の力を」
「んなわけないだろ」
シンはユウナの言葉を遮る。
「お前〜〜」

「うるさい。ユウナ」
喧嘩をはじめそうになったシンとユウナをアスランが鋭い声で止める。

「敵のことを知っておくのは大事なことだ。お前はもう裏切ったんだ。ならこちらに協力した方がためになるだろ」
そうはいいつつ、ユウナがそれほどの情報を持ってるとは思えない。
この性格だ。相手も信用などしていなかっただろう。

「僕は何も知らないよ」
「なんかあるだろ!」
喧嘩腰なシン。
「ユウナ・・・」
アスランは言葉と同じように鋭い表情をユウナに向ける。

ユウナはそれを見るとふっと鼻を鳴らす。
「君達の事だって水晶で命令を受けたからね」

「水晶・・・?」
「これだよ」
ユウナは服の中から小さな石を取り出す。
それは透き通るように輝き、光を放っていた。

「・・・・綺麗だな・・・」
カガリはそれに見入る。
なんだろう?
優しい光・・・見ているだけで安心するような・・・。

「これは・・・・」
アスランは驚いたようにその水晶を見た。
この光・・・ラクスが歌を歌うときに感じる暖かさと同じだ・・・

「ここから命令が下される」
「・・声がでてくるのか?」
シンは水晶を手に取ると下から上からそれを見る。
「いや、心の中に直に聞こえてくるんだ」

「テレパシー!?」
「さてね」
ユウナはふふっと笑う。

「じゃあこっちから呼びかけたらあいつ出てくるんじゃないか?」
「さあ?僕はしたことないから」
シンはごくんと唾を飲む。

「お・・・・おい魔王!悪いことするんならお前がでてこい!!!!!!」

キーンと耳に響くシンの馬鹿でかい声。
「ぎぃぃっっ」
カガリの口からは妙な声がでるくらい馬鹿でかい声。

しかし何も起こらない。

そりゃそうだよな・・・でて来るんならわざわざこいつら送ってこないだろうし・・・

「シン・・ちょっといいか・・?」
シンの行動をじっとみていたアスランが手を差し出す。
シンはすぐに水晶をアスランに手渡した。

それをじっと見つめるアスラン。

やはりラクスが歌うときに受ける印象と同じだ。
・・どういうことだ?
これはラクスに繋がってるのだろうか・・・?

「他に知っていることは?」
アスランはユウナを見る。
「そうだね・・・それを渡しに来た奴は女の子だったよ」

「あなたも必要とされませんか?っていってさ。まぁ、僕はすでに必要とされた人間だからどうでも良かったんだけどね、
面白そうだったから受け取ったのさ」
「・・どんな女の子だ?」
「さぁ・・声で女ってのは分かったけど深くフードを被ってたからね」

・・・・彼女か・・・?
ラクスと同じ顔をした少女・・・

「アスラン・・・」
シンが心配そうに覗きこむ。

「ああ、そうだな・・・えっと・・・」

困ったことがあったらいって欲しい。信用して欲しい。
シンは今もそう思って俺を心配してくれてるのだろう。
しかし・・なんと言ったらいいのか分からずアスランは口ごもる。

「この水晶、カガリが持っててくれるか?」
「え?オレじゃなくて?」
「お前は動き回るだろ?落としたら困るからな」
「へーい」
シンはうれしそうにそう言った。

「ほら」
アスランはカガリに水晶を差し出す。
「うん・・」
カガリはそっとアスランの手に自分の手を重ねそれを受け取る。

と・・・・水晶が眩い光を放つ。

「わっっっ」
カガリはぎゅっと瞳を閉じる。
アスランもなんだと細めで光の元を見る。
それは・・・先ほどの水晶・・・

水晶が一段と眩い光を放ち、目を開けていられなくなる。

「カガリッッ」
シンの声が聞こえる。
でも目が開けられない・・・・
カガリはぎゅっと瞳を閉じたままだった。




『貴方は・・誰?』

え・・・?

聞こえてくるのはシンの声でもアスランの声でもない・・・
女の人・・・?

カガリはゆっくりと瞳を開く。
そこに見えたのは何もない空間。

「あわわっっ」
下を見ると地面がない。
カガリは慌てて体を動かす、が、落ちることはなかった。
上も下も分からない・・・
体は立っているものの何もない空間では自分の位置さえ分からない。

『どなたですか・・・?』
後ろから聞こえる声にカガリは勢いよく振り向く。
そこに見えたのは・・・・

あのとき・・・シンと一緒に見た女の人・・・


「わた・・・私・・・あったことありますよね?剣から・・・」

『・・・・・あのときの・・・』

「私達あなたを助ける為に旅にでたんです!いま暗黒魔城に向かっているところで・・」

悲しそうな顔・・・
彼女はひどい目にあってるんだろうか・・・?

「急いで行きますから!だから・・・っっ」

『ここは私の祈りの空間・・誰も入ってこられる筈がないのですが・・・』

「・・・え・・?」

『今の私はここで祈ることしかできません・・・・外はどうですか?』

「・・・魔物がたくさん・・・います」

『祈るだけでは不十分なのでしょうね・・・』

「・・・・・ずっと・・・・歌っていたんですか?」

『はい。歌うこと、それが定められた運命なのです』

白い肌。
透き通るように綺麗だが決して健康的とはいえない。
私達が平和に暮らしている間、彼女はずっと歌い続けていたのだろうか・・・

それじゃあ・・・犠牲・・・

『カガリ・・・』
頭の中に誰かの声が響く。


シン?
アスラン?

意識が遠のいていく・・・
ダメだ・・私まだこの人と話したい。

「あの・・・ラクス皇女様・・・・・あ・・・」
そこにピンク色の輝きはない・・・



「カガリ!!!!」
その声と同時にカガリは瞳をパチッと開く。
すぐに見えたのは困ったような顔をしたアスランの瞳・・・

「カガリ!良かった!」
その横でシンがため息をついているのが見える。
「私・・・?」
「この水晶が光りだしてカガリは気を失ったんだ」
アスランが差し出したのは先ほどの水晶。

そうだ・・私・・・
「大丈夫か?」
アスランはカガリの背中にそっと手を当てる。
「ああ・・・」
何かあった訳でもないし、言っても余計混乱するだけだよな・・・。
「ね、寝不足だったのかなぁ?」
あははっとカガリは笑う。
「ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫」
カガリはぴょんと立ち上がる。


引っかかるのは彼女の表情。
悲しそうな顔・・・
歌えなくて悲しい?
でもそんな風に見えなかった・・・
もっと大きな何か・・・




「またきちゃったな・・・」
キラは水晶の前で立ち止まる。
「もうすぐ・・ミーアが歌うよ・・・それで世界は変わるんだって・・・」

君はここにいるのに・・・
歌うのは君なのに・・・
「君も大変な運命を背負ったんだね」

いや、人はそれぞれ大きな運命を背負っている。
だけど・・・
彼が世界を変えたら君も変わるのかな・・?

不安を感じ欲を求める運命から・・・安心して不安のない世界へと・・・
何をする気なのかは分からない・・・だけど・・・

僕のこの不安な気持ちも無くなるのだろうか・・・?





あとがきなし(笑) うそです。
っていいますか・・・ちょっと小難しくて私も困ります。
どうしても本編と絡ませちゃうんですよね・・・
思い切って悪の親玉にすれば楽なのに・・・(泣)
いつ完結するんだろう・・・・