「先生!お願いします!!」
お昼休み、青海中学の職員室で必死になってお願いしている生徒がいた。
漆黒の髪に真っ赤な瞳を持つ少年。そうシン・アスカである。
「アスカ、ダメだとは言ってないのよ どうして青空学園に固執するのか聞いてるの」
シン・アスカの担任であるグラディスは困ったように言った。
「え・・だから・・・」
シンは言葉に詰まる。
「あなたの今のレベルじゃ、はっきり言って無理よ。分かってるわよね」
そんなことは言われるまでもなく自覚している。
だけど、あの高校に行きたい。
あの人と同じ学校へ通いたい。
シンはそんなことを担任に言えるわけもなく必死に何かいい説明はないかと頭をフル回転させた。
「・・・・・」
しかしどんなに考えても思いつかない。

「勉強がしたい」勉強が嫌いなのはバレバレだ。
「あそこは家から近い」ありえない説明だ。
「工学を学びたい・・・」工学?工学!
何かを思いついたようにシンの顔は一気に明るくなり、グラディスに向かって大きな声で
「工学です!!工学!」
と叫んだ。



輝く星〜受験の苦労〜





「ほら、あそこは県内1の進学校なのは当然だけど、工学もなかなかのものでしょう」
確かに青空学園は勉強でもトップだが、電気や工学に関する授業もレベルが高い。
何より資料もかなりの量があるため、気が向いたときにすぐ調べられるという利点もある。
実はシン、一般的な勉強は全然ダメだが電気や工学に関しては目を見張るものがある。
本質的に合ってるのか勉強しなくてもなぜか課題や実験をこなしてしまうのだ。
いい動機が見つかったと言わんばかりにシンは目を輝かせている。
その姿にグラディスはため息をつきそうになるが、あのシンがここまで必死になるのはめずらしい。
今までどこの高校にいくのか聞いても「どこでもいい」「行かなくてもいい」と返していたのだ。
そんな彼がここまで固執しているのだから理由はどうあれほんとに行きたいのだろう。
「分かりました 受験するのは個人の自由です」
「じゃ」
シンは身を乗り出す。
「ですが、推薦は話が別です。他にも希望している生徒がたくさんいるんですからね」
その言葉にシンはがっくりと肩を落とした。
「とりあえず試験勉強はがんばらないとね」
そんなシンにグラディスは励ましの言葉をかけた。
「はい」
それを聞いたシンはしぶしぶ職員室から出て行くのだった。

「シン」
職員室の前ではルナが待っていた。
「ルナ どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないわよ 昨日からあんた変なんだもん 気になるじゃない」
シンとルナは家が近所ということもあって小さい頃から良く遊んでいた友達だ。
「変じゃないよ ただ志望校を決めただけだろ」
「何で青空学園なの?」
ルナは不審そうに聞いた。
それも当然である。
ルナの知っているシンは勉強が嫌いで、進学には全く興味がなかったからだ。
それがなぜか、昨日から青空学園に固執している。
昨日・・・文化祭でなにかあったのかな?
ルナが知る限りでは昨日シンはステージの上にあがったということしか記憶にない。

「なあ、レイどこにいるか知らない?」
ルナの心配をよそにシンはもう勉強のことを考えている。
レイはクラスで1番・・いや、全校生徒で1番頭がいい。
シンはさっそく試験に出そうなところを聞こうと思っているのだ。
しかも上手い具合にレイも青空学園を受験する。
「どうせ図書室でしょ」
ルナはそういうと怒ったようにして教室に戻っていった。
なによ、人が心配してあげてるのに。
ルナのシンに対する思いはまるで・・・お母さんだった。


「レイー」
シンは図書室に来ていた。ルナの言った通りレイは図書室にいた。
「どうした?シン」
レイはシンがくるはずのない場所にいることに驚いている。
確かにシンは入学してから図書室に来たことは授業以外ではない。
「なあ、オレ、青空学園受けようと思うんだ」
と、シンが言ったとたんレイは持っていた本を落とした。
「・・・なんだよ・・・」
冷静沈着なレイが自分の発言にここまで驚いていることにシンは気分を害した。
ルナにグラディス先生、レイ・・・確かに自分でもきついとは思うがそこまで驚かなくてもいいだろ・・
「本気か?」
レイの言葉にシンは更に気分を害した。
「なんだよ オレだってやれば出来るんだからな!」
そういうとドカッとレイの隣に座った。
「だからでそうなとこだけ集中的に教えて!」
シンは不機嫌顔で座っておきながらその表情をころっと変えて、懇願するように言った。
「・・・・・・・・いいが・・・」
シンの態度の変化に何かスッキリしないが「やる気になったシンの気分を無くしてしまってはもったいない」とレイは勉強を教えることにした。



