「カガリが聖学園に?」
裏庭、アスランとキラ、シンはそこに隠れるようにして集まっていた。
「そうなんですよ。ルナが様子が変だったからって・・教えてくれて」
シンは花壇に座り、ゆらゆら体を揺らす。

「カガリ・・・聖学園に知り合いいたかな・・?」
「でも中学で一緒だった人はいるんじゃないか?」
「・・・・まぁ・・そうだよね・・・」
キラは俯いてしまう。

「でも様子が変だって言ってたから・・・」
シンは体の動きを止める。

「どんな風に?」
アスランはシンの横に立つ。
「ルナが声をかけたら走って逃げたらしいんです」

「・・・・・・・・誰かに会いに行ったんなら逃げる必要はないよな・・・」
「ですよね・・・」
妙な沈黙が流れる。

「キラ」
「・・ラクス」
風とともに桃色の髪が揺れる。
「カガリさんと関わりがありそうな方に話を聞いてきましたが・・・」
キラはラクスを見る。
「情報はなし・・か・・・」
アスランは顔を歪める。

本人に聞いたほうがいいのは分かってるが、カガリが・・必死で隠してることを聞き出すのはやっぱり・・・

「影で調べるって言うのも気が引けるけどな・・・」
小さくアスランが呟く。
それは誰もが感じていた。
だが・・・
「カガリさん・・私達を避けていますよね?」
「・・・いつもと同じように演じてるみたいだけど最近は・・・」
どう見てもおかしかった。

話しかけると一瞬体を震わせる。

「・・・僕・・・・・・」
きょうだいなのに・・そう思ったがそれを口に出すことはできなかった。
キラはへたり込み髪をかき上げる。
力になりたいのに・・・・

「・・・・俺も同じだよ」
アスランは苦笑する。
頼られていないとかそういうことではない。
でも・・・寂しさは少なからずある。

「・・・オレ・・1番力になれてない気がする・・・」
なぜかヘタレ会となる裏庭。


ばこっばこっばこっ

「じめじめするのはおやめなさい!!!!!」

その音はラクスが3人の頭を叩いた音・・
そして・・・3人の前に仁王立ちしていた。

「・・ラ・・ラクス・・・?」
「悩む間があったら体を動かす!」
普段見られないラクスに・・キラも驚いている。

「・・・・・・」
シンは口をぱかっと開け放心していた。

ああ・・・そうだな・・・

「ラクス・・カガリみたいだな・・」
「親友ですもの。似てもきますわ」
「・・そうか・・」
アスランは微笑むとぐっと背伸びをする。

「カガリ・・・ごめんな・・」
でも俺は君を助けたいんだ。
アスランは置いていたファイルから何かを取り出す。
「アスラン・・・それ・・・」
それはカガリの母から預かった手紙だった。

「必ず助けるから・・・」
そしてアスランはその手紙に手をかけた。



輝く星〜2人の涙〜




「やだ・・・だったら最初から言わなきゃいいじゃない」
「そうも行かないわよ〜」
ミーアはおしゃべりしながら廊下を歩く。
「でもミーアって・・・」
「あ・・・」
カガリ先輩だ!
カガリが階段を降りていくのが見えた。
「ごめん先行ってて!」
「また先輩?」
女性徒はやれやれと息を吐く。

「だって」
「分かってるわよ!大好きな先輩だもんね!」
「うん!」
ミーアはうれしそうに階段へと向かう。

ぱたぱた・・・
ミーアはうれしそうに階段を下りる。

・・・あれ・・・?
しかしカガリの姿が見えない。
ちらほら他の生徒が見えるだけだ。

さっき・・降りて行ったわよね・・・?

