春心地


「え!?アスラン、カガリに会ったの!?」
次の日の朝、さっそくカガリについてキラに話した。
「ああ、図書委員でな」
「あー・・・そっか・・・そういえば・・・」

アスランは聞きはしなかったがやっぱり自分に言ってくれなかったことが気になっていた。
さすがに昨日今日の付き合いではない。
中学からだ。
双子の姉弟がいることぐらい教えてくれてもよかったのに・・・。

「ねぇ・・アスラン・・」
「なんだ?」
「カガリ可愛かったでしょ?」
「・・・・・・・・は?」
アスランは目をぱちくりとさせた。
「あー!!だから教えたくなかったんだよね!!!カガリってけっこう人懐っこいっていうか人見知りしないから
好感もたれるんだよ〜で、勘違いした奴が告白とかしてくるの!」
言ってる意味が分からない。
アスランは頭を抱え話すキラをただ見ていた。

「私にも紹介してくださいませんの?」
後ろから聞こえたのは
「ラクス!」
ラクスの声。

「ラクスには今度紹介しようと思ってたんだ!」
ラクスだけかよ・・・
キラはラクスを見ると跳ねるように近づいた。
「で?アスラン・・・」
ラクスの両肩に腕を乗せながらキラはアスランに厳しい視線を向ける。

「・・・・興味ないから、俺」
アスランはそんなキラに笑顔で返した。
騒がしい女。
まぁ・・空気は悪くなかったがただそれだけのことだ。
アスランは昨日のことを振り返った。

「キラ、私バイト増やすことにしましたの」
「え?そうなの?」
「ですが、キラの図書委員と重なってしまいそうなのですが・・・」
「え!?でも僕行きたいな」
「私も・・キラに来て頂けると・・それだけで・・」
「ラクスッッ」
ひしっと抱き合う2人。

なにやってるんだ・・・
どうもお昼のメロドラマみたいだ・・・

うっっ
しかも2人は懇願するような瞳でアスランを見ている。


「・・・・・・・・わ・・分かったよ・・・」
アスランは片手を挙げるとたどたどしく言った。
「さすがアスラン!ありがとう!さすが僕の親友だね!」
「アスランありがとうございます!お礼は畑田の栗タルトを差し上げますわ!」

いらない・・・・
うれしそうにぴょんぴょん跳ねる2人を見てアスランは思った。



図書委員は週2回。
誰と組むかは分からない。
というか、決まっているんだろうけど、俺は図書委員じゃないから分からない。
「じゃあヨロシクネ!」
図書委員のある日、キラはでれでれの顔でそう言うとラクスとバイト先に向かって言った。
アスランはそれを軽く見送ると図書室へと足を向けた。

ドアに手をかけるとふとその手が止まる。

今日は・・・カガリ・・だろうか・・・

そして扉を開けた。
しかしそこには静寂。

「こんにちは・・・」
「こんにちは」
椅子に座っているのは以前一緒になったことがある3年の女生徒だ。
今日は読書の日か・・・
アスランはすぐ本棚に行き適当に本を取ると女生徒からかなり遠い位置に座る。
そこからは運動場が一望できた。
・・・・・けっこう・・景色いいな・・・
運動場だけでなく、街の風景も見える。
この学校は少し高台にあるため、町を見下ろすことができた。

開いた窓から爽やかな空気が流れ込む。
それと一緒に運動部の練習の声が流れるように入ってきた。
アスランはそれを頭の片隅で聞きながら本を開いた。


ペラ・・・
ページをめくる音が部屋に響く。

『そこだー!いけー!』
『やったあ!!』
下から威勢のいい声がする。
『まだいけるぞー!』
『きゃあ!』

運動部が試合でもしてるのだろう。
アスランはそんなことを思いながら本を読み続ける。

『カガリ!そこだ!!』
・・・・カガリ・・・・?
アスランはその名前に本を持つ手をぴくりと反応させる。
気がつくと視線は運動場を向いていた。

あ・・・・・
そこにはゼッケンをつけて走る少女の姿があった。
カガリだ。

カガリはなぜかサッカーをしている。
何でサッカーなんかしてるんだ?
確かにサッカー部はあるが・・女子がサッカー?
アスランはボールを追っかけているカガリを見ながら思う。

カガリは上手く相手をかわしながらゴールへと向かっている。
するすると相手を避けるカガリ。
上手い。
そして勢いよくゴールにボールを蹴り入れた。

『わあああぁぁぁぁぁぁ!』
歓声が巻き起こる。

「すご・・・」

「どうかしましたか?」
アスランははっと我に返る。
どうやら声がでてしまったらしい。
「あ・・・いえ・・・」
アスランは慌てて口元を押さえた。
しかし目線はすぐに先ほどの少女へと向けられていた。


カガリは同じチームの仲間とハイタッチをして喜んでいる。
どうやら勝ったみたいだ。
カガリの周りには人だかりができみんなで笑い合っている。
アスランは本を読みながらちらちらとそちらを見ていた。

しばらくすると、片づけを始めたのか人影が散らばっていく。
と、カガリがこちらに歩いてくるのが見える。
下を歩いているだけなのだが、アスランは思わず目を逸らす。

キラと双子なんだよな・・・
キラもそこそこ運動ができるけど、
カガリもすごいんだな・・・
双子ってやっぱり似るのか?

「あの・・・」
「はい?」
「そろそろ時間ですので失礼しますが・・」
「あ・・じゃあ、鍵は俺が返しておきます」
「お願いします」
そう言ってもう1人の図書係りは部屋を後にした。
時計を見ると17時30。
「もうそんな時間になったんだ・・・」
アスランもかたんと席を立つ。
そっと視線を窓の外に向けるとそこににカガリの姿はなかった。


それ以来、何度もキラの変わりに図書の係りをやったがカガリと合うことはなかった。
クラスも違うし、キラから紹介もされないまま日々は過ぎていた。

ただ・・・図書室からカガリの姿を探すように見下ろしていた自分がいた。