オーブ国にある集団墓地、そのに1人の少女が佇んでいた。
ただお墓を見つめ、泣くでもなく、花を添えるわけでもない。
無表情でそこに立っていた。
周りには同じお墓が一面に広がっている。

私は・・・どうすればいいんだろう・・・・
1人ぼっちになって、どこに行けばいいのかも何をすればいいのかも分からない。

彼女の名は『カガリ・ユラ・アスハ』
そして彼女の目の前にあるお墓は彼女の両親のものであった。
オーブ国では戦争が多発しており、彼女の両親も被害者だった。

私なんか庇うから・・・
1人取り残されるぐらいなら一緒に死んだ方が幸せだった!!




夢の先〜絶望の階段〜






カガリの肩にぽつり・・と雫がおちる。
空は天地異変のようにどす黒くなる。スコールだ。
雫は服に軽いシミを作る。
そのシミは徐々に広がっていく・・・泣かない彼女の代わりに泣くかのように。
カガリは軽く空を見上げると、ゆっくりと近くの森へ歩き始めた。
森についた頃には雨はかなりの勢いを増していた。
カガリは近くにある大きな大木の下に腰を下ろす。
しかし、表情は先ほどのまま何も感じられない。

『カガリ!!早く!!』
『でもっっお父様とお母様は!?』
『他の場所へ避難するから大丈夫だよ』
『カガリ、いい子でここにいるのよ』

「おと・・・・さま・・・」
搾り出すように声を出す。

死にたい!!!1人でどうすればいいの!?
カガリはぎゅっと拳を握り締める。
辺りはスコールのせいか地に響くような雨音と冷たい風が吹いている。
このまま眠ったら死ねるかな・・?
カガリはそんなことを考えながらゆっくりと横になった。
オーブ国は1年中暖かい日が多い。
だが、スコールが訪れると、その陽気は消え去り、まるで地の底に来たような気候になる。
雨に打たれ濡れたままそこにいれば凍死してしまう事だってあるのだ。

このまま・・・・
カガリは大木の下で横になり、ゆっくりと目を閉じた。
彼女の体はここに来るまでの間にかなり濡れていた。体も小刻みに震えている。
眠ったらお父様やお母様のところにいけるかな・・?
カガリはゆっくりと意識が遠のいていくのを感じた。

そのとき物凄い轟音が響き渡る。
「なんだ!?」
カガリは思わず体を起こした。
戦闘がはじまったのか!?
辺りを見回すと、少しはなれたところに赤い炎が見える。
「ど・・どうしよう・・・」
言いながらカガリは辺りを見回す。
あれ?
そのときカガリは妙な感覚に襲われる。
雨・・止んでる・・?
辺り真っ暗だ・・・そんなに眠ったのかな?
軽く手を添えた大木は確かにあのときのものだ、だが何かが違う・・・。

そのときまたもや轟音が響く。
「わっっ」
死にたいと思っていたはずなのに、今、逃げなければ死ねるかもしれないのに、本能からかカガリは森の中へと
走り出していた。

怖い!!怖い!!
カガリはひたすら走った。
ただ真っ直ぐに・・・しばらくすると轟音も聞こえなくなった。
カガリは足を止めそこに倒れこむように座る。

逃げてどうするんだ・・・逃げてどこに行けばいい?
カガリの体は恐怖で震え、唇は真っ青になっている。

カチャリ・・・
そのときカガリの横で機械的な音がした。
「お前、ここで何をしている」
その声は先ほどの音と同じぐらい機械的で恐怖を感じさせるものだった。
カガリは震えながらゆっくりと後ろへ振り向く。
その瞳が捉えたのは漆黒のような藍色の髪と、微かな月明かりに反射して光るグリーンの瞳だった。
カガリに突きつけているのは銃・・・・・
軍人!?
カガリは恐怖で目を開きガタガタと震えだす。
「民間人か?」
カガリは恐怖からか何も答えられない。
男はそんなカガリを見て1つため息をつくと、
「ここは戦場だ。こんなところにいたら死ぬぞ。早く逃げろ」
男はそういうと、背を向け去っていこうとしたが、相変わらずカガリは目を見開きガタガタと震えている。

