「ん・・・・」
眼を開けるとそこは見覚えのない天井だった。
『おはよう カガリ』
お母様・・・・
『お前は良く寝るなぁ・・』
お父様・・・・
ここはどこだったっけ・・?
私の部屋じゃない・・・泊まりに来た?
どこへ?

違う!!!!

その瞬間カガリに昨日の出来事が蘇る。
「はぁ・・・はぁ・・・やだ・・・」
カガリは胸を押さえつけ、あれは夢だと言い聞かせるものの、心の奥底がそれを否定する。
カガリはシーツを被り、眼をぎゅっと閉じた。
ここは私の部屋だ!!
ほら眼を開けると、きっと私の・・・
しかし、眼を開いたカガリが見たものはやっぱり知らない部屋。

キィ・・・パタン・・
部屋の外で音がする。
そういえばここは・・・アスランの家・・・アスラン・・・
昨日私を助けてくれた人だ。
赤の軍服を着て、深い藍色の髪で・・・
そこまで考えると、部屋のドアが開く。
「ああ、起きたか?」
それは先ほど思い出していたアスランだった。




夢の先〜犬の飼い方〜





「すまない・・その・・・ベット・・・」
アスランはカガリをリビングに連れて行き、椅子に座らせた。
「気にしなくていい」
そういうと、カガリの前に朝食・・だろう、パンとコーヒーがだされた。
カガリはそれをじっと見ている。
「何?パンは知ってるだろ?」
「し、知ってるさ!それぐらい!!」
カガリはバカにされたとばかりに言い返した。
「ただ・・・よくしてくれるなぁ・・って思って・・・」
アスランから見たら私は森で拾った知らない人間だ。
しかも訳のわからない。
私だったら放っておけないけど、アスランは怒ってた気がする・・
アスランが私を別の人に頼んで、去っていくとき・・・どうしてかわからないけど、置いていかれる寂しさが
胸に溢れて苦しくなった。
それで思わず袖を掴んでいたのだが、あのときのアスランは・・思いっきり・・嫌な顔をしていた・・気がする。
「国に帰してやりたいんだが、全く手がかりがなくてな」
ぱさっと机の上に複数の紙を置く。
「調べてくれたのか?」
「ああ、でないと困るだろ?」
「・・ありがとう・・」
面倒な顔をしながらもアスランは優しい気がする。

「ア・・・・アスラン・・・」
「なんだ?」
「・・アスランっていうんだ・・・」
カガリの言葉にアスランは少し考えた後、ああ。という顔をした。
そういえば俺のことは何も話してなかったな・・・
話す必要もないと思っていたが・・
ちらりとカガリのほうを見るとどうも俺のことを聞きたいといった表情に見える。
人に自分のことを話すのはあまり好きではないが・・・
「俺はアスラン・ザラ、ザフト軍人だ」
「ザフト・・・軍・・・」
やっぱり知らない・・・とカガリはため息をついた。
「両親はいつ亡くなったんだ?」
カガリはその言葉に勢い良く顔を上げた。
「・・・・・・・・3日前・・・爆発で・・・・・」

私を庇い、食料庫に閉じ込めた後、両親はどうなったのだろう・・・
しばらくして外に出ると家は崩壊していた。
両親を探そうとした私を近くにいた人が止めた。
止めた理由は・・・・分かっている・・・

「そうか・・・」
3日前・・・3日前に家族を失った。
そしてここに来てしまった・・・
「か、考えても仕方ないさ、私は生きてる・・生きなければならないんだから・・」
そう・・死にたいと思ったが、私は逃げたのだ。死からーーーーそしてここにいる・・

アスランはカガリをじっと見つめ、妙な違和感を感じる。
なんだ?
何かは分からないが何かがおかしい・・・
この違和感はなんだ・・?

「とりあえず早くここを出て行けるようにするから・・」
カガリのその言葉にアスランはぎょっとする。
「出て行くって・・・ここのこと何も分からないだろ」
知らないところに放りだされ、1人で何ができるというのだろう・・・
「だけど、いつ帰れるかも分からないし、ここにいたら迷惑だろう・・」
カガリは少しすまなそうに・・そして寂しそうに言った。
迷惑?
まあ・・歓迎はしないが・・ベットさえもう1つあれば何とかなるだろう・・・
どうせ俺は家にほとんどいないのだし。
「いればいいよ。どうせ俺はここにいる時間はあまりないしな」
「え・・?だってお前の家だろ?」
「軍に泊まる事もよくあるからな」
「そうなのか・・?」

「隊長どうかしましたか?」
トントン・・っと扉をノックする音がした。
「ああ、シンか。すまないすぐ行く」
時計を見るといつも家を出ている時間が過ぎていた。
「じゃあ、自由にしてていいから」
と、アスランは席を立った。
「あ・・・」
カガリのその声にふと振り返ると子犬のような・・寂しそうな表情をしたカガリがいた。
・・・なんか・・いけないことしてるみたいじゃないか・・・
アスランはなんとも罪悪感を感じながら
「今日は帰ってくるから」
と言って部屋を出て行った。


