「・・ちょうどいい頃かな・・?」
職員室の中で男は呟く。
「ユウナ先生、どうかされましたか?」
「いえ、ではこれで失礼いたします」
ユウナは不敵な笑みを浮かべ軽く会釈した。

ユウナは扉を開けるとどこかへ向かった。
ここはサクラ学園ではなく、青空学園。
ユウナは生徒のいなくなった廊下をゆっくりと歩く。

「ああ・・・いい感じだ・・・」
ユウナがそう言った目線の先にはカガリが下を向いている姿が窓越しに見えた。



輝く星〜偽りの言葉〜




ぴちゃん・・・


廊下に水音が響く。
それはカガリの髪から、ドレスから、瞳から零れ落ちていた。

きっと謝ったらミリィは許してくれる。
だけど、自分が許せない。
どんな理由があろうと、ドレスを汚してしまうなんて・・・

それに・・汚れた理由なんて言えない。

アスランが困るから・・・

違う。
惨めだからだ。
いじめられてるなんて・・・・

「カガリどうしたんだい!?」

カガリははっと顔を上げる。
そこにいたのは驚いた顔をしたユウナ。

「ユ・・ウナ・・なんで・・?」
何でここにユウナがいるのだろう・・・
そしてカガリは慌ててドレスを隠す。

「・・ああ・・汚れてしまったんだね」
ユウナはカガリの手元にある濡れたドレスに目をやる。

「いや・・これは・・」
「僕、これから帰るところなんだ。良かったらうちで落としてあげるよ」
「え?」
「うちにはプロがいるよ」
ユウナはウインクをしながら言う。

取れる・・?
取れるのかな・・・

「あ・・じゃあ・・・」

頭がそのことでいっぱいだった。
カガリは生徒会のことも忘れユウナに促されるままついて行った。




「カガリ遅いね・・・」
キラは備え付けの時計を見上げる。
時刻は18時を差していた。
「スソ上げだけですわよね・・・長さをみるだけ・・・」
こんなに時間のかかるものでしょうか?
ラクスも不思議そうに首をかしげた。
「ミリィと話が弾んでるのかな?」
「あ、オレ見てきましょうか?」
ポコ
シンがそう言って席を立つとアスランが丸めた紙でシンを叩く。

「お前は見たいだけだろ」
「あは」
ばれた?と、シンは舌を出す。

そのとき、パタパタと足音が聞こえてくる。
カガリだろうとみんなが扉を見た。


「シン遊びに来た!」
しかしそこに現れたのはカガリではなく、
「ステラ!?」
ステラはうれしそうにシンに飛びつく。

「ステラ走ったの」
「・・・走ったんだ・・・」
へぇ・・とシンは笑う。
ステラは2日に1回は来ている。
まぁ、慣れてきたといえば慣れてきた光景だ。
シンも掴みどころのないステラを上手く扱えるようになってきたらしい。

「っていうか、ほんと見てきましょうか?」
シンは胸にいるステラを剥がしながらキラを見る。
「そうだね・・様子だけ見てこようか・・ちょっと遅いもんねカガリ」
キラがそう答えると
「カガリ?」
ステラが口を開く。

「そうカガリ」
シンは自然に返した。
しかしステラのカガリといった意味はシンが思っているものではなかった。

「ステラ、カガリ会った。カガリ車で帰ったよ」

「・・・・・・・・・え?」
それに反応したのはアスラン。

カガリが帰った?なんで?