男はここでこいつに死なれると後味が悪いと思ったのか、しばらく黙った後
「ついて来い」
と、カガリに言い歩き出した。
カガリはどうしていいのか分からず、目を泳がせていたが、後ろでまた爆音が上がる。
それに恐怖を感じ、慌てて青年の後を追った。
このときのカガリの頭の中は真っ白で何も考えられなかった。
ただ、すがるものが欲しかったのかもしれない。
たとえ憎い軍人でも・・・。

つれてこられた場所はいくつもの建物が密集している場所。
銃や軍服を着た男たちがウロウロしている。

軍の施設か・・?
30分ほど歩いた為、カガリの意識は先程よりしっかりしていた。
カガリは前を歩く男の軍服を見る。
建物が並んでいる為、明かりもかなりともされているので先程よりしっかり色合いも見えた。
髪・・・漆黒っぽかったけど、綺麗な藍色だ。
真っ赤な軍服・・・。
どこの軍だろう・・・・
カガリが知っている限り、この色の軍服を着ている軍人は見たことがなかった。
男は建物の前で足を止めると、戸を開いた。

「アスラン ご苦労様」
中からは男の声が聞こえた。
この男はアスランというのだろう・・・
「入って」
アスランはカガリに促す。
少し怖いがカガリはゆっくりと建物の中に足を踏み入れた。
「あれ?どうしたんだ・・この子?」
アスランの後に入ってきた女の子に目を向け中にいた青年が言った。
「戦場でウロウロしてた。死なれたら面倒だからつれて来たんだ」
アスランは振り返らず、奥へ進みながら言う。
「名前は?」
青年は笑顔で聞いてきた。
先ほどの戦場とは違い、ここは明るく、暖かい雰囲気が立ち込めている。
それに少し安堵したカガリはゆっくり口を開いた。
「・・・カガリ・・・・」
「カガリちゃんね、あれ?ビショ濡れじゃない!」
そう言われて、カガリは自分がスコールにあい、ビショビショなのを思い出す。
「あ・・スコールに・・あって・・」
「スコールってなんだ?」
アスランは振り返りカガリに問う。
「え?スコールって・・・スコールだろ・・・」
「?」
アスランは眉をしかめている。
何をしかめることがあるのだろう。
スコールといえば、誰もが知っている、常識だ。
そんなカガリの表情を見たアスランは
「お前は何であんなところにいたんだ?」
とカガリに聞く。
なんで・・?
そのときカガリの胸にいたい記憶が突き刺さる。
いきなりの爆音で意識が離れていたが、自分は両親を亡くし、途方にくれていたのだ。
「まあいい。ディアッカそいつを頼む」
アスランはそういうと、奥の部屋に去っていこうとする。が、
「まっっっ」
それは何かに拒まれた。
なんだ?とばかりに後ろを振り向くと、そこにはすがるようにした少女、カガリがアスランの袖を掴んでいた。
・・・・・・・なんだこいつ?
アスランはいかにも嫌そうな顔でカガリを睨む。

カガリはなぜ彼の袖を掴んだのかわからなかった。
だが、恐怖のあまり怯えていた自分に手を差し伸べてくれたのは彼だった。
その印象が彼女には強く残っていたのだ。
1人になってしまった今、すがるものが欲しいのは当然である。

「ちゃんと着替えさせてあげろよ」
それを見ていたディアッカは「これからデートなんだ」と、部屋から出て行った。
何で俺が・・・
あのままにしておいたら後味が悪いからつれて来たが、ここまで面倒を見る気はなかったぞ。
そもそもどこから来たんだ?あんな戦場に・・こんな女が・・
クシュン
そのときぬれた服をずっと来ていたせいか、カガリがくしゃみをした。
さすがにこのままのしておくわけにもいかないと、アスランはカガリをつれ、自分の部屋へと向かった。