「誰かいるんですか?」
シンはアスランが誰かと話しているのが聞こえたのか聞いてきた。
「ああ、子犬がな」
「え!?犬飼ったんですか!?」
シンの素直なまでの反応にアスランはおかしくなる。
「今度見せてくださいよ〜」
「ん?ああ・・今度な」
シン・アスカはアスランの部下である。
人懐っこいので、不器用なアスランでも上手く話せることができる。

「また戦闘が始まったみたいですね・・」
「西側か・・・」
「あそこは反勢力の奴らが多いですから」
「・・・・いつになったら終わるんだろうな・・・」
戦争が終わると軍人は無職になってしまうが、そんなことより戦争はないほうがいい。
あの子の両親も戦争で亡くなったのだろう・・・。
世の中は亡くしてばっかりだ・・・

「アスランおはよう」
アスランが考え事をしていると、後ろからキラの声がした。
「あ、ヤマト博士おはようございます」
シンはキラを見るやいなや敬礼をした。
「博士はやめてよ・・・」
キラは軍の中ではかなりの有名人である。
彼のプログラマーとしての力だけでなく、プラントの歌姫、ラクス・クラインと恋人だからだ。
「今朝はどうだった?」
「ああ・・・」
アスランはちらりとシンを見る。
「失礼します」
と、シンは敬礼をして去って行った。
「たいした話はしてないんだ。ただ、あの後いろいろ調べてはみたんだが・・・」
「僕も調べたけど、何も分からなかったよ」
「そうか・・・」
「あの子・・カガリをこれからどうするの?」
「どうするって、とりあえずは家において・・」
キラはそういうことじゃないと眼を光らせた。
「ああ、そういうことか・・・」
ここは軍本部でアスランは軍人である。
何かに使えるものは使い、あやしいものは排除する世界だ。
「彼女を軍に引き渡したりはしないよ」
あやしいと言えばあやしいのかもしれないが、軍の規則に従順なアスランでも彼女のことを報告する気にはならなかった。
いや、なれなかった。

「あの子はただの女の子だ」
「へぇ・・」
「なんだよ」
「アスランが人のことをそんな風に言うの初めて聞いたからさ」
「そうか?」
「壁作ってばっかりだもんねアスランは」
キラの知っているアスランはどうも人との距離を持ちすぎる。
それが悪いとは言わないが、アスランの場合は極端だ。
まず、自分の家に僕とラクス以外は入れたことがない。
軍が休みの日でも誰かとどこかに出かけたところを見たことがない。
彼女でも作ったらと言ったらすごい顔をされた。
なのであの子を家に上げてるだけでもすごいのに・・・家に泊まらせたんだもんね・・
「僕、ラクスにも伝えてくるよ 気にしてたからさ」
「ああ、悪いな」
「いえいえ」
キラはそう言いながら走り去った。

軍に報告か・・・
そういえばディアッカは知ってるんだよな、彼女のこと・・
でもアイツは言わないか・・・
仕事サボって女とデートしてたぐらいだから。
まったく・・・何が楽しいんだか・・・
アスランは何度も注意したのだが、どれだけ言ってもディアッカの女好きは治らないのでもう諦めていた。
あれだけ遊んで仕事はきちんとしているのでまだいいのだが・・・

「今日は東戦闘区域の視察か・・」
遅くなるかもしれないな・・・
東の地域は戦闘はしてないものの、いまや荒れ果ててしまっている。
素足で森をさまよう子供たちもいる。
それなりに物資は与えているのだが、誰がどこにいるかわからない状態のため、行き届かないことも多い。
素足・・・
そういえば今朝の彼女は昨日俺が渡した服のままだったよな・・・
着替え・・なんて当然ないし・・・
「隊長」
「え?」
「キラ博士との話は終わりましたか?」
シンが笑顔で走ってきた。
「ああ」
博士・・アイツが・・何度聞いても笑いそうになってしまう。
アスランの知っているキラは勉強はできるもののどこか抜けていて、世話のかかる奴だ。
人というものは見る人によって全然違って見えるものなんだな・・と改めて思った。
「じゃあ、行きますか」
「今日の視察はシンがついて来るのか?」
「嫌ですか?」
「いや、そうじゃないよ」
シンなら逆によかったのかもしれない・・・




カガリはアスランの部屋で1人ぼーとしていた。
・・・何をすればいいんだろう・・・
それにしても何もない部屋だなぁ・・
くるりと見回すとそこには必要最低限であろう物しかみあたらない。

