落ち着こう・・・
アスランは焦った心を落ち着かせるように言った。

俺の気持ちは置いて、カガリのことを考えるんだ。
カガリにとってもといた場所に戻ることは悲しい出来事を思い出させることになるかもしれない。
だが、楽しい思い出もあるはずだ。
友達もいて、助けてくれる人もいるかもしれない。

ここにいたらどうなる?
いつか軍の人間に見つかったら?
ないとは言い切れない。
戸籍を新しく作るにしてもいろいろな事を聞かれる。
守れるか?一生・・・

「くそっっ」
頭は焦りや困惑でいっぱいになる。
「違う・・カガリのことを考えて・・・」
しかし、どうやったらカガリと一緒にいられるか・・・でてくるのはその為の考えばかり。

俺の気持ちは置いておくんだ!

だが・・・カガリを放したくない・・・
そればかりが頭を駆け巡った。
すると、急にカガリに会いたいという衝動に駆られた。
会いたいというより、不安をかき消したいのかもしれない。
今、カガリはここにいいる、それを確かめたいのだ。
アスランはカガリのいる家へと足を向けた。




夢の先〜すれ違う心〜





カチャリ・・・ アスランがノブに手を添えると、簡単に扉は開いた。
「鍵・・・」
が、かかっていない・・・また掛け忘れたのか?
気になりながらもこのドアを開けると、カガリが「お帰り」そう言ってくれるだろうと信じていた。

ところが部屋の中にカガリの姿はなく、人の気配もしない。

「カガリ・・・?」
アスランをさらに不安が襲う。
震える手でカガリの部屋を開ける。
しかしそこにもカガリの姿はない。
キッチンにもベランダにもカガリの姿はない。

「カガリ・・・!?」
アスランは思わず叫ぶ。
どこに行ったんだ!?
そのとき、アスランの眼にふと何かが映る。

アスランは膝をつきそれを持ち上げた。
「濡れてる・・・」
干す前の洗濯物だろう、籠から投げ出されたように散らばっていた。

何かあったのか!?

不安、恐怖、すべてがアスランに流れ込む。
アスランは急いで部屋を後にした。

いるはずだ!!この世界に・・・カガリ!!!
そう叫ぶように全力で走った。





「直せるか?」
カガリは男の手元を覗き込んだ。
「外傷だけだな。これならすぐ直る」
「ほんとか!!ありがとう・・・えっと」
カガリは何かを考えるように男を見た。
「なんだ?」
「名前」
「イザークだ。イザーク・ジュール」
「私はカガリだ」
カガリはイザークに連れられ、この部屋まで来ていた。

アスランと一緒で何もない部屋だなぁ・・・
軍の部屋だからそんなに生活感はないのかな?
カガリは立ち上がると辺りを見回した。

「こんなにスッキリしてると寂しくないか?」
「ものがあるとうっとおしいだろ」
「そうか?明るくなっていい気がするけどな・・・」


「部品が足りない」
イザークはボソッと言う。
「え?」
「ちょっともらってくる、待ってろ」
「うん・・・悪いな・・・」
そういうと、イザークは部屋を出て行った。



「キラ!!!」
「あ、アスラン・・・どうしたの・・?」
アスランの慌てようにキラは驚き席を立つ。
「カガリ知らないか!!」
アスランは聞きながら部屋を見回す。
「・・知らないけど・・・どうしたの・・いなくなったの?」
「家に帰ったんだが、鍵が開いてて・・・いなくて・・・っっ」

ここじゃない・・・どこかで迷ってるのかもしれない・・・
だが、散らばった洗濯物・・カガリがあんなことをして家を出るだろうか・・・

「ねぇ・・・もしかして・・・」
「言うな!!」
違う!!違う!!カガリはこの世界にいるんだ!!
俺と一緒に暮らしてるんだっっ

「ちわ、キラ」
「ディアッカ・・」
騒然とした部屋にディアッカが入ってくる。
「あれ?何・・?お取り込み中?」
部屋に漂う雰囲気に気づいたディアッカはまずいとこに来たとばかりに眉をひそめた。
が、アスランの慌てた様子に驚いた。

「珍しい、アスランが表情豊かになってる」
「ディアッカ!」
ディアッカの場を読まない言葉にキラは慌てて怒った。
確かにアスランがここまで感情を露にした顔をすることはない。
だが、だからこそ突っ込むことではない。
アスランはそんなことどうでもいいというより、耳に入らず次はどこへ向かえばいいのか考えていた。

