「隊長・・・せめて口ぐらい聞いてもらえませんか・・・?」
軍施設の廊下ではアスランの後ろをシンが小さくなって歩いていた。
「昨日のことは謝ります。あんまり日差しが気持ちよかったんで・・・」
しかしアスランは振り返る気配もない。
「隊長〜〜」
シンは泣きそうな声を出した。
その声を聞いたアスランは1つため息をつきシンのほうへ振り返る。
それに気づいたシンはぱっと顔を上げた。
「ここで話すことじゃないだろ・・・部屋に入って話そう」
そういうと、軍から与えられているアスランの個室へとシンを入れた。




夢の先〜不安な心〜





昨日、カガリの部屋にシンがいるのを見たアスランはシンに状況を把握する間も与えず、シンを殴り
部屋から追い出した。
追い出されたシンはなぜ殴られたのかもなんでここにいるのかも分からないまま、数十分ほどそこで固まっていた。
状況が理解できたのは家に戻り、ご飯を食べた後だった。

「ほんとにスミマセンでした!」
シンは深々と頭を下げた。
「何であそこにいたんだ?」
あの後カガリに聞いてみたが夕方、ハロと遊びつかれて寝てしまったので分からない。
としか返ってこなかった。
具合も悪くないみたいだし、ハロのことをとても喜んでくれたので何もなかったとは思う。
当然、シンもそんなことをする子ではない。
ではなぜあそこに・・?
「クルーゼ隊長に届け物に行ったんです。その帰りに隊長の部屋のドアが開いてるのに気づいて・・・」

開いてたのか・・・カガリ・・・
アスランは髪をかきあげ、ため息をつく。

「犬が逃げたら大変だと思って・・」
「犬?」
なぜ犬?俺は犬は飼ってないぞ?
アスランのそんな疑問に答えるかのように
「隊長言ったじゃないですか子犬がいるって、だからオレ・・・」
と言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ!」
そういえばそんなことを言ったような・・・アスランは記憶を戻り思い出す。

「そしたらハロが飛び出してきて・・・で、子犬はどこかなー?って思ったら見たくなっちゃって」
「カガリの部屋に入ったのか・・・」
どちらかといえば部屋を開けっ放しにしていたカガリが悪い。
自分でも知り合いの部屋が開いていたら不思議に思うだろう。

「カガリって言うんですか?あの子」
シンの何気ない一言にアスランはムカッとする。
「で、何で一緒になって寝てたんだ?」
「あっそれはっっ」
アスランの声に怒りを感じたシンは慌てるように答えた。
「誰なんだろうって・・・ちょっと近づいたんです。で、しゃがみこんで・・・
そしたら日差しが気持ちよかったんで・・・気づいたら・・・」
「寝てたのか・・・」
「スミマセン・・・」
アスランは少し考え込んだ後、
「カガリのことは他の子には言わないでくれ」
と言った。
「はい!隊長の恋人なんでしょう!秘密は守ります!!」
シンは敬礼をしてアスランに笑顔を向けた。

「で、どちらから?」
「は?」
「隊長から告白したんですか?」
「・・・・・・」
シン・・・さっきまでの反省した態度はどこにいったんだ。
と言いたかったが、その言葉は訪問者によって遮られた。

「アスラン、いいかな?」
キラがドアを開け覗き込んで来た。
「博士!」
「〜〜〜シン〜博士はやめてよ〜」
キラはドアに体を預けヘなってしまった。
「では、失礼します」
シンはアスランに礼をするとドアに向かった。
「秘密厳守です!!」
と、笑いながら。

大丈夫なのか・・・?
アスランはそんなシンの顔に不安を感じた。

「秘密って何?」
「シンがカガリに会ったんだ」
「え?・・まあ、シンなら大丈夫じゃない?」
「カガリの事情は知らないしな」
アスランの言葉を聞いたキラは急に難しい顔をした。
アスランはキラの変わりように眉をひそめる。
「どうした?」

「んー・・カガリのことなんだけどね、僕いろいろ考えたんだけど」
「カガリのこと?」
「うん。元の世界に戻る方法」

アスランは時が止まった気がした。
キラは何ていった?
カガリが元の世界に戻る?
どうして?
カガリと俺は一緒に暮らして一緒に生活している。
なのにカガリは元の世界に戻る?

