春心地




ー土曜日まであと2日ー



あ、アスランだ・・・今日も図書室にいる。
カガリは空を見上げると、窓から見える藍色に気付く。

相手もこちらに気付いたようでにっこりと笑って手を振る。

「あいつ・・本好きなんだなぁ・・」
カガリはそんなことを思いながら運動場へと向かった。
今日は練習試合がある。
どうしても出てくれと言われ、図書委員を休むことになった。
それをアスランに伝える間もなく
「早くー!カガリ!!」
と自分を呼ぶ声がする。
カガリは慌てて走り出した。

今日も会えた。
アスランはうれしそうな顔を本で隠す。

恋というものを知ってから俺は学校が楽しくなった。
これは恋だという自覚も・・・ある。
それほどまでに他の人への想いとカガリへの想いは違った。

『アスランは彼女とか作らないの?』
キラの言葉が思い浮かぶ。
あれはついこの間の出来事なのに・・俺の想いは変わっていた。
『別に・・・興味ないし・・・』
そう答えたのは好きな人がいないからで、いれば・・・やはり・・・側にいたいと願う。



カラカラと部屋に音が響く。
誰かが入ってきたのだ。
しかしアスランは図書委員でここにいるわけではない。
ただ・・カガリが見られるかも・・・図書委員かもしれないと、放課後はついついここへ足を運んでしまう。
アスランはドアの方を見ずに本の続きに目を移す。

「アスランさん・・・」
なぜか自分に声がかかる。
アスランは不思議そうに振り返った。

・・・・・・・・・・誰だっけ・・・・?
そこには女性徒がいた。
赤ピンクな髪を2つにくくっている。
どっかで見たことあるような・・・
アスランは思い出そうとしているせいか彼女を睨みつけるようにして見る。

「あの・・・メイリンです・・」
アスランはそれでも分からない。

「・・・カガリと同じクラスの・・・」
「ああ!!」
そうだ。教科書を借りた子だ。
アスランはやっと思い出した。


「あの時はありがとう」
「いえ・・・えっと・・今日はカガリの代わりに図書委員に来たんです」
え・・・・?
「カガリは?」
「練習試合があるから来れないって」
そっか・・・・
アスランは軽くショックだった。
上手くいけばここにカガリが来ているはずだったんだ・・・。
軽く窓の外に目を移す。
そこにはランニングをしている生徒。
アスランは関係ないであろう彼らを睨みたくなった。

カタン
と席を立つ。
「アスランさん?」
「俺、帰るから」
メイリンの顔も見ずにアスランは図書室を後にする。

カガリも見れたし・・・少し話せたし・・・
アスランは残念ながらも少し幸せな気持ちで廊下を歩く。


後ろからパタパタと足音が聞こえてくる。
「アスランさん!」
この声は・・・メイリン・・という少女。
アスランは自分の名が呼ばれたため振り返る。

「あ・・あの・・っこれ・・・」
メイリンが差し出したのはさっきまで自分が読んでいた本。
「あ・・」
しまうのを忘れていたらしい。
「借りられますか?」
「・・いや・・いい。悪いが返しておいてくれるか?」
「はい」
別に読みたいわけでもない。
どちらかというとカガリに会う口実に開いてるだけ・・・のほうが近い。

「これ・・・面白いですか?」
「?」
「いえ、私も何か本読んでみようかと思って・・・」
「大して面白くないよ」
アスランはそっけなく返す。
「あ・・・そうですか・・・」
メイリンは寂しそうに手に持つ本を見る。




メイリン・・・と・・アスラン?
校舎を見上げると見えたのはガラス越しにメイリンとアスランが向き合ってる姿。
そっか・・私・・メイリンに代理頼んだんだ・・・。

ひょこり・・
カガリは軽く足を庇うようにして一歩進む。

2人は何か話している・・・
別に・・話したっていいじゃないか・・・
私だってアスランと話すし・・メイリンとも話す。

なぜか2人から目をそらせない。
メイリンが楽しそうに笑ってる・・・。
なんか・・見たくない・・・
カガリはふいっと顔を背けるとひょこひょこと歩き出した。

「カガリ!」
すると上からアスランの声がした。
え・・・
カガリは思わず上を見る。
そこにはアスランとメイリン・・・
しかしアスランはすぐにどこかへ走り去った。

・・・呼んどいて・・消えるなよ・・・
視界にいるメイリンは軽く手を振っている。
カガリも手を振って返す。

そしてまたひょこっと歩き出す。

「カガリ!」
目の前に現れたのはアスラン。
「アスラン!?」
「どうしたんだ?怪我したのか!?」

アスランは息を切らしカガリの前にいた。

「え・・ああ・・ちょっとドジッちゃって・・・・」
カガリはペロッと舌を出す。
ボールを蹴ろうとして相手チームの人に突っ込んだのだ。
みんながついていこうかと言ってくれたのだが恥ずかしくて断った。

「で、でも大丈夫だ!ちょっとくじいただけだか・・・あ!?」
その瞬間からだが宙に浮いた。


「大丈夫じゃないだろ!」
「あああああああすらん?!」
カガリはいきなりのことに顔を真っ赤にし、じたばたしている。

「保健室まで我慢しろよ」
アスランは怒ったように前を見ていた。
・・・気付いてくれたんだ・・・
あんな一瞬だったのに・・・私が怪我してること・・・
カガリは口元が上がる。

「重いだろ?」
「重くない」
「そうか?」
「俺のほうが重いからな」
「・・なんか違うぞ・・」
「いいんだよ・・」

その後、保健室で手当てしてもらった後、アスランの手を借りて家まで帰った。
アスランは背負うと言ってくれたが、
さすがに・・家まで抱っこは・・恥ずかしくてしてもらえるわけがない。

その日いつもの2倍かけて家まで帰った。