「ん〜〜〜」
カガリは眩しい光の中で眼を覚ます。
「眠い・・・」
横になったままごしごしと眼をこすり、ゆっくりと瞳を開ける。
そこには朝のはずなのに夜のような藍色・・

「朝・・・だよな・・・?」
その藍色に疑問を抱きゆっくりと頭を覚醒させると
「ん・・・・・ぎゃああああ!!!!」
と、女の子とは思えない叫び声を出した。

「うるさい・・・」
その声に、藍色の・・髪をもった青年はゆっくりと目を開ける。
「あ・・・そうか・・ここ・・・」
寝ぼけた頭で青年はきょろきょろと辺りを見回した。

「アス・・アスラン・・・」
「おはよう、カガリ」
「おはよう・・じゃない!!」
カガリはなぜここにアスランがいるのか頭が追いつかないらしい。
「カガリ、朝からして欲しいの?」
「へ?」
そう言われ、ゆっくりと自分の格好を見る。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
カガリは自分が裸であることに気づき、布団にもぐりこんだ。
そう・・そうか・・・昨日は・・・アスランと・・・。

「ちょっとカガリ!!どうしたの!?」
ドンドンっと、キラがカガリの部屋の戸を叩く。
「いやっっなんでもない!すぐ下に降りるから!!」
そういうと、アスランを睨みつけた。
が、対するアスランはにこにこと満足そうだった。



輝く星〜恐怖の日曜〜




「カガリさん、アスランおはようございます」
台所へ行くと、ラクスがコーヒーを飲んでいた。
「おはようキラ、ラクス」
「おはよう」
カガリとアスランは挨拶をする。
なんか変な感じだよな・・・朝起きたらラクスもアスランもいるなんて・・・。

今日はキラ、ラクス、アスラン、カガリ、シンでテーマパークへ行く日である。
「待ち合わせ何時だっけ?」
キラが時計を見て尋ねる。
「10時半ですわ」
「あ・・・」
今の時間は9時半、待ち合わせ場所に行くには30分はかかるし、カガリたちはご飯も食べていない。
「わ・・どうしよう・・」
カガリは焦った声でそういいながらなぜかその場でわたわたとしだした。
カガリ・・その場で慌てても何も解決しないぞ・・・
と、アスランは思いながらも、その姿が可愛くて黙って見ていた。
が、いつまでもわたわたとして焦ってばかりのカガリだったので、
「遅れてもいいだろ、どうせ待ってるのはシンだけなんだし」
と、カガリの背を押して椅子に座らせた。
「でもっっ」
「ご飯は食べろよ。体持たないぞ?」
「・・・・・・うん」
アスランにそう言われ、食べることはパワーの源だと思っているカガリは素直に従った。

「はい」
キラは食パンとスクランブルエッグをカガリとアスランの前に置いた。
「わ!ありがとうキラ!!」
カガリはうれしそうに言うと、さっそく食べ始めた。
「美味しい!」
「そう?よかった」
たかがパンと卵、でも、カガリは本当に美味しそうに食べてくれるのでキラは作ったかいがあると、
嬉しそうにしていた。
「アスラン?食べないのか?」
カガリがふとアスランのほうを見ると、アスランは食事の前で固まっていた。
「あ・・いや・・俺、朝は・・」
アスランは朝食をとらない人間だった。
一応、健康補助の飲み物ぐらいは飲んでいるのだが、朝はどうも食欲がない。

「ダメだ!!朝ごはんを食べないと、体内のエネルギーが作られなくて、余計に体によくないんだぞ!」
カガリはそんなアスランに渇を入れ始める。
「それに朝ごはんを食べると脳が活発になって、頭の働きがよくなるんだ!」
「じゃあ、毎朝ご飯を食べているカガリは頭の働きがいいんだ・・」
「うっっっ」
それは私の成績のことを言っているのか!!と感じ、カガリは言葉に詰まる。
「とにかく食え!」
「へ!?」
カガリはアスランの口にパンを突っ込んだ。
「朝ごはん食べてないのに成績が良いなんてずるい。食べてるんならいいけど・・」
カガリなりの食べさせる為の言い訳。
しかし、まあ・・・ここまで言ってくれるんだから食べるか・・・。
と、苦しいながらアスランは朝食に手をつけ始めた。