「バイバイって言ったの。でも気付かなかった」

「ステラ人違いじゃないの?」
シンはうれしそうに話すステラに聞き返す。

「違う!ステラカガリ間違えない!」
ステラは怒ったように頬を膨らませた。

・・・だよな・・・
ステラはボケてるようでもカガリを見間違えたりはしないよな・・・
シンは考え直すと疑問が頭に浮かんできた。

「でもなんで帰るの?」

「ステラ」
アスランはシンの側にいるステラを覗き込む。
「車で帰ったって言ったよな。隣には誰がいた?」
ステラはうーんと考える。
「覚えてない。カガリだけ」
「・・そうか・・・」
アスランは難しい顔のままステラから離れる。

「おかしいですわよね・・・ここに来ないなんて・・・」
いや、それより、何もいわず帰るのがおかしい。
毎日5人で靴箱に向かっていた。

「キラ、今日お前の家に・・・」
そうか・・毎日家には行ってるんだった。
寄ってもいいかと聞こうとしたがカガリを送っているため、毎日行っていることに気付く。

「今日は早めに切り上げよう」
アスランはそう決断し、みんなもそれに同意した。




家に帰るとカガリはまだ帰っていなかった。
キラは受話器をとる。
「キラ?」
どこへ?とラクスが声をかける。
「ミリィのところ」
何かあったのか聞くためだ。

コール音が受話器から漏れる。

「あ、ミリィ?キラだけど」
『キラ?』
「うん、それでカガリのことなんだけど・・・・」
『ほんと、急に用事が入っちゃって・・スソ直し今度になっちゃうからキラ達のがちょっと遅れちゃうかも』
「・・・え?」
『せめて着てるところ見たかったんだけど私じゃないと無理だって呼び出されちゃって』
「ちょ・・ちょっと待ってミリィ、カガリはスソ直ししなかったの?」
『え?カガリすぐに生徒会室に行ったんじゃないの?
キラ達が出てってすぐに呼び出しされちゃったからカガリも戻ったと思ってたのに』

「キラ!」
「わっ」
電話の外で2人のやり取りを聞いていたアスランが受話器を奪う。
「ミリィ、カガリなんかおかしかったか?」
「アスラン・ザラ?え・・ううん。いつも通りだったわよ?」
アスランの顔はどんどん強張っていく。
「何・・カガリになにかあったの?」
しかしアスランは何も返さない。
キラはアスランから受話器をとると
「ミリィ、ありがと。切るね」
『・・・うん・・・』
受話器を置いた。


「・・・・・どうしたんだろう・・・カガリ・・・」
キラが呟く。
カチャ
「すみません、遅れました」
シンが家に入ってくる。
遅くなるかもしれないと、ステラを家まで送ってきたのだった。
「・・まだ・・なんですね・・」
空気でカガリが帰っていないことを悟る。

捜しに出るよりここにいたほうがいい・・・
アスランは重い表情で壁にもたれかかる。




ーセイラン家ー

「すぐに済むから」
ユウナは部屋に入ってくるとにこりと笑い言った。
カガリはそれに愛想笑いで返した。

そういえば私・・みんなに何もいわずに来ちゃったんだ・・・


心配・・・してる・・よな・・・

何て言おう・・帰ったら聞いてくるよな・・
なんでもないなんて言っても信じてくれないだろうし・・・
ユウナのこと・・・言いたくない・・・

ほんとに何やってんだろ・・私・・・
こういう時こそ頼ればいいんじゃないのか?アスランに・・
だけど、言えない事もある。
うん、言いたくない。

「カガリ」
ユウナの呼びかけにカガリははっと我に返る。
「何かあったのかい?」
「・・・・いや・・」
カガリはぷいっと目を背ける。
「君は昔から嘘がつけないね」
ユウナはそっとカガリの髪に触れた。

「っっっ」
カガリは体を動かしユウナの手をそらす。
「話してごらん・・僕にだからいえることもあるだろ?」

ユウナにだから言えること・・・?
アスランに言えなくてユウナになら言えること・・・

「話したほうスッキリするよ」
「・・・・・・・」
苦しい。
この想いを自分の胸に収めておくのはつらい・・・・

「・・・なんでか・・・嫌われてるみたいなんだ・・・・女子に・・・・」
あの子達はアスランが好きだから私に嫌がらせをしたのだろう。
間違ってる・・・・でも・・・

『二股女』

私も間違ってる・・・

好きなのはアスランだけだ・・アスランだけなのに・・・

「カガリは悪くないよ・・・カガリは昔から素直ないい子だよ」

「・・・素直なんかじゃない・・・いい子じゃない・・・」

自分なんか嫌いだ。
今の自分なんか・・・

「可哀相に・・・・」
ユウナはカガリの頬に手を添える。
「辛い目に合ったんだね・・・」

辛い辛い・・・
どうして私がこんな目に合わないといけないんだ。
友達だっている・・だけどこんなに辛い!!