「ありがとう・・・」
カガリは着替えを渡されお風呂に案内してもらった。
「気にしなくていい。風邪を引かれた方が面倒だ。」
アスランはそういうとバスルームからさっさと出て行った。
アスランの家は軍に用意された軍施設内の一角にある。
1人には十分すぎるほどに部屋があり、ほとんど使われていない部屋ばかりだった。

カタン
アスランはデスクに座ると、パソコンの電源を入れ作業をはじめた。
流れる情報は戦争勃発の文字ばかり。
いったいいつになったら終わるんだ?
そんなことを思いながらキーボードを打ち始める。

『キラ 少し困ったことがあってな、ラクスと来てもらえるか?』
ピッ
『OK もう少ししたら行くよ』
ピッ

ふう・・・
アスランはコーヒーを入れようと席を立つ。
と、目の前に蜜色が広がった。
「え・・?」
「お風呂、ありがとう・・」
その声に先ほどの少女だと気づく。
先ほどは濡れていた為かあまりよく見ていなかったためかは分からないが、
今見ている彼女は蜜色の髪を輝かせ、瞳は美しい琥珀色だった。
アスランが渡した服は男物だった為、カガリはダボダボに着ている。
「・・・コーヒー入れるけど飲むか?」
「・・・・ありがと」
そう言うとカガリはソファーに座った。

そのときコンコンと、扉を叩く音がした。
来客かな?
カガリはアスランの行った方を見たがでてくる気配はない。
コンコン
さらにノックが響く。
少し悩んだカガリだったが、立ち上がり、扉へと向かった。
カチャリ
と、ゆっくり扉を開く
「アスラン、どうしたの?」
客人は扉を開いたとたん口を開いた。
が、扉を開いた人物を見て更に口を開いた。
「え!?」
「あら・・」
その人物の隣にはピンクの髪をなびかせた可愛らしい女の子もいた。
「君・・・誰・・・?」
茶色い髪をした男の子はカガリに問う。
「あ・・・私は・・・」
「ああ、悪かったな ラクスまで呼んで」
カガリの言葉を遮るようにアスランの声が後ろから聞こえた。
「いえ、それは宜しいのですが・・・」
ラクスはちらりとカガリのほうを見た。
「とにかく入ってくれ 俺もよく分からないから」
その言葉に、2人は部屋へと入ってくる。
カガリはちょこんと先ほどのソファーへ座った。

「で、この子誰?アスランが女の子といるのもすごいけど、家にまで連れてきて、しかも服」
「キラ、黙れよ」
キラの質問攻めにアスランはストップをかけた。
「で、聞いてもいいかな?」
アスランはカガリのほうを向くと、コーヒーを差し出して聞いた。
「・・・・ああ・・・」
カガリはコーヒーを受け取り、しばらく考え込んでいたがたどたどしく話し始めた。
「私・・・戦争で父と母を亡くしたんだ・・・それで墓地に来ていて・・・・突然スコールが来て・・
雨宿りにと森へ入ったんだ」

「墓地?」
「スコール?」
キラとラクスはハモるように聞き返した。
「あの辺りには墓地はないし、スコールなんてもの俺たちは知らない」
アスランは2人の疑問を代弁するかのようにカガリに聞き返した。
この地域は戦場が多いため、お墓なんてものは皆無だった。
それを聞いたカガリは眼を開く。
「ぼ・・墓地はない!?何を言ってるんだ!!あそこには戦争でなくなった人たちが何十、何万と葬られているんだぞ!!」
私の父と母だって・・っ
なのに!!
「お前だって軍人だろ!?人を殺してるんだろ!なのにっっ」
「君・・・名前は?」
キラは落ち着いた声でカガリに聞く。
「・・・カガリ・ユラ・アスハ・・・」
「カガリさんはプラントのどこにお住まいですの?」
「プラント?」
ラクスの問いにカガリは首をかしげる。
「プラントってなんだ?住む?住んでいたのはオーブで・・・」
「オーブ?」
今度はアスランが聞きなれない言葉に首をかしげる。
「オーブを知らないのか?」
カガリはまさか。といわんばかりで聞いた。
「「知らない」」
「存じませんわ」
しかし返ってきたのは肯定の言葉で・・・
「ここ・・どこなんだ?」
カガリは不安そうな瞳でアスランに聞いた。
「プラントのザフト基地だ」