シン・アスカ邸

「マユ・・今日の兄ちゃんはどうだ?」
「また?毎日毎日変わらないよ」
マユはウンザリ顔で答える。
「あらシンはデート?」
母はにやにやとシンの顔を見る。
「ちが・・・・っ・・・・・・・・・・」
違う・・って言いたくない・・・っていうか、何になるんだろう・・・
俺が抜ければWデートで俺が入れば・・・
む・・・
「何でもいいだろ!行って来ます!!」
シンは逆切れをしながら家を後にした。

10時5分。
ちょっと前に着くぐらいかな?
シンは腕時計を見ると時間を確認した。
それにしてもオレ・・・このままでいいのかな・・?
カガリとのことである。

どうもカガリの自分に対する態度を見ていると、男として見てくれてない気がする。
以前は今何か言っても望みはないだろうとしばらく様子見をしていたが(悔しいが)
このままでは更に望みが薄くなってしまうのではないかと心配になってきた。

自分をもう少し知ってもらってからでないと、告白したところで恋人・・・アスランには勝てないと言う思いがあるからだ。
すでに恋人がいると言うことは少なからず、カガリもそいつのことが好きで・・・

「あああ!!もう!!何考えてるんだよ!オレ!」
シンは道のど真ん中で1人叫んでいた。
「何やってるのよ・・」
不審を露にした声が後ろからかかる。

「ルナ!」
そこにいたのはルナだった。
ルナは青海中学卒業後、少し離れた女子高に通っている。
「シン、不気味よ・・・こんなとこでなにやってるの?」
不気味って・・・
「別に・・ルナこそ何やってるんだよ・・」
「私?レイのところにちょっとね・・」
ルナはなぜか少し顔を赤らめていった。
「何?熱でもあるの?」
その赤みに気づいたシンが聞き返す。
「ないわよっっ。レイに・・勉強教えてもらおうと思って」
「でも学校違うのに分かるのか?」
「レイならわかるわよ!!教科書だって内容変わらないんだし!」
ルナはどんどん機嫌が悪くなっていく。
このまま会話をしていたら時間に遅れると感じたシンは
「じゃあな。オレ、カガリと出かけるんだ!」
と、間違ってはいないが、ちょっと違う言い回しを使い、シンは走っていった。

「カガリ・・?」
ってあの正月に会った青空学園の人よね・・
ふーん・・・
ルナはシンの走っていった先を見ながらきょとんとしていた。




「す・・すぎちゃった・・・」
待ち合わせ場所の駅についたシンは息を切らせながら言った。
「10時45分・・・・」
時計を見ると待ち合わせ時刻は過ぎてしまっていた。

「なのに・・・なんでいないんだよぉ・・・」
そこには辺りをいくら見回してもカガリの姿はない。
まさかオレ・・・置いてけぼりとかじゃないよな・・・
妙な不安がシンを襲ったとき、
「すまん!遅れた!」
と、カガリの声がした。
「カガリ!!!」
シンは笑顔で後ろを振り向く・・・が、当然のことながらそこにはアスランの姿もあった。
「おはよう」
アスランは満面の笑み・・いや余裕の笑みでシンに挨拶をする。

「おはようございます」
なんか・・かなり余裕なオーラがでてる気がするんだけど・・・。
シンはアスランの表情がどうも腑に落ちなかった。
「シンおはよう」
「今日はお天気も良くてよかったですわね」
キラとラクスもシンに挨拶をした。
「おはようございます。本当に晴れてて良かったですね」
「電車、何時があるの?」
「昨日見たら・・10時50分発のがあったな」
さすがはアスラン。誰も何もいってないのに1人だけ、時間をきちんと見ているとは・・・
「さすがアスランだな!」
カガリのその言葉に、自分も調べておけばよかったと、後悔するシンだった。



電車に乗り込むと、席は意外に空いていた。
「あそこ座ります?」
シンが指差したのは3人席と2人席だった。
「うん。そうだね」
キラはすばやく2人席に座る。
「ラクス」
「はい」
その隣にラクスが座った。
「じゃあ、私たちは3人席だな!」
カガリは前にいるアスランを押しながら進む。
「カガリ・・窓側・・」
アスランはカガリに窓側へ座るよう言おうとしたのだが、
「アスランは窓側が好きなのか?よし!」
といいながら、カガリはアスランを窓側の席に座らせた。
「ちがっっっ」
焦って、誤解を解こうとするもののカガリはすでに席についていた。
「私がここで、ほらシン!」
カガリはシンに自分の隣を指差す。
「はい」
シンはうれしそうに席へとついた。
へへん。といわんばかりのシンの表情にアスランはむっとする。