アスランの頭の中はいろんな言葉が駆け巡るものの何一つ理解はできていない。

「どうしたの?」
キラの言葉もアスランには届かない。
キラは不審に思いながらも話を進めた。
「カガリ、スコールが来たっていってたでしょ。僕らの世界にはスコールなんてないよね。
で、考えたんだけど、そのスコールっていうのをここで起こせばひょっとして・・・」

ひょっとして・・・もとの世界に帰れる?
帰ったらどうなる?カガリがいなくなる・・・・

「今日、アスランのところにご飯食べに行くから、その時カガリにスコールについて詳しく聞こうと思って」
「ダメだ!!!」

アスランの大声にキラはビクリと体を揺らす。
アスランも自分の出した声に驚き、口を手で塞ぐ。

「いや・・・実は・・・昨日いろいろあって・・・・カガリには今日来るって言ってないんだ・・・だから・・・」
アスランはしどろもどろになりながら言った。
その目はキラを見ていない。

「・・・そう・・・?じゃあまた今度にするね」
「・・・・・・・・すまない・・・・・・・・」
そういうとアスランは黙ってその部屋を後にした。

ふぅ・・・
キラはソファーに身を沈める。
あれって・・・そういうことかな・・・
「アスラン、キラがこちらに伺ってると思うのですが・・・・」
「ラクス」
キラはラクスの声を聞くとドアまで行き
「いらっしゃい」
と、ドアを開けた。

「あら?アスランは・・?」
ラクスはアスランの部屋なのにアスランがいないことを不思議がる。
「カガリのこと話たんだけど・・」
「スコールのことですね。今日アスランのお家に行ったとき」
「今日は中止だって」
キラは苦笑いをした。
「まあ・・・」
ラクスはがっかりとばかりに肩を落とした。
「アスランにカガリが元の世界に戻る方法について話したらでてっちゃった」

「それは・・・」
ラクスは困ったように顔をゆがめた。
「分かってたけどね。アスランがカガリをどう思ってるか」
人に興味を持たないアスランがあそこまで誰かのために困って、頑張って・・・
その気持ちをなんと呼ぶか、アスランを良く知るキラにとってそれは簡単に分かることだった。
「でも、カガリさんの世界はここではない」
「うん。戻せるかどうかもまだ分からないんだけどね」
「アスランにはきつかったみたい」
「幸せになれるといいのですが・・・」
「僕もそう思うよ・・・」
キラとラクスは優しく抱き合った。



「あー!アスランにいつ食事に来るのか聞くの忘れた!」
カガリは洗濯物を干しながら叫んだ。
「ハロ!」
「言わなかったってことは今日じゃないんだよな」
「ハロハロ」
カガリは洗濯籠を勢いよく持ち上げると、走るようにしてベランダに向かった。
「ハロ、危ないからよけろよっっ・・・?」
というのと同時に足の先に鋭い痛みが走った。
やばっっ攣った!?
と思った瞬間、籠と共に地面に体を打ちつけた。

「・・・っったぁ・・・・・」
カガリはあまりの痛みにしばらくは体を動かせなかった。
「お腹・・・いた・・・」
何でこんなにお腹が痛いんだ・・?
とっさに手を出したのに・・・・
カガリはそう考えた後、お腹の痛いところに何か硬い塊があることに気づく。
「なんだ・・っけ・・これ・・・」
ゆっくりお腹に手をやるとその硬いものを顔のほうにもっていく。
「あーーーーーーーーーーーーーー!!!」
なんとそれはオレンジのハロだった。
ハロはこけた拍子に落とした籠のカドにぶつかったうえ、カガリの体重で地面に叩きつけられたのであろう、
ネジが抜け落ちて、交通事故にあったみたいになっていた。
「う・・嘘だろ・・・ハ、ハロ!!」
カガリは慌ててはハロに声をかける。
ところがうるさいぐらいに声を発していたハロは今は全く声を発しない。

