春心地


「次の土曜日にしよう!」
彼女はそう約束してくれた。


ー土曜日まだあと3日ー



「アスラン機嫌いいね」
「そうか?」
「うん、珍しい」
アスランはそう言われ、窓に微かに映る自分の顔を見る。
きっと、日曜日のことを考えてしまうからだろう。
「アスランってもともと表情豊かじゃないからさ、で、何があったの?」
キラは興味津々の顔で見てくる。

「言わない」
言える訳ないだろ。
お前のきょうだいが好きで、デートに誘いましたなんて・・・。
まぁ・・・デートではないんだろうけど・・・
「教えてよ」
キラはむっとする。
アスランは隠し事が多いほうだとは思うけど、隠す必要のあることはあんまりないと思うんだよね・・
いったいどんないいことが合ったんだろう・・・
アスランがこんなに嬉しそうにするなんて・・・

「今日も代わるんだろ?図書委員」
「ん・・ああ・・よろしく・・」
誤魔化された。
キラは更に膨れていた。


「それよりお前・・大丈夫なのか?」
「なにが?」
「次は古文だぞ・・宿題あっただろ?」

ひゃあぁぁぁぁぁぁ
キラの表情が真っ青になる。
「やばい!!アスラン、ノート見せて〜」
キラは先ほどの向くれっ面はどこへやら懇願するように言った。
「はぁ・・」
ため息をつきながらもアスランはノートを取り出す。
キラも慌てて机から古文の教科書とノートを出した・・・が

「あれ・・・・」
がさがさと机の中をあさる。
「やば・・」
「どうした?」

「古文の教科書忘れちゃった・・・・」
アスランは同情のまなざしを向ける。
古文の先生はグラディス先生で忘れ物に厳しい。
「課題倍出されるな・・・」

「アスランお願い!写してる間にカガリに教科書借りて来て!!」
ズキン・・・
カガリの言葉にアスランの心臓が跳ねる。
両手を合わせお願いのポーズをするキラ。
「・・・・・・あ・・・ああ・・・」

カガリのクラスには行ったことがない。
帰るための階段はカガリの教室より手前にあるし、カガリのクラスの隣は行き止まりだ。
何かそのクラスに用がないと行くことはない。
だからこそ今まで行っていなかったのだが・・・。

アスランは緊張しながらカガリのいるクラスに向かう。
うわっ・・・
心臓の高鳴りが治まらない。
なさけない・・・
こんなことで緊張するなんて・・・
教科書借りるだけだろ?


そうこう考えているとすでに教室の前まで来ていた。
1つため息をつくとその扉を開ける。

「だろ〜!!絶対おもしろいって!!」
勢い良く聞こえてきたのはカガリの声・・?
アスランは教室の中を見回す。

・・・?・・いない・・・
「あの・・何か用ですか?」
「あ・・・」
声がかかり下を見るとそこにはツインテールの女の子がいた。

「え・・っと・・カガリいますか?」
「カガリ?いますよ」
「カガリ〜!」
「なんだ、メイリン?」
人ごみで囲まれた中からひょっこりとカガリが顔を出す。
・・可愛い・・・

「アスランじゃないか!」
アスランを見つけたカガリは更に顔を輝かせる。
「どうしたんだ?」
「キラが古文の教科書忘れたみたいで貸して欲しいんだけど」
「いいぞ」
カガリはそう言うと机の中をあさる。

ガサガサ・・・
ゴソゴソ・・・
ガサガサ・・・
ゴソゴソ・・・

「カガリ?」
カガリの動きが止まった。

「あ・・やば・・・私も忘れたみたいだ・・・」
軽く舌を出してカガリは言った。
さすが双子
とりあえず突っ込んだがさてどうしよう・・
次にそのことが浮かんだ。

「あの・・よかったら・・・」
声の主を見ると先ほどカガリを呼んでくれた少女が古文の教科書を差し出していた。
「ああ・・ありがとう」
アスランはそれを受け取る。
それが解決すると頭に浮かんだのは・・・

「いつ古文あるんだ?」
「4時間目、あーどうしよう〜あの先生怖いんだよな〜」
「俺が貸すよ。後で持ってこようか?」
「本当か!?じゃあ取りに行くよ」
うれしそうに顔を上げるカガリ。
やっぱり可愛い。
ころころ変わる表情も。
弾んだ声も・・・。

