ここは青空学園
・・・・の体育館の裏である。
そこに2つの人影がある。
「ずっと見てたんです。つ・・付き合ってもらえませんか?」
少女は顔を真っ赤にしながら少年に言った。

すると少年は
「ごめん。はっきり言って今、そういうことに興味ないんだ
それに君とは話したこともないだろ。そんなこと言われても迷惑なんだ」
と冷たく言った。
それを聞いた少女は真っ赤な顔を真っ青にし、泣きながら走り去って行く。

何で泣かれないといけないんだ?

少年はうんざりした顔でため息をついた。
毎日毎日いろんなところに呼び出され、見たことも話したこともない女の子から愛の告白を受ける。
初めの頃は申し訳ない気持ちを持ちながら対応してきたのだが、最近では1日に2回という呼び出しもざらではない。
生徒会長という役職をしている彼には迷惑極まりない時間である。
はぁ・・っともう1度ため息をつき、気分を切り替え教室に戻ろうとしたとき

「危ない!!!どいてくれ!!!」
どこからか誰かの叫び声が聞こえたかと思うと目の前が真っ暗になる。
っと同時に背中に激痛が走った。

「すまない!人がいるとは思わなくて!」
背中の激痛に耐えながら目を開くとそこには眩しいぐらいの蜜色が見えた。




輝く星〜始まりの音〜





「キラ大丈夫か?」
少女は布団の中からすまなそうに顔を出している少年に声をかける。

「カガリ・・・ごめん、一緒に行くって約束したのに・・」
「気にするな!私だって子供じゃないんだ1人で学校ぐらい行けるさ」
「でも、カガリは初登校だろ?道だって・・」
キラは熱のせいで真っ赤な顔を不安げにしながらカガリに言った。

カガリとキラは双子である。
幼いうちに両親を亡くし、別々の親族に育てられたのだが、カガリの方の叔父が病気で他界し、
それを知ったキラの母がカガリも面倒を見るといったのだ。
経済的に苦しくなった叔母は泣く泣くそれを受け入れた。

カガリも叔母と離れるのは寂しかったが、片割れ、キラと同じ家に住めるということでうれしくも思っていた。
当然、学校も転校ということで今日からキラと同じ学校に通うことになっているのだ。

「大丈夫だ 昨日下見に行ったし。じゃ 行ってくるな!風邪早く治せよ!」
カガリは片手をあげながら勢いよくドアの方へ走る。と、その瞬間短いスカートがかなり上まで舞った。

「あっっ」
キラは思わず声を上げたがカガリはパタンとドアを閉めて行ってしまった。
そんなとこが心配なんだよ・・・1人で行かせて大丈夫かなぁ・・・?
熱が出て上手く回らない頭をぐるぐるさせながらキラは唸っていた。



この道を真っ直ぐ行って、ここを左。で・・・・
「あれ?」
学校があると思ったその場所には住宅街だった。
間違えたかな?
カガリは頭をフル稼働しながら来た道を戻っていく。

ここは絶対合ってるんだよな・・・じゃあこの曲がり角を間違ったのか??
そんなことを考えながら右に曲がって戻り、左に曲がって戻りを繰り返していくと目の前に目的地の学校が見えた。

「やった!」
カガリはやっと着いた目的地に感激しながらふと時計を見た。
すると時計の針は8時30分を指してる。
8時30分・・・・

<編入についての説明があるので8時30分には職員室に来てくださいね>
カガリは電話で先生に言われた言葉を思い出す。

「やばい!!迷ったからすごい時間かかっちゃったんだっ」
カガリは慌てて辺りを見回す、そこは学校は見えるものの高い塀で囲まれていた。
きょろきょろと門を探すが全く見当たらない。
見えるのは塀を乗り越える為にちょうどいい枝ぶりの木である。
カガリは少し考えた後、その木に手をかけた。
いける!この木ぐらい楽々登れるな。
軽々と木を登っていき塀の上に足がついた。そしてそのままジャンプして地面に飛び降りようとした瞬間、深い藍色の髪が見えた

「危ない!!!どいてくれ!!」
思わずカガリは叫んでいた。



痛みに少し慣れた少年は目の前に広がる蜜色が人の髪だということに気づいた。
「大丈夫か?すまない・・・」
カガリはほんとにすまなそうに少年の上から離れ立ち上がった。

「ああ・・・大丈夫だ」
少年は制服についた落ち葉を払いながら立ち上がった。
本当は全然平気というわけでもない。
人1人が上から降ってきたのだ。しかも何の用意もしていないところに・・・
塀で打った背中がまだジンジンしている。だがそんなことを言ってどうなるわけでもなく、とにかくこれ以上面倒なことは ごめんだった。