「ここからどのぐらいかかるんだ?」
「・・ああ・・確か・・45分はかかったかな?」
「けっこうかかるなー」
「テーマパーク・・・アークエンジェル・・・」
カガリはイザークにもらったチケットの裏を読み始めた。
「絶叫系はおまかせ・・・中でも大人気のフリーダムは時速150キロで高速回転・・・なうえ、空中で止まります。
そのときのあなたはどうなる・・・!?
普通では考えられないコーヒーカップ、ジャスティス。
どこにでもあるのとは違います。ここのコーヒーカップはネズミの滑車のように回転するのです!」
「・・・・・・・・・・・おい・・・・」
アスランは思わず声をかけた。
「そこってどんなテーマパークなんだ?」
シンもそんなアスランの言葉に頷く。
「さぁ・・行ったことないし・・・でも、遊園地じゃないのか?」
「誰も行ったことないの?」
自分はないけど、と、シンは尋ねる。
「俺は興味ないし・・」
「私、引っ越してきたし・・」
「僕も名前は聞いたことあったけど、よく知らないなぁ・・」
「私も存じませんわ」
全員に不安が走った。


「あら・・・シン・アスカ?」
みんなが不安げな表情をしている中、華やかな声が電車に響いた。
「あ!ミーア」
シンはいきなり現れた見覚えのある顔に声を発する。
「あ・・・・」
ミーアはシンの向こうにアスランの姿を見つけ少し気まずそうにした。
「ミーアさんこんにちは」
「あ・・ラクスさん・・・」
声のした方をみると、そこにはラクスとキラ。
ミーアは更に気まずくなる。

「ミーアはどこ行くんだ?」
カガリはそんな空気を知ってか知らずか、明るく声をかけた。
「え・・ええ・・・頼まれものを・・」
そのとき、カガリの手にあるチケットが目に入る。
「・・アークエンジェル・・・」
「ミーア、行ったことあるのか!?」
ミーアのつぶやき方に何かを知ってそうな雰囲気があったため、カガリはうれしそうに聞き返す。
「ええ、何度か・・今日も頼まれものを届けに・・・」

「「「「「え!?」」」」」
じゃあ、同じところに向かうのか!?と言わんばかりの声が車内に響く。
「兄がそこで働いてるんです」

「「「「「お兄さんがいるのか!?」」」」」」
兄がいてもおかしくないのだが、なぜかみんな、驚いたように聞き返す。
「え・・ええ・・・今日は忘れ物を届けに・・・」
その迫力に当然のことながらミーアはたじろぐ。

「なんだ、なら一緒に遊ぼう!」
言い出したのはカガリだった。
他の4人は驚いた顔でカガリを凝視している。
「カガリ・・」
アスランは少し気まずそうに声をかけた。
「だって、せっかく一緒になったんだし」
ミーアがアスランとデートをするって言うのを聞いたときはショックで、、ミーアに対して嫉妬があったが、
今はその誤解も解けているのでカガリは気さくに話しかける。
今のミーアの気持ちは分からないが、アスランは「告白されたが断った」と教えてくれたので、
今は安心している。
アスランを信じる信じない以前に、自分がアスランを好きな気持ちは確かなので、考えても仕方ないと、
カガリは思っていた。

「それに私たち5人だぞ」
「それがどうかしたの?」
シンはすかさず聞き返す。
「2人乗りのときに1人余っちゃうじゃないか!」

そうだーー!!
シンは顔をみるみる赤らめる。
遊園地の乗り物といえば大半が2人乗りだ。
このままではラクス先輩とキラ先輩がペアでカガリとアスランがペアになってしまう!!
「ミーア!」
考えがまとまらないままシンはミーアをギッと見た。
「な・・何?」
その迫力にミーアもびびる。
「遊園地、一緒に行こう!」