アスランは緊張ではなく、喜びで胸を弾ませながら教室へと戻った。
「あれ?カガリのじゃないよね・・?」
キラはノートを写し終わったのか背伸びをしながら教科書を受け取った。
「忘れたらしい。えっと・・誰だっけ?誰かに借りた」
「そんな曖昧な・・返しに行くの僕なのに・・・」
困ったようにキラは言うが、
それは大丈夫。
アスランはにっと笑った。
カガリがここに来るのだから。



俺たちの古文は2時間目、それが終わるとアスランは辺りをきょろきょろしていた。
だが、その時間にカガリは来ることはなかった。
来たのは3時間目の終わり。

「アスラン!」
勢いよく開いた扉。
思った。カガリならこんな感じで入ってくるんだろうなぁ・・と・・。
まさにビンゴだった。
思わず笑みがこぼれる。
「悪いな、貸してもらうぞ」
カガリは差し出された教科書を受け取る。
「カガリ、これありがとうって返しといてくれるかな?」
キラが隣で声をかける。

「あ、メイリンならいるぞ」
カガリの後ろから女の子が出てくる。
「あ・・ありがとね」
キラはメイリンに教科書を返す。
「はい」
ちらちら・・
メイリンはアスランを見た。

アスランはそれに気付くことなくカガリと嬉しそうに話していた。
「キラ」
ラクスがキラに声をかけた。
「あらカガリさんではありませんか!」
ラクスはカガリを見つけるとうれしそうに言う。

「ラクスこの間は楽しかったぞ」
「私もですわ。そうですわ、カガリさんお昼ご一緒しません?」
「お昼?」
「だって、1度もご一緒したことありませんでしょう、ぜひ」
「分かった!そのとき教科書返すな!メイリン行こ!」
「・・うん・・」
カガリはメイリンを連れ、教室を出て行く。
ラクス・・・
アスランはラクスを神のようにして見る。
「・・アスラン・・?」
ラクスはそんなアスランを不思議そうに見た。




そしてお昼。
アスランの顔はゆるみっぱなしだった。
「でもそう思うだろ!」
カガリはご飯を食べながら楽しそうに話している。

「でさ・・・・・・・」
「カガリ?」
カガリはアスランの手元を見て止まる。
「おいしそう・・・」
そこにはアスランのお弁当。
ハンバーグがあった。
カガリはそれを食い入るようにして見ている。
「・・・いる?」
アスランはハンバーグを箸で掴むとカガリの前にもっていく。
「でも・・・」
お前のだし・・・と言いつつじっとハンバーグを見る。
「俺お腹いっぱいだし」
アスランはどうぞとカガリを見る。
「・・・・頂きます!」
ぱくっとカガリはアスランの箸に食べつく。

「・・・・・・・・・」
とその瞬間、アスランの顔は真っ赤に染まった。
それもそのはず、カガリはさっきまで自分が食べていた端を口にしたのだ。
まさかそのまま食べると思っていなかったアスランはゆでだこ状態だ。

「ん?あ!!」
カガリもそれに気付いたらしい。
「カガリ」
キラが注意を促すように名前を呼ぶ。
「分かってるよ!」
「カガリってば何も考えず勢いで行動するんだから・・・」
「それがカガリさんのよいところでもありますわね」
幸せだ・・・
毎日こうして一緒に食べれればいいのに・・・
アスランはその想いが胸に渦巻いていた。




放課後、キラの代わりに図書委員に行く。
それは日常と化していた。
ただ今日は少し違う。
お昼にカガリと話したせいか、声をかけてくれと言ってもらえたせいか・・・
俺はカガリを見かけたら声をかけようと決心していた。
それだけのこと・・・
しかし、俺にとっては重要で、すごく緊張することだ。

アスランは窓辺に座る。
よかった。今日は3年の先輩だ。
図書委員の相手はよく当たる人だった。本をずっと読んでいる人。



窓から外を見るとすぐにカガリが目に入る。
いた!
という喜びと、どう声をかけるんだ?
という緊張が胸の中で喧嘩をする。

上を向いてくれたらいいんだが・・・
そうも・・・

と、琥珀の瞳と目が合った。

うわ・・・・

その琥珀の瞳は俺と目が合うと細くなり、
「アスラーン!」
と、カガリは両手を広げうれしそうに手を振る。

「っっ・・・」
うれしい!
けど、あ・・俺・・なんて返せばいいんだ・・?
「カ・・・・カガリ、頑張ってるな!」
「ああ、お前もな!」
カガリはそう言って運動場へ走った。

顔が緩む。
うん。今日もいい天気だ。
アスランは窓に手をかけると空を仰いだ。