ミーアはきょろきょろと辺りを見回す。
目に入ってきたのは視聴覚室。
「・・でも・・めったに使わないもんね・・・」
おかしいなぁ・・・そう思いながらミーアは更に進んで行こうとしたそのときカタン・・・と、その部屋から物音がする。

カガリ・・先輩?
何か用事を頼まれたのだろうか?
ミーアはゆっくりと視聴覚室の扉に触れる。
あ・・・!
すうっとそれは動いた。
機材があるためこの教室は使われていないときは鍵がかかっている。

なんだ・・用事があったんだ。
ミーアはその部屋に飛び込もうと顔をほころばせる。


「よく学園に来れるわよね」


ぴたり
ミーアの動きが止まる。
それはカガリの声ではなかった。
でも、誰かに話しかけている声。
ミーアは扉にぺたっと耳を付ける。



なんで・・・毎日毎日・・・・

1人になるのが怖かった。
だけど・・それがばれるのも怖かった・・・。
だから強がって・・・
『私職員室に用があるから』
『ついていこうか?』
『いいよ』
私はアスランの優しさをそう言って断った。

彼女達は他の生徒がいる場所では何もしてこない。
放課後とか・・・人気が少なくなった時にだけ・・・


「また怯えてる」
少女は薄笑いを浮かべる。

もう少しの我慢だ。
もう少し・・・
もう少しでこんなことから解放される。

カガリは震える手を隠すように握り締める。

「今日は何がいい?」
「え・・・?」

「やあね。水?それとも・・・」
もう1人の少女が側にあった分厚い本を手に取る。

投げられる!!!
カガリは身を縮め、備える。

風の音がする。
それはもうすぐ来る衝撃を教えているようだった。
彼女達は見える場所を攻撃しない。
カガリはお腹を庇うよう丸まった。


バシ!!!

耳の横で衝撃の音がする。
「・・・・っっっ・・・・」
身を固めていた力を緩めると・・あることに気付く。

痛く・・・・ない・・?

カガリは恐る恐る目を開く。

そこに見えたのは桃色の髪・・・・
え・・・・あ・・・・これは・・・


「あんた・・たち・・・・カガリ先輩に何してるのよ・・・」

立ち上がるとぱさりと本が落ちる。

私の代わりに・・・・ミーア・・・
カガリはガクガクと震えだす。

「ちょっと・・・行くわよっっ」
少女達はヤバイとばかりにミーアが入ってきた反対のドアから出て行こうとする。

「待ちなさいよ!!」
ミーアは彼女達を追おうとするが、視界に震えているカガリの姿が見えた。
「・・・カ・・・カガリ先輩・・?」
カガリは瞳にいっぱいに涙をためていた。

「だ・・大丈夫よ・・ちょっと当たっただけだから・・・痛くないから・・ね」
ミーアは手足を軽く動かす。
ほら・・と教えるように。

「・・・うん・・・・うん・・・」
カガリはそんなミーアを見て安心したように息を吐いたが震えは止まらない。
「でも何なのあの人たち・・・!」
ミーアは怒りを露に扉を見る。