「ほら、シンもこう言ってるし」
カガリがそれに便乗する。

「どうせ行くとこ同じなんだし!」
そうだ・・ミーアがいればまだチャンスがあるかもしれない。
この女の性格だったら、ペア交換なんて言い出しそうだし、アスランと話してくれれば眼くらましになるかもしれない。
シンは成功するのかどうだか全く分からないが、とにかくチャンスは増やすに越したことはないと、勢いづいていた。
「でも・・・」
ミーアはちらりとアスランを見る。
「・・・・・・いいよ・・」
アスランは軽くため息をつきながらいった。





「お兄ちゃん!」
テーマパークに着くと、ミーアの兄がいる場所へついていった。
「ミーア、わざわざすまなかったね」
「はいこれ」
「ありがとう」
ミーアのお兄さんは金の髪を少し長めに伸ばしている。
「なんか、顔はフラガ先生みたいな感じだな」
確かに、と全員で頷く。
そのとき、ミーアのお兄さんと目が合う、と、こちらに歩いてきた。

「いつもミーアがお世話になっているね。兄のクルーゼだ」
「あ、はい。こちらこそ」
カガリは少し恥ずかしそうにお辞儀をした。

なんで照れるんだ?
アスランとシンの思いは同じだった。

「君たちここは初めてか?」
「はい。すごいですね、なんか・・・すごい速度で回転してるように見えるんですけど・・・」
キラは先ほどから目の前にある乗り物を眉をしかめ見ている。
その乗り物「ジャスティス」は確かに普通のコーヒーカップではなかった。
滑車どころか、山から高速回転で落ちてくる岩のようにも見える。

「私が開発したんだよ。この速度がギリギリなんだ」
「なんの!?」
シンは突っ込む。
「これ以上早くするとベルトをつけていても人が飛んでしまうのだよ」
「お兄ちゃんずるいのよ〜自分では乗らないの」
ミーアは「もうっ」という顔でうれしそうに話す。
「当然だろう。状況を把握するには外から見てる方がいい。それに酔うしな」
「酔うのかよ!!」
みんな同じことを思ったのだが、声に出したのはやはりシンだった。
「どうだい?乗っていくか?」
「けっこうです!!!」
みんなの思いは同じだった。

「なぁ・・どれ乗る?」
クルーゼの怪しい現場を後にした一行はパンフレットを見ながら歩いている。
「ここは絶叫ものがメインですけどね。こっちの方には動物園もありますよ」
ミーアはパンフレットを指差しながら言った。
「へぇ!動物園もあるんだ」
「とりあえずこの近くから回る?」
「そうだな」
キラの提案にみんなが同意した。

「では、勢い付けにフリーダムはいかがですか?」
「え!?」
ラクスの言葉にアスランは声を上げた。
「どうしたんだ?」
カガリはアスランの驚きように首をかしげる。
「あはは。アスラン絶叫系ダメだもんね」

そうなのかーーーーー!!!
シンは誰もいないほうを向き、喜びで手を震わせる。
ならミーアいなくても大丈夫だったんじゃん!
「いや・・でも・・」
アスランはちらっとシンを見て考えるが、
「無理しなくていいんだぞ!吐いたら大変だろ!」

カガリ・・汚いよ・・
全員が同じ場面をを想像してしまった。

「私も絶叫ダメなの!待っててもいい?」
ミーアがすまなそうに言った。
「じゃあ、キラとラクスと私とシンで行ってくるな!」
そういうと4人はフリーダムと書かれた看板の方へ歩いていった。

「・・・・・・・」
仕方ない・・と、アスランは近くにあったベンチに腰を下ろす。
その横にミーアがちょこんと座った。
「君もダメなんだ?」
アスランは暇を持て余すかのように聞いた。
「大好きよ。絶叫」
「ふーん」
アスランは軽く返したが、
「は!?」
と、慌てて聞き返す。
「ちょっとあなたに言いたいことがあったの」
「・・・何?」
アスランは少し警戒心を強くした。

