カガリは自室で写真を見ていた。
父と2人で撮った写真。
それには幸せな顔をした自分達が映っていた。
しかし、撮った場所は病室で、この1ヶ月後、父は亡くなった。

ユウナが言ったことは本当なのだろうか・・?
父が・・私とユウナとの結婚を望んでいたのは・・・
私にはそんなこと言ったことはない。

でも、私が気にするだろうから言わなかったのだろう。
だって・・・お父さんは優しいから・・・
誰よりも私のことを考えてくれてたから言えなかったんだ。

カガリの写真を持つ手が小刻みに震える。

「っっ・・・おと・・・さん・・・」

苦しい。
亡くなったときのことを思い出すとまだ胸が苦しい・・・
まだ、思い出には変わっていない。

「苦しいよ・・・」
カガリは薄暗い部屋の中、泣きながら呟いた。



輝く星〜冷却の衝撃〜




「おはようアスラン!!!」
「おはよう」
玄関を開けるとそこにはいつものようにアスランの姿。

「昨日は勝手に来て悪かったな」
「全然いいぞ!」
「そうか」
カガリはアスランを抜いて歩き出す。

「文化祭の準備はどうだ?」
「準備?」
「セリフだよセリフ!」
「ああ」

先日、文化祭で行われる劇の台本を渡された。
キラやカガリ、ミリィのセリフは大してないのだが、ラクスとアスランのセリフの量はすごかった。
主人公なので当然なのだが、それにしても多い。
カガリはその多さに目をぱちくりとさせてしまった。

「まぁ・・・セリフは何とか・・・」
嫌なのは・・・演じるということだった。
人前でラクスと劇を演じる。
恥ずかしいというか、慣れないというか・・・
「何だ?」
「あー・・・緊張しそうだ・・」
アスランは珍しく困った顔をしている。

「・・・・・・・・」
面白い。
カガリはそんなアスランの表情をまじまじ見る。
アスランにも苦手なものはあるんだ・・・。
何というか、アスランはどんなことでもけっこう率なくこなすところがある。
生徒会の代表としてみんなの前で話すときも堂々としたものだ。

付き合いだしてだいぶ経つのにまだまだ知らないことがある。

「そういえば通しの練習はみんなでやるんだが、何日かは俺とラクスだけの練習になるみたいなんだ」
「うん」
「悪いがそのときは生徒会の仕事任せるようになると思うけど・・・」

「ああ、気にするな!キラもいるし何とかなるから」
カガリはアスランの肩に手を置き言った。




「え?今日から?」
教室に着くと、ミリィがすまなそうに声をかける。
「先にアスランとラクスの重要な部分を練習してもらいたいって・・・・」

アスランは思いっきり嫌な顔をしてしまった。
しかし、ミリィが悪いわけでもなく・・・
「アスラン、仕方ありませんわ」
横から出てきたのはラクス。
「それはそうだが・・・」
この間セリフの台本をもらったばかりでもう・・・練習か・・・

「あ、じゃあ今日は生徒会の仕事は3人だな」
「そうだね」
キラとカガリは顔を見合わせて話す。
「あ・・・・」
「心配するなよ・・・どっちにしても練習しないといけないんだから」
それもそうか・・・
アスランはその通りだと納得すると、
「ラクスセリフは?」
と問いかける。
「一応目を通しましたわ。ある程度は覚えましたが・・」
「俺もなんとなく覚えてるから問題ないか」
なんとなくって・・・っっ
なんとなく覚えてるで問題ないとはさすがアスランッッ
キラとカガリはちょっと引くようにしてアスランを見た。



『シンデレラ』
そのお話しはよく聞くものと全く同じ内容だった。
そのため俺たちもセリフが覚えやすかった。
まぁ・・・シンデレラは継母にいじめられててかぼちゃの馬車で会場に行き、ガラスの靴を落とす・・・
ある意味面白みもなさそうだったが・・・
最後の文化祭だし、なによりカガリが楽しみにしているので俺も頑張ろうと・・思う。
しかし、苦手なものは苦手で・・・
生徒会長としてみんなの前に立つのとはやはり・・・全く違っていた。




「キラ、これ先生のところもって行ってくるな」
「はーい」
放課後、アスランとラクスを教室に残して2人は生徒会室へと行った。
体育祭の事後報告などはある程度済んでいたのだが、今度は文化祭の出し物承認やら場所確認やらの業務に追われていた。

「ちぃーす」
「あ、シンご苦労さん」
カガリが扉から出ようとすると、シンが入ってきた。
「あれ?足りない」
シンは部屋の中を見るといった。
「ああ、アスランとラクスは劇の練習だ」
「シンデレラだっけ?」
「ああ」
「なんか大変ですね・・・こっちの仕事だってこんなにあるのに」
シンはドスンと鞄を机の上に置く。
「まぁ、仕方ないさ」
カガリはそう言って笑うと部屋を出て行った。