と、手を掴まれる感覚に気付き、カガリを見る。


「ミーア・・お願いだ・・・アスランには言わないで・・くれ・・っっ」
カガリはすがるようにミーアの腕をきつく握り締める。

「・・・な・・に?」
こんなカガリ先輩・・見たこと・・ない・・・。
ミーアは瞳を開き・・驚いていた。
変わらずカガリの腕は震えている。

「もしかして・・・アスランに関係あるの?」
「ない!!アスランは関係ないんだ!!!」
間髪入れずの返事。
それは・・・今言ったことが正しいことを表していた。

ミーアはカガリに目線を合わせるように屈みこむ。
ズキッと先ほどの痛みが蘇ったがそれを決して顔に出すことはなかった。

「前から同じようなことされてたのね」
ミーアはカガリの目をそらさず見る。
揺れるカガリの瞳。

怯えたような・・恐怖を抱いた瞳。
カガリ先輩は・・こんな瞳じゃない・・・
何にも屈しない眩しい瞳を持ってる人だったのに・・・

ミーアの表情が歪む。
「・・・アスランに」
「やめろ!!!!」
ミーアがそう言ってどこかに向かおうとしたがカガリの声に足を止める。

「やめて・・・お願いだから・・・アスランにだけは知られたくないんだ!!アスランにだけはっっ」
痛い・・・
その痛みがミーアにも伝わる。
でも・・このままでいいわけないでしょ?
だって・・・この様子じゃあカガリ先輩もっとひどいことされてるんじゃ・・・
「っっっ・・」
想いが溢れ、ミーアの瞳に涙が溢れる。
その言葉を口に出すことが出来ない。
口に出してしまったらカガリ先輩は壊れてしまいそうだった。
必死に守ろうとしてるんだ・・・。
自分をじゃない・・・きっと・・アスランを・・・。

「言わない・・・から・・・お願い・・もう泣かないで・・・私・・・」
そんなカガリ先輩見たくない・・・。
「うっ・・・・・ひっ・・・」
体が引くつくように動く。
ミーアはそれをなだめるようにカガリの体に手を回す。
「大丈夫だから・・・おねがいっっ・・」
アスランに言ったらカガリ先輩は壊れてしまうんじゃないかと思った。

昨日だってあんな笑顔で話しかけてくれたのに・・・
最近変だとは思ってたけど・・・まさか・・こんな・・・


「私が・・一緒にいるから・・・大丈夫だから・・・」
慰めだった。
クラスも学年も違う私がカガリ先輩とずっと一緒にいられるわけがない。
でもこのことを誰かに話すわけにはいかなかった。
約束したんだから・・・

「・・・だから・・・もう震えないでっっ・・・」
ミーアの涙も・・カガリの涙も止まることはなかった。





「なんだ?また行くのか?」
シンは教科書をしまいながら走るようにして教室から出て行くミーアを見る。
「うるさいわね」
ミーアはシンをギッと睨むと教室から出て行った。

「・・・なんか最近怖くねぇ?」
「人間だからな。ストレスも溜まるんだろう」
シンは振り返りレイの机に頬杖をつく。
「・・・・それは・・まぁ・・そうだろうけど・・・」
いつもながらさらりとした返答にシンはむぅっと口を尖らせる。

「生徒会の方はどうだ?」
「え?ああ・・忙しいけど・・楽しいかな?」
なんていうか・・・カガリがいることも大きな要因ではあったけど、それ以外でも充実感というものがあった。
心地良い空間。
同じものを共有している充実感・・・。

「わぁ!」
シンは声を上げる。
レイはそんなシンをチラリと見た。
い・・今オレ・・なんか恥ずかしいこと考えちゃった。
こんなセリフオレには似合わないよなっっ
シンはカタカタと恥ずかしさで歯を鳴らす。

「・・気にするな。俺は気にしてない」
「・・・・・レイ・・・」
レイの優しさにシンは顔を緩める。が、
オレ口には出してないんっすけど!?
と、サーっと血の気が引いた。
パタパタとミーアは階段を走る。
時間は3時間目の休憩時間。
10分しかない。

「カガリせんぱーい☆」
ガラッと開く扉と同時にミーアが飛び入る。

「あら、ミーアさん」
ラクスは入って来たミーアを見て笑みを漏らす。
側にいたアスランは、また来たのか?とばかりに不思議そうな顔をしていた。
そして・・カガリは・・

一瞬、焦ったように私を見ていた。


「カガリ先輩。また来ちゃいました♪」
ミーアはスカートを揺らしながらカガリに近づく。
「あ・・・うん・・」
そう言ったカガリの顔は笑っているが冴えない。

カガリ先輩を1人になんかさせたくない。
私が今できるのはこんなことぐらいだから・・・
あの日から・・私はカガリ先輩の元を毎日訪れていた。

でも・・カガリ先輩は私を見るたび何かに怯えたような顔をする。
・・・・・・・・・そんなに言われるのが嫌?
でも、カガリ先輩だってこのままでいいと思ってないでしょ?
卒業まで我慢するつもり?
だめよ・・・カガリ先輩はそんな人じゃないでしょ?
そんなカガリ先輩見たくないのに・・・っっ