「レイのやつ化け物か?」
シンはあの後みっちり勉強させられた。
訳のわからない記号がでてくるわ、意味不明な文法がでてくるわではっきり言って参っていた。
しかも昼休みだけでなく放課後までやらされたのだ。
気持ちはありがたいんだけど、あんなに一気に言われてもなぁ・・しかも帰るの遅くなっちゃうし・・
だが、受験まで日がないのは分かっている。
レイもそう思ったからあそこまでやったんだろうけど・・・
オレ大丈夫かなぁ・・
シンはそんな不安に駆られた。
せめてあの人に会えればやる気がアップするのに・・・
なんてことを考えていると足は自然と青空学園の方へ向かっていた。




「アスラン 今日先に帰ってもいいか?」
生徒会室で文化祭の後処理をしていたカガリは言った。
「いいけど どうしたんだ?」
「お母さんに買い物頼まれてるんだ」
「あ・・じゃあ俺も・・・」
アスランはそういいながらカガリのほうへ近づく。
「いいよ!まだ作業残ってるんだし」
自分だけ先に帰るのは悪いが、他の人を巻き込むのは気が引ける。
「そうか?ならキラでも・・」
「ほんとに1人でいいって!」
そういいながらカガリは鞄に荷物を詰め始めた。
カガリを1人で帰すのは心配だが「まだそんなに暗くないし、大丈夫だろう」とアスランはそれを認めた。
「気をつけて」
「うん!」
カガリはいつもと変わらぬ眩しい笑顔で教室を後にした。
アスランはドアを出て行くカガリを見送った後、校門が見える窓へと目を移した。
ここならカガリが校門を出て行く姿を見れるからだ。
しばらくするとカガリが靴箱のほうから出てきた。
と、生徒会室の方を見て手を振っている。
アスランも笑顔でカガリに手を振り返した。
そのとき、アスランの視界に見たことのある漆黒が見えた。
思わず窓から身を乗り出すアスラン。
カガリもそれに気づいたのか驚いたそぶりの後、漆黒に向かって走り出していた。
「くそっっっ」
アスランは生徒会室を走りでていた。
あいつなんでここに!?
あれはどう見てもシン・アスカだった。
呼吸を荒くしながら校門付近までたどりついたアスランだったがそこに2人の姿はなかった。


「驚いた!!シンがあんなとこにいるなんて」
カガリはシンを見つけた後、声をかけていた。
「ちょっと通りがかっただけですよ・・」
シンは俯きかげんでふてたように言った。照れているのだ。
シンは無意識に青空学園に足が向き、気づいたら目の前にカガリがいたのだ。
意識してきたわけではないのでカガリに気づいたときは「うおおおお!?」と変な声を上げてしまったのだが、そんなことも気にせず
カガリはシンを見つけたとたん走り寄り、
「シン!暇?」
と言ったのだ。
いきなり会った人に対する言葉としては意味不明なのだが今まで考えた人が目の前にいるのだ。
シンは思わず「はい」と答えていた。

