春心地


「え?カガリのクラスに?」
「みたいだよ」
アスランはむっと顔を硬くする。

シン・アスカ
どんなやつか良く知らないが、カガリと仲良くしているところを見てしまった以上好きにはなれない。
それにカガリと同じクラスだって・・?

「シンはね、中学2年のときにアメリカに留学したんだ。両親の仕事の都合でね」
キラは聞かれる前にシンのことを話す。
「1年だけ?」
「うん。1年なら行かなくていい気もするけど、両親しかいないみたいだからおいとけなかったんじゃない?」
確かに中3の子を1人置いておけるわけはないよな・・・

「っていうかさ・・・・そんなにイライラするんなら告白しちゃったら?」
その言葉は耳を通り抜け戻ってきた。
「は!?」
アスランは思いっきりキラを見た。

「だって・・・アスラン同じような事考えてぐるぐる回ってるんじゃない?」
「なんだそれは?」
「可愛いとか、大事にしたいとか、一緒にいたいとか・・今日は図書委員じゃないだなとか、窓からカガリが見えたとか
ぐるぐる考えてるだけじゃカガリに伝わらないよ」


何でそんなこと知ってるんだ!!!!
アスランは顔を真っ赤にさせる。

「見ていたら分かりますわ」
「そうそう。よーくみてたら完璧に分かるよね」
「ですわよね」
「カガリは気付かない気もするけど」

「って、ラクスまで入ってこないで下さい!!」
真っ赤なままのアスランに対し、キラとラクスはうれしそうに話を続けていた。


そんなにばればれなんだろうか・・・
恥ずかしながらキラの言うことは見事に当たっていた。



告白か・・・
屋上で、思い浮かべるようにアスランは考えていた。


好きだと言ったことはない。
カガリにではなく、今までの人生の中で誰かに告白をした経験がないということだ。
どれほど緊張するものか・・・それすらアスランには分からなかった。

だが、そこで断られたら俺はどうなるのだろう?
未来がないと分かったらカガリのことを諦められるのだろうか?

まてよ・・・それ以前に告白する過程にも至ってないんじゃないか?
アスランはカガリとの時間を思い出す。
やっと友達になれたところ・・・・自分でもはっきりそうだと思う。
友達になったばかりで告白なんて・・・無謀じゃないか?


「うわ!!」
「え?」
その声にアスランは屋上の入り口を見る。
そこにはなぜか驚いたカガリの姿。

何で驚いているんだろう・・
「よう」
そう思いながら片手を挙げカガリに声をかけた。

「あああ・・・アスラン・・そうだな・・うん」
頭がもやもやしてて・・・ちょっとスッキリさせようと屋上に来てみたけど・・・
そうだ。アスランも・・・ここを知ってるんだった。

カガリは目を泳がせる。
なんだか・・・アスランに会いたくなかった。
頭にメイリンのことが浮かんできて・・・。

「どうした?具合でも悪いのか?」
立ち尽くしたままのカガリにアスランは声をかける。

「いや・・お昼だっていっぱい食べたし・・」
「・・・そうか・・?」
しかし、そういうカガリからは覇気が感じられない。

そんなカガリをアスランはしばらく見ていたが、ぽんぽんっと自分の隣を叩く。
カガリはそれを見て笑みを漏らすとアスランの隣に向かっていた。


カガリってばこんなところになんの用があるのかな・・・?
メイリンは薄暗い階段をトントンと歩く。
この先は行ったことがなかった。
行く必要もないような場所。

お昼を食べた後、カガリが1人どこかに向かっているのが見えた。
なんだか気になって後をつけてきたのだ。

「あ・・・扉だ・・・」
階段を上りきるとそこにはすこし錆びれた扉があった。
高さからして屋上への入り口?
軽くノブを握るとそれはすんなりと回った。

・・・開いてる・・・カガリは中にいる・・のよね・・
メイリンはゆっくりと扉を開ける。
初めて入る場所はどんな場所であれ少なからず緊張を伴う。

隙間から見えたのはカガリの髪色。

そして・・・・

「アスランさん!」
その声と共にメイリンは屋上へと足を踏み入れた。

アスランとカガリは「え?」という顔でメイリンを見た。

「こんなところで何してるんですか?」
メイリンは駆け寄るようにして近づく。

何でここにこの子が・・?
アスランはその疑問とカガリとの場所を奪われた気持ちが胸に湧き出る。

「あ・・・」
カガリがそれをどう思ったかは分からない。
だが、そのときのカガリの表情が強張っていることに俺は気づいた。


「カガリ、隣すわっていい?」
「・・・ああ・・」
メイリンはすとんとカガリの隣に腰を下ろす。

なんだろう・・この気持ち・・・
メイリンの側にいたくない。
アスランの側にも・・・

「わ・・私・・もどるな」
カガリは笑みを浮かべ立ち上がる。
もちろんその笑顔が硬いことにアスランは気付く。

「カガリ、もう少し・・」
「じゃあアスランさん、私と少しお話しませんか?」
アスランがカガリを引きとめようとしたとき、メイリンの言葉がそれを遮る。
「そうだよ。せっかくだからメイリンと話せよ」
「え?おい・・・」
アスランの声を背にカガリは扉へと消えて行った。