「ミーア、来たのはいいが、もう次の授業始るぞ?」
アスランの声にミーアは意識が戻る。
「あ・・そう・・・」
部屋の時計を見るとそっとカガリを見る。
「ざんねーん。カガリ先輩またね!」
ミーアは片手を挙げ、教室を後にした。

こんなことしか出来ないなんて・・・
私は力になりたいのに・・・
黙ってることが力になってるなんて、守ってるなんて思えないっ・・・
ミーアは教室に向かい全力疾走で走る。

「・・・・・・・・そうだ・・・」
あの時の子を捜せばいいんだわ!
確かリボンは青色・・・2年生よね・・?
一方的かもしれないけどアスランに関係があって・・・

「・・・そうよ・・・」
ミーアは教室とは反対方向に走り出した。


「ミーアさん、ここ数日頻繁に顔を出されますわね」
「・・・うん・・」
カガリは小さく返事をした。




ドン!
机に置かれたのは膨大な資料。
シンはふぅっとため息を吐く。

「これだけだって、フラガ先生が・・・っと・・キラ先輩達は?」
シンは重い荷物を置くと辺りを見回す。

「力仕事がありましたのでアスランと出て行かれましたわ」
「ふーん」
シンは軽くそう返すとラクスの隣で資料整理をしているカガリに向いた。
ごそごそとポケットを探りながら。

「これ!もらったんだ!」
差し出したのは飴玉。
シンの手の上に数個散らばっていた。
カガリはゆっくりと顔を上げる。
「ありがとな!シン!」
カガリはそれを掴み取ると、1つをラクスに渡す。
「ありがとうございます」
「わーおいしそう!」

私・・・笑えてるのかな?
笑ってるはずなんだけど・・・
神経が麻痺してるみたいだ。

ミーアに知られてからアスランたちの顔が上手く見れない。
ばれてるんじゃないかって。

そして・・・茶色い封筒はまだ私の鞄の中に入っている。




小さな封筒。
だが、その中には想いが溢れんばかりに入っていた。
もう言葉にすることが出来ない想い。

それを開けた時、3人は何も言わなかった。
キラもラクスもシンも。
シンなんか、経緯も知らない。
だが、何も言わず景色を見ていた。

そう、これはカガリ以外見てはいけないものだったのだ。
だが、今はそれにすがるしかなかった。
2人で・・・カガリの母はそう言った。
それが出来れば1番だったが、俺は・・カガリを救うこと。
いや、今を全力で生きることを優先したのだ。
後悔なんてしない。
今、た正しいと思ったことをしなければそのほうが後悔するだろうから・・・・


「ユウナ・ロマはセイラン社の次期社長か・・・」
「スティング君に聞いたけど、彼、もうすぐ学園をやめるみたいだよ」
「・・いつの間に」
仲良くなったのだろう?
さすがキラは手が早い。
と言ったら語弊があるか・・・。
アスランは苦笑する。


「欲しいものはカガリなのか・・・別のものなのか・・・」
アスランはぎっと歯をかみ締める。
キラは気になっているようだが声をかけない。
手紙の内容をこちらから聞くわけにはいかないからだ。

多分・・・別のものだろう。
あの手紙に書いてあった・・・
アスランは瞳を伏せる。
カガリに何を言ったんだ?
手に入れるために何かを言ったはずだ。

アスランの脳裏にカガリの姿が浮かぶ。
何度思い出してもカガリは笑っていなかった。
笑顔も覚えているはずなのに・・・


「このままでいいわけがないからな」
アスランは決心したように顔を上げる。
「何でもしますよ」
キラはアスランを見る。

「策を考えないとね・・・」
青い空は太陽に陰りを作りながら陽を注いでいた。




よし! ミーアは壁に隠れるようにして1つの教室を覗いていた。

あの後、2年の教室を全部覗いていたのだ。
「顔を見ててよかった・・」
そしてあのときの人物を見つけたのだ。
さすがに授業中に覗くのは度胸がいったけど・・・。
バレたら叱られるのは当然だからだ。
でも授業サボってまで調べたかいがあったんだし、終わりよければよしよね!