「そうだディアッカ!お前女の子を見なかったか!?」

ディアッカはカガリを見たことがある。アスランはそれを思い出す。
「女の子って・・・その辺にいっぱいいるだろ」
ディアッカはアスランのあまりの気迫に少したじろぎながら言った。

「違う!前に俺と一緒にいた金色の髪の子だ!」
アスランはディアッカの態度に怒ったように叫ぶ。
「金色・・・?」
ディアッカは思い出そうと唸る。
金色ねぇ・・・そういやいつだったか珍しくアスランが女連れで・・・

「あああ!!!」
悩んでいた顔が急に思い出したように動く。
「知ってるのか!?」
「そうか!どっかで見たことあると思ったらあのときの子か〜」
ディアッカはスッキリしたような顔になった。

アスランは急に体の力が抜ける思いがした。

いるんだ・・・
この世界に・・・カガリ・・・
カガリ・・・・・

「どこで見た!?」
安心した表情もつかの間、アスランはディアッカに詰め寄る。
「どこって言うか、イザークと歩いてたぞ」
「・・・イザーク・・・?」
「ああ、なんかイザークのあとにお嬢さんがついて行ってた。

何でイザークなんだ・・・?
どう考えてもカガリとイザークに接点はない。
だが、イザークと一緒だということは・・・

「アスラン・・・カガリ、話してないよね・・?」
キラの言葉にアスランは胸が刺さる思いがした。
まさに今自分が考えていたことをキラが言ったからだ。

ドンッッ
「って・・・」
アスランは扉を塞ぐように立っていたディアッカを押しのけるように部屋から走り出ていた。


カガリ!!
カガリがイザークに自分のことを話したらどうなる?
本部に報告されるか?
カガリは連れて行かれるのだろうか
俺は・・・カガリと離れたくなどないのにっっ

アスランはひたすら、イザークの部屋に向かって走っていた。


「なんなんだ?」
ディアッカはアスランが出て行った方向を見つめ、眉をひそめていた。
「今のことは秘密ね」
キラはにっこり笑うと言った。
「ん?」
ま、いいけど・・と、ディアッカは頷くと、
「その代わり、女の子がグラっとくるお酒でも開発してくれない?」
と嬉しそうに言った。
「え・・・」
「それ頼みに来たんだ、キラならできるだろ?」
はぁ・・・
この人は・・・
キラはため息をついた。
確かに自分はいろんな研究をしていて、惚れ薬まではいかないが、
精神を高揚させるぐらいのものなら作れる。
「ちょっとだけだよ・・」
「サンキュ!」
契約は成立した。




「これでよろしいですか?」
「ああ」
イザークは部品を受け取ると部屋へと戻る。

今までいろんな人を見てきた。
とくに、幼くして両親を亡くした子供は見ていられない。
今の現状では物資を与えるのが精一杯だ。
その為、生気を失い、ただそこにいるだけの人間がたくさんいる。
精神面のケアまではなかなか手が回らないのが現状だ。

あの女、カガリも両親を亡くしたといっていた。
ぶつかった時の不安な表情・・・彼女も同じように過ごしてきたのだろう・・
イザークは考えながらおかしくなった。
自分だって、たくさんの人間を殺している。
その人にも親がいて、子供がいて、守るものがあるだろう・・・
なのにそんなことをしておいて、今は残されたものの心配をしている。


「イザーク!!!」
その時、遠くから自分を呼ぶ声がし、そちらに顔を向ける。
と、その瞬間目の前が真っ暗になった。

「カガリはどうした!?」
よく見ると、襟首を掴まれ目の前には・・・アスランがいた。
「なっなんだ貴様!?」
もっていた金属が落ち、甲高い音が響く。
「お前、カガリと一緒だったんだろ!女の子だ!」
「・・・・・ああ?」
イザークは掴まれていることに腹を立てながらもアスランの問いに答える。
「確かにカガリというやつと一緒だ。それがなんなんだ」
アスランは怒りを更に強めた。
「どこにいる!?」
「貴様っっなんなんだ!!!」
さすがのイザークもわけの分からないアスランの行動に怒り、アスランの襟首を掴んだ。

「確かに一緒にいるが、壊れた機械を直してやってるだけだ!」

「き・・・・かい・・・?」
アスランの怒っていた顔がゆっくりと、きょとんとした顔になっていく。
「そうだ!今だって部品を取りに来てたんだ!」
アスランはイザークを掴んでいた手を緩めた。
この様子だとイザークはカガリについて詳しいことは知らないらしい。
アスランの体を血が巡っていく。

