春心地




ー土曜日前日ー



その日、アスランは決意を固め、家の前に立っていた。

「あれ?アスランじゃないか・・」
家から出てきたのはカガリ。
そう、ここはカガリとキラの家だ。
カガリは何でここにアスランがいるのか分からず間の抜けた顔をしていた。

「足・・・大丈夫か?」
アスランは目線をカガリの足元に落とす。
「ああ・・心配して来てくれたのか?」
「・・・ああ・・・」
そう。
アスランはカガリの怪我が気になり、ここに来ていたのだ。

「カガリお待たせ!」
家から飛び出してきたのはキラ。
アスランを見て表情が固まる。
「あれ・・?何でここにいるの?」
「あ・・」
そうだ。
カガリが怪我してたらキラだって心配して・・・一緒に学校・・行くよな・・・。
キラはいつもラクスと登校していた。
そのせいか、頭の中から、キラの存在はすっかり忘れ去られていのだ。

「・・・・・・・えっと・・・・」

アスランは怪我をしているカガリが心配だったのももちろんあるが、それを理由に一緒に学校に行ける・・
不謹慎ながらそう思ったのだった。

「アスラン心配して来てくれたんだ」
カガリはそんなアスランを気にもせず、キラに言った。
「え?」
「昨日・・カガリが怪我してるの見たんだ・・・それで・・」
キラは何で知ってるの?
とでも言うような顔をしてアスランを見た。
そのため、アスランは説明をしようと話し始めたが、
「いいだろ!別に!」
というカガリの声に遮られる。

なんか・・・心配してくれるのはうれしいけど、かっこ悪いじゃないか・・・
カガリはツンと口を尖らせる。
怪我をしたといったらキラは「男子に混じって試合なんかするからだよ」と怒った。
私は男とか女とかで判断されたくない。
これ以上話を大きくすると、またその話しがぶり返されそうだった。

「早く学校・・・」
に行こう。
カガリがそう言おうとアスランを見ると・・・
え・・・・・?
アスランはすごく悲しそうな顔をしていたのだ。

「すまない・・・迷惑だったな・・・」
アスランは悲しそうにそう言うと、カガリたちに背を向けて歩き出した。
「な・・なんだよ?アスラン!?」
カガリは慌ててアスランの手を取り引き止めた。

アスランは困ったようにカガリを見る。
「気にするな・・・」
しかしその顔はすぐに笑顔になった。
「気にするなって・・・いや、別にお前が嫌なんて・・迷惑だ何ていってないぞ」
カガリはアスランの腕を掴んだまま、アスランを見上げる。

「あ・・・いや・・・だけど・・」
自分の言葉を遮るように出てきたカガリの言葉。
いきなり来たのは迷惑だったのかもしれない・・・
アスランはそう思ったのだ。


「・・・どうでもいいけど早く行かないと遅刻するよ?足怪我してるんだし」
キラはカガリの足を指差す。
「ああ・・アスラン、行こう!」
カガリはアスランの手とキラの手を取り歩き出す。
アスランはすぐに顔を赤く染めてしまった。
キラはそれを横目で見つつ、カガリの足を庇うようにして学校へ向かった。




「で、君はカガリのことが好きになったんだ?」
カガリを教室まで送り、自分達のクラスに戻る途中でキラが言い出した。
「まぁ・・なったものは仕方ないけど・・・」
キラは笑顔でそう言いながら視線だけはきつかった。

「・・・・俺もそのつもりは・・・なかったんだが・・・」
アスランはキラに釘を刺されていたことを思い出す。
しかし今更どうしようもなかった。

「とにかくカガリを泣かせたり苦しめるようなことだけはしないでよ」
「・・・当たり前だ」

カガリがキラに彼女が出来てから自分のことを心配する量が減ったといっていたが・・・
そのおかげで俺はいま、この程度で済んでいるのかもしれない・・・
そう思うと、ラクスに感謝したくなった。




キィ・・・
それは眩しい光を伴う音。
アスランはその音の主が誰かなど見なくても分かる。
だが、目線はその扉を確認するように動く。

「アスラン!来てたんだな!」
もちろんその光の主はカガリ。
アスランは視界にカガリが入るとうれしそうに微笑んだ。
「ああ・・・来るかと思った」
「何でだ?」
カガリはアスランの隣に行くと腰を下ろす。

ここは屋上。
アスランがカガリが1人になりたいときに訪れる場所。
だが、2人はお互い相手の姿を見つけるとうれしそうにしていた。

「明日・・・のこと」
「・・・・ああ・・」
明日、それは一緒にどこかへ行こうと約束した日。
日にちは決めたが時間などは全く決めていなかった。
朝もキラがいたためかそんな話しは出なかった。
カガリは分からないが、俺は話題に出せなかった。

だからきっと・・・今日、お昼にでもカガリはここに来るんじゃないかと思ったのだ。

「いや・・実は私もアスランがここに来てるんじゃないかと思ったんだ・・」
「・・・・・・」
アスランは軽く驚いたようにカガリを見る。
カガリは真っ直ぐに青い空を見ていた。

「その足じゃ・・無理だよな・・」
寂しいが、無理をさせて悪化でもしたら大変だ。
「え!?せっかく遊ぶ約束したのに!?」
カガリの残念ぶりがうれしくなる。
もちろん俺だって行きたい。
行きたいに決まってる・・・

「でも・・・またにしよう」
それより大事にしたい。カガリを・・・

「・・・・・・・」
カガリはふてたように足をぱたつかせる。
その姿はすごく可愛らしく、抱きしめたくなる。

「カガリ、足動かしたらダメだ」
「・・・痛くないからいいんだ」
カガリはふてたままの顔で足の動きをやめない。

治るものも治らないだろ・・・

アスランはカガリの足に手を添え、動きを止める。
それにより更にカガリの機嫌を損ねたらしい。
無理やりに足を動かそうとする。
「おいっこらっ」
アスランはそれに焦る。

「うるさい!」
カガリは意地でも足を動かそうとする。

「っっいいかげんにっっ」

アスランはぐっと足を持つ手に力を入れ、カガリの顔に自分の顔を近付ける。
「っっっ」
カガリは怒りのこもったアスランの表情にひるむ。

「心配してるんだろ・・・」
アスランはその表情を変えないまま言う。
あまりに近いアスランの顔にカガリは顔を真っ赤にした。

「いっいいだろ!別にっアスランに関係ない!!」
カガリからしたらなんとかこの状況を抜け出したいがための言葉だったのだが、
アスランはその言葉にイラつきを覚えた。

「関係なくはないだろ?」
「関係ないだろ!私が怪我しようが、痛がろうが!」
カガリは先ほどと同じようにアスランに返す。
その言葉にアスランの表情は更に険しくなる。

「黙れ」

「・・・っ」
アスランの怖い顔が目の前にある。
カガリは息が出来なくなった。

「・・・あ・・・悪い・・・」
少し怯えているように見えたカガリ。
アスランは慌てて顔を離す。

「・・とにかく・・・心配してるんだ・・・」
アスランは体を元に戻し、いつもの表情でカガリに目線を向ける。

カガリはそんなアスランに安心したのか、
「・・じゃあ・・・うちに来ればいいじゃないか!」
と、いい案が思いついたとばかりに両手を叩く。

「うち・・って・・・それは・・・」
カガリの家だからキラの家でもあって・・・

「な?約束したんだし、ゲームでもして遊ぼう?」
クリクリした瞳で見つめるカガリ。

この瞳で見られたら(見られなくても)ノックアウト。

「・・いかせてもらうよ・・・」

答えは決まっていた。