「僕が助けてあげるよ」
その言葉はカガリの今にも溢れそうだった涙を止めた。
うれしいとかそんな感情ではない。
・・・驚きに近いかもしれない。

「ユ・・ウナ・・?」

「僕が君を救ってあげる。アスラン・ザラじゃあ、君を助けることは出来ないよ」

アスラン・ザラ

カガリはアスランの名が出たことに驚き、目を見開く。
ユウナには・・・言っていない。

「噂で聞いたんだ。彼は有名だからね」
「・・・そう・・か・・」
アスランは・・そうだな。
有名だ。
頭もいいし、モテるし・・・

でも、ユウナが言っているのは私とアスランが付き合っているということだ。
他の学校にまで・・知れているのかと思うと恥ずかしさより恐ろしさが浮かんできた。

今はまだいい。
我慢できる。
でも、今以上あんなことされたら・・私は・・我慢できるだろうか・・。

言えない。
アスランのことを好きな子に私はいじめられてる。
だって・・・・そんなの・・いじめられてるなんて・・惨めじゃないか・・・。

「カガリ、アスラン君と付き合っていたいだろう?」
「?」
ユウナは何を言いたいのだろう・・・

「カガリがアスラン君に現状を話しても何も解決しないよ。それどころか、彼が君を庇うことによって
もっと事態は悪化するかもしれない」

「どういう・・意味だ・・?」
カガリは恐る恐る聞いた。
頭の中にはその回答が浮かんでいた。
だが認めたくなかった。そんな恐ろしいこと・・・

「いじめが更にひどくなるってことだよ」

ああ・・・

カガリの頭の中に女性徒の声が蘇る。

中学の頃、いじめられている子がいた。
私はいじめた子をガツンと殴った。
だって、その子は何も悪くないからだ。
勉強ができないのを気にしているようだったが、自分とは違って大人しいその子をうらやましいと思ったこともある。

そう、いじめなんて許せないと思っていた。
もしされたとしても私はそんなものに屈しない、いじめられる理由がないんだから。
と、思って・・いた・・・

でも、私にはあの子を殴れない。
心の動揺がそれをさせてくれない。


「カガリ・・・」
ユウナはそっとカガリの手に触れる。

「・・わ・・私は・・・」

「楽にならないと彼とは付き合っていけないよ?」

アスランと・・付き合っていたい。
その為にはどうしたらいい?
このままだと私はダメになる。
そうなる前に・・・

「僕に任せて」
カガリは自分を見つめるユウナの瞳を見つめ返す。

これで・・楽になれる・・・?




「カガリ!!!!!」

「キラ・・アスラン・・シン!?」
玄関を開ける前に3人が飛び出してきた。
カガリは驚いて持っていた箱を落とす。

「カガリどこ行ってたの!?心配したんだよ!!」
キラはカガリを抱きしめる。

「ご・・ごめん・・・」
「それ・・ドレス?」
アスランはカガリが落とした箱を拾う。
「その・・実はドレス汚しちゃって・・・それで・・どうしようかと思ってたら先生が・・・クリーニング屋さんに
連れてってくれたんだ」

汚れが取れたからこそ言えるこのセリフ。

ユウナ宅から帰る間にいろいろ考えていた。
きっとどうしたのかキラが聞いてくると思って・・・
でも、そこにいたのはキラだけでなくアスラン、シンもいた。

どの先生?
アスランはそう聞きたかった。
だが、カガリを責めるようでその言葉が口から出ることはなかった。


アスランはキラにつれられ家に入っていくカガリをじっと見ていた。






あとがき

ここまでよわよわなカガリを書くのは初めてです。
可哀相ですが、頑張れカガリ!!
とエールを送りながら頑張るぞ!