機械・・・多分ハロのことだろう・・・
壊れたのか?
それで俺のところにでも来ようとしてたのだろうか
「すまない・・・イザーク・・」
アスランは落ち着いた表情でイザークを見る。
フンッ
と、イザークは乱れた襟元を正した。

「それでカガリは・・?」
「俺の部屋にいる。なんだ?やっぱり知り合いだったのか」
「やっぱり?」
イザークの知っているかのような言葉にアスランは反応する。
「格納庫でぶつかって来てな、お前のことを口にしていた気がしたんだ」
カガリ・・・



「戻ったぞ」
部屋に着くと、イザークはドアを開けた。
アスランはイザークの後ろに立っていた。
「イザークお帰り!」
カガリの声が聞こえる。
イザークの姿で自分が見えないのかカガリはアスランと呼ばない。
「部品あったぞ」
「よかった!ありがとな!」

カガリの明るい声・・・
カガリはイザークにも『お帰り』と言った。
自分に言うのと同じように・・・太陽のように・・・
アスランの心に黒い影が刺さる。

「カガリ・・・」
アスランはつぶやくように言った。

「ア・・・アスラン!?」
カガリはイザークの向こうに見える藍色に気づく。
「探してたみたいだぞ」
イザークはそういいながら部屋へと入る。

「アスランッッすまない・・私ハロを壊して・・・どうしたらいいのか分からなくて部屋を飛び出しちゃったんだ」
カガリは慌てたように事の成り行きを説明する。
「アスラン探してたんだけど、迷子になって」
「で、イザークの部屋に来たんだ」
「え?ああ・・うん。ハロ直してくれるって」
「イザークに俺がどこにいるか聞けばよかったんじゃないか?」
「そうだけど・・でも、私は・・・」
カガリの表情が曇る。
アスランに迷惑をかけたらいけないと思って・・・
「部屋から出るなともいってたよな」
「・・ごめん・・・」
なんだろう・・・アスランの言葉が怖い・・・
まるで出会った頃みたい・・・
カガリは困ったようにアスランを見上げる。

どうしてカガリは楽しそうにイザークの帰りを待っていたんだろう
俺はこんなにカガリのこと心配して探してたのに・・・

「帰ろう、カガリ」
「え・・・?」
アスランはそう言うとカガリの腕を掴んだ。
ぐいっと部屋から引っ張り出す。
イザークはアスランの行動に目を見開き、
「おい!?」
と、声を発していた。
カガリは靴も履いていない状態だ。
それにハロは家の中にある。
アスランの行動はどう考えてもおかしいものだった。

「まっ待ってアスラン!」
カガリはアスランの行動に焦ったように体に力を入れる。
体はここからでるのが嫌だというように固まっていた。
「カガリ・・・」
そのときのアスランの表情を見たカガリは更に固まる。
アスランは今にも泣きそうだったからだ。
「貴様!なんだか分からないが、靴・・」
「そうか・・」
イザークの言葉を遮るようにアスランは呟く。

「カガリは俺じゃなくてもいいんだよな・・・1人で寂しくて・・だから俺と一緒にいたんだ・・」
「・・・・・・何・・・言ってるんだ・・?」
アスランの力なく笑う顔にカガリは背筋が冷たくなった。
「心配してるのは俺だけで、カガリと一緒にいたいと思ってたのも俺だけで・・」
「アスラン?どうしたんだ?私はアスランと一緒で」
「もういいよ。分かったから・・・」
分かった?何が?

「俺の側にいなくていいよ・・・俺もカガリがいなくてもいいから」

血の気が引いた。
なんだろう?
アスランは私なんか必要じゃない。
あの優しさもすべて作り物だったってことなのか?

カガリの頭の中はいろんな言葉が駆け巡っていた。
ただ虚ろにアスランが遠ざかっていくのを見ながら。

「アスランの奴、何が言いたいんだ?」
イザークはカガリを覗き込む。
「おっおい!?」
カガリはぼろぼろと涙をこぼしていた。

ああ・・・・・私は必要ないんだ・・・・
カガリは立ち尽くして泣くことしかできなかった。




あとがき
だってさ・・告白とかもしてないんだよ(笑)
2人にはしっかり結ばれて欲しいです☆
そのためならイザークにピエロでもなんにでもなってもらいましょう!