・・・・・・・・・・・・・・・・何いってるんだ・・?
プラント?だって、さっきまでオーブで・・・雨が降って森に・・・
カガリは目覚めたときに感じた妙な感覚を思い出す。
何が違う?何かが違った・・・景色?空気?
何かは分からないが、今の話が本当だとするとここはオーブではなく、プラント・・。

「私はどこに来ちゃったんだ・・・?」

その問いに答えられるものはいなかった。



「彼女は?」
「今眠られましたわ」
アスランの部屋の一室からラクスが出てくる。
「よほど疲れてらっしゃったのでしょうね・・・」
「だろう・・な・・・」

民間人があんな戦場にいたんだ。
しかも両親を亡くして、よくは分からないが違う国にいきなり放りだされたらしい。
アスランの脳裏に怯えた表情のカガリがよみがえる。

「これからどうするの?」
キラは心配そうにアスランを覗いた。
「だって・・・女の子だよ?苦手でしょ?」
女の子が苦手というか・・・アスランは人付き合いが苦手である。
警戒心なく話せるといったら小さい頃からの友達であるキラぐらいかもしれない。
軍の仲間は生死を共にしてるとはいえ、アスランにとっては仲間止まりだ。

「もし宜しければわたくしの家でお預かりしましょうか?」
「いや・・俺が面倒を見るよ。何者かもよく分からないからな・・」
嘘をついているようには思えないが用心すべきだろう・・
正直、あの子をどうしていいかは分からないが、ラクスたちに危険が及ぶ可能性がないわけではない。
「女同士で話したほうがいいかと思ってラクスにも来てもらったんだが悪かったな」
「いえ、わたくしでお役に立てることでしたら」
そう言ってラクスは微笑んだ。
キラは軍の施設でプログラマーとして働いている。
ラクスはキラの恋人だ。
ラクスともはじめはぎこちなかったが、キラが上手く会話を繋いでくれたため、アスランにとっては深く話せる唯一の女性だ。
「じゃあ僕らはこれで」
キラは席を立った。
「ああ、悪かったな」
いや・・と2人して微笑んだ。
「何かあったら言って下さいね」
「ああ」
パタン・・と、2人は帰っていった。


あの後のカガリは何を言っても不安げな表情で話をするどころではなかった。
機転を利かせたラクスが「今日はゆっくりお休みしましょう」と彼女を寝かせたのだ。
疲れていたらしく、布団に入ってすぐ寝たらしい。
「さて・・俺はどうするかな・・」
まだ眠くはないのだが彼女の寝ているベットは自分のベッドである。
ソファーで寝てもかまわないのだが、いつまで彼女がここにいるかによっては話が変わる。
国に帰してやりたいが、それもできるかどうか・・・
アスランは何かを考え席を立った。
すると、カガリの寝ている部屋の戸を開ける。
中では規則正しい寝息が響いている。
アスランはベットサイドに腰を下ろす。

何歳ぐらいだろう・・?
かなり幼く見えるが・・・
そのときピクンとカガリの瞼が動いた。
起こしてしまったか?
アスランがカガリを覗き込むとカガリは少し震えながら
「おと・・・さま・・おか・・・・さま・・・」
と呟いていた。
寝言か・・
アスランはそのままカガリの顔を見ている。

「1人にしないで・・・・・・」

アスランはその言葉に眼を開く。

そうか・・両親を亡くしたといっていたな・・・
1人・・・兄弟もいないのか・・・

アスランは優しくカガリの髪を撫でた。
なぜかは分からない。
当然、今までこんなことをしたことはない。されたこともない。
だが、自然に手は動いていたのだ。





あとがき
きゃー新連載です★
パロですね。やっぱ書くならパロですね!
何パロかは良くわからないんですけど・・・なんになるんだろ・・
軍人パロ??
このお話は勢い良く書けたので続くと思われます(笑)
キャラが微妙に違うこともあるかもしれないのでご注意を♪