「じゃ」
そういって少女に背中を向け去っていこうとする。がその行動は少女に捕まれた右腕によって止められる。
「何?」
不機嫌極まりない顔で少女を見る。

「いや・・すまないんだがついでに職員室の場所を教えてくれないか?」
人にものを頼むのにその言葉使いはなんなんだ!といってやりたかったがやはり面倒なことに巻き込まれたくないため
「そこの渡り廊下を右に行った2階だ」
とすんなり教えた。
「そっか、ありがとな!お前名前は?」
すでに渡り廊下に向かって走り出している少女が少年の方を向いて言った。
・・・・なんだこいつは・・俺のことを知らないのか?
正直、この学校で自分のことを知らない人はいないだろうと思っていた少年は少女の言葉に驚く。
高校2年生にして(3年を押しのけ)生徒会長、学年トップの成績、女の子にはもてるということで他の男子生徒からは憎まれたりもしている。
実際ケンカになったことも何度もある(当然、全勝ち)
どうでもいいがファンクラブもできてるらしい。
そんな自分を知らない人間がこの学校にいるとは思わなかったのだ。
そんなことを考えながらなぜか口が勝手に開く

「アスラン・・・・」
思わず彼は自分の名前を口にしていた。

「私はカガリ、よろしくな!」
そういって少女は蜜色の髪を輝かせながら走っていった。
・・・・・なんなんだ・・・?1年生かな・・?
アスランは自分が名前を名乗ったことにも驚いたが少女のさっぱりしている物言いと輝いてる姿にも驚いていた。
女の子があんなふうに見えるのは初めてだ・・・
それがどんな意味を持っているかは知るわけもなく、教室に戻るところだったのを思い出し急いで教室へ向かった。




「あらら 最初から遅刻しちゃったのね」
職員室に行くと担任になるマリュー先生が笑顔でそういった。

「すみません」
カガリは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいのよ。お母様から電話があってね。キラ君が具合が悪いのでカガリちゃんが1人で学校に行ったって聞いてたから」
続けてマリュー先生は笑いを堪えながら
「カガリちゃんはそそっかしいから時間通りにつけないかもしれないっておっしゃってたわ」
といった。
しばらくきょとんとした顔で黙り込んでたカガリだが、母の言葉の意味に気づき苦笑いをする。

「いいお母様ね。分かっててもついて来ようとはしない」
「はい。優しい母なんです」
母親のそんな深い愛に2人は笑顔で向き合う。

「で、クラスなんだけどあまりいいことではないんだけど、キラ君と同じクラスにしたの」
マリューは少し小さめの声でカガリに言った。
「クラス分けはバランスを考えてするものなんだけど、あなたには事情があるでしょう?やっぱり少しぐらい重荷を
減らして生活をさせてあげたいと思って・・・」

マリューのその言葉にカガリは育ててくれた、実の母だと思ってる人との別れや父の死、慣れ親しんだ町からの引越し、転校など
確かにいきなりあり過ぎたであろう出来事を思い起こす。
彼女は自分のためにこんな配慮をしてくれたのだ。
分かれば文句を行く人もでてくるだろう・・・でも、今は彼女の優しさに感謝し甘えさせてもらうことにした。

「ありがとうございます マリュー先生」
彼女の輝いた笑顔にマリューは優しく微笑んだ。



アスランは教室で放課後にある生徒会会議の資料を読んでいた。
変なことに巻き込まれて読む時間が減った・・・などと頭の中で文句を言いながらものすごい速さで資料を読んでいる。
教室の窓からは1年生や2年生の女の子がきゃっきゃっといいながらアスランを見ていた。
しかし、アスランはそれを知ってか知らずか全く気に留めず資料を読んでいた。
ふと斜め前の席を見る

今日はキラ・・・欠席かな?昨日だいぶ咳き込んでたもんな・・。

キラとアスランは幼馴なじみである。
家が近所だからということもあるのだが、なぜか小・中・高とも同じ学校で8割は同じクラスなのだった。
そのおかげでほんとの兄弟とも思えるぐらいの感情を抱いていた。
当然俺が兄だ!!だいたいキラは手がかかるんだよ。宿題はやってないし、頭いいのに変なところ間違えるし、
でも、人懐っこくて誰にでも好かれるんだよなぁ・・・俺とは大違いだ・・。
アスランは資料を手に自分とキラの差に少し寂しくなる・・・とそのとき視界の端に見たことのある蜜色が見えた。
思わず蜜色が見えた窓に顔を向けるがそこに蜜色はない。
アスランはなぜか分からないが寂しい気持ちになった。

「はいみんな席について!」
声で騒がしかった教室はいきなり机や椅子の騒がしい音に変わる。

「今日は転校生を紹介します」
マリュー先生の言葉に教室がざわざわと騒がしくなるのをアスランは脳の隅で聞きながら資料を読むのを再開していた。
どうでもいい。彼の心の中はその単語しかなかった。

「初めまして カガリ・ユラです!今日からよろしくな!」
その言葉を聞いたとたんアスランの脳は真っ白になり思わず資料から目を離し「転校生」と紹介された人を見た。
そこには先ほど見た蜜色の髪の少女がいた。
ああ なるほど。転校生だから俺のこと知らなかったんだ
アスランはカガリが同じクラスなのに驚きながらも朝のことに納得がいき、また資料に目を移した。
気持ちは先ほどと同じでどうでもいい。であった。