「どうしよう・・・・」
カガリはきょろきょろと辺りを見回すが、見回したところでどうしようもない。

「アスラーン・・・・っっ」
カガリはハロを抱きしめ、慌てながら部屋を飛び出していた。



「なんだこれは!!」
「イザーク少し声のトーンを落としてください。話ができないでしょう」
イザークの大声にジュール隊の隊員、ニコルが突っ込む。
「ですから、我々の隊はしばらく軍の情報部に配属になるんです」
「だからなんでだと聞いている!」
「アスランが決めたみたいですよ。半年も前線に出てましたからね。気を使ってくれたんでしょう」
「アスラン〜〜」
怒ることではないのに・・・
ニコルは少しうんざりしていた。
自分もアスランとは同期だが、イザークのように敵意を持ったことはない。
それどころか尊敬しているぐらいだ。
「とにかく、今日から3日は休みです。きちんと休んでくださいよ!」
ニコルはイザークにビシッと言った。
言わなければ軍の中をうろうろしてだれかれかまわず文句を言う。
そして苦情を受け付けるのは自分なのだ。
「いいですね!」
念押しのように言うと、
「分かってる!」
と、イザークは体をひるがえした。



ここは・・・・どこだろう・・・・・
カガリは部屋から出て、アスランのところに向かおうとしたのだが、どうやら迷子になってしまったらしい。

初めてきたときは、軍の建物からアスランの部屋に行ったんだよな・・・
分かると思ったんだけどなぁ・・・・
カガリは壁に手をあて歩いている。
「・・・なんだったっけ・・・これは迷路から出る為のやり方だったっけ・・?」
まあいいや。と、壁に手を添えたまま歩き続けた。

が、しばらく歩いても景色は変わらず無機質なコンクリートばっかりだった。
誰かに聞こうにも誰も通らない。

「ハロー・・・・」
カガリは歩きつかれ壁にもたれたまま下に崩れ落ちた。
「ハロ、ゲンキ?」
ハロに呼びかけるものの答えは返ってこない。

何の音もしない空間。
ここはなんなのだろう・・・
声を発するとそれがただこだまする・・・

カガリは急に怖くなり立ち上がった。
「勝手に出てきたらいけないよな!!そうだ・・・アスランには外に出るなって言われてるんだ・・・っっ」
カガリはアスランの部屋に馴染んでしまったので、外の世界も同じだと錯覚していたのだ。
それにハロが壊れたことの動揺も重なっていつのまにか部屋を飛び出していたのだ。

「戻ろう!!」
カガリはハロを抱え歩いてきた道を走って戻りだした。

カガリの足音だけが反響する空間。
まるで、音が自分を追ってくるかのようだった。

家から出るんじゃなかった!!
怖い!!

カガリに恐怖心が襲い掛かる。
ここはアスランの家とは違い、自分の居場所がないことを象徴するような空間だった。

カガリはひたすら走ったが一向に元にいた場所に出ない。
「何でだ・・・こっちじゃなかったかな・・・」
心臓は弾けるかのように高鳴り、呼吸も苦しくなる。

どうしよう・・・このまま戻れなかったら・・・
また1人になるのか?

「アス・・・・ラン・・ッ」
カガリは走りながらアスランの名を呼ぶ。
迎に来て・・・・!あの時のように・・・・


アスラン!!