しばらくの沈黙、アスランはその間カガリの出て行った扉を見ていた。
「アスランさん?」
その声に納得できない思いで目線を空へと移した。

「あ・・えっと・・・アスランさんってここでお昼を取ってるんですか?」
メイリンは言葉を探しているのかたどたどしく話す。
「別に・・・」
「ここって入れるんですね・・私はじめて知りました!」

アスランはため息をつきそうになるが何とかそれを抑える。

カガリとの共有できる場所。
それをこの子に知られてしまった。
それはカガリとの繋がりを1つ取られた気がした。
上手く関わりがもてない自分。
せっかく見つけた時間・・・

「・・・君はカガリの友達?」
「・・・・はい・・・」
今更な質問だった。
今更そんなことを聞かれるなんて・・・
メイリンは顔を曇らせたがすぐに
「そうですよ。カガリとは中学から一緒なんです」
と、笑いながら言った。

中学・・・ということは・・・

「君もシンのことを知ってるのか?」
とは言ったもののこんなことを聞いてどうするんだとふいっと顔を背ける。

「シン?はい・・知ってますけど・・・」
「・・・いや・・いいんだ・・」
メイリンは首をかしげながらも話を続ける。

「カガリとすごく仲が良かったんですよ。シンはバスケ部にいて、カガリも入ってはなかったんですけどよく顔を出してて・・
そう!2人でゴールの数を競うんだって真っ暗になるまでやってることがありましたよ」
「先生に怒鳴られていつも慌てて帰ってたって言ってました」
ふふっとメイリンは笑う。
懐かしい光景を思い出しているのだろうか・・。
アスランは苦い顔をする。

「そうか・・・」
聞きたかった。
『付き合ってたわけじゃないんだよな?』
・・っと・・・。
だが、それを口に出せばこの子に俺の想いがばれてしまう。
さすがにカガリの友達に知られるのは・・・きつい。

メイリンはそんなアスランに気付かず楽しそうに話を続ける。

「文化祭のときなんかすごいおかしかったんですよ。お似合いのカップルコンテストっていうのがあって、
部の先輩がこっそり応募したらしいんです。それで・・ふふ・・カガリが王子様でシンがお姫様だったの!
カガリは王子様の姿がほんとに似合ってたんだけどシンが・・」

隣で何か動くのが見え、メイリンの言葉が止まる。

「・・・たくな・・・」
小さく聞こえた声。
「え?」
それをメイリンは聞き返す。

「そんな話聞きたくない!!」

バンッとアスランは壁を叩く。
その音にメイリンは体をビクッと震わせた。

「す・・すみません・・・私何か怒らせるようなこと・・・」

悪気がないのは分かってる・・・
だが、カガリとの場所を取り・・・聞きたくない話を聞かされたことにイラ立ちはおさまらない。

睨みつけるようにしてアスランはメイリンを見た。
「あ・・あの・・・」

「ここには来ないで欲しい」
「・・・え・・・?」
「ここは俺の場所だ。君には来て欲しくない」

「で・・でもカガリは・・」
カガリは当たり前のようにここに向かってた。
メイリンはカガリの背中を思い出す。

アスランは視線を空に移す。
気分は晴れないが、それでも彼女を見ているよりはマシだった。

「カガリはいいんだ」



心に暗闇が満ちてくる。
まるでどこかに落ちてるみたい・・・。
メイリンは自分を支えるかのように腕をキツク握った。

なに・・・?
カガリはいいって・・・・
私はダメでカガリはいいの?

もしかして・・・・カガリ・・・・。
メイリンに考えたくない思いが浮かぶ。
うそよ。
だって、協力してくれるって言ったもの!!

「・・・う・・そ・・・・・」
ふらりと後ずさりするメイリンにアスランはゆっくりと目を移す。
「・・・・あ・・・」
そのメイリンの表情にアスランは驚く。
驚愕とも取れるその表情。

「ひど・・・・・」
ひどいよ・・・カガリ・・・

「あ・・えっと・・・君・・・」
アスランは自分の言い方があまりに酷かったのかとすまなそうに眉を下げる。
ここまでの顔をされるとは思っていなかったからだ。

「ひどい!!!」
メイリンはくるりと扉に向くとすぐに走り出した。

「ちょ・・・・」
アスランはその場でそれを見ているしかなかった。
すまないとは思っても・・・その思いはなんだか現実味のないものだったからだ。


屋上の扉はカタン・・カタン・・と小さく揺れていた。