「シンの所は何するんだっけ?」
「出し物ですか?なんか歌、歌うらしいです」
「忙しくないの?」
「口パクでOKでしょ!」
シンはそう言ってにっと笑う。
キラはそんなシンに苦笑した。



「あらご苦労様」
カガリは職員室に行き、マリューの姿を見つけると手に持ったプリントを差し出した。
「忙しいでしょ」
「あ・・はい!でも暇よりいいです」
「あら・・」
マリューはクスリと笑う。
「どうって・・・今更聞いてもなんだけど・・この学園はどう?」
「すごく・・・いいところです。みんな優しいし・・マリュー先生も優しい!」
カガリはえへっという顔をする。
2年のときに転校して来て、キラもいるし楽しいだろうとは思っていた。
だけど、アスランに出逢うことは予想していなくて・・・
自分がこんなふうに・・恋をするとは思わなかった。

そこまで考えカガリの表情は暗くなる。


「カガリさん?」
「あ、じゃあ失礼します!」
マリューの呼びかけにカガリは顔を上げると職員室を後にした。




胸の奥が痛い。
どうしていいのか分からない。
カガリは自然とアスランがいる教室に足を向けていた。


「踊っていただけますか?」
聞こえてきたのはアスランの声・・・
大好きな・・・アスランの・・・

カガリはそっと中を覗いた。
そこにはラクスと見つめ合うようにしているアスラン。
「はい・・・」
にこりと微笑むラクス。
本当にお姫様みたいだ・・・
カガリはそっと自分の顔に手を当てる。
似合ってるな・・・アスラン・・・
ラクスとアスランが2人でいると本当に素敵なカップルに見える。
ラクスはキラの恋人・・それは分かってるけど、本当に似合っていた。

なんか・・闇に落ちていきそうだ。
カガリは無意識にそう思った。
扉にかけていた手を離す。

「アスラン、お上手ですわね」
「いや、早く終わらせたいだけだよ」
セリフを言い終えたラクスはアスランの頑張りに笑ってしまう。
やる前は緊張していたようだがやり始めるといつもの威厳というか・・
「・・・・・・・・」
「アスラン?」
アスランがじっと扉を見ているので不思議に思い声をかける。
アスランは真っ直ぐ扉に向かうとガラッと開けた。
が、そこには誰もいない。

「どうかしましたの?」
「あ・・・・いえ・・」
ぴしゃんと閉められる扉。
「カガリさんが心配なのですか?」
「・・ええ・・」
「まぁ」
素直なアスランの言葉にラクスは口元に手を当て笑う。




はぁ・・・
カガリはトイレの鏡の前で俯いていた。
こんな顔じゃキラのところに戻れない・・・
顔を上げ鏡を見ると・・・
自分の顔は沈んでいた。

ニッと笑って見せる。
しかしその表情は長く持たない。


廊下から足音が聞こえる。
数人がトイレに入ってきた。
カガリは道を開けるように少し前へと動く。
が、ドンッという音と共に体に衝撃が走る。
「っっ・・・ご・・」
軽い痛みを感じながらも当たってしまったのだろうと謝ろうとした・・が
振り返って見えたのはすごいにらみを効かせた女性徒・・たち。

「・・・・・・・・っ」
カガリは思わず言葉に詰まる。
「あんた・・調子に乗らないでよ」
見下ろすように向けられた瞳と共に嫌悪を溜め込んだ声が降って来る。
「・・え・・?」
「ムカつくのよ!自分はアスランに好かれてるって顔しちゃって」
好かれてる・・?
何の話をしているのだろう・・・
カガリは分けがわからずその少女を見る。

「何その顔?」
少女からは更にきつい言葉が降って来る。
周りにいる4人ほどの女性徒もカガリを睨むようにしてみていた。

「体育祭でだってずっとアスランと一緒にいて、自慢してるつもり?」
「・・・自慢・・?だって・・・アスランは・・・」
いつも側にいて・・・
そのとき腕が引っ張られるのを感じた。
数回瞬きをすると、それはトイレの置くに引っ張られているのだと気付く。


ドンッと体を壁に叩きつけられる。
この人たちはアスランが好きなのだろうか・・・
とにかく先ほどからアスランの言葉が耳に付く。
それは・・分かった・・・だがなぜ自分がこんなことをされなければいけないのか分からない。
背中はジンジンと痛む。