「で、どこ行くんです?」
「買い物。お母さんに頼まれてるんだ」
「へ・・?で、何でオレが・・?」
シンはカガリと一緒に買い物に行くのが嫌なわけでは決してない。
ただ、たまたま会った自分を見ていきなり買い物に誘うのは・・・この人ならあるかもしれない。シンは妙に納得した。
「もう少し話してみたかったんだ」
ドキン
カガリのその言葉にシンの胸が高鳴る・・・
もちろんカガリは深い意味で言ったわけではない。
なんかこいつって・・弟みたいなんだよなぁ・・・
キラとは私が姉と思ってはいるがはっきり分からないし・・・
こいつの突っかかり方って妙に可愛いんだよなぁ・・
「オレ・・青空学園受けようと思うんです!」
シンは考え事をしているカガリをよそにいきなり言った。
「あ・・?」
シンの前ふりも何もない発言にカガリは一瞬「何の話だ?」という顔をしたがすぐに受験のことだと理解した。
「そうか〜なら来年からは一緒の学校だな!」
「はい!」
カガリのうれしそうな顔に思わず「はい」と答えたシンだが、受からなければ意味がないことに気づく。
「いえ・・まだ受かるか分からないんですけど・・」
シンは言いにくそうに言った。
「お前頭悪いのか?」
・・・・・・・・・・・・・・・おい。
シンは心の中で突っ込んだ。
確かに良くないけど、すごい言い方だな・・。
「どうした?具合でも悪いのか?」
カガリは黙ったままのシンを不思議に思い声をかける。
「いえ・・・頭良くないです」
シンは先ほどの質問に答える。ところカガリは
「頭痛いのか!じゃあ、買い物につき合わせたら悪いな」
と、具合の質問に関する答えと取った。
「え!?いや!?」
シンは「このままではせっかくできたカガリとの時間がなくなる」っと慌てた。
「家はこの近くなのか?」
「ええ?はい」
「じゃあ ここで!話せて楽しかったよ!」
そう言ってカガリは走り去って行った。
1人取り残されたシンは寂しそうにその場にたたずんでいた。
・・・・・・・・そんなに話せてないよ・・・
そんなことを思いながら・・。



カガリが買い物を済ませ家に戻ると扉の前にはアスランがいた。
「あれ?アスランどうしたんだ?」
カガリはアスランがいることに驚く。
買い物は思いのほか早くすんだため、もし学校にいたならまだ生徒会の仕事をしている時間だった。
「1人?」
アスランはカガリの左右を眼で見ながら言った。
「ああ でもなんでそんなこと聞くんだ?」
カガリはアスランがなにを言いたいのかわからない。
「いや、なんでもないよ」
いないのならいい。
カガリに聞いても仕方ないことだ。
カガリが何か隠しているわけではないんだから・・・
アスランはカガリを信用していた。
はっきり言ってあのシンと言う少年は気に入らない。
だが、それをカガリに言ったら余計にシンと言う奴を気にしそうだ。
カガリは優しいから・・・

「な、入っていくか?」
カガリは家の鍵を開けながら聞いた。
「え・・・ああ」
せっかく来たのだからそうしよう。アスランは当然のごとくそう思った。
通されたカガリの部屋。
俺たちはここで初めてキスした・・・。
その時のことを1人思い出し思わず手で口を覆った。
俺がキスだもんなぁ・・・
昔の俺からはとてもじゃないけど想像できない。
文化祭でみんなに見せ付けるようにしたキスだって、本当はばれることを望んでいたのに、結局誰にも見られてなかったらしい。
正直言って誰か俺に告白してくれたら「カガリと付き合ってる」といえるのに。
そうなればすぐに学園中に広がるだろう。
などとちょっと不謹慎なことを考える。

「アスラーン」
ドアの向こうからカガリの声がする。
「?」
どうして入ってこないのだろう?と思いながら戸を開けると両手のふさがったカガリがいた。
「ありがと!」
カガリは紅茶をのせたおぼんを持ち、微かに動く指で器用にお菓子の袋をつまんでいる。
アスランはそんなカガリの姿が可愛くて思わず笑ってしまう。
「なんだよ」
ぷうっと頬を膨らませる。
「いや・・可愛いと思って」
「へ?」
その瞬間カガリの顔が真っ赤になり持っていたお盆を落としそうになる。
「「うわ」」
アスランは落ちそうになったお盆をすばやくキャッチした。
お盆の上の紅茶を見たがなんとかこぼれてないようだ。
「大丈夫か?」
「うん」
カガリは真っ赤な顔をしたままだった。
当然、アスランはそんなカガリを見ているとキスをしたくなり、
真っ赤な顔をしたカガリに顔を近づける。
カガリはキスだと分かったのか目をぎゅっと閉じた。
と・・・アスランは唇が触れる瞬間止まった。
カガリは眼を閉じてじっと待ってたが、アスランの感触がなかなか来ないことを不思議に思い、眼を開いた。
そこにはカガリの目の前で何かを考えてるようなアスランの姿があった。
「ど・・どうしたんだ・・?」
「いや・・・またキラが来そうな気がして・・・」
そんなアスランの微妙な表情にカガリは大爆笑してしまった。

その後、すぐにキラが帰ってきたため結局キスは出来ずじまいだった。




今回は平和な感じでいかせてもらいました(笑)
いやいや・・平和といってもアスランは微妙でしたけどね。
次回は黒ザラ出現!?
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