「・・謝りたかったのよ。この間は・・ごめんなさい・・」
「・・・いや、いいよ」
「でも、あなたをほんとに好きだったのよ?話したことがなくても見てるだけだったけど、それでも私の想いは本物だったわ」
ミーアはアスランから目を離さず言う。
「・・・俺はカガリが好きだ。大事にしたい。だから誤解されるようなことは・・」
「分かってる。私そこまで未練たらしい女じゃないもの」
ぷいっとミーアは顔を背ける。
「・・・どんな人なの?」
カガリのことだろう・・ミーアは俯いたまま聞いてきた。
「真っ直ぐでいい子だよ。どこが好きかっていわれると、全部って言うしかないんだけど、彼女は俺を変えてくれたんだ」
アスランは微笑む。
「何が変わったのかははっきりと分からないんだが、カガリと出逢ってからの気持ちは全部初めてで・・・
まるで・・・雪を溶かしてくれるかのような・・・」
アスランの表情はミーアがいままで見たことのないものだった。
優しさ、慈しみ、愛情、すべてが込められているような・・・
「ふうん・・」
ミーアもアスランの表情を見ていると、『カガリ』に興味を抱いた。
「幸せそうねぇ・・」
ミーアがぽそりとつぶやくと、
「あ・・すまないっっ」
と、我に返ったアスランは謝った。



「あったこれだ!」
フリーダムに乗ろうとやってきた4人は大きな岩の入り口で止まった。
「迫力ありそう・・」
「楽しそうですわね!」

岩の入り口をくぐると、そこには滝があった。
「すげ・・手が込んでるなぁ・・」
シンは滝を覗き言った。
「私が作ったんだから当然だよ」
この声は・・・
嫌な予感が4人に襲う。
「クルーゼさん!」
キラは想像通りの人に思わず声を荒げる。
「さあさあ、入りたまえ。これも自信作でね」
クルーゼは4人を押し込むようにフリーダムの乗り口へ連れて行った。
「大丈夫なのか・・?」
さすがのカガリも先ほどの超高速なコーヒーカップを見ているので不安がよぎる。
「大丈夫だよ!オレがついてる!」
シンはかっこよく言ってみたものの足は少し引いていた。

「これだよ!フリーダム!」
クルーゼは少し歩いたところで立ち止まると、右を指差した。
そこには大きなロボットのようなものが立っていた。
「なんだ?これ・・」
大きさに驚きつつもどういうアトラクションなのかイマイチつかめないカガリは言った。
「これに乗って、この中を走るんだよ」
これ、と言ってクルーゼが指さしたのは、どうみてもアンパンマンの顔をした乗り物だった。

うわ・・センス悪!!
キラは心の中で突っ込みながらそれをまじまじと見た。
「あれ・・・意外に精工にできてる・・」
精工とはアンパンマンの顔がではなく、レーンに繋がる線や電子機器などだ。
これだったらかなりの高速でも大丈夫なんじゃないかな・・キラはそう思うとぞっとした。
「これ何キロで走るんですか?」
カガリが読んでいた気がするのだがそれを思い出す余裕はなかった。
「乗ってからのお楽しみです」
クルーゼはそう言い切ると、キラとラクスをアンパンマンに座らせた。
「え!?ちょっとっ待って・・っ」
そんなキラの叫びも虚しくクルーゼは2人のベルトを閉めた。

「アンパンマン出るぞ!」
その掛け声と共にキラたちの乗ったアンパンマンは発射した。
キラの叫び声と共に。



「さあ、次は君たちだ」
クルーゼがそういうと、
シューっと、奥から何かが出てきた。
あ・・・あれは・・・・
シンとカガリは息を呑んだ。

ドラえもん・・・・

「さあ乗りたまえ」
「え・・でも今、キラ先輩が・・」
1分前に出たばかりだ・・大丈夫なのだろうか?
シンはそんな疑問を抱いたが
「早いから大丈夫だ」
と、さらりと恐ろしいことを言われた。
「キラも乗ったんだし・・・私たちもいくか・・」
カガリは意を決した表情でドラえもんに近づく。
シンはならオレもと急いでドラえもんに乗り込んだ。
クルーゼがベルトを締める。
カガリとシンは緊張の中、言うんだろうな・・・さっきみたいなの・・・と、思っていたら

「ドラえもん出るぞ!」

予想通りの言葉にやっぱりと思ったが、あまりの勢いにそのことは頭からすぐに飛んだ。



その頃のアスランとミーアはジュースを片手にぼーっとしていた。

「なぁ・・ミーア・・」
「はい」
「さっきからキラ・・・だと思われる悲鳴が聞こえるんだが・・・」
「ですね」
「それにさっき空中に何かが飛び出して消えていったんだが・・・あれは・・・」
アスランは小高い建物の上を見ながら言った。
「フリーダムですよ」
ミーアは普通に返す。
「高速回転したり、空中に飛び出たり、落下したりなんでもありですからね」
「・・・・・・人が乗っても大丈夫なのか?」
「一応、大丈夫らしいです」
「一応!?」