「わっっ」
その時どんっと何かにぶつかり、カガリは後ろにはじき飛んだ。
何事か分からないまま痛みを堪えながらゆっくり瞳を開くとそこには赤い軍服。

「アスラン!!」

カガリは思わず抱きついた。

「よかったっっ・・私・・・・迷って・・・誰もいなくて・・・!!」
赤い軍服にすがるように泣き付くカガリ。

「なんだ!貴様は!?」
しかし、聞こえてきた声はアスランの優しい声ではなく、刺さるような荒い声だった。
カガリは慌てて顔を上げる。

そこにはアスランとは全く違う色。
シルバーの髪を肩まで伸ばした男がいた。

「す、すみません!」
カガリは慌てて男から離れる。

「お前・・・軍関係者ではなさそうだな・・・こんなところで何をしている」

警戒心の塊、といったらいいのか、その男はカガリを威圧するかのような視線を向けた。
「・・・迷ったんだ・・・・人を探してて・・・・」
「今アスランと言ったか?」
声に苛立ちが加わっていた。
カガリは思わず身を縮めた。

怒っている・・・かのように見える・・・
アスランのことを言ってもいいのだろうか・・・・
そもそも外に出るなといわれていたのにここに来てしまった。 アスランは怒るだろうか・・・?

「知りません・・・私はただ・・・道に迷って・・・」
カガリから出た言葉はアスランを知らないと言うことだった。
「どこから来た?」

どこから・・・・どういえばいいんだろう・・・
何か・・何か・・・

「街・・・・ミネルバ・・・・」
カガリは唯一知っている町の名前を口にした。

「ミネルバに住んでいるのか?」
「いや・・・戦争で両親を亡くして・・・」
あ・・・思わず本当のことを言ってしまい、あわてて口をつむぐ。

「お前・・・何歳だ?」
「・・18・・・」
カガリはおどおどと答えた。
「そうか・・18で両親を・・・」
男は先ほどまでとは違い、悲しげな顔つきになる。

「で、今はミネルバに住んでいるのか・・・」
「ミネルバじゃない・・・私・・・」
カガリは本当のことを言っても大丈夫な気がした。
両親を亡くしたと言ったときのこの人の表情は何か・・・伝わるものがあったからだ。

「なんだそれ?」
その先を聞かず、男はカガリの握り締めているオレンジ色の物体を指差す。

「え?これ・・・?」
カガリは男が見ているハロに目を移した。
「あは・・・・私・・・こいつぶつけちゃって・・・壊れたみたいで・・・」
カガリはハロを男に見せるように持ち直した。

「なんか・・・変な形になってるな」
「そうなんだ・・・友達なのに・・」
はぁ・・とカガリはため息をついた。

「・・・・・・・直してやろうか?」
男はそんなカガリをじっと見たあと言った。
「え!?ほんとに!?」
カガリはぱあっと明るい表情になる。
「ああ、これぐらいなら俺にもできる」
「ハロ!良かったな!すぐしゃべれるようになるぞ!」
しゃべるのか!?
男は直せるか少しの不安がよぎった。

「とにかく俺の部屋に行こう。軍の部屋だが俺専用だから他のやつはいない気兼ねしなくていいだろ」

「ありがとう」
そう言ってカガリは男の後をついていった。


「あれ?」
「どうしたの?」
「いや・・・イザークが女連れだったから珍しいと思って・・・」
「それにしてもディアッカ、こんなとこに呼び出してなんなのよ?」
ミリィは頬を膨らませ怒ったように言った。
「この格納庫は今使われてない、ということは?」
「・・・なによ?」
「人があんまり来ないからいちゃいちゃできるだろ」

「ディアッカ!!」
ミリィはディアッカの耳を引っ張ると大声で怒鳴った。
「いてっっちょっと・・ミリィ・・」
「ロマンチックさのカケラもないんだから!」
そういうと怒って去って行った。
「あー・・くそ・・つれない・・・」

ん・・?そういえばイザークと一緒にいた女の子・・どっかで・・・





あとがき
カガリを部屋から出すぞ計画始動!!
前はアスランと2人でしたから今回は1人ということで。