文化祭までは頑張ろう。
こんなに頑張って準備したんだから。

そう思ったものの、心は限界だった。

『僕に全て任せてくれるね?』
ユウナの言葉に私は頷いた。
これでアスランと一緒に入れるなら・・・なら、こんな苦しい思いをしなくてすむなら。
少し離れちゃうけど、でも・・・その方がいい・・・。

日曜日、
カガリは書類を手に持ち、母の元へと向かった。

お母さんに会うのは久しぶりだ。
忙しさについつい来れなくなっていた。

母は私と別れて暮らすようになってからマンションで1人暮らししていた。

「・・・何も聞かれないといいけど・・・」
立ち止まったのは扉の前。
カガリはなかなか入れずにいる。

と、微かに人の声が近づいてきた。
わ・・・っ・・・
カガリはなんだかその場にいることがためらわれて慌てて反対にある階段の影まで走った。

「・・・隠れる必要なんてないのに・・・」
そうは思いながらもまだ心の準備が出来ていない。
『手続きは早い方がいいよ』
ユウナにそういわれ、ここまで来たもののそれが正しいのか・・それしか道がないのか・・・心の片隅ではまだ戦っていた。

「あ、アスランこっちだよ」
「!?」
聞こえてきたのは聞きなれた声。

・・・嘘だろ・・・・

その声はキラ。
カガリは影から通路を覗き込む。
するとそこにはキラと・・・アスランの姿があった・・・。



輝く星〜手にした灯〜




どうして・・!?

カガリは背中を壁につけ姿を隠す。
胸の鼓動は速さを増し、治まることはない。

壁の向こうでは母の声とキラの声・・・アスランの声がして戸の閉まる音がする。

まさか・・・知ってるんじゃないよな・・・・
カガリは手に持った鞄を見る。
その中から覗くのは茶色い封筒。
悩んで・・・覚悟して・・やっとここまで来たのに・・・。

カガリはずるずると体を落とす。

ばれてるんだとしたら?
アスランは・・私に何か言ってくるんだろうか?
大丈夫か?とか・・・どうして・・・・

いじめられてるんだ・・・・とか・・・。

「・・・うっっ・・・・」
カガリは声を出さないように唇をきつくかみ締める。
そんなこと言われたくない。
聞きたくない・・・
そんなこと聞かなくても私はアスランと一緒にいるんだから・・・
これからもアスランとずっと・・・・

「そうだ・・・学園は違ってもそれは変わらない。私はアスランと一緒にいたいだけなんだ・・・」
そのための決断。
カガリは鞄をもう一度見ると決意したようにその場を後にした。





アスランは緊張したようにソファーに座っていた。
その横にいるキラは緊張しているものの慣れているのか笑顔でカガリの母と話していた。

「久しぶりね、キラ君」
「はい。ご無沙汰しててすみません」
「いいのよ。それぞれ生活があるんだから」
母はきょろっと不思議そうにアスランを見る。
「初めまして・・・アスラン・ザラと・・申します・・」
アスランは本当に緊張しているのだろう。声がどことなしか震えている。

それは当然だよね。
カガリの・・好きな子の母親に会うんだから。
キラは自分が同じ立場になったことを想像し、アスランの気持ちを思う。
だが、今回はそんな軽いことできたんじゃない。

キラは差し出されたコーヒーを一瞬見ると
「お聞きしたいことがあるんです」
と、真剣な表情で母を見る。
「なにかしら?」
母はそんなキラに気付いてか気づかずか、笑顔でキラを見る。

「カガリのお父さんってどんな仕事をしていたんですか?」
「父親?」
それを聞くことを不思議に思わない人がいるだろうか?
母も表情を変えたが、何も言わず話を続けた。

「そうね・・・仕事をすごく大事にしてて・・・だけど私たちのことをそれ以上に大事にしてくれる人だったわ」
「どんな仕事を?」
「セイラン社で開発部にいたの。考えが柔軟で会社にもかなり貢献してきたらしいわ」

「セイラン社・・・・」
アスランはなにか驚いたようにその名を呟いていた。
「アスラン?」 キラはそれに気付き聞き返すが「いや・・」と、アスランは首を横に振った。

「あの・・・ユウナ・ロマという人物を知っていますか?」
アスランは母に向き直る。
「ええもちろん!カガリの幼馴染みたいなものですもの。キラ君は会ったことがなかったかしら?」
「うん。カガリからも聞いたことなかったなぁ・・」
「お父様がセイラン社の社長でね、カガリが父親の会社に遊びに行ったときはいつも遊んでたみたいよ」