「お兄ちゃんは人間の限界が知りたいっていうのが口癖で・・」
ミーアの言葉を聞き終わることなく、アスランは立ち上がった。
「カガリは大丈夫なのか・・?」
そのとき、

「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

と、カガリとシンであろう声が聞こえてきた。
絶叫とはいえ、尋常でない叫び声にアスランは走り出した。
「え?待ってよ!」
ミーアもアスランの後を追った。




「ク・・・クルーゼ・・・さん・・・これは・・乗る人いるんですか・・・・」
発射口に帰ってきたアンパンマン・・もとい、キラは真っ青な顔をしながら聞いた。

「君たちが久しぶりの客人だったよ。いい研究材料になったありがとう」
クルーゼは悪びれた様子もなく言った。
「ラクス・・大丈夫?」
「・・・・はい」
さすがのラクスにもきつかったらしい、笑顔を作っているが、顔は強ばっている。
「キラ!」
そこに息を荒くさせたアスランが走ってきた。
「あ・・アスラン・・・」
アスランはキラの状態からフリーダムがどれだけ恐ろしかったのか想像できた。
「カガリは!?」
「あれ?そうだ・・カガリは・・・」
というと、後ろから機械音が近づいてきた。
「カガリ!」
そこにカガリの髪と思われる色を見つけたアスランは走りよる。
と、怪しい物体がゆっくりと近づいてきた。

ドラえもん・・・・・

みんなはそう突っ込んでいるが、アスランだけはそんなことどうでも良く、止まったドラえもんをつかみ、
カガリの顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?カガリ?」
そう問いかけるものの、カガリもシンも俯いたまま固まっている。
「カガ・・・」

「「うっっっ」」
2人は同時にに口を押さえると走り出した。
「え!?」
すごいスピードで走り出す2人。
「もう、足速いんだからアスラ・・」
「「トイレどこ!?」」
遅れて到着したミーアにカガリとシンは叫んだ。
「え?そこを出て、右に行ったとこにある・・」
それを聞くと、勢いよく飛び出した。

「・・・カガリ・・酔ったね・・・」
キラはラクスも心配になり横を見ると、先程より顔色が良くなっていたので安心した。




「ほら」
アスランはベンチに座っているカガリにジュースを渡す。
「ありがと」
カガリはそれを受け取ると、落ち着かせるかのようにゆっくりとそれを飲んだ。
「シンも」
「すみません」
シンはキラからジュースを受け取る。
「あれはきつかったよな〜」
カガリは一息つくと言い出した。
「だよね。だって、回転するわ、なんか宙に浮くわ、でも、早いから何がなんだかさっぱり分からなかったんだよね」
「ジャングルっぽい場面はあった気がします」
シンはなんとか記憶をたどる。
「私が見たのは海でしたわ」
「僕は・・・砂漠みたいなのを見た気がしたなぁ・・?」
それは苦しさからの幻影だったのか、本当にあったのか、4人には分からなかった。


「私まだ動けそうにないなぁ・・みんなは他のところ見てきて」
カガリは大きく息を吸い、そう言った。
「いや、ここにいるよ」
アスランはカガリの隣に座ろうとしたが、
「ダメだ!せっかく来たんだから見ないと損だろ!」
カガリはそれを静止する。
「オレも残ります。まだちょっと・・・」
シンも冗談ではなく、まだ辛そうだった。
「だから、な?」
カガリは罪悪感を感じているのだろう、アスランを見上げた。
「・・・・・・・・・・・分かったよ・・・」
シンも本当に辛そうだし、カガリに気を使わせるのは気が引ける。
と、アスランは承諾した。
「ラクスは?」
「私は大丈夫ですわ」
「じゃあ、4人で行ってくるね、ほんとに大丈夫?」
「ああ、平気だ」
カガリは笑顔で4人を送り出した。




