春心地


お昼休みその話になった。
「とっても素敵な方でしたわ〜」
ラクスは本当にうれしそうに言った。
「でしょ!カガリってば誰とでも仲良くなるからさー」

ラクスは昨日、キラの家に行ってカガリと会ったらしい。
先ほどからその話しばかりをしている。
「ですが、あんなに仲が宜しいのにどうしてここに顔を出しませんの?」
「クラスでも人気者らしいよ。休み時間には誰かしらカガリの側に行くだろうしね」
なるほど・・
と、ラクスは笑う。

俺はなんだか・・そんなラクスを見て・・・キラにイライラした。
「何アスラン?」
俺の視線に気付いたキラが声をかける。
「別に」
ぷいっと顔を背け、教室を出て行く。


「なに・・?」
「さぁ・・」
キラとラクスはそんなアスランを見送った。



あれからカガリと1度も会っていない。
いや、見ることはある。
だがそれは一方的で・・会っているに入らないだろう。

アスランはイラつく心を落ち着けながら屋上へと向かった。
屋上は1人になりたいときいつも行く隠れ家だ。
鍵がかかってると思って誰も近づかないが、実は側にある工具入れに中に鍵が入っているのだ。
アスランはいつものように工具入れをあけ、鍵を取り出す。
ここはキラも知らない場所。


ドアを開けると心地よい風が入ってくる。
やはり居心地がいい。
アスランは見晴らしのいい場所まで行くと腰を下ろした。
「ふう・・・」
1つため息をつく。

なんというか・・・俺はカガリを好きなんだと思う・・・
多分。
キラに言われたときはそんなことはないだろうと思っていた。
だが、それからもカガリと会えない日々が続いて・・・
気付くとカガリの姿を捜して、カガリの声に反応する。
図書委員の代理を頼まれていない日も図書室に足を向けることが多くなった。

いつも外がよく見えるあの席に座り、本を読みながらカガリの影を捜す。

あの時しか話していないのに・・・どうして好きなんだろう・・
と疑問に思う。
だが、俺がカガリの影を捜しているのは事実だ。
よく分からないが、これが好きということなのだろう・・・。

前にキラに聞いたことがある。
『ラクスのどこが好きなんだ?』
『全部』
『じゃなくて・・・』
『見てるだけでしあわせになれるっていうか・・・片思いのときはついラクスのことばかり見ちゃってて・・』
『アスランも恋をすれば分かるよ』
・・・・・・・これ・・・なんだと思うんだが・・・


「あれ開いてる・・・」
「っっ」
アスランは聞こえてきた声に緩めていた体に力を入れる。

人の足音が聞こえる。
最悪だ・・・
自分しかいない自分の場所を誰かに取られた気がした。
ここはもう使えない・・・
アスランは大きくため息をついた。
そして、さて戻ろうと体を起こす。

「あれ?アスランじゃないか!」
アスランは聞こえてきた声に体が固まった。
その声の主は・・・先ほどまで思い描いていた少女だった。
アスランは中途半端な格好のまま固まる。

「お前ここ知ってたんだ!」
カガリはうれしそうにアスランの隣に座る。
「・・・ああ・・・・」
アスランは表情を強張らせたまま立ち上がろうとした体を再び下ろす。

なんというか・・・いきなりだから・・・ちょっと・・・
アスランはカガリを見ることができない。
いきなりだ。
心の準備も出来ていない。
あんなに会いたいと話したいと想っていた人がすぐ側にいる。
だが、口は動くものの何を話せば言いのか分からない。

「ここの鍵の事知ってたんだ?」
「あ・・・ああ・・」
「私もこの間見つけてさ。ここを秘密の隠れ家に決めたんだ!」
「隠れ家?」
「だってさ・・・たまに1人になりたいときもあるだろ?」
「・・カガリでもあるのか?」
あんなに人と楽しそうに過ごしているのに・・・
「あるさ」
カガリはぷうっと頬を膨らませると、真っ青に広がる青空を見上げる。

「・・気持ちいいな・・・」
アスランはじっとカガリを見る。
そして同じように空を見上げた。
真っ青な空。
あまり見上げることはないが、いざ見てみるとそれは・・・なんて心を綺麗にしてくれるんだろう・・・
見ている間だけは嫌なことを忘れ心が安らぐ。

「あ・・・悪かったな・・邪魔して・・」
カガリは我に返ったようにアスランを見るとその場を立ち上がる。
「え?」
「お前も1人になりたかったんだろ?お前が先に来たんだ。私が帰るよ」
そう言って扉に向かおうとするカガリをアスランは焦ったように見た。

このチャンスを捨てるわけにはいかないっ
「カ、カガリ!」
そして現れた行動はカガリの腕を掴む。だった。

「どうした?」

「・・・・・・・・」

困った・・・なんと言えばいいのか分からない。

「その・・・」

「うん」

「・・・一緒にいないか?」

「・・え?」

「カガリなら・・・一緒でも・・・落ち着くから・・・」

カガリは首をかしげながらその言葉を聞いている。

「ダメかな?」

「・・・いいぞ!」
カガリは飛ぶようにしてアスランの隣に座った。

よかった・・・
アスランは胸をなでおろす。

「カガリは運動が得意なんだな」
「へ?ああ・・大好きだ。体動かしてると気持ちいいだろ?」
カガリは両手を組み上に伸ばす。
「俺はあんまり好きじゃないけどな・・」
「動かないとダメだぞから体がなまる」
「そうだな」
アスランはカガリを見つめ軽く笑う。
「・・でもなんで知ってるんだ?話したっけ?」
「いや・・・見かけたんだ・・図書室から・・・」
「ああ!あそこ眺めいいもんな〜なんだ、キラはまだアスランに委員押し付けてんのか?」
「まあね。でも俺も嫌じゃないから・・」
というより・・・進んで代わってるというか・・・。

「ふうん・・・あ!でも気付いたんなら声かけてくれればよかったのに!」
「今度からそうするよ・・・」
「絶対だぞ!」

どこが好きかって聞かれたら答えられないだろう。
俺にも分からない。
ただ、カガリのまわりは空気が澄んでいる。
居心地がいいだけでなく、俺にないものを全て持っている気がした。

そうだ・・こんな感じだ・・・
初めて出逢った図書室での空気。
あまりに遠い記憶な気がして薄れてしまいそうだった。
その空気が今ここにある。

「カガリ」
「なんだ?」
「今度どっか行こうか?」

そう、この空気をカガリをもっと感じたい。
その為には何かをしないといけない。

俺はそれに気付いた。