ミーアは教室から出てくる人物を1人1人確認する。
数人出てきたところで
いた!!!!!
あのときの人物が姿を現した。

そしてそのまま隠れるようにして後をついていった。

ついて行ったからといってなにになるのかなんて分からない。
だけど、じっとなんてしていられなかった。
今もカガリ先輩は誰にも言えず苦しんでる。
私が知ったことで更に苦しんでるだろう。


「・・・帰るだけなのかしら?」
少女は靴箱で靴を履き替える。
それを見たミーアは慌てて自分も靴へと履き替えた。

少女は1人、たんたんと道を歩く。

・・・・・まぁ・・家を突き止めるだけでも何かあったときには便利か・・。
そう自分を納得させミーアはついていく。

「・・・・・」
曲がって・・・ここ通って・・・え?こっちって・・・・
ミーアはきょろきょろと辺りを見回す。

「・・・・・そうだ・・」
ここって・・・サクラ学園に向かう道だ。
そう思うと目の前に校舎が見えてくる。

なにこの子・・?
サクラ学園に用があるの?

少女はそのまま学園へと入っていく。
少し違和感を感じながらミーアも隠れるようにしてそれに続いた。


なんか・・迷いもなく進むわね。
きっと何度か来たことがあるのだろう。
少女の足取りは迷いがなかった。
ときどき、生徒の話し声が聞こえるが目に付く辺りにはいいない。
裏ルート?
なんだか妙なことが頭を回る。
と、隠れるようにしてある扉に少女は入っていく。

「あ・・・」
ミーアは姿の見えなくなった少女を追うようにその扉に駆け寄った。

耳を当て中の様子を探ろうとしたが声は聞こえない。
扉を開けるのは度胸がいるし・・・すぐそこにいたら嫌よね・・。
目に付いたのはカーテンの締められた窓。
少しの隙間が目に付く。
ミーアはよしっとばかりに窓へと張り付いた。
少し高めの位置にあるせいか足が吊りそうなほど背伸びをしないと中が見えない。


「んっっ」
ミーアは目を細め中を覗き込む。
1人・・・さっきの少女
その向かいにはもう1人・・・。
あれ?どっかで見たことあるわね・・・紫の髪で・・・。

声・・聞こえない・・ミーアがいくら耳をそ澄ませど姿しか見えない。
そっと窓に手を開けると軽くそれが動いた。
やった!
音を立てないようゆっくりと窓は動く。
すると少しだけ届く中の声。

『これだけ?』
少女の声だ。
『成功したらもっと払うよ』
相手の声。

『君見たいな子がいて助かるよ』
『お金で動くってことですか?』
『それもだけど・・まぁ、すんだら頑張ってアスラン君にアタックするといい』

・・・・・・アスラン?
え?この人アスランと関係があるの?
・・それ以前にこの人・・教師よね?この学園の。
サクラ学園の教師・・・。
あ!!そっか、それで見たことあるんだ!!
体育祭が合同だったもの、あのときに見かけたんだわ!

ミーアはスッキリしたとばかりに顔をほころばせるがそんなことはいい・・っと気を引き締める。

『とにかく、カガリが無事転校したら君の役目は終わりだ。。期待してるよ』
『ええ・・して見せるわ。いきなり出てきてアスランとくっついたあの女なんかいなくなればいいのよ』

ミーアは頭の中が真っ白になる。
なに?この人たちは何の話をしてるの?

カガリ先輩が・・転校?

窓にかかった手が震える。
と、少女が扉に向かって歩いてくるのが見えた。
やばいっっ
ミーアは姿を隠そうと窓から手を離すが、伸ばし続けていた足がふらつく。
「あ・・っっ」
その声は部屋の中へと入った。

「・・・なんだい?」
男の声が聞こえる。
「やばっっ・・」
急いで逃げようとするものの足がもつれて上手くいかない。

「平気」
・・・・・・え?