「あ〜〜気持ち悪い」
カガリは4人を見送った後つぶやく。
「あれはアトラクションじゃないよ・・」
「殺人マシーンだ」
「ほんと」
シンとカガリはぽそぽそとつぶやく。
カガリは苦しかったのだろう、ブラウスのボタンを外し、首元を開く。
「あー楽だ!」
そういうと、ベンチの背もたれに寄りかかる。

「なんか・・・あんまり客いないな・・」
シンは辺りを見回すが、客・・なのだろうか?ちらほら人が歩いているのが見える程度だ。
日曜日にこの人の数・・経営は大丈夫なのだろうか?
どう考えても先ほどのフリーダムといい、ジャスティスといい、お金がかかってそうだった。
「でものんびりできていいじゃないか。混雑してると人に酔いそうになる」
「確かにそうだなぁ・・」
人ごみをかき分けて歩くよりはよっぽどいいか・・・
カガリとゆっくりできるし・・
と、シンは思い、うれしくなって、カガリのほうを向いた。

「あれ・・?」
シンはそのとき何かに気づく。
「どうした?」
カガリもそんなシンに気づいたらしく、問いかけた。
「ここ、赤くなってるよ?虫にでも刺された?」
シンは自分の首筋を指差しながら言った。
「へ?」
カガリは痒くもないし、刺された記憶もないので少し考える。
数秒たった後、
「うわぁ!!!」
と、大きな声を出し、自分の首を手で覆い隠した。

シンはそんなカガリの行動を「?」を浮かべながら見る。
カガリは首を押さえたまま、真っ赤になって、口をぱくぱくさせている。

なんでそんなに驚くんだろう?
虫に刺されたのが・・恥ずかしい?
んなわけないよな・・・首筋が赤く・・・赤く・・

「あ!!!」
シンはそれが何か気づいたのであろう、勢いよくベンチから立ち上がると叫んだ。
「あ・・いや・・これは・・」
カガリはしどろもどろになりながらなんとか言い訳を考える。

あいつ・・・それで今日は余裕の表情だったのかよ!!
シンに我慢できないほどの怒りがこみ上げる。

アスランはカガリの恋人で自分はカガリの後輩。
この差は歴然だった。

自分のことを知ってもらって、それから告白すべきだと思っていたが、
それでは遅いのではないか?
シンが不安と怒りに揺れ動く。
アスランはカガリに触れ、愛することを認められ、自分にはそれが認められないかのような気持ちに陥る。

オレは男として見られていない・・
そのこともシンを苦しめる要因だった。

オレの前ではあんな顔しない・・・
カガリはアイツのことだけであんな表情になるんだ!!

「シ・・シン??」
俯いたまま何も発しないシンをカガリは顔を覗きながら呼んだ。

「カガリ・・・オレ・・・」
「どうしたんだ?」
シンの暗い態度にカガリは心配そうに覗きこむ。

「・・オレのこと好き?」

カガリはきょとんとした後、
「当たり前だろ!お前面白いし、いい奴だし」
と、平然と答えた。

「そうじゃないよ・・・オレ・・・」
シンは顔を上げ、ゆっくりと顔を近づける。

「カガリのことが・・・」
「そこまで!」
カガリを見つめていた瞳に違う物体が入り込む。
シンは数回瞬きすると、それがアスランの腕であることに気づく。
「・・・・・」
シンはアスランをじっと睨んだ。
当然、アスランもシンのことを睨んでいる。

「アスラン、もう戻ってきたのか?」
なぜ、アスランの腕の中にいるのだろう・・?
と思いながらカガリは言った。

「心配になってな。戻って来て正解」
「は?」
「カガリ大丈夫?」
アスランは優しくカガリに聞く。
「え・・あ・・気分はだいぶ良くなったぞ」
そのことではないのだが、大丈夫そうなのでアスランは安心した。

シンは変わらずアスランを睨みつけている。

なんなんだよ・・・アンタ・・
いつもいつもカガリは自分のものみたいな顔して・・

「アンタ・・」
怒りが込みあげ、声を発したそのとき、
「アスラン!」
と、キラの声がした。

シンはぐっと言葉を飲み込む。

「どうかしましたか?」
ラクスが不安そうにカガリを見る。
「いや」
「なんだ、みんな戻ってきたのか?」
「はい、よく考えたらお昼も近いですし、動物園のゾーンに行こうと思いまして」
こちらは少し怖いですしね。と、ラクスは付け加えた。