俺の知らないカガリの幼い記憶・・・。
脳裏に浮かんだカガリの幼いころ。
そこに俺はいない・・・

アスランが物思いにふけるようにしてる間、母はじっとアスランのことを見ていた。


「・・・・・あなたがカガリとお付き合いしてる人ね?」

「・・・え・・・」

顔を上げると母がアスランを見て微笑んでいた。
「カガリがここにあまり来なくなったの。何かあったのかなって心配してたんだけど・・・」
「・・・・・・・・」
アスランの顔が徐々に赤くなっていく。

「あの子・・・1人で頑張るところとか、鈍感なところがあるけど素直ないい子だから・・」

「分かってます。どんなカガリでも俺は愛してますから」
アスランは真面目な顔をしながらも照れたようにそう言った。


「カガリが久しぶりにここに来たとき・・・すごく幸せそうな顔をしていたの。ふふ・・・そうね・・女の顔って
いうのかしら?この子もそんな歳になったんだなぁって・・・うれしくなったわ」
母はそう言うと席を立ちそばにある棚から何かを取り出す。

アスランたちからは背中しか見えなかったが、何かを見ているようだった。
愛しそうに・・・?
そう思えるほどその背中からは何かを感じることができた。

しばらくして向き直った彼女は・・手に何かを持っていた。

「これをあなたに渡しておくわね」
そう言ってアスランに封筒を差し出した。
「え・・?あの・・・」
アスランはそれを手に取るべきか迷いながら彼女を見上げる。
キラはじっとその封筒を見ていた。

「父親からカガリへの手紙なの」
「っっそんなもの・・・俺には!!」
アスランは手を引き、席を立つ。
そんな大事なものを俺が手にするわけにはいかない。
それに手にする理由もない!
アスランは顔を強張らせた。


「カガリが結婚するときこれを渡してくれ。それがあの人の遺言なの」
そういわれ、更に自分が受け取るわけにはいかないとアスランは体を遠ざける。
「どうしてアスランに?」
たじろいだままのアスランを横にキラは冷静に答える。
そんな大事なものを渡すならそれなりの理由があるはずだと思ったからだ。

「・・・キラ君・・・人はいつ死んでしまうか分からないわ・・・私だっていつどうなるか分からない。
そうなったらこれはカガリの手に渡ることはないかもしれない・・・」

「それだったら俺だって・・・・」

「違うの。あなたと2人で開けるべきだと思ったから・・・・」

意図が読めない。
キラは言われた言葉を頭で整理する。
だが、そこに答えは出てこなかった。

沈黙が訪れる。
この人は何か知ってるのだろうか・・・?
アスランは困ったようにその人を見る。

その手には変わらず封筒が持たれていた。


「どうしてここに来たの?」
「え・・?」とアスランは顔を上げる。
そう、聞かれるかもしれないとは思ったがここで言われるとは思っていなかった。


「ユウナ・ロマ・セイランがカガリに何かしたの?」
「・・・どうしてそう思うのですか?」

何か知っている。
アスランもキラも直感的にそれを感じた。

「・・・・いえ・・・いいの」

それから話は進まず、僕達は家を後にした。





『聖学園は女子高だからその点では安心だよ。彼といたいんだろう?』

そうだよ・・違う学校でも付き合ってる人はたくさんいるんだ。
私だって大丈夫。

カガリは茶色い封筒を握り締め聖学園の前にいた。
この学園も文化祭が近いせいか、生徒も視界にちらほらと見える。
「ごめんな・・・アスラン・・・」
話せなくて・・・だけど大丈夫だから・・・。

「あれ・・?」
カガリが一歩踏み出そうとした瞬間、女の子の声がかかる。
「もしかして・・・カガリ先輩?」
この学園に知り合いはいない・・はず・・そう思いながらカガリはゆっくりと振り返る。

「あ・・・・」
見たことがある・・そうだ・・・この子は・・・

「ルナマリアですよ。うわぁ・・お久しぶりです!」
お正月にシンと一緒にいた子だ。

「どうしたんですかこんなところで・・なにか御用ですか?」
ルナは楽しそうに話しかけてくる。
ど・・どうしよう・・・シンの・・友達がこの学園に?
カガリはぎゅっと封筒を握る。

「・・大丈夫ですか?なんだか顔色・・あ・・」
カガリは向きを変え走り出す。
ルナはそんなカガリの行動にあっけに取られ見送るしかない。

はぁ・・はぁ・・・

どうしよう・・・言うかな・・・シンに・・・
胸が不安で高鳴る。
何でこんなに不安なんだろう?
どうせばれることじゃないか・・・転校しようとしてるんだから・・・

頭の中で自分をなんとか抑えようとする。
だが、不安な心はそれさえかき消してしまう。

前の私は一体どこにいったんだろう・・・

カガリはいつまでもその答えを見つけることが出来なかった。
どこに・・・





あとがき
久々ルナちゃん登場!!
そしてルナちゃんの学校の名前忘れました(笑)
どこで書いたか思い出せなくて・・・(泣)うう・・・