春心地

「アスランは彼女とか作らないの?」
キラは幸せそうにそう言った。
「別に・・興味ないし・・・」

キラが聞いてきたのにはわけがある。
中学の卒業式、キラはラクスに告白されたのだ。
前から彼女のことは好きだったらしく、キラも卒業式の日に勇気を振り絞って告白をしようと決意していたらしい。
ところが、ラクスのほうから告白してきたのだ。
もちろん即OK。
次の日からの2人は俺から見ても恐ろしいほどのラブラブぶりだった。


そして俺たちは同じ高校に進学し、先日入学式を迎えた・・・・・


「やっぱり行動は早い方がいいよね!」
のろけ・・・というものなのだろうか・・
キラは俺に質問しておきながらあいだあいだで自分とラクスのことを話している。
どうもそこまで喜ぶ気持ちが俺には分からなかったが、キラの幸せそうな顔にまぁ・・いいか・・・と
話半分で相槌をしていた。

始まったばかりの高校生生活はあまり面白いものではなかった。
もともとあまり人と関らない俺は友達と遊ぶということに興味はないし、勉強もできる。
孤立というほどではないが、ただ・・・毎日をなんとなく過ごしていた。


「あ、アスラン・・僕今日・・・」
キラのいつものお願いが始まった。
アスランは大きくため息をつく。
「分かったよ・・・」
「ごめんね!ありがとう!!」
キラはそういうとさっさと駆け出していた。

キラのお願い。
それは図書委員変わってくれない?
ということだった。
最近、ラクスが歌の教室にバイトとして働き出した。
キラは「ラクスの歌を教える姿は天使だ!」とか何とか言って毎回そのバイトについて行くのだ。
ただ、週に1度ほどそれが図書委員と重なる日があるらしい。

最初は今日だけお願い!!
などといっていたのだが、あれから何回図書委員の変わりにしているだろう・・・

しかしながら趣味のない自分にとって断るほどの理由もなく、まぁ・・・とそのお願いを聞いているのだ。


アスランは何度目かの・・・図書室のドアを開ける。
この学校では各クラスの図書委員が順番に図書室の管理をしている。
放課後の本の貸し出し業務などをするのだが、何というか・・・ほとんど借りに来る人はいない。

前回は3年の人と一緒だったがその人は俺に挨拶をした後、ずっと本を読んでいた。
なるほどそうして過ごすのかとアスランは同じように本を読み始めた。
意味の分からない図書委員である。
静かな空間は俺にとってまぁ・・・そこまで居心地の悪いものではなかった。

今日も同じように過ごそう。
アスランはそう思いながら図書室のドアを開けたのだった。

しかし、図書室は前回のような静寂には包まれてなかった。

「・・・・・・・・・・なんだこれ?」
アスランは入り口で立ち止まる。
図書室の中に見えたのは乱雑に散りばめられた本たち。
まるで地震でもあったかのようだ。
アスランはとりあえずその散らばった本を避けながら中に入っていく。

ほんとに・・・何があったんだ・・?
という思いと、
ひょっとして今日はこれを片付けないといけないのか?
という思いが混在していた。

そのとき、右に見える本の山がもぞもぞ動く。
「何だ?」
アスランは思わず身を固めた。

「わぷっっ死ぬ!!!」
バサバさっという音と共に、本の山から金色の光が出てきた。

「・・・・・・女の子・・・?」
その金色は人の髪だと気付く。
そしてその子は女の子の制服を着ていた。

「ちょっと暇だから片付けようかと思っただけなのに〜!」
その少女はこちらに気付いてないらしく、近くにあった本にペシっと八つ当たりしていた。

「よっ」
少女は本の山から立ち上がると、パンパンッとスカートを叩く。


「・・・・・何してたんだ・・・?」
このまま彼女を見ていても仕方ないとアスランは声をかけた。

「ひゃっっっ」
その声に少女は幽霊でも見たかのように肩を震わせた。
そしておずおずと後ろを振り返る。

・・・・・・・・・・・・・・
沈黙が2人の間に流れた。

なんか言えよ・・・
アスランはそんなことを思って彼女を見ていたが彼女から返ってきたのは
「えへっっ」
という照れ笑いだった。



「なんだお前も図書委員なのか!」
2人は本を片付けている。
「違う。代理だ」
「ふーん。そうだよな・・委員会でも会った事ない気がするし・・・」
「で?君は何してたんだ?」

「私はカガリだ」
「・・・カガリは何してたんだ?」
本をこんなに散らかして・・
やっぱり俺も片付けなければいけなかった・・・

「いっつもさ・・・暇なんだよこの時間」
確かに人来ないしな・・・
「でさ、まあ、せっかく図書委員になったんだから本でも片付けようかと思って・・・」
「逆に散らかしたのか」
「うっっ」
カガリは呆れた顔している少年を睨みつける。
「自分で散らかしといて人を睨まない」
「はい」
カガリはその通りだと返事をする。