かちゃっと扉が開く。
「誰だ?・・げっっ」
扉を開けたユウナの顔が豹変する。

「・・こんなところで何してるんだい」
「散歩」
「・・・・・・・・・・・・早く行きなさい」
「イヤ」
「っっ・・・君、帰っていいよ」
ユウナは中にいる少女に声をかける。
「はい・・」
少女はそこに立っていた女の子を訝しげに睨みながらその部屋を後にした。
そしてユウナは何も言わず扉を閉めた。
カチャ
鍵の閉まる音を響かせながら。



「・・・・・・・・・あなた・・・」
ミーアは木の陰から不思議そうに立っている少女を見上げる。
「知ってる。カガリの友達」
ステラはそう言うとにぱっと笑った。

「ステラ!今日は居残りだって言っただろ〜!!」
遠くから聞こえる声が徐々に近くなる。
「全く・・すぐふらふらして・・スティングも・・・あれ?」
アウルはステラの横にいるミーアに気付く。
「あんた・・・」




「紫?ああ、ユウナ・ロマだろ」
「ユウナ・・ロマ・・」
アウルはステラの横でプリントに文字を走らせていた。
その前にはミーアがちょこんと座っている。

「おいアウル!ステラは・・っと・・・」
「あ・・ごめんなさい。お邪魔してます」
ミーア入ってきたスティングにペコリと頭を下げる。
「あ・・お構いもしませんで・・」
スティングはいきなりの人物に頭が追いつかなかったのか変な言葉を返した。

「ってか・・ここ教室だし・・」
そしてアウルがその会話に突っ込みを入れた。

「で、何?ユウナ・ロマがどうかした?」
カリカリ・・・アウルのペンが走る。 「・・あの人・・どんな人?」

「キモイ、うざい、騒がしい、アホ」

いやな奴なのは分かった。
ミーアは顔を歪ませる。
「でも学園辞めるらしいな」
スティングはステラの前に座ると止まっている問題に目を通す。

「そうなの?」
「ん・・ああ・・ステラ・・ここはこれと同じ」
ステラはスティングの指した問題をみてこくんと頷く。
「あいつってどっかの御曹司なんだろ?会社継ぐとか何とか・・・で、変な噂もあるしな」
「変な噂?」
ミーアはアウルを見る。
なんだか引っかかる。
「結婚するって噂。若い子らしいぜ」
「でもほんとに噂だろ」
「えーぜってー全くってわけじゃないはずだって・・本人が言ってるの聞いたことあるし」 「まぁ、アイツがどうしようが俺たちには関係ないけどな」
「女子高生って話も聞いたけどね。結婚相手」

会社を継ぐ為に学園を辞めて・・・結婚?
相手は女子高生?

「わざわざ女子高に転校させるって噂もあるってよ」
「はは。そこまでしないだろ・・あ・・あんまり本気にしないでくれな?アウルの情報は微妙だから」

ガタン・・
ミーアは席を立つ。
ステラはそんなミーアを見上げる。

「・・転校って・・・」

『とにかく、カガリが無事転校したら君の役目は終わりだ。。期待してるよ』

ユウナの言葉が重なる。

「あ・・これ噂だから・・・えっと・・ほらアウル・・」
スティングはツンツンとアウルをつつく。
「噂だけど本当かもしれないだろ?」
「お前・・」
アウルはしらなーいっとそっぽを向く。

「ありがと・・・ステラもありがとね?」
「もう帰っちゃうの?」
ステラは寂しそうに呟く。
なんだか捨てられた子犬みたいだ。

「うん。大好きな人の大事なことなの」
「カガリ?」
「そう、カガリ」
「・・うん」
ミーアはそんなステラに笑みを向けると走り出した。





あとがき