「何その目?」
カガリはいつものように真っ直ぐ相手を見ていただけだった。
しかし少女にはそれも気に入らないらしい。
カガリは思わず目をそらす。

そう・・・いつもの自分だったらそんなことはしない。
だけど・・今は違う。
迷い、悩んでいる自分。
カガリの瞳に強い意志を宿すことはできなかった。
「やだ!1人だと偉そうにできないのね〜」
そんなカガリを見て少女はけらけらと笑う。
「友達が側にいないとあなたってその程度なのね」

あなたも同じじゃないのか・・・?
そんな言葉が頭の隅に浮かんで・・消えた。

バシャッッ
「っっ!!」
その音が自分の体を包む。
感じるのは何かの衝撃と・・冷たさ・・・

「あんたキラってやつとも実はできてるんじゃない!?二股女!」
少女はそう叫ぶと水を入れていたのであろう・・バケツをカガリの前に転がしその場を去っていった。

キラは・・・大事な姉弟だ・・・・

「違う・・・」

カガリは放心状態で濡れた体を見る。


『二股女!』

フタマタ・・?

『僕は今も君のことを愛しているよ』

ユウナの言葉が蘇る。
あのとき私は断らなかった。
好きな人がいるからといえばよかったのに・・・

父のことで混乱していたのは事実だった。
だけど・・・それだけではない。
父がそう望んでいるのなら・・・
そう思う自分がいたのだ。

「っくっ・・・・」
カガリは濡れた制服を握り締める。
どうしたらいいんだろ・・・
瞳から流れた雫は更に制服をぬらす。

アスランにはこれから叶えられる願いがある。
父にはそれがない。
死んでしまっているのだから。
そして叶えられる願いがここにある。


私はどっちを取る・・・?





生徒会室の扉が開く。
「カガリ!遅かったね!」
うれしそうに言うキラの声を受け止めたのはアスランだった。
「?カガリどうかしたのか?」
「あれ・・アスランか・・・」
アスランは中へと入る。
「カガリ先生にプリントもって行くってでてったんだけど、結構長いからさ」
「まぁ・・そうですの?」
ラクスも中へと入ってきた。
「・・・」
アスランは心配そうに体を扉へと向けた。
「アスラン終わったのか!」
その声の主は・・・カガリ。

「・・ああ・・・・」
アスランはほっと息を吐くように言ったがすぐにカガリが体操着なのに気付く。
「ああこれ?文化祭の準備手伝ったら汚れちゃって着替えてきたんだ?」
「文化祭の準備?」
教室には来なかった・・よな・・
「違う。通りすがりのクラスですごい荷物運んでて大変そうだったから手伝ったんだ!」
「カガリらしいね」
キラは笑う。
しかしアスランはそっとカガリの髪に触れた。
「・・・・・なんで濡れてるんだ?」
「え・・・」
一瞬と惑ってしまうが、
「ついでに顔も洗ったら水ぶばって飛ばしちゃってさ!もうタオルで拭いても乾かないんだ」
カガリはそういいながら中へと入っていく。
「そうか」
「ああ!」
ドスンとカガリは椅子に座る。
「髪早く乾かした方がいいよ。拭いてあげる」
シンは鞄からタオルを出すとカガリの髪に当てようとしたがアスランがにっこりとそれを遮る。
「風邪引いちゃうから!」
シンの言葉にアスランは自らの体でカガリを包んだ。
「げっっ」
「これであったかいだろ?」
余裕なアスランの顔。

シンはオレもとばかりに立ち上がるが、
「ステラもあったかいして?」
という言葉が後ろから聞こえた。
しかもどうも・・自分ではない暖かさが伝わってくるような・・・
シンは恐る恐る後ろを向いた。
「ねっ」

ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!

木霊したのはシンの叫び声だった。



「ステラどうやって来たんだ?」
カガリはアスランにタオルで髪を拭かれながら聞いた。
「走った・・・シンに会いたくて・・・」
「お兄さん達は大丈夫?」
アウルとスティングのことだ。
彼らはこの子の保護者っぽいからステラがここに来ていることを知らなければ今頃捜しているのではないか・・
キラはそう思い聞いた。
「言った・・・シンのとこ・・行くって・・」
「あ、ならいいんだ」

よくない!!
シンはステラに体をがっしり掴まれていた。
おかしい・・・どうしてこんなことになるんだ??
文化祭でカガリに告白しようと決意し、頑張っていこうと決めたのに・・
これじゃあ・・・これじゃあ・・・
よけい危ないじゃないかーーー!!


それからもステラはシンに会いに青空学園を訪れたのだった。






あとがき

はい。
カガリがかわいそうです。
でも、きっと何とかなりますよ(笑)
いや、笑っちゃダメですね。
しばらく可哀相なカガリが出現いたします。。