カガリの席はキラの隣だった。ということはアスランの前である。
先生に指示されてカガリはその席に向かう。

「よろしくな」
カガリは後ろの席の人に声をかける。
「ああ」
そっけない返事。
その返事を聞いたカガリは少しむっとした。

人が挨拶してるのに顔も見ずに返事をするなんて失礼なやつだなぁ。
しかもなに読んでんのか知らないけど、紙で顔も何も全然見えやしないじゃないか!!
と文句を言いたい気持ちに駆られながらもさすがに転校初日、しかも初顔合わせでケンカしてしまったら皆に迷惑がかかると思い
怒りをぐっと堪えてふんっと椅子に座った。



1限目が終わり休み時間になるとカガリの周りには人だかりができた。

「私 ミリアリア ミリィって呼んでね」
可愛く肩でカールした栗色の髪の少女が声をかける。

「私はラクスと申します」
つづいてピンクの長い髪をふわふわさせた美人とも可愛いともとれる少女が声をかけた。
「私はカガリでいいぞ ミリィ、ラクスよろしくな」
カガリの明るく人見知りしないその様子に2人はうれしそうに笑った。

「どこに住んでたの?」
「桜坂市だったんだ 親の転勤でこっちに来たんだ」

キラとカガリのことは皆には内緒にしようと相談していた。 やはり難しい問題でもあるし、絶対に言ってはいけないというわけではないが初めは黙っておくことにしたのだ。
幸いなことにカガリの母が戸籍だけは自分の方に残しておいてほしいとキラの母にお願いしたのだった。
カガリもそうしたいと思っていたし、キラの母も快く受け入れてくれた。
そのためカガリはユラ、キラはヤマトと苗字が違うのだ。

「あ、そうですわ」
ラクスがくるっと顔の向きを替えカガリの後ろの席の人物に声をかけた。
「アスラン 今日の生徒会の会議は中止にしましょう。キラがお休みですし」

「アスラン?」
カガリは思わず声に出していた。
その声に後ろの席の人物が資料から顔を出す。
深い藍色の髪・・・綺麗なグリーンの瞳。それはどう見ても朝のあの人だった。

「なんだ アスランじゃないか!何で言ってくれないんだよ!」
怒ったようなふてたような声でカガリはアスランに向かって言った。
そのまるで昔からの友達だったみたいな話し方にアスランは怒るというより驚いて目を見開いている。

「あら?お2人はお知り合いでしたの?」
不思議そうに問うラクスに
「うん!」
とカガリは明るく返す。
それを聞いたアスランは眉間に皺を寄せた。

俺たちはいつ知り合いになったんだ・・?確かに知ってはいるがそんな仲良しみたいに言われる仲ではこれっぽっちもないぞ。
ばれない程度のため息をつく。

ああ・・こいつも他の女の子と同じか・・。
以前、いらないといったのに「もらってくれるだけでいいんです」というので手作りのお菓子をもらったら次の日から
彼女みたいな顔をして毎日教室に来た子がいた。
生徒会に入って学校を良くしたい何て言ってた子が実は自分目当てで入っただけだったこともある。(もちろんやめさせたが)
用は近づく為ならどんな手段でもいいってことだ。
きっとこいつも・・・

アスランはそんな思いを抱きながらカガリを睨みつけた。すると

「どうした?お前眼が悪いのか?」
っと意味不明なことが返ってきた。

「「「は?」」」

アスランだけでなくミリィとラクスも思わず間の抜けた声を出してしまう。

「ここの席 けっこう後ろだもんな。なんなら私が変わって・・・あ、でも1つしか変わんないから意味ないか」
あはははっとカガリは笑う。
それを見た3人は「ポカーン」という文字を背中にしょってカガリを見ている。

「あ・・あのカガリさん?」
絶妙な雰囲気の中、声をかけたのはラクスだった。
「すみません、どうしてアスランが眼が悪いと思われたのですか?」
「?だって、私を眼を細めてみてたからさ・・眼が悪いのかなって
前の学校にいたんだよ。眼が悪くて人を見るときいっつも目つきが悪くなるやつ」
それを聞いたミリィとラクスは「なるほど」っと頷いた。

しかしそれを聞いたアスランは納得というよりあきれた顔をしてカガリを見ていた。

「え?違うのか?すっすまない」
カガリは何が間違ってるのかもよく理解していないがアスランのあきれた顔を見てとりあえず謝った。
その困ったような情けないようなカガリの顔を見たアスランは思わず噴出しそうになったが何とか堪えてラクスのほうを見る。

「そうだな 会議はキラのいるときにしよう」
と何事もなかったような顔をして言った。
アスランは心の中でお前は天然だ・・・っとカガリに突っ込んでいた。