「自由にしてていいって言ってたけど、勝手に人のうちをあさるのはよくないよな・・・」
しかし、じっとしていると嫌なことばかりが浮かんでくる。

カチャッと近くにあった扉を開ける。
中は殺風景で何もないに等しい。
「?」
カガリは隣の部屋も開けてみる。
しかしそこも隣の部屋と大差なかった。
「あいつ・・趣味とかないのか?」
カガリは自分の部屋を思い浮かべ比べる。
カガリの部屋はいろんなもので溢れていた。
父や母からのプレゼントが大半だった、人形、本、楽器・・・とりあえず何かしらあった。
カガリは他の部屋も覗いてみる。
唯一時間を潰せそうなものが見つかった。
本だ。すごく分厚く、読むのをためらってしまいそうな本だがこのままでは本当に何もすることがない。
カガリはその本を手に取ると、リビングにあるソファーに腰掛け読み始めた。



「ああ、この辺りもまだ復旧には遠いですね」
アスランとシンは車を降り、少し歩いたところで立ち止まっていた。
そこに見える景色は無残な戦争の後。
銃撃戦で見る影もない民家や、木々が転がっている。
「人手が足りないからな。多くの人が亡くなった・・・」
「じゃあ、こっちに人手を増やしますか?」
「いや、復旧は早い方がいいが、ここより中心街を早めた方がいいだろう」
「分かりました」
「じゃあ、次は・・・」
シンがそういうと、アスランは腕にある時計を覗き込んだ。
「すまないが今日はここで終わりでもいいか?」
「え!?珍しいですね。隊長が早めに切り上げるの」
シンは驚いた。
アスランは仕事を早めに切り上げるということをしたことがない。
いつも時間外、夜遅くまで作業したり、視察などは日が変わるまで行ったりしていた。
シンは当然今日も朝帰りだ・・・と、心に決めてきていたのだが・・・。

「犬が待ってるんでな」
頭の中に朝、彼女が見せた表情が蘇る。
アスランは微笑んでいった。
た・・隊長が笑ってる!?
シンはぞっとした。
アスラン・ザラは基本的に無表情で、自分に向かって笑いかけることなど皆無に近い。
キラ・ヤマトがいるときはそれなりに表情をだしていると思うのだが。
当の本人はそんなシンの戸惑いをよそに車へと戻って行く。


アスランは基地につくと、シンを降ろし、そのまま家へと向かった。
部屋の鍵を開け、中へと入る。
カガリが寝ていた寝室を開けるがそこに彼女の姿はなかった。
寝てはないのか・・
そう思いながらリビングまで進むと、夕日に照らされた輝く髪が目に入る。
カガリは本を読もうとしたもののそのままソファーで寝てしまったのだ。
お腹の上にある読みかけの本はまだ数ページしか進んでいない。
アスランはそんな彼女の姿におかしくなり、くすりと笑った。

「ん・・・・・」
そのときカガリの体が少し動き、お腹に乗っていた本が落ちそうになる。
「わ・・・」
アスランは慌ててその本を受け止めようとしたが、間に合わず
ガタン
という音と共に本が落ちた。
「んぁ・・?」
その音にカガリは眠そうに瞼を上下しながら起き上がった。
「あ・・・すまない・・・間に合わなかった・・・」
アスランは本を受け止められればカガリをもう少し眠らせてあげれたのに・・と謝る。
「間に合わなかった・・?学校・・?何時・・?んにゃぁ・・・」
カガリは寝ぼけたままの頭で訳のわからないことを言っている。
「お前・・寝ぼけてるのか?」
「うん」
というと、ぱたりとソファーへ落ちた。
が、すぐさま飛び起きる。
「寝てた!!」
と叫びながら・・
「ああ、寝てた」
アスランは楽しそうにそんなカガリを見ていた。
コロコロ表情が変わるやつだな・・・
動物は飼ったことなかったが、こんな感じなのだろうか・・?
と、アスランは妙なことを考えていた。


「今から出かけるんだが、一緒に行かないか?」
アスランは早く帰ってきた理由を思い出し、言った。
「仕事は?」
「今日は終わった、君の服とか買わないといけないだろ?」
カガリはその言葉に自分の格好を見る。
確かにアスランに借りた服はかなりだぼだぼで生活しにくい。
「でも・・・お金・・・」
「それぐらいあるよ」
カガリは悪いといった意味で言ったのだが、アスランは自分にお金がないととったのだろう、そう返してきた。
「町に出るが、少しの間その服で我慢してくれ」
「そんな!!これで十分だ!!」
服を買ってもらうのにそんなことで文句は言わない
とばかりにカガリは大きく首を振った。
その振り方は驚くくらい大きくて、アスランは思わず笑ってしまう。
「大丈夫だよ・・気にしないで」
笑いながらカガリの頭を優しく叩く。
やはり犬だな。
どうも彼女は自分の周りにいる人とは少し違う気がする。
アスランはそんな風に思った。

その後、
カガリはアスランにつれられ下に止めてあった車に乗った。





あとがき
いやぁ・・・軍人アスランはかっこいいですけど、
カガリに甘いアスランはもっと好き★
ってそこまで話しいってないですけどね(笑)