「シン、気分は大丈夫か?」
「え・・?」
キラとラクスの出現で少し気持ちの落ち着いたシンだったが、手は硬く握り締められていた。
「お昼食べれるか?」
カガリは心配そうに聞いた。
「・・・はい・・・」
シンは今できる精一杯の笑顔で答えた。



「ここ美味しいですよ」
ミーアが指差したのは可愛い喫茶店風のお店。
「やっぱり女の子は好きだよね、可愛いお店」
キラはそういいながら飾ってあるメニューを見る。
「いろいろあるし、良さそうだね」
「ええ、カガリさんはいかがですか?」
ラクスは後ろにいるカガリを見た。
「うん、ここでいいよ。シンは?」
「いいだろ」
答えたのはシンではなくアスランだった。

「・・・・・・・・・オレ・・用事思い出して・・・・」
シンのぽそりと言った言葉に全員がシンを見る。
「ごめん。先に帰ってもいいかな?」
今の自分ではこのままアスランとカガリのいる場所を冷静に見ることができない・・
そう考えたシンは意を決して言ったのだ。

「え?でも・・」
カガリはいきなりのシンの言葉に戸惑う。
用事を思い出すって・・・前から約束してたのに用事?
カガリは首をかしげシンに近づく。

「私も一緒に帰る!」
気まずい雰囲気が漂う中、華やかな声が入ってくる。
「シン、一緒に帰りましょ」
ミーアはシンに近づき言った。
「でも、ミーア・・ご飯・・」
「いいのいいの、じゃ、また学園で会いましょう!」
ミーアが何を考えてるのかさっぱり分からなかったが、これで落ち着ける・・
アスランの本音はそれだった。




「・・・・・・・・なんでお前までついてくるんだよ・・」
アークエンジェルを出ると、シンはおもいっきりの不機嫌顔で言った。
「ねえねえ、何があったの!?」
そんなことお構いなしに、ミーアは好奇心たっぷりで聞いてくる。
「別に何もないよ・・・」
シンは更に膨れそっぽを向いた。
「頑張ってるわね〜」
そんなシンを横目で見ながらミーアは言った。

「?」
「私、アスランが好きだったの」
「は?」
なんだそれ?とでも言いたい声でシンは言う。
話のテンポが早くて理解できないのだ。
「でもダメ!あの人カガリ先輩にメロメロなんだもの」
メロメロって・・・。
「だけど、応援ぐらいはしてあげてもいいわよ。あなた頑張ってるし、少しどうなるか気になるし」
ミーアは口に人差し指をあてうれしそうに話す。

「お前・・何言ってんの?」
さっぱり意味が分からないシンはこのぐらいの言葉しか出せなかった。

「まあ、頑張ってカガリ先輩を振り向かせてみてよ!」
ミーアはそういうと、1人で駅のほうに向かった。

なんなんだ・・・・
シンはそこに取り残されていた。
あまりのわけの分からなさに、怒りや不安はとりあえず忘れていた。



「シン どうしたんだろう・・?」
「用事があるんだろ」
カガリの心配そうな表情にアスランは冷たく言った。
「でも」
「カガリ」
「なんだ?」
アスランはシンから話を逸らすように自分の首筋を指先でつついた。
「見えてる」
その顔はうれしそうな勝ち誇ったような表情だった。
「うあっっ」
カガリは慌ててボタンを止めた。

「とりあえず、ミーアに聞いた話だと動物園の方はまともみたいだから。安心してご飯でも食べよう」
キラはそういうと喫茶店へと入っていった。


言ったとおり、動物園は普通だった。
普通と言うか、先ほどのアトラクションがおかしかっただけなのだが、
4人は楽しくその後を過ごすことができた。











あとがき
最後の方はかなりあっさりしてます。
たいしたストーリーもないのでばっさり終わっちゃいました(笑)
いやぁ・・PC修理の為かなり期間が開いてスミマセンでした。
いろんな話が頭にありすぎて混乱しそうだ・・・。
早く先が書けるといいんだけど、やっぱり混乱中。。

誰をお兄さんにするか悩んだんですがクルーゼで。。
キャラ違いますよね〜。でも、クルーゼなら何でもこなします。