春心地




ー土曜日ー



押してもいいのだろうか・・・?
いや、押さなければ愛しい人には会えない。
だが、嫌な予感がする・・・
ここを押すと出てくるのはカガリではなく・・・

「アスランいらっしゃい!」

満面の笑みを浮かべたキラが現れた。
インターホンを押そうとした手が宙で止まっていた。

「知らなかったよ。カガリと出かける約束してたんだね」
「・・ああ・・・」
なんか・・・予想通りだ。
「アスラン!」
キラの後ろからカガリが出てくる。
「早く入れよ」
カガリはうれしそうにスリッパを出した。

「キラはラクスとデートだろ?」
「ん?うん」
それは運がいい。
アスランは思わず笑みをこぼしてしまった。
キラがいると全て監視されているようで落ち着かない。
別にキラが嫌いなわけでもなんでもないのだが、まぁ・・俺はカガリのことが好きだし、
キラはカガリのきょうだいだし・・・
居心地は良くない・・・。

「じゃあ僕行ってくるね」
キラはカガリには笑顔をアスランにはにらみをきかせて出て行った。

ずっとこんな感じなのだろうか・・・
アスランは背筋が凍る思いで、キラの背中を見送った。

「アスラン?」
カガリに呼びかけられ、我にかえる。
「お邪魔します」
アスランはそういうとスリッパに足を通した。

初めて入る彼女の家。
キラとは友達だが、家に入ったことはなかった。
緊張する・・・
誰でもそうだろう。
好きな子の家に上がるというのは緊張するものだ。

カガリは
「ほらこっちだ」
といいながら2階へ上がる。
「ああ・・・」
アスランもそれについて2階へと上がった。

通された部屋は・・・
「え・・ここってカガリの部屋!?」
「そうだ」
アスランは思わず口元に手を当てる。
いくらなんでも初めて家に上げた男を部屋に入れるのは無防備じゃないか!?
しかしカガリは何も気にする様子もなく座布団をテーブルの前に置く。

アスランはまさかカガリの部屋に入れるとは思っていなかったし、それはヤバイだろうと止めようとしたが、
カガリは何のためらいもなく、
「ジュース持ってくるから」
と、すぐに部屋を出て行った。

残されたアスランは目のやり場に困っていた。
右にかすかに見えるのはベッド・・・
左にはハンガーに服がかけられている。
部屋にはカガリの匂いが溢れていた。

やばい・・・
アスランはそれだけで顔が真っ赤になるのを感じた。


「アスランはなんのゲームが好きなんだ?」
ジュースを運んでくるとすぐにテーブルへと置き、
うれしそうに何かがいっぱい入った入れ物を持ち聞いてくるカガリ。
俺は思わず止まった。
「・・・?」
カガリはそんな俺を見たまま不思議そうに首をかしげる。

そういえば俺・・ゲームってしたことなかった。



「くそおおおおおおおお!!!」
ガンと叩きつけられたのはゲームのコントローラー。
勢いよく床に当たると大きく跳ね上がった。

「なんでやったことのないお前に私が負けるんだよ!」
「そんなこと俺に言われても・・・」

カガリが格闘ゲームをやろうと言い出した。
「やり方は教えるから!」
そう言われ、とりあえずゲームを始めることとなった。
最初のうちはカガリが勝っていたのだが、だんだんゲームを理解してきた俺はなんのことなくカガリに勝ってしまったのだ。
しかも、もう10回目。

途中でわざと負けようかとも思ったが、あまりに真剣なカガリの表情を見ているとそんなことは出来なかった。


「よしアスラン!もう1回だ!」
「・・はいはい・・・」
カガリはコントローラーを手に取るとアスランを睨みつける。
アスランはそんなカガリを可愛いと思いながら見ていた。


それからカガリが勝てたのは2時間後。
満足そうに床に転がっていた。

・・さすがに疲れた・・・というか、飽きた・・・
カガリのためとはいえ、同じゲームを4時間もやったのだ。それも当然である。
「あ・・・ジュース・・・」
カガリはテーブルに置かれていたジュースがカラになってるのに気付くとびょんと飛び起きた。
「カガリ?」
「ジュース入れてくるから待ってろ!」
カガリはそう言うと部屋から出て行った。

アスランはカガリが出て行くのを確認すると、テレビのボリュームを下げる。
この音を聞くだけでも疲れる。
だが、勝てたときのカガリの喜びようを思い出すとそれもどこかへ吹っ飛んでしまうのだが・・・

アスランは大きく辺りを見回した。
「女の子の部屋ってこんな感じなんだ・・・」
カガリだからだろうか・・・あまり物がない。
綺麗に整頓されているというよりはあまり物がない・・といったほうが正しいだろう。

・・そうだよな・・・毎日いろんな部に顔出してるし・・・
忙しいからそんなに・・・

アスランはそのとき何かに気付く。
ガラスケース越しに見える写真。
誰かと肩を組んでいるカガリ。

アスランはそのガラスケースに近づくとじっとその写真を見た。
そこに写っていたのは男。
カガリとうれしそうに肩を組んでいた。

「・・・なんだこいつ?」
眉間に深い皺が入る。
記憶を探るが見覚えがない。
同じ学校の相手ではないのだろうか?
そういえば・・・カガリも少し幼く見えるが・・・

「何見てるんだ?」
「わぁっっっ」

ゴン
カガリの声に驚いたアスランは棚から少し飛び出していた棚で頭を打つ。

「だっ大丈夫か??」
カガリは慌ててコップをテーブルに置き、アスランを覗き込む。
「ああ・・大丈夫だ・・・」
アスランは軽く頭をさする。

「・・・ん・・・この写真を見てたのか?」
カガリはアスランが見ていた方向へ瞳を移す。
そこに写真が飾られていた。

「・・・懐かしいな・・・」
カガリはそっと写真を手に取ろうと手を伸ばした。

「カガリ」
「え?」
しかし、アスランがその手を止める。

「ゲーム。俺が負けたままじゃ悔しいからもう1回」
アスランはカガリに笑いかける。
「・・・そうか・・よし!今回も負けんぞ!」
カガリはそう言うと気合を入れてテレビの前へと座った。

気にはなる・・・
だけど聞きたくないし・・思い出してほしくない。

アスランは横目でその写真を睨みつけていた。