「お前名前は?」
「アスラン」
「何年だ?」
「1年」
「なんだ私と同じじゃないか!私はC組」
「俺はAだ」
「結構会わないもんだな。アスランの髪綺麗だから目立ちそうなのに」
「君の髪のほうが・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・なに言おうとしてるんだ・・俺・・。
アスランは言葉を止める。

「誰の代理できたんだ?」
カガリはそれを気にせず話し続ける。
「キラ」
「あ!キラの友達なんだ!」
「キラを知っているのか?」
「双子だからな」
「そうか・・・」
アスランはカガリとは違い、話しながらも手早く本を片付けていた。
だが、その手が止まる。

「・・・・・・・・・・・・・双子・・・・・・・・・・・・?」
「あれ?聞いてないのか?あ、まあわざわざ言うことじゃないよな」
カガリはあっけらかんとして話す。
「中学が違ったんだ。あ、それにしてもキラ最近彼女できただろ!」

「え・・・ああ・・・」
アスランは頭が混乱したまま返事を返す。
「前はよく私のこといちいち心配してたんだけど、それが半分減った気がするんだ。役得だな」

キラが双子だったのも初耳だ。
アスランはショックを受けていた。
しかし、知り合ったのは中学からだし、違う学校だったのなら知らなくても・・・まぁ・・・。
と、自分を納得させるしかなかった。
俺だって別にキラに親のこととか言わないしな・・・


アスランは気を取り直すと再び本を片付け始める。
「ラクスって言うんだろ?彼女」
「ああ」
「私も会って見たいなー。でもさ、なんだか緊張するだろ?」
「ああ」

・・・それにしてもよく話すな・・・
アスランはカガリの手元を見る。
全く片付け作業は進んでないらしい。
アスランはすっとカガリの手元を指差す。
カガリはそれに反応し自分の手元を見た。

「片付け」
「あ・・・」
カガリは思い出したとばかりに手にした本を片付け始めた。




どれくらいかかっただろう。
やっとのことで散らばった本は片付けられた。

「ふー」
カガリはドサッと椅子に腰掛ける。
アスランもさすがに疲れたらしく椅子に座った。
それにしても・・やはり誰も来ない。
今の時代、読書をする人は減っているのだろう。

図書委員なんて必要ないな・・・
アスランは思った。

「悪かったな、面倒かけちゃって」
「・・いや」
アスランはとりあえず愛想程度の言葉を口にする。
さて、今から読書の時間か・・・
アスランは時計を見ると、図書委員終了まで30分あった。
ボーっとするのもいいが、それだと隣にいる彼女が気にするだろうと本を取りに立とうとしたが
「次はなにする?」
という彼女の言葉に動きが止まった。

「は?」
「だから次は何する?」
「・・何?」
アスランはあっけに取られた顔で答える。
「本散らかしちゃったけど、おかげでほこりは取れたんじゃないか?そうだ!床でも掃くか!」
相変わらずアスランの表情は変わらない。
カガリはそんなアスランを覗き込む。
「どうした?アスラン」

「・・・本でも読んでればいいんじゃないか?わざわざそんなことしなくても・・・」

「嫌だ!本なんか読んでたら頭が腐る!」
「本は頭を使う為に読むんだと思うが」
「私は腐るんだ!」
「・・・・・・・・」
わけが分からない。

今まで対応したことのない言葉ばかりだ。
どう返せばいいのだろう・・・
俺の常識が通じないのか?
アスランは混乱していた。

「そうだ!」
カガリは何かを思い立ったように後ろに歩いていく。
と、棚から何かを取り出す。

「じゃーん!オセロだ!」
オセロ!?

「どうせ頭使うなら面白い方がいいからな」
カガリはそういうと、アスランの前に座り机にオセロセットを置いた。
「俺別に・・」
やりたくない・・
という言葉を出そうとしたが、あまりに楽しそうに準備をする彼女に口をつぐんでしまった。

「私が黒だな!黒の方が勝つんだ!」
「ジャンケンで決めるんじゃないのか?」
「え・・・?」
「いや、俺は白でいい」
「そうか?」
「ああ」
カチャッとカガリは黒いコマを置いていく。

その姿を見たアスランはそっと窓に目を移した。

うん。こういう過ごし方もいいかもしれない・・・

外からはそよぐように春の香りと共に心地よい風が入ってきた。




あとがき
初めて輝く星以外の学パロを書きました。
短編ということでスッキリしない方もいるかもしれません。。
が、私が書くとこんな感じということで(笑)
マジな話、連載でもいけますよね〜